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Infinity Available Online  作者:
第1章 可能性の始まり
7/8

第6話 反省、考察、遭遇

 

「さて、街に戻ってきたわけだが」


 狩りに夢中で思ったよりも街から遠ざかっていたらしく、行きよりも帰りが長くなってしまったが、〈ウェイフェラー〉のおかげかそこまで行きとの時間の差は感じない。どうやら、微小な補正も馬鹿には出来ないようだ。


 行きと同じ門を今度は中に入っていく。街に大分近づいてきた段階でマントを脱いだため、今の俺は行きと同じ姿になっている。

 どうやら、スタートから時間がたったことでかなりの数のプレイヤーがログインしてきたのか、俺がログインしたときよりも街が活気づいている気がする。現に、行きの時よりも俺と同じ恰好をした人が多くなっているし、門の外でモンスターを狩っている人も増えていたように思う。


 しかし、自分と同じ服を着た人物がたくさんいるというのはどうにも奇妙な感じだ。実際は髪の色から身長まで服装以外のなにからなにまで違うのだが。

 あと、顔のパーツにわずかでも補正がかけられるせいか、現実世界よりもイケメン、美人の比率が多くなっている気がする。まあ、補正と言っても顔の形の気になるところを少し修正できるくらいで顔そのものを変えられるわけではないのだからもともとの素材が良い人が集まっているのだろうが……現実世界とのギャップをここでも感じるとは。というか素材が良い人が集められるようになっているのだろうか?……実際元々の持ち主である雄人の兄さんも男前だしありえるかもしれんな、あー憂鬱だ。……そういや理緒も探さないといけないのか。もっと憂鬱だ……


 軽く自分の外見に鬱々としながら街を歩いていく。小さいころから理緒や雄人と一緒にいたからもうそういった話には慣れてはいるし、あいつらの話を聞いて自分の地味な外見も悪くはないと思えるようにはなった。けど、だからといって恰好いい奴らへの憧れを失ったわけじゃない。どうしてもこうやってふとした時にあいつらへの劣等感は感じるし、だから単体行動を好むというのもある。ま、手に入らないものへの嫉妬くらいさせてくれ、といった感じだな。

 別にあいつらのことは嫌いじゃない。むしろ、よくもまああまり取り柄のない俺にかまってくれて感謝感激雨あられといったところか。こうやって〈IAO〉なんていう手の届かないものに触れさせてくれる得なこともある。結果として今現在、楽しい毎日を過ごしているのだから恵まれているのだろうし、自分の外見なんてことを気にするのはつまらないことだな、うん。


 なんて、どこに向けたものかわからないどうでもいい言い訳を考えながら街を歩いていると、いつのまにか目指していた武器屋の目の前についていた。


 ……理緒に付き合ったら次は雄人かなー、あー面倒くさい。


 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――


 武器屋の扉を開き、中にいた中年の店員に話しかける。黄色い三角形が回っていることから、NPCであうことを確認できた。


「すみません、少しよろしいでしょうか?」


 後ろを向いてこちらの存在に気づいていなかったので話しかける。NPCだから敬語ではなくてもいいのかもしれないが、まあ、知らない人には基本敬語だろう。


「おっととと……ああ、お客さんね、なんですか?」


「……あっと、武器の修理を頼みたいんですが」


 ……驚いて少し反応が遅れてしまった。NPCのはずなのに、振り返る動作も、こちらに気づいた様子も、話す姿もすべてが人間じみ過ぎている。中に人が入っていると言われても不思議でないほどに違和感がない。

 わずかに動揺してしまったが、なんとか不自然な会話にはならなかったらしい。特にこちらの様子に疑問を覚えた感じではなく、依頼に笑顔で答えてくれた。


「わかりました。どちらの武器を直しましょうかね」


「この杖をお願いします」


 そういって、装備していた杖を店員に渡す。杖を受け取った店員は杖の様子を見て少し顔をしかめた。


「お客さん、どうやらかなり魔法を使ったみたいだね。杖に破損はないけど、杖自体が大分疲労してるよ」


「杖の疲労?」


「杖っていうのは魔法を発動する媒体になるんだが、魔法を発動する度に少しずつ杖に負担が重なっていくんだ。普通はそこまでたいしたことにはならないんだが……」


 杖の先の方まで触りながら店員は続ける。


「この杖はうちの一番安いやつだね?」


「ええ、まあ。この店で買わせてもらいました」


「もともとこの杖は魔法の初心者が初めて魔法を使うときに使われることを想定して作られていてね、あんまり実戦を想定してはいないんだよ。それでも普通に戦う分には問題ないはずなんだけどもね……長時間使われたせいで杖がダメになってるね」


