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十一話

「止めテ! アヌビスお義兄(にい)サマ!」

 オレの部屋の玄関ドアが音を立て吹き飛び、中からネフィが現れた。


 けれど、彼女の口にした言葉はいったい――?


「……ネフィ? …………お義兄……さま?」

 呆然としているオレをさておき、アヌビスはコフィンをネフィの方に向けた。

 しかし、デシェレトの口からは物騒な光が消えている。


「やはりネフェルタリか……無事な姿を見て安心したゾ」

 そういい、アヌビスはデシェレトから姿を現した。

 押さえていた巨大な手が消え失せ、ファラオは地面に投げ出される。


「秋サン!」


 ファラオの負荷が限界に達したのだろう。オレはコックピットから吐き出されて転がった。

 心配して駆け寄ってきたネフィがオレをのぞきこむ。


「……ネフィ、それより、アヌビスが義兄さんって……どういう……こと?」

 体に受けた衝撃より心に受けた衝撃の方がはるかに大きかった。

 オレは問いただすが、ネフィはうつむいてしまう。


「ネフェルタリ……王族のコフィンを見て、まさかと思っていたガ――やはり、お前が送り込まれていたのカ……しかも魔術を封印されてマデ」


 黙ってしまったネフィに、アヌビスが話しかけた。


「ど、どういうコトですカ――アヌビス? この女、アルカディアの回し者なのでハ?」


 こちらも事情を知らないらしいトートが、ヒゲをフガフガさせてきき、それをアヌビスがたしなめた。


「言葉をつつしむがイイ、こちらは我らが王ラムセスに残された、ただ一人の王女だゾ」

「ハ……? そんな、マサカ!?」


 驚くトートを無視し、アヌビスはネフィに語りかける。


「実の娘を使って我らが王の命を狙わせようとしたのカ? 相も変わらず外道なことを考えル――あのアルカディアの共和制原理主義者どもメッ!」


 激高するアヌビスに怯えるネフィ――震える彼女を見て、アヌビスは柔和な表情を作る。


「だが、もう心配はイラヌ。すでに『オーブ』の在りかは分かっタ。後は無限の力を持つあの秘宝を使い、この世界を手に入れるだけダ。

 そうすればアルカディアに対する反撃の拠点がデキル。王制だからという理由だけで、理不尽な侵略を受けた我が祖国ヘリオポリス、そして殺された我が妻――お前の姉や母の復讐ももうすぐ始まル。もはや、お前がアイツらの言うことを聞き続ける必要はないのダ」


 優しくなだめるように言ったアヌビス――だが、ネフィは首を横に振る。


「イイエ、出来ませン! そんな事をすればまた戦が起きマス! 戦から三年がたって、

せっかく復興しかけていた国と民が、また苦しめられることになるのデス! そんなコト、優しく賢明だったアヌビス義兄サマと父サマならお分かりのはずデショウ!」

 

 義兄を見上げたネフィの目には強い意志の光があった。

 一瞬ちらりとオレを見て、それからまた強い語調でアヌビスに訴える。


「……それニ、私たちの世界の争いに、この世界を巻きこんでいいはずがアリマセン!

この世界にも平和に暮らしている人々はおおぜいイマス。アルカディアとの戦いになれバ、その人たちも犠牲になりかねナイ! そんなコトするなラ、いくら義兄サマや父サマでも許しまセン!」


 語られたさまざまな事実、オレは驚きながらも納得していた。

 異世界について聞いたとき、ネフィがなぜ悲しい顔をしたか。

 ネフィがなぜここに来ることになったのか。

 そしてネフィがたった一人、どんな気持ちで『オーブ』を探し続けていたか。

 

 ……すべて、わかったような気がしたのだ。


 だから、オレは立ち上がる。

 ふらつく足に鞭打ち、無理やり歩く。

 目指す先は、同じようにぼろぼろになったファラオだ!


「秋サン立っちゃダメ! そんな体デハ!」

 オレのよろめく姿に驚いたネフィが止めに入った。だがオレは歩き続ける。


「……いいやネフィ、そうじゃない……頼むから、オレに助けてと、あいつらを止めてと言ってくれっ!それなら……君にそう言われたなら、オレはまだ戦えるんだっ!!」


「秋……サン!」

 ネフィが目頭を押さえた、その間に彼女を振りきりオレはズタボロのファラオへ向かう。


 と、ファラオに向かうオレの前にトートが立ちふさがった。


「マテっ! 行かせるカっ!」

 その手には銀に輝くナイフ、けれどオレは歩みを止めない。一発くらい食らってやるのは覚悟の上だった。

 

 しかし――。


「やめろトート、もう帰るゾ」

 意外にもアヌビスがトートを止めに入る。


「陛下の索敵・偵察コフィン『護王のバジリスク』のおかげでオーブ発見まであと少しダ。ボロボロになったこやつらのコフィンなど、もはや我らの敵ではナイ」


 アヌビスはトートに帰るようにうながす。

「……アヌビスさまガ、そうおっしゃるなラ」


 不満そうだったが、それでもトートは一礼する。

 そして、なんらかの魔術を使って姿を消した。


「その体で立つトハ、男だナ少年。アルカディアによって機能ほぼを封印されたコフィンでよく戦ったものダ」

 

 ふらふらしているオレにアヌビスは声をかけ、続けてネフィにも話しかける。


「ネフェルタリ。オレにも陛下にモ、たとえ他人を巻きこむことになろうと、ゆずれぬものがアル。

 もはや退けぬのダ……だが、お前はお前の行きたい道を行くとイイ」


「アヌビス義兄サマっ!」


 言い残してアヌビスは消えた。

 同時にオレの意識も遠ざかっていく。


 どさり、

 自分の倒れる音が他人事のように聞こえた。


「……秋サン!? しっかりしてくだサイ、秋サン!」


 そしてオレは、ネフィの声を聞きながら無明の暗闇へと落ちていった。



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