第5話 成果と発見
「よっ……と、とりあえずこんなものか」
理緒のことを放置して狩りを続けること1時間。いろいろ試しながら戦った結果、いくつかの収穫があた。……しかし、魔法の楽しさに触れるあまりつい時間を忘れてしまったのは反省だな。
1時間の狩りによって、レベルも2つ上昇した。現在のステータスはこんな感じだ。
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Name カイリ 称号(無し)
Level 3
HP 180/180
MP 12/114
STR 1
VIT 1
INT 14
DEX 1
AGI 1
スキル枠 3/6
〈風魔法〉Level 2〈水魔法〉Level 2〈杖使い〉Level 1 ――― ――― ―――
予備スキル
残スキルポイント 2
先天属性 〈無〉
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レベルが1つ上がるごとにステータスポイントを3手に入れたため、予定通りINTにすべて振る。そのせいでHPの伸びはあまりなかったが、MPが一気に増えたことで休まずに放つことのできる魔法の数が増えたため、狩りのペースが上がったのは好都合だった。
ちなみに、HP、MPは勝手に回復する。プレイヤーの行動によって回復の仕方も変わり、歩いているときよりも座った時の方がより多く回復した。ただまあ、狩りの途中でいちいち待つのも面倒なので、MPを回復するアイテムを探すことを検討中である。
INTを上げたことで魔法の威力も上昇したのか、レベル2の時点で〈ウインドカッター〉一発でウェアキャットを倒すことができるようになったため、敵を見つけさえすればすぐに倒すことができるようになった。このため、攻撃をくらいそうになることもないため、現状、HPが低いことはあまり問題視していない。このまま、遠距離から一方的に倒せるような魔法使いのスタイルを目指していこうと思う。
また、敵を倒すことでスキルも成長するということが判明した。〈風魔法〉と〈水魔法〉がLevel2になっている。新しいスキルを習得するということはなかったが、このまま育てていけばもっと強い魔法も手に入るだろう。〈杖使い〉は成長せず。どうやら、スキルによって成長の仕方が変わるらしい。
さて、一段落ついたところで発見したことを確認していくか。
「まずはこれだな、〔風よ、刃となれ〕〈ウインドカッター〉!」
一番初めと同じように、呪文を詠唱することで魔法を発動する。1時間前よりも少し強くなったと感じる風の刃は、杖を向けた先に飛んでいった。しかし、最初とは違い俺の目の前にウインドウは開いていない。
これが、まず1つ目の発見、〈ボイスコマンド〉だ。本来、魔法を発動するにはいちいちメニューを開き、発動したい魔法を選ぶという工程が発生する。だが、敵の目前で魔法を発動させようというときにそんなことをしていたらただの的になってしまう。しかも、この正規手段で発動させようとすると、体が勝手に魔法発動の体制に入ってしまい、その場にとどまってしまうという隙が発生する。
そこで、このIAOの魔法を使うプレイヤーが使うプレイヤースキルが、〈ボイスコマンド〉だ。これは、自分で魔法の呪文を唱えることで魔法を発動できるというものだが、これにより、いちいちメニューを開かずとも魔法を発動できるし、体が勝手に動くこともなくなるというまさに魔法使い必須のスキルだ。
ここだけ聞くと、じゃあ正規手段の発動方法なんて使わずに〈ボイスコマンド〉だけ使えばいいじゃないかと思うかもしれない。しかし、この方法にはいくつかのデメリットがある。
1つは、一言一句詠唱を正しく唱えないといけないこと。接続詞を一文字でも間違えればその魔法は発動しない。〈ウインドカッター〉でいえば、〔刃と〕を〔刃に〕と間違えるだけでも発動しない。〈ウインドカッター〉程度の呪文の長さならばまだ問題ないかもしれないが、もっと呪文が長い魔法があった時に、それを戦闘中の緊張感の中正しく言えるかというと難しいと思われる。
2つは、魔法の威力が安定しないこと。どうやらこの〈ボイスコマンド〉で発動した魔法は、自分がその発動にどれだけ集中するかによって威力が変動するらしい。動きながらの集中しづらい時だと魔法が弱体化したり、酷い時には発動自体しなかったりすることもある。しかも、一度詠唱し始めると、その結果がどうであれMPはきちんと消費される。下手をすると迎撃用の魔法が発動しないなんてこともありえるのだ。
