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五話

「出でよ! 隠匿されしファラオ!」


 ガガッガ、ガガガッ――!


 恐怖に目をつぶったオレ――外界を知るすべは耳から入る音以外はない。その耳にネフィの叫びと、連続する固い衝突音が響いた。


「な、ナニッ! ま、まさか――コフィン……だト!?」

 そして魔術男の驚く声。


 ナイフは当たらなかったのか? 少なくとも体には痛みがない。

 オレは恐る恐る……目を開く。



「……鈴木……ファラオ?!」



 視界に飛び込んできたのは謎の転校生・鈴木ファラオ(の外側の部分)。

 いきなり出てきたコレが体を張り、オレを飛来するナイフから救ったみたいだ。


(そうか。お前はロボだったんだな。疑ってゴメンよ、ファラオ!)


「秋サン! 早ク立ってクダサイ!」


 尻もちをついたまま、ノンキにボケていたオレを、駆け寄ってきたネフィが無理やり起き上がらせる。


「隠れる場所ハ……有りませんネ。仕方ありまセン。アナタも乗ってクダサイ」

「乗るっ!? これに!?」

「さあ、ハヤく!」


 ネフィはオレの質問には答えず、必死にオレの手を引きファラオに近寄った。

 彼女が石とも金属とも思える材質のファラオに手を当てると、触った部分が光る。


 ファラオが、まるで霧や幻、立体映像で出来てるかのように、手が内側へすり抜ける。

 続けて腕、肩、足とネフィはファラオの中へ溶け込むように入っていく。


 当然、彼女と手をつないだオレもファラオの中へ滑りこんでいったわけで……。


(ファラオ顔だからジャイアント○ボ? いや、乗り込むみたいだから、ライ○ィーンか?だとすると……フェード・イン!)

 内心で叫びながら、オレはネフィの後に続く。





(トンネルを抜けると、そこはコックピットだった?)


 一瞬、白い空間を抜け、気づけば柔らかな椅子らしきものに腰かけていた。

 周りは読むことすらできないヒエログリフに満ちている。

 物めずらしさにオレが思わず左右を見回すと――。


「アッ……秋サン、あまり動かないでくだサイ」


 胸のあたりから色っぽいネフィの声。

 小さなコックピットの中、オレはいつの間にか彼女を抱えて座るような姿勢になっていた。

 小柄なネフィとはいえ一人用のシートに二人で腰かけているのだ。それも当たり前か。


 狭い空間で美少女と密着。

 思春期、リビドーまみれの少年には、ある意味、夢のような状況と感触だ。

 オレは一瞬、事情も忘れて感激してしまった。


 だが――。


『クソッ、コフィン使いだったのカッ!?』

 魔術男の声が響いた。ややこもっているが、外からの音声も聞こえてくるようだ。


『ならばコフィンごと貫いてくレル! 出でヨ、《雄弁なる銀剣》!』


 目の前、一番大きな画面に魔術男の姿が映っている。

 その手には今度はナイフでなく、鋭く曲がった長剣がある!


 ――魔術男はそれを振りかぶり、

 

 ガ、ガン――!


「うわぁっ!」

「きゃアッ!」


 ファラオに走る強烈な衝撃!

 オレとネフィは悲鳴を上げる。同時にコックピット内のいくつかの表示が赤色に変わった。


『くッ、さすがにコフィンは固イ、だが効いてはいるようデス。続けていきますヨ?』

 またしても魔術男の手に長剣が現れた――そして再度の衝撃。


「ネフィ! 早く何とかしないとヤバいんじゃないのか!?」


 衝撃と共に、また増えた赤色の表示。オレは危機感を覚えてネフィをせかした。


「やってマス……でも、思考にノイズエラーが生じテ、うまく操縦デキまセン!」

 ネフィも焦っている。


「秋サンも私と考えを合わせテ……ちゃんとドイツ語で考えてクダサイ!」


「ええと、バウムクーヘン……って、弐号機かよっ! なんでファラオなのにドイツ語で動くんだっ!」


「でハ……ロシア語ハ? ロシア語で考えるのデス!」

「今度はファイア・フォッ〇スかよ!?」


 二人がアホな会話を繰り広げている間に、長剣の着弾と衝撃は続く。


「仕方ありまセン、手動操縦に切り替えマス」


 ネフィがそう言うと、何かが上からぽとりと落ちてきた。

 オレの腕の中、ネフィはそれを受け取る。


 だが、十字キーと色違いのボタン四つ、LRボタンと、それにスタート、セレクトキーのついたそれは、まるで――。


「……スーファ〇のコントローラ?」

「いいエ、ただの手動操縦装置デス」


 ともかく、ネフィの細い指が十字キー(らしきもの)を押すと、ファラオが動きだした。間一髪、先ほどまでファラオが鎮座していたところに長剣が突き刺さる。


『避けたのカ?だが、それならバ《短刀直入》!』


 続けて二発、三発と長剣をかわしたオレたちに戦術を変えることにしたようだ。

 魔術男の手にはナイフより長く、長剣より短い――複数の短剣が現れる。


 ガツッ……ガガッ!


 放射状に、散弾のように広がる短剣はよけづらい。

 長剣に比べれば受けるダメージは少なさそうだが、確実にコックピット内の赤表示は増えている。


「ネフィ!? このままじゃ!」

「分かっていマス! ですガ、手動操縦はニガテなのデス!」


 ネフィの顔には焦りが浮かんでいた――その焦りが操作ミスを引き起こす。


 ガッ……ガガガッガガン!


「グああっ!」

「きゃアァァァァッ!」


 避けたつもりの一撃がファラオをかすめ、バランスを崩したファラオは後に続く短剣をすべてくらってしまったのだ。

 連続する衝撃にオレらは悲鳴をあげ、ネフィは思わずコントローラを手放してしまう。


「あッ、操縦装置ガ!」


 28号のコントローラを取られた正太郎君みたいなことをいい、必死に手を伸ばすネフィ。

 だが、その手は届かない。

 動きを止めたオレらに対し、魔術男はにやりと笑う。


『さあ、トドメをさしてあげまショウ! くらエ! 《大剣壮語》!』


 その手には人の背丈ほどもあろうかという大きな剣――魔術男はそれを振りかぶった!



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