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これから……


「提出でございます。採点お願いします」


私は、夜寝ないで必死に向き合った問題達の書かれた紙を差し出す。

頭も下げて、気分は卒業証書を貰う感じだ。いや、貰うんじゃなくて渡したいんだけどさ。


丁度林と美鈴ちゃんが廊下で談笑していたから、いいタイミングだと思ったのだ。

談笑できるってことは、林が頑張ったってことで、結果は良いものだったのだろう。

いやー、良かった、良かった。


けど、ハッピーエンドを迎えたとしても、一瞬でも事態をこんがらがらせた私が美鈴ちゃんのところに堂々と行くのは憚れる。

なんだかこう、気まずいじゃないか。だからこそ林が一緒にいてくれて助かった。

話しかけやすくなるし、結果を聞きやすくもなる。一応直接二人の口から聞きたいもんね。あの後の、顛末を。


「橋本さん?採点って?」

「あ、それ……」


林はなんのことだかさっぱり分からないって声を出して、美鈴ちゃんは若干驚いているようだ。

私は頭を上げて、呆然とする林に説明してあげる。


「美鈴ちゃんがね、私にテストを作ってくれたんだよ」

「え、愛咲さん本当に?ダメだよ橋本さんに近づいたら。危ないよ?」

「どういう意味よ!」


危険人物みたいに言わないでよね。

林にはチョップの刑を執行してやった。

だから林は執行場所のおでこを押さえてやがる。ざまあみろー!


「で、受け取ってほしいんだけど……」

「浩平君大丈夫?!って、あっ。うん」


慌てて林のおでこに手を当てた美鈴ちゃんは、私がテストのルーズリーフを差し出すと、今度こそ受け取ってくれた。美鈴ちゃんは私と林のやり取りを見て、目を白黒させている。

一方の私はというと、このテストとは随分長く格闘したから、こうして渡すことができて達成感いっぱいである。



でも、そろそろ本題に入ろうと思うよ。


「それで、二人ともどうなったの?」

「えっと……、あの……、付き合うことになったんだ」

「おめでとう!」

「橋本さん、……なんだか色々ありがとう」


照れまくっている林は、顔を真っ赤にさせながらモゴモゴして聞き取りにくい声で言った。

特に最後の私への感謝の言葉など、周囲のざわつきにほとんどかき消されていて聞き取りにくいったらない。

告白練習の時の堂々とした林はどこに行ったんだか。


「ま、待って!」

「どうしたの?」


いまだ混乱気味なのが見て取れる美鈴ちゃんが、待ったの声をかける。


「告白の後で浩平君に聞いてはいたけど、実際に目にすると。二人の関係って、本当に……?」

「私と林は友達、だね」

「そうだね」


ライバルかと思っていた相手が、そうではなかったということはそんなに衝撃かな?


でも、私としては、そんなことよりも切迫して重要なことがあるのである。


「ってことで、林とは上手くいったんだよね?なら次は私の番だよね?」

「えっと、橋本さんそれどういうこと?」


林が不穏な空気を察してか、固い声で尋ねる。

だがしかし、そんな些細なことで私は止まらない!猪突猛進、良い言葉!


「美鈴ちゃん!」


林の横で、状況をなんとか飲み込もうと頑張っている美鈴ちゃんの手をとる。


「私と友達になって!仲良くなって!」

「そうだ!この人一番最初に会った時にそんなこと言ってた。あの時は今はダメって言ってたけど、仲良くなるタイミングって今なの?!愛咲さん、離れて。橋本さんは危ないよ。ストーカー気質だよ!」

