デートに立ち向かえ2
風の冷たい中、私は一人で待つ。
絶対に璃々さんは伝えてくれるし、十和様はやって来る。
そう信じて。
そして、その願いは叶った。
「やあ、璃々から聞いたよ」
「来てくれてありがとうございます」
制服のスカートから出ている脚が寒い。ぶるぶるするし、鼻水垂れそう……。
でも、今日は我慢しなくてはならない。
「寒かっただろう?中に入ろう」
「いいえ、今日は一緒に行きたい場所があるんです。寒いと思いますけど、付き合ってください。今回は私からのデートのお誘いです」
店に入るものだと思っていたらしい十和様は虚を突かれたような顔をした。
「そんなに遠くないですし、そう時間もかかりません。こっちです」
私は十和様について来てほしくて、行きたい方向を指差しながら足も一歩踏み出した。
十和様の方を振り返ったりせずに。
道中無言のまま辿り着いたのは、小さな公園。
あのお店の近くにある公園を探しておいて、見つけたのだ。
小さな砂場とブランコ、ベンチくらいしかない本当にささやかな公園である。
「えっと、そのベンチに座って待っててくれますか?」
「あ、ああ」
戸惑っている十和様を尻目に、私は公園の近くにあった自動販売機から温かい飲み物を二つ買う。
さすがに寒さが堪えるからね。
「どうぞ」
「ありがとう」
十和様も私と変わらず寒いはずなのに、顔色を変えないのはさすがとしか言いようがない。
「今日は璃々から急に話を聞いたから驚いたよ」
飲み物を受け取った十和様は、爽やかな笑顔を浮かべてそう言った。
それは決して嫌味とかではなく、純粋に驚いたという気持ちしか伝わってこない。
私はちょっとだけ安心した。だって急に呼び出ししたし、気分を悪くしてたらどうしようかと思って。
「いきなり呼んですみません。ちょっと嫌な夢を見て、居ても立ってもいられなくなっちゃって」
「悪夢かい?なにか不安なことでもあるのかな?もし良かったら相談に乗ろうか」
真剣に心配そうにしてくれる十和様の優しさに、思わず笑みがこぼれた。
十和様は本当にどうしようもなく優しい人だ。
だからこそ、私は十和様が好きなのである。
「相談……。そうですね。少し話を聞いてくれますか?」
「もちろんいいよ」
雰囲気が相談に乗るため、重苦しいほどに真面目なものに変わっていく気がした。
私は覚悟を決めて大きく深呼吸をした。
そうやって私はずっと考えていたことを頭の中で整理する。だって、ちゃんと伝えなきゃいけないと思うから。
ズルズル考えて、グルグル思考がループして、ドロドロ脳味噌が溶け出して。
「私、女の子が大好きなんです」
「は?」
あ、失敗した。
「これは、違うんです!いや、間違ってはないんだけど。ふわふわ雰囲気の子も、ちょっとツンデレ気味な子も、凛々しい子も、天然の子もみんな可愛いから好きなんだけど」
珍しく頭を使って利口なことをしようとしたことが仇になった。
私はアホだった!
私がどう話の展開を繰り広げれば話題の誘導ができるのかとか考えるべきじゃなかった。
考えれば考える程混乱が広がっていく。どう収集をつけるか考えるとどんどん考えがまとまらなくなっていって、またそれが私のパニックを促進する。
「夢の女の子を幸せにしたいとか、私がキューピットしようとか、そのことで悩んでるとか。私は女の子の味方だから、だから!」
口を開くたびに、私は墓穴を掘っていく気がする。
というか、日本語ってどう話すんだっけ?私何をしゃべってるの?!
もはや混乱の極みに至っている私はまともじゃない。
それをどう思ったのか知らないけど、十和様は俯いた。
どうしよう?!
どう話を立て直そう?
というかそもそも私にそんなトーク術はあるのか?!
「えっと!えっと?!」
いやない!
俯いてしまった十和様が小刻みに震えていた。
どうしよう?!
急に呼び出しただけでも失礼なのに、私のアホさ加減に怒りが隠しきれなくなったに違いない!
