告白練習しよう1
私は林を緊急で呼び出してやった。
最初は、今まで通り図書室を使おうと思ったんだけど、なんか最近美鈴ちゃんがまた図書室に出没しているらしい。林から教えてもらった。
林曰く図書室で小テストを作るとかどうとか、なんとか。
……美鈴ちゃん、本当に私用のテスト作っているのかな?戦々恐々。
「ってことで!この作戦でいくよ」
「どういう訳なのか全然分からないよ。というか、なにその作戦。僕イヤだよ」
美鈴ちゃん図書室出没説を聞いたから今まで私と林が何度か使っている、校舎端の使われていない教室にやって来た。
冷静に考えればこっちの方が人に話を聞かれる危険性もないし、そっちの方が良かったのかな?結果オーライ?
「何が分からないのよ。林は美鈴ちゃんに告白する。その告白で失敗しないために、台詞とかは台本を作って万全に練習を行った上で美鈴ちゃんに告れって言ってるだけでしょ?」
「そもそも僕は告白しなくても、このままで良いって言ったじゃないか。わざわざ告白する意味なんてないよ」
林が珍しく私の目をしっかりと正面から受け止めている。
でも、私が思うに告白したって美鈴ちゃんは断らないと思うのだ。それよりも、美鈴ちゃんは仮にもヒロインなのだから、いつどこで誰に横から掻っ攫われるか分かったものじゃないと考える。
だから、今のうちにしっかりぎゅっと捕まえておくべきだと思うのだ。
「林、想像してごらん」
「何を?」
説得にために、私はこれからあり得るもしもの可能性を提示する。
「これからクリスマスというイベントがやってくる。それが終われば正月だし、その翌月にはバレンタインが存在する」
「そうだね」
「ちゃんと美鈴ちゃんを捕まえておかないってことは、その時に美鈴ちゃんの隣に林以外の男がいるかもしれないんだよ?」
「そ、それは……」
「美鈴ちゃんは可愛い。だからこそ好いているのは林だけじゃない」
「っ!」
最後のは予想だ。具体的に誰が美鈴ちゃんに好意を抱いているかなんて知らないけどさ。
夏までは美鈴ちゃんのことを好きだった男は大勢いたんだ。
林は想像できたのか、目が揺れて動揺が私にも伝わって来た。
林だって、今まで考えたことがないわけじゃないのだろう。分かっていても目を逸らしてきただけ。
美鈴ちゃんは可愛い。誰もが彼女を好きになる。潜在的なライバルを含めれば、恋敵は多いのだ。
夏まで恋心を持っていた男は多い。それがまたいつ恋心が再燃するか分からない。これからは恋人達にとってイベント満載の時期なのだ。
それに、図書男のいる図書室に最近再びよく行くようになったのなら、本当にうかうかしていられないと思うのだ。
図書男、なかなかやる奴だからな。あいつには私も何度危険人物として敵視し直したか分からない。勝手に名前呼びにするし、勝手に仲良くなってるし、勝手にデートに誘おうとしたし。
最重要危険人物の陣地に美鈴ちゃんがいるのだ、ゆっくりなどしていられない。
胸を張れるようになりたいと宣言したのは林だ。
あの時、私は林の手伝いをした。手を貸すなら、最後まで貸して結末まで見届けたい。
「林、アンタは美鈴ちゃんのために変わったんじゃないの?あんたがこの場で宣言したんだよ」
「……僕は」
「美鈴ちゃんのために変わったと言うんなら、気持ちを言葉にして今の関係を変える努力が次にすべきことだと思うよ」
「橋本さん……」
林が下を向く。
やぱりダメだったかな。作戦変更する?
林が頑張らなきゃ、この作戦は上手くいかない。というか告白自体、林が立ち上がらないと話にならないのだ。
「僕」
「ん?」
林が小さな声を出した。
「僕は愛咲さんの隣にいられるかな?」
顔を上げた林は、私から目を逸らさない。
髪を切って直接見えるようになった目で私を真剣に見つめた。
私は口角を上げる。
林は大きく変わったと思う。これが美鈴ちゃん効果なのだから恋とは偉大だと思う。
「僕なんかが隣にいてもいいのかな、って言わなくなったあんたなら、隣に立っても大丈夫だよ」
春のままの林ならば、間違いなくそういう言い回しをしただろう。
でも、色々な経験を経た林は成長している。
卑屈な林はもういない。美鈴ちゃんのために頑張っている林が今の林だ。
「橋本さん、また手伝ってくれる?」
ちょっと不安そうに私を見る林の顔に、私はおかしくなって噴き出した。
「もちろんだよ。友達でしょ」
私と林の関係も変わった。
春の時点では想像もしていなかったのに、今なら堂々とこの情けないアホ林を友達と呼べる。
縁とは不思議である。
乗りかかった船だ。というか、私が無理やり林を乗せてしまった船である。
当然私も全力で協力する。
恋愛偏差値の低い私がどれだけ貢献できるかは分からないけど。
「まずは台詞とかを考えて、台本を作り上げないとね」
「うん。でもそれ僕が自分で考えるよ。橋本さんがやると全然まともじゃなくなっちゃうだろうし」
「なんだとー!」
「橋本さん、落ち着いて」
そんな風に騒ぎながら、私達は案を出し合ったのである。
まあ、正確には林の考える告白を私が評価してただけなんだけど。
そしてなんとか台本を完成させたのである。




