第2話 妹
「で、何かこれ以上の申し開きはあるか?」
「……(ぽー)」
雄人の家から戻って30分、その間妹〈理緒〉をずっと絞ってやった結果、妹の口から魂が飛び出てしまったようだ。まあこれだけしぼってやれば反省しただろ。
「……うう、雄人さんめ、よくも兄さんにちくったなあ……」
「自業自得だ、黙ってやってたお前が悪い。合格したからいいとはいえ、受験前にゲームをする馬鹿がいるか。……あ、ここにいたわ」
「ひどい!?」
心外そうに俺に抗議してくるが知らん。さて、これ以上はもういいだろ。充分反省しただろうしな。時間もいい感じだし飯にしようとするとしようか。
「あ、兄さん待って!」
そう思ってキッチンの方に行こうとすると、理緒が急に立ち上がろうとして………そのまま前につんのめる。
「おっと」
「あ、足が痺れて動けない………」
そら30分も正座してたんだから足も痺れるだろうよ、させたのは俺だがな。だがお前の自業自得だ、立つのは手伝わんよ。
理緒は変な顔になりながらもこちらに話しかけてくる。
「に、兄さん、雄人さんからIAOをもらったんだよね、やるの?」
「ああ、そのことか……」
あのあと説教中に雄人がやってきて、ゲームの入った箱を俺に渡していった。ちなみにその間に逃げようとした不届きものには説教10分追加の刑に処してやった。
「まあせっかくもらったんだしやろうと思う。俺もこのゲームには興味あったしな、まあやれるとは思わなかったんだがな」
実を言うとβテストの時から興味があったが、理緒の受験期間だったこともあり、参加は断念した。ゲーム大好きな理緒のことだからきっと俺がやってるのを見たら集中出来ないと思ったからだ。
まあ、完全に裏目に出たと言うかなんというか、受験中だった理緒がプレイしていたことにより俺の気遣いは無駄になったのだがな。むしろ俺がズルイといいたい。
ま、もう説教はしたし、過ぎたことだからこれ以上は言わないようにしてやろう。
「そっか!それじゃ一緒にプレイできるんだね!うれしいな~」
というと満面の笑みをこちらに向けてきた。ま、結果的にはそうなったのだからよかったんだろうな。
「はいはい嬉しい嬉しい、んじゃこれから飯つくっからしばらく待ってろ」
「むう、すげない」
やっと足の痺れが取れたのか、不満そうな顔で立ち上がった理緒は、ソファーに座ってリモコンを操作している。天井から降りてきた画面を見るに、どうやらテレビを見ているようだ。
ちなみにうちは親が共働きで結構帰ってくるのが遅い。特に父さんは2日3日帰ってこないことが当たり前である。なので、俺と理緒が家事をしている。
ただ、理緒は料理こそ出来るものの、他の家事が出来ないので、料理のみ1日交代でやって、後の家事は俺がやってしまうことが多い。
「今日のご飯は何~?」
「カレー」
「おー、いいね!」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
さて、夕飯を食べてリビングでゆっくりしていると、二階から降りてきた理緒が話しかけてきた。
「ねえ兄さん、IAOについて知りたくない?」
「知りたくないな」
「即答!?」
当然。別に効率プレイがしたいわけでもないしせっかく自由を謳うRPGなんだ。0からのスタートでやってやるさ。
「うーん、まあ兄さんの性格上それもあるかなと思ってたし知りたくないならいいかー」
「あと最初は一人でプレイするからな?」
「え?そ、そうなの?せっかく一緒にできると思ったのになー」
と、膨れっ面の理緒。適当に見ていたニュースが天気予報を伝えているのを見ながら答えてやる。
「まあ初心者が経験者とやっても邪魔になるだけだしな、お前の性格上トッププレイヤーを目指すだろうしわざわざ足かせをつくる必要もない」
「確かにトップは目指すけど別に兄さんなら大丈夫だと思うし遠慮しなくてもいいのに……」
「まあ気にスンナ。俺は自由にやるから」
「えー………」
しょんぼりした様子で俺を見る理緒。全く、β版での仲間はいないのか?と聞くと、
「確かにいるけど、せっかく兄さんと出来るんだから一緒にやりたいよ」
と、少し真面目な顔で言う。
「さっきも言っただろ?俺はこのゲームのノウハウがわかんないんだからまず一人でやるって。それに一人の方が気楽だしな」
「それは、そうだけど」
だんだん理緒の顔が不満そうになっていく。………しゃあないか。
「じゃあとりあえず、ログインしてもし合流出来たらやろう。ただし合流出来なかったらその日は別々でプレイすること。どうせ混雑するだろうしな。その場合はまた次の日やろう」
「あ………うん!」
そう提案してやると、不満そうな顔を緩め、笑顔になる。まったく面倒な奴だ。
苦笑しながらテレビをみると、ニュースが次の話題に変わった。
「お、これIAOの話題じゃないか?」
「あ、本当だ」
ニュースの中で、IAOの開発チームがインタビューを受けている。
『我々はこのIAOに全力を尽くしました。今までのVRゲームは違う、もう一つの〈現実〉。それを作ることを目標にこのゲームを作りました。
プレイヤーのみなさん、もう一つの世界で、自分のやりたいことを楽しんでください』
そう開発者の一人がいうと、周りの人が拍手をしたところでインタビューが終わる。
「もう一つの現実か………」
少し、ワクワクする。隣の理緒は俺がどんな気持ちなのかわかるのか、俺の方を見てニヤニヤしている。
少しイラついたから軽くデコピンしてやるが、それでも上機嫌なのか、額を抑えながら笑って抗議してくる。それを適当に流しながら、俺は1週間後に想いを馳せるのだった。
文章を追加