文化祭のお仕事1
実は、美鈴ちゃんと林をからかって遊んでいたけどね、私もクラスの仕事があるんだよね。
クラスに戻ったら、千香ちゃんに怒られた。
時間を確認して動きなさいって。
正論すぎてぐうの音も出ないです。ごめんなさい。
しかも、今日の仕事はこれだけではないのだ。
クラスの当番が済んだら、文化祭の見回りがある。
千香ちゃんも風紀委員だから、私と一緒に行動している。というより、千香ちゃんに引っ張りだされた。
目を離すといなくなるからって。基本的には、私は千香ちゃんと一緒にいるのにー。たとえ隣にいなくったって、少し後ろでこっそりとストーキングしてるよ!ちゃんと見てるよ。私の心は千香ちゃんと共にある!
おっとっと。話が逸れた。
クラスの当番が終わったのはついさっき。時刻はおやつの時間帯。でも食べることは許されない……。
外回りの見回りをしなくちゃいけないから、これから外に行かなくちゃならない。
っく。食べ物のお店もあるのに行けないなんて、なんて試練だ。
しかも、とてもとってーも、気に食わないことに千香ちゃんを振り返る男共も大勢いる。
さすがは美少女!って、違う。千香ちゃんを誉めるのは置いておいて。
学年が違う先輩だけじゃなくて、一般客として着ている他校の制服を着た男子だったり、大人の男性だったり。
とにかく、そこかしこに私の敵がいるせいで、私は気が気じゃない。
学校の行事だし、誘拐とか起きないよね?大丈夫だよね?
千香ちゃん可愛いいから、敵がどんな攻撃をしてくるか分からない。
誘拐だって別に大袈裟じゃないからね。千香ちゃんの存在って罪なレベルだからさ。美しさが罪。本当心配。
心配だから、ちょっと千香ちゃんと腕を組んでもいいかな?
腕組んでたら、はぐれないもんね。ついでに密着して千香ちゃんを堪能できちゃうよ!
えへへ。下心を隠すことなくニヤけながら、千香ちゃんのスベスベの腕にそーっと手を伸ばす。
「痛っ」
「急になによ?」
おでこに軽いチョップを受けた。
怪訝な顔の千香ちゃんはチョップをかましはしたけど、私の手を払うような仕草はしなかった。
それをいいことに、私は私の腕を千香ちゃんのそれに絡ませる。
「腕組みたいな。ダメ?」
「唐突ね。まあ、別に構わないけど」
「ありがとう」
面倒くさそうにしたけど、許可は出た!
これで、誘拐の危険性は減ったよね。良かった、良かった。一安心。
ああ、近いせいか微かに千香ちゃんから良い香りが……。思いっきり吸っておこう。スーハー、くんかくんか。
「外周りだったわよね。この時間だと帰る人達の案内になるのかしら?確か兄さんも外の担当だったはずだったわよね?あと、他にも何人かいたはずだけど……」
「え。私仕事内容覚えてない。一緒に仕事する風紀委員が誰かも分からないよ」
役立たずでごめん……。
千香ちゃんは深いため息を吐いた。
「まあいいわ。行けば分かるから、さっさと行きましょう」
「はーい」
組んでいるのとは逆側の腕を上げて返事をする。
あーあ。このまま千香ちゃんと文化祭デートができれば文句ないのに。
仕事のせいでデートの雰囲気ではない。でも、千香ちゃんが一緒だから仕事も苦にならない。
でも、だからこそ。
来年は風紀委員以外の委員会に入ろう。それで千香ちゃんとデートするんだから!
そんな決心をしていたら、すぐに着いてしまった校舎下。
「二人とも、こっち」
「あ、兄さん」
昇降口の陰になる場所で立っていた葵先輩が私達の方に向けて手を振る。
千香ちゃんの顔も輝いている。葵先輩のこと好きなんだね。そんなブラコン千香ちゃんの笑顔も私は好きです。
「ちょうどよかった。入れ違いになる前で」
先輩の元へたどり着くと、そこには良い意味で素朴な眼鏡っ子が葵先輩の横に立っていた。
彼女は私と千香ちゃんに小さく会釈し、こちらも反射的に小さく頭を下げる。
そして、私は彼女の顔を見てハッと息を飲んだ。
「彼女は寺谷 璃々さん。本当なら俺たちと同じこの時間の担当者なんだけど、ちょっとトラブルがあったみたいでね。他の人はもうその処理に行ってもらってるんだ。でもどうも手が足りないみたいでね」
「そうなんですか」
「俺もそっちに行ってくるから、彼女と一緒に仕事をしてほしい。寺谷さんは去年もこの仕事をしてくれているから、分からなかったら頼るといいよ」
まじまじと寺谷先輩のことを見つめる。
地味めで、派手な装いはない。校則を破ることのない制服の着こなしである。
パッと見では真面目そうで特記することもない先輩に見える。
が、私には分かる!
眼鏡の奥に隠れてしまっているけど、この先輩隠れ美人である。確かに目鼻立ちがハッキリしているわけではないけど、肌は綺麗だし、アーモンド形の目は愛らしく、顔も小さい。
隠れ美人というに相応しいではないか!レベル高いよ!
千香ちゃんが大輪の花ならば、先輩は小さく可憐な花である。
「よろしくね」
両手を体の前で合わせ、微笑みを湛えて先輩が私と千香ちゃんに頭を下げる。
それを見てから葵先輩が再び口を開いた。
「二人は初めてだから、仕事の内容を軽く確認しておくよ。俺たちがするのは外回りの見回り、と言っても実質帰るお客さんを見送る係だ。朝の挨拶運動と同じような感じでやってくれれば大丈夫。ありがとうございましたって門の前で声を掛けるだけだよ」
「分かったわ」
「了解です」
簡単そうで安心である。
挨拶運動なんて久しぶりだからちょっと忘れてたくらいだ。あ、そういえば挨拶運動で林と初めて会ったんだったっけ。
林。思い出したらまた憎たらしくなってきた。どうしてあんなモサっとしてパッとしない根暗ひ弱男が美鈴ちゃんに好かれるの?!
「未希、ぼんやりしてどうかしたの?」
「ハッ!ご、ごめんなさい、何でもないです」
校門へと歩きだす千香ちゃんを、ただボーっと突っ立って見ていた私に葵先輩が声をかける。
「文化祭で疲れちゃったかな?」
「いえ、ただ考え事してただけです」
「ならいいけど。疲れたらちゃんと言うんだよ?」
心配そうな顔をした葵先輩。
なんだかちょっと過保護だなっと思った。私、体力はある方だと思うんだよね。体育祭であれだけ頑張ってた私だよ?全身ドロドロになったくらいだし。
「大丈夫です。行ってきます」
とにかく今は仕事しないとね、と働くモードに気持ちを切り替える。
校舎の方へ消えていく葵先輩を見送ってから、先を行く千香ちゃんの後姿を追いかけて、私の仕事を果たすべく校門を目指した。




