野暮ったい少年改造計画3
甘い香りが店中で混ざり合ってる。
このお店、ハーブや花の香りのするお菓子なども扱っているらしい。お土産に買えるコーナーまで存在していた。
アロマなのか、お香なのか、そういったお菓子から発するものなのか。匂いが混じりあって何の香りか分からなくなっている。でも不思議と不快じゃない香りの調和が取れていた。
「なんだか不思議な店だね」
「うん。こういう所は初めて来たかも」
葵先輩がチョイスする店にこういう店はなかったし。
一応注文は終えているから勉強を始めてもいいんだけど、なんだか興味が勝って店の中を眺め見る。
ちょっと暗めの照明や、天井や壁に飾られているドライフラワー。テーブルの上に飾られている小さな花。
お土産コーナーのお菓子や小物には特に興味が湧いて、ちょっと見てきたくて体がウズウズする。
林も珍しそうにしてあちこちをキョロキョロしている。
「珍しいでしょう?香りは気にならないかしら?」
優しそうなおばさんが、奥から注文したハーブティーを持ってやって来た。周囲が気になって仕方ない私達を見て面白そうに笑いながら。
「大丈夫です」
「いい匂いだと思います」
ゆっくりとした動作でテーブルに並べられるティーカップを見ながら、私達は慌てて居住まいを正した。
「趣味で開けてるようなお店だからわたしの好きなようにやっちゃってるんだけど、香りがキツイから結構好き嫌いが分かれるのよ。もしもこの店の香りが気にならないのなら、どれだけゆっくりしていっても構わないからね」
「はい、ありがとうございます」
「見ての通り、他にお客さんなんて誰もいないしね」
なんだか友達のお母さんと話しているような錯覚に陥る。そんな雰囲気の人がやっているお店だった。お客さんがいないって言った時もなんだか場を和ませるためみたいな茶目っ気のある言い方だったし。
私こういう感じのお店は、結構嫌いじゃない。
しかも、ゆっくりしていっていいなんて、林の勉強のためにはサイコーの条件だ。
「ああ、そうだわ!ちょっとしたサービスなんだけどね、クッキーは好きかしら?」
「好きですよ」
「僕も好きです」
おばさんは急に思い出しと言わんばかりに、手を叩いた。
私達の返事を確認すると急いで一度奥に引っ込んでから、何かが入っているカゴを手にして戻ってくる。
「フォーチュンクッキーって知ってるかしら?」
「ああ、占いとかの」
「え、私知らない。林知ってるの?」
カゴの中には変な形のクッキーがたくさん。美味しそうな匂いはするけど、普通のクッキーと何か違うの?
「貴女は知らないのね。丁度よく試作で作ったものがあるから、おばさんが教えてあげるわね」
おばさんが持って来たカゴをテーブルに下ろして、中から一つだけ変な形のクッキーをつまみ上げた。
「これはフォーチュンクッキーって言ってね、中に紙が入っているのよ。大吉や小吉なんかのおみくじみたいになっていることもあるんだけど」
おばさんは説明をしながら、クッキーを半分に割る。すると小さく畳まれた紙が入っていて、器用にそれを開いた。
そして開いた紙を私達に見えるように広げた。
私達はその紙に書かれた文字を眺める。
「このお店はお花とかを扱っているから花言葉を書いてみたのよ」
「lily of the valley?」
「うーん、僕もこの単語の意味は分からないや。この単語しかないし、花言葉は一体どこに?」
クエスチョンマーク満載の私達を見て笑い声を漏らしたおばさんは、紙の反対側を表にした。
「さっきのは花の英語名。それで、こっちがその和訳と花言葉よ」
「すずらん」
「花言葉は純愛、純粋か。へえ、知らなかったな。僕もいくつか花言葉覚えてみようかな」
「花言葉はたくさんあるし、諸説もろもろあってわたしの好みのものしか載せてないから、貴方達の知っているものと違うかもしれないわ。すずらんは英語の花言葉だと再び幸せが現れる、なんていうのもあるしね」
純愛か、とすずらんの花言葉が素敵でピッタリだと思う。頭の片隅で今日は忘れていたことを引っ張り出された気がした。でもそんな意識はひとまずちょっとだけ脇に置いておいて。
おばさんが見せてくれた紙から私と林の視線が外れる。
「一応、花言葉って言われると恋愛のイメージが強いわよね。だから運命の人に対する貴女達の思いを占ってみる、っていうお遊びも兼ねてやってみないかしら?試しで作ったものだから味見もお願いしたいし」
「味見!良い響きですね!」
「運命……、いやいや愛咲さんとはそういうのじゃ、いやそうだと嬉しいけど……」
林がゴニョゴニョ言いながら顔を赤くしている。なにこいつ。
おばさんはそれを見て、あらまあなんて言いながら口元を隠して笑っている。
私は味見としてクッキーを食べたくてワクワク楽しみです!
