部活は帰宅部がいいな
この学園には部活見学期間というものがある。
部活になるべく所属してほしいから、強制的な見学期間を設けるのだ。
だが、絶対に部活に入らなくてはならないというわけではない。
どこにも所属しない、帰宅部も当然許されている。
見学期間は見学しろ、というだけだ。
私は部活に興味が湧かない。
部活をして青春ヤッホーとするよりも、家でゴロゴロしている方が性に合っていると思うのだ。
若者らしさ?女子力?そんなものとっくにゴミ箱に捨てた!
そんな私でも、どこかを見なくてはならない。
そこで、千香ちゃんにくっついて調理部を訪れている。
お菓子作りが趣味の千香ちゃんらしいチョイスである。
さすが千香ちゃん!
千香ちゃんは、部員に色々質問したり、料理の一部を手伝わせてもらっている。
私もどうかと部員のお姉さんに誘われたけどお断りした。
あんなに高い料理の才能を私は持ってないのである。無理!
だから窓の外をボーっと眺めている。
ここからは校庭が見え、外の部活を見学している一年生の姿が見える。
ここから校庭には距離があるから定かじゃないけど、多分陸上部とサッカー部が活動しているようだ。
一年生の群れがワラワラ固まって、その内容をやや遠巻きに眺めている。
と、その群れの中に見覚えのあるフワフワロングヘアが見えた。
……え、あれ。美鈴ちゃん?
人が固まっているせいで前が見えないのだろう。チョロチョロ動いて、陸上部の活動を見ようとしている。
人の群れから一人飛び出て、少し離れた場所に来たところで動きが止まった。そこで活動を眺めるようだ。
楽しそうにキラキラ目を輝かせながら見ているのがここからでも分かる。
しばらくすると、美鈴ちゃんの背中側からサッカーボールがゆっくり転がってきて、足に当たった。
サッカーボールを抱えて、転がってきた方向の先を見ると、サッカー部員が大きく手を振っている。
おそらく「こっちに蹴ってくれ」みたいなことを言ってるのだろう。
サッカー経験者や男子なら問題ないであろう距離であるが、女子にはちょっと遠い。
だからと言って、持っていこうにも手を振る部員と美鈴ちゃんの間には、他のサッカー部員が練習をしているから通り抜けることができない。
困ったようにオロオロしている美鈴ちゃんの元に、見学者の群れから一人の男子が走り寄ってきた。
「ボール貸して」
「へ?」
「蹴ったげる」
みたいな会話をして(いるように見える)、男子はボールを正確なコントロールで部員のもとに蹴り届けた。
「すごーい」
美鈴ちゃんが拍手をして称える。
それに対して、少年ははにかんで照れている。
「どうってことないよ。俺、小学校の頃からサッカーしてたからさ」
「すごいね。じゃあ、サッカー部に入るの?」
「うん、そのつもり。君は?」
その質問に美鈴ちゃんは困ったように眉を下げる。
「私はどうしようか迷ってて……。だから全部見てみようと思って来たんだ」
「そっか。なにか気に入る部活が見つかるといいね。じゃあね!」
互いに手を振って別れる。
美鈴ちゃんはそのまま見学を続行し、男子生徒の方はサッカー部の方へ走り去っていった。
台詞や細かい表情に関しては、完全に私のアテレコである。
ま、大きな差はないだろう。多分。
「あの男子は、攻略対象だったはず」
小声で確認するように呟いてみる。
私と同じクラスの男子のスポーツ少年だ。
名前は……、やっぱり分かんない。
クラスの女子の名前ならもう完璧に覚えたんだけどな。
男子の名前はどうにも頭からすり抜けてしまう。可愛くないからしょうがないか。
「未希」
背後から呼びかけられて、考えるのを止める。
「帰るわよ」
「あれ、もういいの?」
千香ちゃんが鞄を持って来ていた。けど、料理部の部員はまだ料理中のように見える。
「いいのよ。なんだか、予想してたのと違ったわ。帰りましょ」
「了解。帰り道にどこか遊びに行こうよ」
千香ちゃんの腕にひっつく。腕組みでイチャイチャですよー。えへっ。
千香ちゃんは、いつものことだしな、というような顔をして嫌がらない。
私たち、相思相愛ですかね?これは。いやーん、照れる。
結局、私たち二人は帰宅部ですね、はい。