「浩平君?というか、友達?どういうこと?」


カオス空間である。

私は美鈴ちゃんの手を握りしめたまま離さず、横からそれを解こうと林が奮闘している。

当の本人である美鈴ちゃんは小首を傾げて私を誘惑している。

ああ、可愛い……。


「林、邪魔するなー!」

「邪魔するよ。愛咲さんの危機だよ」

「私を何だと思ってるのよ、あんた」


「ふふっ」


言い争っていた私と林の横から、朗らかな笑い声。

二人してそっちを見れば、美鈴ちゃんが面白そうに笑っていた。久しぶりにこんな至近距離で笑顔を見たなあ。


「二人とも面白い。そっか、二人はそういう感じの付き合いだったんだね」


「そういう感じって、なんだか僕複雑な気持ちだよ」


ボソッと呟いた林を睨みつけた。

なんで複雑な気持ちになるのよ。意味わからないけど、いい意味じゃないってことは分かったぞ。


「勘違いしててごめんさない。でも勘違いを助長させてたのは、きっとわざとやってたんだよね?」

「うん、それは私もごめんなさい……」


わざと美鈴ちゃんを煽った自覚はあるし、二人の仲を引っ掻き回したのも事実。

美鈴ちゃん、許してくれる?

わざとだけど、悪意があってやったわけじゃないんだよ?本当だよ?


「ならお互いにおあいこだよ」

「それじゃあ……!」


パッと視界が明るくなったような気がした。


「これからは仲良くしよう、未希ちゃん」

「ありがとう!」

「愛咲さんが言うなら……。しょうがないなあ」


念願の、夢にまで見た、美鈴ちゃんとのお友達ライフ。

今、聞いた?!美鈴ちゃんの口から、未希ちゃんて、未希ちゃんって!

あまりに感激して、美鈴ちゃんの手を上下にブンブン振っちゃってるけど、嫌な顔しないんだよ。

心が天使か……。


それに引き換え、林は。

大変不本意って感じで呟いてたよ。

美鈴ちゃんの心の持ち様を見習え!


「このテストは採点しておく、ね……あれ?」


美鈴ちゃんが私がやってきたテストを見て不思議そうな顔をしている。


「これ、解いたんだよね?」

「うん全部一通り目を通して、考えて、諦めたんだ。私にはやっぱり難易度が……」

「どんな問題なの?」


美鈴ちゃんの手にある小テストには、答えが一つも書かれていない。

だって、一問も分からなかったんだもん!一晩掛けても、やっぱりできないものはできなかった。

林が横から覗き込むように、テストに目を通している。


「え、これ入学してからこれまでにやったはずの単元だよ?なのに一問も解けないって、橋本さん定期テストの時どうしてるの……?」


千香ちゃんと葵先輩に泣きついてどうにかしています、なんて言ったら怒られるよね。

うん、きっとに怒られるわ。


だって、それが証拠に美鈴ちゃんが下を向いて肩を震わせている。

それだけなら泣いているのかとも思うけど、美鈴ちゃんから「ふっふっふっ」と低い声での笑う声が聞こえる。

これ絶対に怒ってるって。


「ふふっ。分かったよ、分かった。高校レベルじゃなくて、中学レベルからいこう。私、橋本さんのレベルを舐めていたみたい」

「あの、美鈴ちゃん?」


呼び方が橋本さんに戻ってるんだけど。

それに、中学レベルってそのくらいなら私だって……!でき、……るかなあ?できるといいなぁ。


「みっちり、しっかり私が勉強を教えてあげるよ。覚悟して!」

「ひっ!」


美鈴ちゃんの目がキラーンと光った。

やっぱり美鈴ちゃん、勉強好きの勉強信者だ!

これは千香ちゃん以上のスパルタになるような予感がする……。


「はあ……。こうなると思ったよ。愛咲さん勉強好きだもんね」

「林!どうにかして」

「無理だよ。愛咲さん、こうなったら手をつけられないもん」

「そ、そんな……」


頼りになるかと思った林は、全然役に立たなかった。


「目指せ、学年一位だよ!」

「絶対無理!」



私は美鈴ちゃんと仲良くなれる、かな?

なんだかこのままだと、家庭教師と生徒的な関係になる気がする……。


どうしてこうなった!




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