「いただきます」
林の奇行に付き合っている暇はないから、サッと上にあったクッキーを一つつまみ上げる。半分にして紙を中から手早く出したら、クッキーを口に放り込む。
「美味しいです」
「本当?良かったわ」
甘味は控えめで、ちょっと固め。でもほのかに甘いし美味しい、美味しい。
私の方を見て、林もクッキーを掴む。林はクッキーよりも先に紙を広げている。
「僕はひまわりだって。花言葉は……、っ!」
「何なの?読んでよ」
「私はあなただけを見つめると愛慕ね。結構情熱的なのね、あなた」
顔を真っ赤にして、口を開いては声にならない声を出している林に続きをせがんだら、おばさんが笑って花言葉を教えてくれた。
林がおばさんを見て、ちょっと心配になるくらい更に赤くなる。というか首まで赤い。
「へえ。愛慕、愛が募る、ねえ。そんなに美鈴ちゃんのこと好きなんだ」
からかいがいがある結果だ。うん、林グッジョブ!
ニヤニヤして林で遊ぶ気満々だったところに、おばさんが声を掛ける。
「貴女は、なんて書いてあったの?」
「あ、まだ見てないです」
そういえば、私の分もあるんだった。
「えっと……、ツルニチニチソウ。花言葉は、幼馴染?」
「あなたの運命の人は、もうすでに出会っている人なのかもね」
「運命の人……、幼馴染……」
幼馴染という言葉を頭の中で転がして考える。
幼馴染って中学生くらいからの知り合いでいいのかな?そうだとすると幼馴染と呼べるのは西川兄妹くらい……、はっ!
そうか、千香ちゃんか!私の運命の相手は千香ちゃんなのか!それならこの占いが当たってると言える。
小学生の頃からずっと好きだし。可愛いし、いい匂いするし。確かに運命的な出会いだったもんね!私の前世の記憶がよみがえったことがきっかけだなんて。他の人ではありえない出会い方!これは間違いないね。
「そうですね!確かに小学生の頃からずっと好きな人がいます。きっと運命の相手なんです!」
「そう。といっても私が作った占いだし、当たる確率の方が低いと思うけどね。楽しんでもらえればそれが一番よ」
おばさんは、クッキー入りのカゴを手にすると、
「じゃあ、ごゆっくりどうぞ」
静かに中に入って行った。
まだ注文しているケーキが来てないからまたやって来ると思うけど、楽しいおばさんだったなぁ。
と、それはさておき。
「やろうか、勉強。ほら林、いつまで赤くなってるの。あんたのための勉強なんだからね」
「う、うん。そうだね、切り替えなきゃ」
頭を振ってから真面目な顔になった林の前に、買って来たファッション誌を並べる。
「とりあえず全部読め。そして、その雑誌みたいな服の着こなしを心がけるんだ」
「分かったよ!」
ちなみに。意気揚々と読みだしたけど、林のその顔が曇り出して弱音を吐きだすのは数分後だった。
ファッション誌に載っている用語が分からなかったんだって。そのせいで、私が携帯を片手に用語をネットで検索する役目になった。
おばさんのお言葉に甘えて、超長居した。
でもそのおかげか、最後の方には林がスッキリした顔をしていた。自信が持てたようで何よりだよ。
私も用語検索しすぎて、少し流行りに詳しくなってしまった。別に悪いことじゃないからいいけどさ、携帯画面見続けたから目がチカチカするよ。
帰り際には気になっていたお土産コーナーも見て、何か買って帰ろうかと思った。
だって、ここのケーキすごく美味しかったんだよ。味見のクッキーもそうだし。全部おばさんが作っているそう。
だから日持ちはしないらしいけど、焼き菓子の前でどれを買うか迷った。
お菓子の他にも、小さなガラスに入ったポプリとか、品の良いレースがあしらわれたハンカチとか、小さな花入りのアクセサリーとか。本当に色々置いてあった。
このお店は本当に良いお店だったと思う。
クッキーの占いも楽しかったし、ケーキも美味しかったし。長居しても文句言わずに笑ってくれる良い人がいるし。
またいつか機会があったら、また来よう。そう決意する。
また来るよって気持ちを込めて、私は千香ちゃんへのお土産の焼き菓子と、ちょっと目に留まってしまった小物を買った。
早めに食べてねっておばさんが言ってたし、焼き菓子届けに明日は千香ちゃんの家に行こうっと。
日曜日だし、千香ちゃん多分家にいるよね?




