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立候補。私ライバルキャラやりたいですっ!  作者: 星ヶ里のブタネコ
10月

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みんなの標的ですよ2


教室内は人がまばらになっていた。

私と璃々さんが出ている間に多くの人が帰ったようだ。

でも、美鈴ちゃんはまだ記録を書き続けている。大変そうだなぁ。

ちなみに美鈴ちゃんと同クラスの風紀委員である林は姿がなかった。美鈴ちゃんだけ働かせて、どこ行ったんだよあいつ。


私は出しっぱなしだった自分の荷物を纏めていると、千香ちゃんが鞄の中を確認していた。


「未希、わたし荷物を教室に忘れて来たみたいだから、ちょっと取ってくるわ。ここで待っていてもらってもいいかしら?」

「いいよ。待ってるよ」


千香ちゃんが教室から出ていく。

それとほぼ同時に多くの生徒が教室から出て行ってしまった。

この教室に残っているのは、委員長の葵先輩と、板書を写している美鈴ちゃん。何もせずただ待っているだけの私。


「お、終わっていたか。西川、ちょっといいか?」


美鈴ちゃんのペンを走らせる音だけが聞こえる教室に、廊下から先生が覗き込んだ。

葵先輩に手招きをしている。


「はい、どうしましたか?」

「ちょっと、これを職員室に運んでほしくてな――」


教室を出ていった先輩と、先輩を読んだ先生の会話が遠くなっていく。雑用を頼まれたらしい。

さすが葵先輩、先生からの信頼も厚いんだろうなぁ。


うん、うん、と頷いて感心していると、美鈴ちゃんの手が止まった。


終わったのかな?と美鈴ちゃんの後姿を見ていたのがいけなかったみたい。

記録を終えた美鈴ちゃんは、教室を見渡した。教室内に残っているのは誰もいない。

私を除いて。


「あ」


当然、私と目が合った。

すると、私を認識した美鈴ちゃんがムッとした顔をした。


今日の私、人を怒らせてばっかりな気がする。

と現実逃避をしても、状況が良くなるはずもなく。

それどころか、美鈴ちゃんが私の方へと歩いてきた。不機嫌顔も可愛いと思うけど、最近はこういう顔しか見ていない気がする。どうしたら笑ってくれるかな。


「私、浩平君のこと、たくさん知ってます!」

「え?」


ちょっと、いきなり過ぎて全然意味が分からなかった。どういう会話の流れ?


「クラスは同じだし、春から仲良しだし。私、絶対にあなたに負けてない!あなたよりも浩平君のことたくさん知ってる。あなたには浩平君を渡したくない」

「ん?」

「あなたは?あなたは浩平君をどう思っているの?」


真剣な表情の美鈴ちゃんには悪いけど、私は全く展開についていけていないのである。

どういうこと?

林のこと?林ね。野暮ったい、暗い、意気地がない。モジモジしてばっかりだし、男らしさとは程遠い存在だと思っている。


でも、私が恋を盛り上げるために美鈴ちゃんのライバルとして立ちはだかりたい。

美鈴ちゃんと林の仲は、とってもとーっても認めたくないけど、応援してあげるってこの前林と話している時に決めたのだ。

私が美鈴ちゃんと仲良くなるためには、林との仲を盛り上げつつ、立ちはだかる絶妙なポジションにいればいい。最終的に、林との仲はくっつけて、私と美鈴ちゃんが仲良くなればゲームのシナリオなんて無視しながら、皆幸せになれる。

この計画を、あれから私は二、三日寝不足になって考えた。その甲斐あって結構イイ作戦になっていると思う。

上手くいけば、林と美鈴ちゃんは付き合えるし、私も美鈴ちゃんと仲良しだ!


だからこそ、今ここで林の印象を正直に答えるとマズイってことは私でも分かる。

美鈴ちゃんにちょこっとライバル視されている今、うまいこと言ってもっとライバルとして認めてもらわなくちゃ!


「私は林を――」

「未希、お待たせ」


適当に林を褒めるようなことを言おうと思ったら、千香ちゃんが戻ってきてしまった。


「橋本さん、私負けないから!」


そのせいで、美鈴ちゃんが教室の前へ歩いて行ってしまう。

教卓の前の席に座っていたもんね。そっちに戻るよね。


宣言をする美鈴ちゃんは堂々として自信ありげにキリッとした表情をしていたから、なんだかそういう顔もいいなあ、うふふ。なんて私は場違いな感想を抱く。

対して、千香ちゃんは美鈴ちゃんの後姿を一瞥して、小さく私の耳元で囁いた。


「あの女も敵?」


千香ちゃんの物騒発言に、うふふっとフワフワな夢の世界に浸っていた私は慌てて大きく首を横に振った。

今日はどうやら千香ちゃんの機嫌が良くないらしい。ブラック千香ちゃんの日だったようだ。

昼まではブラック千香ちゃんは降臨していなかったと思うんだけどな。何がきっかけだったんだろう。


美鈴ちゃんは記録をとった紙を一纏めにして、筆箱などの道具を片づけている。


その時、教室の前の出入り口から葵先輩が帰って来た。

先輩の手には出て行く時にはなかったペットボトルが握られている。


「あ、お疲れ様。記録書いてくれて、ありがとう」

「いえ、このくらい問題ないです」


このやり取りをしている時、私の視界に何かが動いた。


ちょっと目線をずらせば、教室の後ろ側の出入り口に立っている林の姿が。

林の手にも二つの缶の飲み物が握られている。

林の奴、どうやら美鈴ちゃんのために飲み物を買いに行っていたようだ。一応気が利くじゃないか、感心。


でも、美鈴ちゃんは葵先輩と話しているせいで林のことになど気が付いていない。


「これ、書記をしてくれたお礼。今日は書くことが多くて疲れたでしょう?このくらいしかできないけど、感謝の気持ちに」

「え、いいんですか?」

「どうぞ。そのジュース好きだったよね?」

「覚えてたんですか」


教室の前で向き合って笑いあう二人と、それを眺める林。

ついでに、それを傍観している私達。

感心した気持ちは急速にしょぼくれて、なんだか林が哀れに思えてしまって。


「帰りましょう」

「う、うん」


千香ちゃんが小さく私に言葉をかけて、林のいる出入り口を出ようとする。私も後を追うけど、どうしても林のことから目が離せない。

林は先輩と美鈴ちゃんの二人のことを悲しそうな顔をして見つめてから、自分の持っている缶を見下ろしていた。


何て声を掛けてやればいいんだろう、と考えていたけど、林は私が林の横を通り過ぎる直前に、身を翻して廊下を走り去って行った。

林が唇を噛んでいることは見えたけど、やっぱり何て言ってあげればいいのか私では分からない。

こんな時、もっと頭が良かったら、って思う。


千香ちゃんは林のことなど興味もないようで、見向きもしていなかった。けど、私は少し気がかりで、後ろ髪引かれる思いで学校を後にしたのであった。




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