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十九話

「出てきたナ! 我らから逃げきれぬと知っテ覚悟を決めたカ?

 ……むう? しかし、そのコフィンはなんなのダ?」

 

 オレたちが森の中から姿を現すと、

 そこにはオレらを追跡してきたらしいチョビヒゲの魔術師・トート。

 そして彼の配下らしい魔術師たちの集団。

 

 ファラオの変化に対して油断なく部下に包囲させ、万全といえる状況を作り出すあたり、トートはなかなか有能に思えた。

 

 だが――。


「トート……あんたの負けは決まったよ」


「なんだト! この完ペキな布陣のドコに負ける要素があるというのダ!」


 むきになるトート。それもそのはずだ。

 オレだってオーブを手に入れる前だったら、この人数差で勝てるとは思わなかったろう。


 しかし今は違う。絶対の確信があった。


「この世界には『お約束』っていう文化があるんだよトート、

 主人公機がパワーアップした直後、現れる敵は全てかませ犬……そういうお約束がね!」


「な……なにィ! いや、そんなハズはなイ! これでもくらエっ!」


 その反応がすでにやられ役だった。


 主導権を握られて焦るトートは大技をいきなり繰り出してくる。


「《短刀直入・最大言(マキシマム)》! アタタタタタタタタタタタタタタタタァ!」

 一子相伝の拳法継承者みたいな声。同時にトートのマントの中から大量の短剣がオレらに飛来した。


 こちらは機動性を増したファラオで最適・最速・最短の回避運動。

 しかし短剣の大群は急角度で方向転換し追尾してくる。たしかにキツイ攻撃だった。

 だが、今のファラオとオレは負ける気がしない。


「おっと……まだ、まだ……よしっ、こっちだ!」

 左右に機体を揺らし、猟犬か板野サーカスのように襲いかかるた短剣をいなしつつ、オレは目的の場所へ向かう。

 行きついた先は必死で短剣を操るトートの目の前。


「なッ……なぜここにィ! うぎゃっ! 痛タタタタタタタタタタタタタタタァ!」

 オレはトートの直近で剣を回避する。

 その結果、追尾してきた刃物全てがトートに吸い込まれていった。

 同時にもう一度、ケン○ロウのごとき悲鳴があがる。


 マントでとっさにかばったおかげで命は助かったらしい。

 だが突き刺さった刃でまるでハリネズミのようになったトートは地面に倒れ伏す。


 ピクピクと震える上司の姿に部下たちは色めき立った。


「おのレ! よくもトートさまをッ! ほとんど自業自得、身から出たサビのようなトートさまの自爆だガ、それでも仇は取らせてもらうゾ!」


「くッ、お前ラ……失礼すぎるゾ……ガクッ……」

 部下たちの発言に抗議しつつ、トートは意識を失う。


「あッ……トートさまッ! おのれッ! よくもトートさまを殺したナ!」

「……ふぎゅうッ!」

「いえ、その人死んでませんヨ?」

「それにコッチ来るとき、思いっきり踏んづけてただろ?」

 

 トートが倒れているのをいいことに、部下の魔術師たちは好き放題言いつつやりつつ、ツッコミを入れるオレとネフィに襲いかかってきた。

 とはいえ状況は一対多数だ。数にもの言わせた飽和攻撃で来るのは理にかなっている。

 

 しかし、彼らは忘れていた。

 今のファラオには無限のエネルギー機関から生まれる大出力があることを――。


「防衛システム《帯びる雷》最大出力バージョン《禁域の雷》っ!」


 轟轟轟っ――――――。


 紫色の火花がファラオを中心に広がる。

 半径五十メートルほどの領域を埋め尽くす紫光は、オレの周囲に迫りくる魔術師たちに降り注いだ。

 電撃をくらい、魔術師たちは声も出せないまま次から次へと倒れていく。


(ちなみにトートは突き刺さった剣が避雷針となったためか、当社比で部下より三倍ほど電撃をくらい、マントが焦げて煙まで上げていた)


「うわ……自分でやっといてなんだけど、えげつない威力だな」


 自衛用の機能が、オーブの大エネルギーのおかげでこの破壊力だ。


(Nジャマーキャンセラーとか、太陽炉二つ積んだレベルだよな……コレ)


 強大な出力はオレとネフィの身を守る。その点では安心だけど同時に恐怖も感じさせた。


「ネフィの父さんたちが欲しがるわけだ。小市民のオレだって下手すると『新世界の神になる』とか言っちゃいそうだもんな」

「いいエ……秋サンはそうなりまセン。根拠はありませんガ……私にはわかるのデス」


 冗談めかしたオレの言葉に、ネフィは後ろから強く抱きついてくることで応える。

 触れ合った場所からお互いの体温と鼓動が伝わり――甘い時間が二人の間に流れた。


 もう少し感触を楽しみたかったけれど……オレはネフィの髪を一撫でし、それから大きく声を出す。



「隠れてないで出て来たらどうだい? アヌビスさん?」

 ファラオの探知機は出力を増した上、オレの感覚とダイレクトにつながっていた。

 その感覚が先ほどからオレに警告を出している。


 今、そこに強敵がいる――と。


「――なるほド、まさかオーブの力を使い、ファラオを封印から解き放つとはナ」


 大地が光り、アヌビスのコフィン・デシェレトが浮きあがるように姿を現した。

 地中に潜ることで電撃をかわしていたらしい。

 そこらに横たわる仲間たちとは違って、アヌビスとそのコフィンに動作の異常は見られなかった。


「オーブなど神話やおとぎ話の類ではないかと思っていたのだがナ……その力、たしかに王が欲するに値するものダ」


 アヌビスのコフィンの出力が上がった。

 探知機が発する警告に頼るまでもなくアヌビスの殺気が高まるのも感じられる。


「もうヤメてくだサイ! アヌビス義兄(にい)サマ!」

 今にも襲いかかってきそうなアヌビスを後部シートのネフィが必死で説得する。


「そうだ。あなたとは戦いたくない」

 オレもアヌビスを止めようとした。

 敵だし一度はズタボロに負けた相手だったけど、イイ人らしいことは言動からも分かっていたからだ。


 だが――アヌビスは和平を拒否する。


「自分には勝てぬとでも言いたげだな少年? 新しいオモチャを手に入れたからと言っテ、ずいぶんナメタ言動を取ってクレル。そのおごりを打ち破ってやろウ!」


「アヌビス義兄サマっ!」

 ネフィの悲鳴にかぶせて、アヌビスは襲いかかってきた。

 

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