「じゃあ、直すのは難しいんですか?」


「うーん、まあ、直らないこともないけどもね。もし仮に今回と同じような使い方をするならこいつは役不足だろうし、もう少しいいのを買ったほうがいいと思うよ」


「……わかりました。とりあえず今はいいです。アイテムを換金してからまたきますね、ありがとうございました」


「うん、またくるといいよ」


 そういって店の外に出る。……ふう、


「なんでこんなに違和感がないんだ……?」


 動揺を見せないように装っていた緊張を解く。下手をすると大分向こうに変な印象を持たれたかもしれないが、変な対応になるよりは幾分かマシだろう。


 店員と話して思ったが、このゲームのNPCはあまりにも現実の人間との差異がなさすぎる。通常、普通のNPCはプレイヤーの行動によって対応を変えてくるが、先ほどの会話はそういった受動的な対応ではなかった。こちらの相談に、自分で考え、対策を述べるという、まるで現実の店員と話しているような違和感のなさだった。……それさえもプログラミングされた動きの一つだと言われればそれまでなのかもしれないが。

 あと、先ほどの杖の疲労の話だが、ゲームの中の設定にしてはよく凝っているように思う。普通のゲームであれば、杖が消耗しているというだけでいいものを、わざわざその杖の用途が設定されている。……NPCといい設定といい、風景といいどうもゲームの中にいるような感じがしない。ここにいてて違和感を感じなさすぎる。

 今、もし誰かに、「あなたは異世界に飛ばされたんですよ」と言われれば信じてしまうかもしれない。しかし、メニューを開くと、ログアウトという文字があることがそれを否定する。


 今までのVRゲームは違う、もう一つの〈現実〉


 エーベル社のCMが頭を流れていく。……なるほど、確かにこれはもう一つの現実と言っても相違ないだろう。ならば、あまりこのゲームに対しては「ゲームである」ということを考えないほうがいいのかもしれない。それこそ、目の前にいるNPCは、AIで動く人形ではなく、もう一つの世界に住む住人であるという風な対応をとるくらいには。もしかしたら、無下に扱ってしまうと現実と同じように対応が悪くなるかもしれないしな。


「もう一つの現実というものを今更ながらに実感するな……単純に凄い」


 しかし、どうやってこんなリアルなものを作りあげたのだろうか?気になるな……

 自分のような小市民には関係のないことなのだろうが、いつか知れるのなら知ってみたいものだ。


 さて、いつまでも店の前でつったっていては邪魔になる。移動するとしよう。

 あてもないが、とりあえず街の中央へ向かって歩き始める。確か、町の中央は噴水のある広場になっていたはずだ。


 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――


 この街は、円形の壁で囲まれ東西南北に門があり、4つの門から中央に向かって4本の大通りが伸びていくという構造になっている。


「おー、かなりの人の数だな……ここなら理緒もいるか?」


 その、4本の道が集まっているのが街の中央であるここ、噴水広場だ。すべての門への分岐点なだけはあり、街のどこよりも人が集まっている。辺りをキョロキョロと見渡していると思ったら、門の方へ走り出すものもいるし、近くの人と仲良くしゃべっているものもいる。中には、パーティーの募集をしているものもいるため、どうやらここがこの街でのプレイヤーたちの攻略の起点のようだ。


 ちなみに、ここにプレイヤーが多いのはすべての門に続いているからというだけではない。このIAOに初めてログインしたプレイヤーは、ここにある噴水を中心とした円形上の範囲のどこかに降り立つようになっているらしい。ただ、中には俺のように円形の範囲の中にある建物の上に降り立ってしまったものもいるのか、時々悲鳴が聞こえてくる気もする。まあ、運営側もそのことへの対策なのか、広場周辺の建物には、階段が外にあったり荷物が積まれて降りられるようになっているようになっており、運悪く建物の上にログインしてしまったプレイヤーもそれに気づいておりていく姿も見える。


「さて、こんだけいればいるかと思ったが……理緒も雄人もいねえなあ」


 ここなら人が集まるためどうだ……と思ったがどうやら空振りらしい。


「ま、合流できないならしゃあない。次の目的を果たすとしよう」


 そう呟き、噴水に近づいていく。噴水の周りにはいくつかの掲示板があっていろんな情報が手に入るから行ってみるといいよ!と理緒が言っていた気がするが……こいつかな?


