私は学んだのである2
林との密会の翌日。
私は廊下でばったり美鈴ちゃんに遭遇した。
というか、派手にぶつかった。
私は次の授業が移動教室だったのだが、授業で使う教材を一つ忘れていることに気が付いて教室に急いで戻った。
時間がギリギリになりそうだったから、もちろん千香ちゃんは先に行っててと伝えたよ。
だから、もしも遅刻しても私だけだから問題ないんだけど。
でもやっぱりさ、遅刻はしたくないでしょう?
授業開始までもう数分しかないから教室で急いで教材を探し当てて、慌てて教室を出たのだ。
出た瞬間、そこで正面衝突。
その事故相手が美鈴ちゃんだったのだ。
私は持っていた教科書やペンケースなどを散乱させて、美鈴ちゃんは尻餅をついていた。
私自身はノーダメージだったんだけど、美鈴ちゃんを見てパニックを起こした。
もしも怪我でもさせたら大変だし。ヒロインに傷つけたなんてことになったら……。私もう学校に来れないくらいダメージを受ける自信がある。
「だ、だ、大丈夫?!怪我した?ああ、どうしよう!痛い所はない?頭打ってない?記憶は定か?!」
「だいじょうぶ……、っあ!」
私は美鈴ちゃんの目の前でアワアワしてた。美鈴ちゃんは、そんな私の頓珍漢な問いかけに返事をして、それから顔を上げて私を見て目を丸めた。私だと思ってなかったみたい。
でも、今はライバルとか言ってる時じゃないし!美鈴ちゃんの尊い体に傷があるかもしれない非常事態だよ?!
国家の緊急事態宣言級に危機迫った状況なのだ。
「絆創膏……は持ってないけど、本当のホントに大丈夫?あ、ティッシュならあるよ!これで止血を」
「……いや、本当に怪我とかないから平気」
美鈴ちゃんは戸惑い隠せないような奇妙な顔をしていた。
でもすぐに自分の周りを見て、尻餅の体勢のまま上目で私を伺った。
「これ、橋本さんの?」
美鈴ちゃんがこれ、と指差したのは私の散乱した私物。
「あ、うん。そうだよ」
そっか、拾わないと。
っていうか、教室移動しないと!やばっ、遅刻する!
急いでそこら辺に転がる私の物をかき集める。そんなに広範囲に散ったわけではないから、すぐに集まった。
でも、そのうちの一つ。
美鈴ちゃんのすぐ横に落ちていた教科書を美鈴ちゃんが手に取る。
落ちた衝撃で、偶然開いてしまったページを見て、美鈴ちゃんが絶句している。
「あの……」
返してほしいなー……、ダメ?
最後の私物の教科書を、美鈴ちゃんが目にしたまま動かない。
どうしたんだろう?と美鈴ちゃんの前にしゃがみ込んで様子を伺っていると、ガバっと美鈴ちゃんが顔を上げた。
うお!ビックリした。
「橋本さん。こんな風にしているからテストでの点数が上がらないんだよ!」
「へ?」
美鈴ちゃんは興奮したように、私の教科書を開いたまま、私にも見えるように示した。
ちょうど美鈴ちゃんが開いているページは、あまりにも授業中ヒマで空きスペースの空白に色々落書きをしているページだった。というか、落書きなんて控えめな表現じゃ生ぬるい。落書きで教科書の文章が隠れちゃってるレベルでやっちまってるページだった。
私だってさすがにやりすぎたと思うくらいで、この惨状と同レベルのページはここの他には存在していない……わけじゃない。数ページ他にも点在してる。これはさすがに千香ちゃんにも怒られたから反省した部分である。
「こんなの書いてる暇があるなら、こっちの重要な部分にアンダーラインを引くべきだよ!」
「え?」
「この前浩平君に橋本さんはテストがあんまり得意じゃないって聞いたけど、これを見て納得したよ。勉強はしっかりやらないと駄目だよ。私たちは学生なんだよ。勉強が本分なんだよ!」
「ん?」
え、どこに美鈴ちゃんのスイッチが入るポイントがあったの?
今までの微妙な関係がどこにいったのかと思うくらいの勢いで、美鈴ちゃんが私に身を乗り出してきた。
美鈴ちゃんって勉強好きな子?だから、私の不真面目さが耐えられなかった感じ?
「浩平君に聞いた時から思ってたけど、もう決めた!橋本さん」
「はい」
この流れって……。
もしかして、もしかして。一緒に勉強会して教えてあげる、っていう流れじゃない?!
昨日林も言ってたけど、これはもしかするともしかして……。すごく期待で胸が高鳴る。
「私が定期的に小テストを出してあげる!」
「はっ……、小テスト?!」
「そう、小テストだよ。橋本さんのレベルになるような簡単なテストを作ってあげるんだから!」
予想外の言葉が聞こえたぞ。
「あんまり勉強しないのは認められないよ!浩平君を好きならこのくらい乗り越えてみせてよね!」
「んー?!」
「浩平君はあんなに素敵なんだから、浩平君に釣り合うためには色んな努力をしないといけないと私は思うよ」
「え、素敵?うそ?!素敵ってどこが」
呆ける私の一方で、胸を張って立ち上がった美鈴ちゃんは居丈高に宣言した。
「いざ、尋常に勝負だよ!」
それだけ言うと、美鈴ちゃんが私に背を向けて去って行く。
一方私は遠くで授業開始のチャイムを聞いた。
あ、遅刻だ……。




