学園の王子様 2
「美味しいよー」
美味しいチーズケーキを口いっぱいに頬張って味わう。
千香ちゃんが作っている間、私は葵先輩とお喋りしながら待っていた。
入学したてで分からないことがあれば何でも聞いてね、という葵先輩は頼もしい。
さすが高校3年生の先輩です。
きっとテスト前に西川兄妹に泣きつくので、その時はよろしくお願いします。と心の中で頭を下げる。
でも、まあ、テストはまだ先の話だからね。今はケーキですよ。
「千香ちゃん、まだ食べてもいい?」
1個目をペロリと平らげた私は、2個目を所望します!
え、太る?でも、だって、ケーキ美味しいんだもの。
「どうぞ、全部食べてもいいわよ」
「未希は、本当に甘い物が好きだね」
千香ちゃんの許可をとって、私は2個目に手を伸ばす。
隣で同じようにケーキを食べている葵先輩が、しみじみとそう言った。
「私のことをただの食いしん坊だと思ってませんか、葵先輩。
一応、あなたの妹と同い年の年頃の乙女なんですけど…」
「大丈夫、食いしん坊だとは思ってないよ」
「乙女、ねぇ」
葵先輩は苦笑しながらフォローしてくれたけど、
「千香ちゃんひどくない?!バカにしてるよね」
半笑いでバカにしたような言い方だったよ?!
今も、笑ってるし。
「バカにしてるわよ、当然でしょ。そんなにケーキ食べたら太るじゃない。それを乙女って」
「そのケーキを焼いてるのは千香ちゃんなのに。理不尽だよー」
太るのは一応気にしてるけど、ケーキの魅力に贖えないこの葛藤が千香ちゃんには分からないらしい。
これは世の中の多くの女性が持つ悩みなんだぞ。
「未希は太ってないから、気にしなくて大丈夫だよ。だから好きなだけ食べな」
さっき2個目のケーキを乗せた私の皿を目の前に差し出してくれた。
見上げると、柔和な笑顔を浮かべた先輩。
先輩が神様に見えます。後光が見えます。
神託を信じて私は食べます!ありがとうございます、いただきまーす。
「もう。兄さんは、すぐに未希を甘やかすんだから」
「まあね」
「私のことも甘やかしてよ」
「いつもわがまま聞いてるだろ――」
食べることに夢中になった私に、そんな会話が右耳から左耳を通り抜けた。
「ごちそうさまでした。お邪魔しました」
ケーキをたらふく食べて、帰宅です。
ちょっと食べすぎたかも。
お腹に今日の夕飯が入るスペースがない。母上に叱られる、やばい。
「じゃあ、また明日ね」
「また、おいで」
玄関で二人並んだ西川兄妹に見送られる。
「はい。じゃあ、ばいばーい」
家に帰って母上になんて言おうか考えながら、千香ちゃんの家を後にする。
走って帰れば、少しは消化されるかな?
それにしても、あの兄妹は本当に仲がいいな。
私も優しい兄が欲しかった。一人っ子だから兄弟というものが羨ましいのである。