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デートに立ち向かえ1


あんな現場を見てしまったせいかもしれない。

私は夢を見た。保健医のルートに関係している話だ。


何かしてあげたくても私では何もできなくて、無力さを噛み締める過去の記憶が、現在の記憶と混ざっている。


ゲームの中で、私は全攻略キャラのライバルキャラとの友情エンドを経験している。所謂百合ルートはコンプリートしているのだ。

だからこそ、保健医のライバルキャラの友情エンドも知っている。彼女は報われない、報われることはない。


これが例えば千香ちゃんのエンドなら。

千香ちゃんは美鈴ちゃんという親友を生まれて初めて得る。そのおかげで今まで感じていた精神の不安定さが消えて、千香ちゃんは幸せになる。もちろん主人公たる美鈴ちゃんもなんでも分かり合える親友を得てハッピーだ。


けれど、保健医のライバルたる彼女は美鈴ちゃんという親友を得てもなお、これまでの行動を変えることはない。理解者を得るけれど、それがその行動に報いていることになるわけじゃない。結局、彼女は弱音を吐く先を一つ増やしただけに過ぎない。

彼女は構わないと笑うけど、そこに存在する純粋な愛がどこまでも虚しい。どこまで尽くしても、いつまで頑張っても、一向に認めてほしい人に認めてもらえない彼女が笑う姿は私の胸を痛めつける。


何度エンドを経験しても、彼女の運命は変わらない。どんなにプレイヤーがゲームを繰り返しても、救いの手が届くことは決してない。

女の子は好きだ。可愛らしいから好き。努力する姿も愛らしいと思える。

そんな愛すべき女の子の、変わらない報われない運命が、私は苦手だった。


そんな運命を捻じ曲げる方法を、今の私は持っている。

その可能性を私は知っている。



「し、失礼します!すみません」


私は今日見た夢に後押しされるように、二年生の教室にやって来ていた。普通用がなければ、来ない場所である。

周囲は上級生だらけ。見知らぬ者に向けられた視線が痛い。

こんな居心地の悪い所に来た目的はただ一つ。


「璃々さん、いますか?」


教室の中に私の声は届いただろう。

教室内にいた璃々さんに向かって声を張ったのだから聞こえていないわけがない。

当然、聞こえたらしい璃々さんは一瞬だけ顔を歪めてから私に愛想笑いをした。


「橋本さん、どうかしたの?」

「ちょっとお話したいことがあって」


人目のつかない所で話したいという雰囲気を醸して、視線をちょっと動かした。

璃々さんは、私の意思を正しく理解して小さく頷いた。



「それで、うちにどういう話があるのか教えてくれるんだよね?」


私が先導する形で目立たなそうな場所までやって来た時に、璃々さんがおもむろに口を開いた。

発する雰囲気は決して友好的とは言い難い。

それでも私は胸を張る。私としても譲れないから。


「璃々さんに許可を得ようと思って来ました」

「許可?」

「はい、今日十和様と二人で話がしたいんです」


その時、璃々さんが思いっきり顔を顰めた。


「うちが今ダメだって言ったら十和にちょっかいだすの止めるの?」


止める気がないだろう、と暗に言う。


「止めません」

「ならうちが何か言っても意味ないよね?」


璃々さんの声は厳しいまま、理解できないという風に続ける。


「朔夜先生だけじゃなくて十和にまで手を出さなくていいんじゃないの?この前、王子様とも仲良くやってたよね」

「やっぱりあそこにいたんですね」


あの人混みで見えた人影は勘違いじゃなかったらしい。

葵先輩が乱心を起こした時、璃々さんと十和様の姿が見えた気がしたのだ。璃々さんが本物なら、十和様もあの場にいたに違いないし、見た光景も間違いないのだろう。

二人は私と葵先輩の家族スキンシップを目撃している。


心の中で葵先輩に小さく謝った。

ちょっとあの時のことを利用させてもらいますよ、先輩。


「私は保健医にちょっかいを出すつもりはありません。私には先輩がいますから」


お兄ちゃん(仮)、私に力を貸してください!

威を借る狐の気分である。


璃々さんは疑うように目を細める。


「璃々さん、璃々さんは十和様のこと大事ですよね?」

「もちろんね」


間髪入れず璃々さんが答えたが、話が飛んだせいで璃々さんが少し戸惑ったような気配がした。

表情があまり変化しないから、あくまでも雰囲気から察しているだけであるが。


「十和様の想いも知っていますよね?ずっと認められずに守っている想いを」


私は私のやり方で解決させてみせる。

私は夢の延長なんて見たくない。

覚悟を胸に、その言葉を発した私の思いよ届け。


「あなた……?一体?」


璃々さんが表情を変えた。

訳が分からない、と言いたいような様子である。


「璃々さんは十和様にとってかけがえのない人です。十和様もきっとそう思ってる。だからこそ……」


私は璃々さんにも認めてもらいたい。


「報われない人に幸せを」


この世界はゲームじゃなくて現実だから。

痛い気持ちも辛い気持ちも、その人を蝕む害悪でしかない。そこにどんな気持ちを持っていたとしても。

ゲームのように行動し続けて傷つかないわけがない。心が悲鳴を上げているはずだ。


「璃々さんが私を信用できるなら、今日の放課後この連れて行ってもらったお店の前で待っています、と十和様に伝えてください。信じられないなら伝えなくてもいいです」


深く深くお辞儀をして、私はその場を走り去る。

璃々さんなら、これできっと伝わる。


私はそう信じている。




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