「あったあった、〈アンファング〉都市図」


 お目当てのものを発見した。とりあえずアイテムを売れるところに行ってお金を調達しないとな……このままだと戦いもできない。


「あーっと、それっぽいのはこれか?〈冒険者ギルド〉」


 RPGの定番っぽいものを発見、ここならドロップ品を換金してくれるだろ。ついでにギルドっていうくらいだしクエストとか受けられないかね。


「……南門の方に少しいったところか。結構近いな」


 場所を確認して地図の前から離れるために振り向く。と、振り向いた先で何かにぶつかったのか少し衝撃が走る。


「あっと。悪い、大丈夫か?」


「あう……は、はい。大丈夫です……」


 俺の胸くらいまでしかない小さな少女が顔に手を当てて少し痛がっている。どうやら、俺が振り向いた拍子にすぐ後ろにいたこの子とぶつかってしまったようだ。


「注意不足ですまん、けがはないか?」


 顔に手を当て


「だ、ダイジョブです。少し顔をぶつけてしまっただけなので……あ、あの、それより少し聞きたいことがあるんですけどいいですか……?」


 と、手を顔から離しながらこちらにしゃべりかけてくる少女。……おお、結構美少女だな。小動物みたいだ。

 ピンクの髪を肩にかかるくらいまで伸ばしたその少女は、少し深呼吸をしてから、


「あの、こちらを振り向く前に、ここから南門の方に少しといいましたよね……?〈冒険者ギルド〉にいかれるんですか……?」


 と尋ねてきた。


「(ありゃ、一人ごと聞かれてたのか……)ああ、そのつもりだけど」


 一人ごとを聞かれていたことに少し恥ずかしくなりつつ、そのつもりだと返す。すると少女は、少しためらってから、


「え、えと……その、よかったら、〈冒険者ギルド〉まで、一緒についていっていいですか?」


 と、周りの人の喧騒で消えそうな、小さな声でそう話した。


「……え?」


 拝啓、両親様、見た目小学生な美少女にデートっぽいのに誘われました。これって新手のナンパでしょうか?


 ……いかん、言われたことが突然すぎて思わず変な脳内手紙を親に送ってしまった。

 今日はなんだかさっきから動揺することが多いなあと思いつつ、俺の反応がないことで凄く不安そうな顔になってきている少女に返事をする。……若干涙目になってないか?


「あ、ああ。えっと、別にいいけど」


「ほ、本当ですか!?……よかったぁ、最初に話しかけた人で了解してくれたぁ……」


 俺が了承したことで顔の表情がパッと明るくなった。……あ、目が赤い。


「しかし、なんでまたそんなことを?」


「ええっと……その、恥ずかしい話なんですけど、一緒に行動しようと思っていた人とはぐれちゃって……その、ログインした場所に人がいっぱいいて方向がわからなくなっちゃったんですよ……。合流地点の冒険者ギルドの位置もわからないからなんとか地図のところまできたんですけど……」


 といって、少女は自分の体を見下ろす。


「……こんななりなので、地図が見えなくて」


「あー……」


 確かに、掲示板の位置が少し高いところにある上に、今はたくさんの人がこの地図を見に来る。この少女の背の高さでは、人が壁になってまったく地図が見えないんだろう。


「なので、地図を見ていた人で冒険者ギルドに向かう人を探して、連れて行ってもらおうと思ったんです。了承してくれてありがとうございます」


「なるほどね」


 そういうわけなら案内するのもやぶさかじゃない。どうせすぐそこだし、特に手間になるわけでもないしな。


「それじゃ、案内するよ。……そういや、君の名前は?」


 せっかく案内するんだ。名前を聞いてもいいだろう。


「あ、そうですね、案内してもらうというのに名前を言い忘れていました……申し遅れました、〈ミリア〉といいます」


「ミリアね、了解。俺は〈カイリス〉。よろしくな」


「はい!カイリスさんですね、よろしくお願いします!」


「さんはつけなくていいぞ?」


 さんづけなんて呼ばれたことほとんどないし。


「いえ、こちらから頼んでいるのに呼び捨てなんてできません!」


「そ、そうか……」


 よ、弱気っぽいのに変なところで強く出てくるなあ……


「じゃ、行くか」


「はい!」


 こうして、予期せずミリアという少女を案内することになり、2人で冒険者ギルドへ向かうことになった。

 ……まさか、理緒や雄人と一緒に行動するまでに、知らない人と行動するとは思わなかった。







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