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七話

 転校生・鈴木ファラオはなかなか人気モノだった。


「あ、鈴木くん、おはよ~」


 ファオオン。


「お~鈴木。今度、サッカー部の見学に来いよ」


 ファーン。


 放課後の校内、部活に励む生徒たちに次々と声をかけられる。

 ファラオの存在が不思議に思われないのは、ファラオが『認識阻害』の魔術を発しているから。

『ファラオ』が『普通の学生』の姿にしか見えていないのだ。

 

(ええと……とりあえず、話しかけられたら全部Aボタンで返しておけばいいんだよな?

 マニュアルでは、相手の脳内であたりさわりのない日常会話に変換されるって書いてあるけど……)


 オレは『鈴木ファラオ』のコックピットで、マニュアル片手に悪戦苦闘していた。

 なぜかパピルスに印刷されたそれは細長い上に妙にパリパリした材質で扱いづらい。

 オレが日本語の説明書を求め、それに応じたネフィがファラオの口から吐き出させたものだった。


 無表情のファラオの口から延々と吐き出されるパピルス――だいぶ不気味な光景だったが、マニュアルのおかげでファラオの操作にはだいぶ慣れることが出来た。


(日常操作はRPG風、戦闘操作は3Dアクションか……アドベンチャーパートと、バトルパートみたいなもんなのかな?)


 メインモニターとマニュアルを交互にながめつつ、オレは学校の廊下をファラオに乗って、進んでいく。

 今回はオレのリクエストを受けてか、コントローラにはスティックが二本増設されていた。

 おかげで360度全方向へ、すいすいとスムーズに操作ができる。


 ちなみに、何でオレがファラオの中に入り、この私立・金字塔学園を散策しているのかといえば――。

 

              

 

「オーブ?」


 と、聞かされて、オレの脳裏に浮かんだのはマスドライバー施設とかモルゲンレーテとかいう名前。

 だが、それらをネフィが探してるわけがない。


「はい、ワタシは『オーブ』を探しニ、この世界へやってきたのデス」


 その後、ネフィの語ったことは正直、オレの頭では理解できないことも多かった。それでも強引に話をまとめるならこうなる。


 ネフィは異世界の国家アルカディアから失われたなにやらすごいパワーを持つ『オーブ』と呼ばれる財宝を探すため、この世界にやってきた――ということ。


 アルカディアの存在する異世界をネフィは『可能性の世界樹』の枝の内、この世界以外の一本といっていた。まったく意味不明ながらも、オレはふむふむとうなずいておいた。


 ググってみたらアルカディアというのは『理想郷』的な意味の言葉らしい。

 けれど、人間の住む場所である以上、キレイなだけってことはあるはずない。それなりに醜い部分も存在するようだった。


 ネフィは自分の世界について語るとき、いつも複雑な表情を見せる。

 怒りや苦しみを飲みこんだ悲しみに似た表情。 

 おかげで、オレはなぜ彼女が一人でこちらに来たのか、そこらへんの事情を聞きそびれてしまう。


(あの襲いかかってきた魔術男、明らかにネフィと敵対していたよな?)


 ネフィの話からすると敵は組織らしい。

 ああいう敵が幾人もいるならネフィの任務は命がけになるだろう。


 当然、ネフィをかばったオレもタダではすまされないハズだ。顔も覚えられているし。

 ぬるい学生生活の中、アニメとゲームその他のオタク文化に浸っていたいオレとしては、困ったことになった。


 けれど、ネフィの存在が奴らに気付かれてしまったのは、彼女の正体を暴こうとして、魔術を使わせてしまったオレのせい。

 ネフィは責めなかったけれど、オレは責任を感じていた。


 それに、ネフィはこの世界(彼女にとっては異世界)にただ一人でいる。


 そして頼れるのは……このオレ一人なのだ。



 ネフィは今、『認識阻害』と『警戒』の魔術をかけた上でオレの部屋で熟睡している。

 この世界にやって来て緊張していたのが、この世界での味方――つまりオレに会って気が抜けたらしい。


「こんなに……安らかな気持ちになったのハ……久しぶり……デス」


 そう言って眠りについたネフィの安らかな寝顔――オレは守らなければいけないと思った。



 オレには何かあっても悲しむ家族はいない。だから存分にネフィの事情に巻き込まれてやれる。

 数時間、泥のように眠ったあと、オレはネフィに召喚してもらったファラオを借り、『鈴木ファラオ』として登校。

 授業の合間や昼休み、そして放課後――と、ネフィのためオーブの調査を開始したというわけだった。

 

           



「むう……ちょい前には南を指していたのに、今度はいきなり北か……」


 さっきからオレは同じところをぐるぐると回っている。

 別にオレの探し方が悪いとか、ファラオ搭載の探知機の使い方を知らないというわけではない。

 ネフィも似たようなことを話していた。


「この金字塔学園の敷地の中にオーブがあるコトはわかっているのデス。シカシ、学園に近づくト、反応がぼやけてしまうのデス」


 ネフィが、あれこれの魔法を駆使し、この学園に転校してきたのは中から調査したかったから。

 なんとしても敵より早く『オーブ』を手に入れる必要があったのだ。


 だが学園内を調べて回っても、先ほどオレが体験したように探知機はいいかげんな反応を返すだけだったらしい。

 どうやら学園内にはアルカディア製の機械を狂わせる何かがあるようだ。




 オレが通う『私立・金字塔学園』は、担任・佐久間友美先生と、腐れ縁の友人である蓮手塔子の母方の祖父・亜門雷蔵が造り上げた巨大な学園――小学校から大学までの一貫校だ。

 文字どおり『金字塔』を打ち立てるような人材の育成を教育理念として掲げている。


 だが、それは表向きの理由。

 本当は度を越したエジプトかぶれで、ワンマン経営者である亜門雷蔵が『ザ・ピラミッド学園』というぶっ飛んだ名前を付けかけ、あわてた周囲がピラミッドの異称である『金字塔』に名称を変更させたものだった。


 昔、孫である塔子から話を聞いた時は思わず噴き出したけど、たしかにこの学園にはエジプトがらみのものが多い。

 廊下にはカノープス壺のレプリカ。壁にはヒエログリフが描かれ、中庭にはオベリスク、裏山には小さなピラミッドまであるのだ。


(実はファラオを最初に見たときも、学園の所蔵品だと思ったくらいだ)

 広い敷地内に点在する資料館にも、亜門雷蔵が集めたエジプトの遺物がぎっしり詰まっている。

 そのどこかに『アルカディア』から財宝が紛れ込んでいる――ありそうな話だった。


 だからこそ、オレはファラオの探知機を使って調査に乗り出した。

 だが、怪しそうな場所でも反応はない。

 それどころか探知機の意味不明な動作に振り回されっぱなしだった。


「ふう……今日のところはここまでかな」


 残暑の中、ファラオのコックピットは快適な気温に保たれていた。

 しかし、狭い空間だから知らないうちに肩がこってきている。

  


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