ちなみにこの威力の変動、どうやら魔法を強化することもできるらしい。かなり集中して放つと、通常時よりも強力な魔法になった。ただ、コスパは悪く、HPの減少スピードの速さから考えて、通常時の1,5倍の威力になった魔法の場合、MP消費は通常の2倍になった。また、強化できる上限も決まっており、さらに集中を込めると、突然魔法の発動が解除され、状態異常〈疲労〉にかかってしまった。〈疲労〉の効果はスキルが発動できなくなること。どうやら、集中力の限度を迎えると一定時間魔法の発動ができなくなる仕様のようだ。無駄に細かい。
そして3つは、詠唱に集中してしまうことで、魔法の照準が定まらないこと。杖だけに意識をむけることができなくなるため、照準が疎かになってしまうことが原因のようだ。
以上のように、この方法にはなかなか大きなデメリットが存在した。まあ、すべて慣れによって解決できるかもしれないので、練習あるのみだとは思うのだが。
「まあ、ただデメリットがあってもこれをモノにしないと話にならなそうだがな。βテスターならこれくらいは当たり前にやれるだろうし、なんとか安定させよう」
さて、次は……アイテムかな。
ウインドウを開いてインベントリを確認する。
「えーっと……メイアキャットの尻尾が大量にあるな」
結構な量のメイアキャットを狩ったためかなりの量の尻尾を取得していた。ただ、毎回ドロップしていたわけでもないので、確泥というわけではなさそうだ。
「あとは……これか、〈ミーメイアキャットの尻尾〉」
狩りの途中、メイアキャットの群れを発見し、経験値稼ぎの好機だと狩りに行ったときにドロップしたものだ。ひたすら遠距離から〈ウインドカッター〉を打ちまくり、近づいてくるやつから仕留めていった時の最後の相手がこいつを落としたはずだ。確かこいつだけ外見が灰色じゃなくて黒っぽく、少し大きかったはずだ。〈ウインドカッター〉一発では倒れなかったものの、ダメージによる硬直時間を利用して、近づかれきる前に倒せてしまった。どうやら、メイアキャットたちの親玉のようだったらしいが、HPが多かった以外にあまり差異はなかったな。
「そうだ、これもあったな」
そういって、その下に表示されているアイテムをオブジェクト化する。一瞬光を放つと、俺の手には黒いマントが握られていた。
「ミーメイアキャットの第一撃破特典、〈ウェイフェラー〉か」
親玉を倒したときに通常のドロップのアナウンスに加えて、
『ポーン。おめでとうございます。あなたは全プレイヤーで初めて〈ミーメイアキャット〉の討伐に成功しました。その栄誉を称え、第一撃破特典を与えます』
『装備〈ウェイフェラー〉を手に入れた』
「……えー」
たしか、こんな感じだったと思う。ちなみに最後の「えー」は俺の心の声が漏れたものだ。
まさか遠距離から魔法を放つだけで倒せるようなモンスターがこんな大層なアナウンスが流れるほどの敵だとは思わず、つい漏れてしまったものだ。
ちなみにこの〈ウェイフェラー〉、第一撃破特典というだけあってなかなかに便利そうなものだ。
名称〈ウェイフェラー〉
装備区別 装飾品
耐久力 50/50
重量 5
効果
自然回復力上昇
敏捷値上昇
夜間、隠蔽値上昇
説明
世界を旅するものたちのために設計されたマント。
長い旅にも耐えられるよう上質な素材で設計されており、旅をするものの助けになるような機能を付随している。
この序盤で3つも効果がついたものは珍しいのではないだろうか。一つ一つの効果はあまり高くはなさそうだが、どの効果も有用で、まさに旅をするものにはうってつけのものだと言える。特に、自然回復力上昇の効果はとても有難い。狩りのペースを少し上げることができるかもしれない。
さっそく装備してみると、なかなかいい感じだ。結構軽いので邪魔になりにくいし、黒色なので派手じゃなくていい。
「ほっほっほっ、と……微妙に早くなってるのか?」
敏捷値の補正を確かめるために走ってみるがあまり変化は見られない。やはり、補正は少しずつのようだ。
「まあ、デザインも悪くないし装備するデメリットがあるわけじゃない。街に入るときはさすがにマントは目立つから外すとして、狩りの最中は装備しておこう」
さて、いろいろ振り返っている間にMPも回復したことだし狩りの続きと行こう……と思ったのだが、武器の耐久度がかなり消耗している。〈杖使い〉のスキルを確かめるために敵にぶつけたが、それだけでこんなに減るとは思えない。おそらく、魔法を発動するだけで杖は消耗するのだろう。多少、MPがもったいない気もするがせっかく買ったものを無駄にするのもしのびない。ここはおとなしく街に帰るとしよう。
街で思い出したが我が妹様は何をしているのかな。街で合流できればそれでよし、向こうは向こうで行動しているだろうし、あまり期待はしていないがな。
……ほおっておいたからといって怒られないよな?微妙に心配だ……
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