焦って言葉すら意味のないものを繰り返すだけになった私に、突如聞こえた笑い声。
「ははははっ。おかしい」
十和様が笑っていた。
アイドル的な笑いじゃなくって、素で爆笑していた。
目尻を下げて口を大きく開けながらも手で口元を押さえて、笑い続ける。無邪気な笑い方だった。
「急にシリアスな雰囲気から冗談を言ったかと思えば、慌てだして百面相を始めるし」
「百面相?!」
私、いつの間にしてたんだ。
混乱しすぎて覚えがない。
「こんなに笑ったのは久しぶりだ」
まだ笑いがおさまっていない十和様が呟く。
「私、十和様にはそういう笑顔の方が似合うと思います」
思わず、無意識に私の口が動いた。
今日の私の口はしっかり仕事をしてくれないらしい。勝手に動く困ったちゃんだ。
「みんなに求められるままに人気者でいて、人を惹きつける役をするために笑うよりも、さっきの笑顔の方が十和様らしいです。」
「なにを?」
十和様から笑顔がやっと消えて、怪訝そうな顔に変わる。
「私は考えながら会話の誘導なんてできないから、単刀直入にいかせてもらいます。本当は色々もっと話がしたかったから、似たような場所を探したんですけどね」
「場所……?」
また考え出すと、さっきの二の舞になるのは間違いないからね。
失敗を思い出して私はちょっと苦笑いを浮かべた。
また墓穴を掘るのはよろしくないし、もう言いたいことだけ言って今日はすぐに帰ってやる!
「私、十和様の気持ちを知っています」
「気持ちって」
「その行動の裏にある考えも知っています」
「未希ちゃん、一体何を?」
十和様の顔に、警戒の二文字が浮かびだす。
私の言葉に十和様は思うことがあるはずだ。
それを分かった上で、私は唇の前で人差し指を立てて沈黙のポーズをとった。静かに聞いてほしい、そんな意味を込めて。
「私は保健医の探し人ではありません」
私は並んで座っていたベンチから立ち上がった。
さっきのポーズの意味を理解してくれた十和様は私の言葉に口を挟まない。
「保健医のことを好きでもありません。全然、全く、これっぽっちも!」
そして、そのまま数歩前に出る。思わず最後の方で力が入ってしまったが、そこは重要だし強調ってことで。
「だから私は本来十和様に関わるべき人間でもありません」
その場で振り向いて、ベンチに座って目を見開いている十和様を見た。
「あの男が私にちょっかいをかけるのは、私が探し人についてヒントを与えたことがあるからです」
「なっ!じゃあ君は朔兄が探している人を知っているのか!」
ここで初めて十和様が反応を返した。
「それは誰なんだい?!なぜそれをすぐに朔兄に教えない」
ベンチから弾かれるように立ち上がった十和様は私の腕を掴んた。
ちょっと力が強い気がしたけど、私はあえて何も言わない。十和様の顔が泣きそうだったから、何も言っちゃいけないと思った。
私は首を横に振った。
それを見て少し冷静になったのか、十和様の手の力が抜ける。
その隙に私は身を捩って、また十和様から距離を取った。
そして制服のポケットに突っ込んでおいた、小さなラッピングを取り出す。
「今日十和様に来てもらったのは、これを渡したかったからなんです」
話が突然切り替わっていくからか、十和さまの表情が正常に戻り切っていない気がした。
なんだかどこか茫然とした顔を隠しきれていない。
差し出されるまま、十和様は私からのプレゼントを手に取った。
これを見た時にきっと似合うと思ったのだ。きっと好きだろうと思ったのだ。そしてそれはきっと間違っていないと思う。だってゲームの中でだけではなく、現実でも十和様は……――
私は押し付けるようにそれを十和様に渡すと、意識してニッコリと笑った。
私は私のやり方で解決させてみせる。そんな覚悟をしたのだ。
このまま、誰も幸せになれないルートから踏み外させてみせる。
だから、終結のカウントダウンを。
私はうっかりでもなく、失敗でもなく、分かっていてこれを口にする。
「十和様には、きっと似合います。私は十和様が好きです。
可愛い女の子の十和様が、可愛い物が好きな十和様が。だから隠す必要なんてないんです」
ハッと私の顔を見た十和様に、もう一度笑顔を浮かべてから、お得意の言い逃げをしてその場から身を翻す。
言い逃げ失礼いたします。十和さま、さよーならー!




