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学校はじまりましたよ


休みが明けた。

どうして、学校はテストが好きなのだ?!休み明けすぐにテストなんて……。

テストで半死になりつつも、なんとか生還できた。なんとかできたのも、ひとえに千香ちゃんのおかげである。

ありがたや、ありがたや。


テストという最大の敵が去った今、私がいるのは図書館である!

だってねー。夏の一か月の間に漫画の新巻が色々出てるから。これは読みに来なきゃでしょう?

仮にも学校の漫画を読みつくすという目標を掲げるからには、読みつくさないとである。ふふん。


というわけでチェックしているのである。


とある男女。男子は女子と話すうちに心惹かれていく。

そして、色々頑張ってはみるがタイミングを逃して女子をデートに誘う機会を逸したのである。

その後の話。


「先輩とは夏休み中会わなかったから久しぶりですね。休みはどうでしたか?」

「うん、あんまり楽しくなかったよ」


ご存知の通り、さきほどのあらすじは美鈴と図書男の話である。


ぷくくく。心底つまらなかったよって顔してやがる。

ざまあみろ!休み前、美鈴ちゃんにどんどんアプローチして私をやきもきさせた罰が当たったのだ!


「そうなんですか?水族館に行ったんじゃないんですか」

「ああ、あれは結局行かなかったんだ」


そうだよね、そうだよね。図書男は美鈴ちゃんと行きたかったんだもんね。

でも誘ってみたら逆に美鈴ちゃんの怪しい反応が返って来た、と。


ああ、私もあの時の様子を思い出してしまった。

美鈴ちゃん、本当に水族館行っちゃったの?!一体全体、誰と行ったの?

葵先輩だよね?そうだよね??そうだと言ってー!


「もったいないです……。水族館すごく楽しかったのに」


本気でもったいないことをしたかのように、声のトーンを落とした美鈴ちゃん。

もー!だ、か、ら!ホントに誰と行ったの?!


「美鈴ちゃんは夏どうやって過ごしたの?」


ナイスだ、図書男!よく聞いてくれた!

私の心の声が届いたかのようなタイミングだ。

これで、誰か判明すればありがたいんだけど。


核心に迫っている会話に、我慢できなくなって漫画を読んでいるフリを止めて二人を眺める。

といっても、あくまでソーッと眺めるだけである。じゃなきゃ、さすがにバレるし。


「えー、ほとんどバイトですよ?でもお休みの日に水族館とかに行きました」


えへへっと笑う美鈴ちゃんは、その時のことを思い出したのか頬を朱に染める。


「へぇ。誰と行ったの?」


眠そうないつもの様子とは全く異なり、やや前屈みに早口に聞く図書男の表情は硬い。

休み前、美鈴ちゃんと話している時のヘニャヘニャした笑顔はどこかへ飛んでいったらしい。


一方の美鈴ちゃんは、笑みを一層深めた。

ぐはっ。なにその笑顔、魅惑的なんですけど。写真に収めたい……。


「今とっても気になってる人、です」


誰にも言ったらダメですよ?と、照れながら小首を傾げる美鈴ちゃんは可愛い。恐ろしく愛らしい。

可愛いのだけど、目の前の男は凍りついているのに気が付いてほしい。

温度差が半端じゃない。赤道直下と極地レベルで違っている。


「ふふふ。それで、今日は夏のお土産を渡そうと思って来たんです。はい」


肩に下げていた鞄を探って、中から出てきたのは小さく包装してある何か。それをカウンターに静かに置いた。


「遠出はしてないんで、水族館で買ったものなんですけど。イルカの形のクッキーなんですよ」


美味しいですよ。と言っているが、図書男の耳に入っているのかは甚だ疑問である。

動きださず、しゃべることもせず、石像のようになってしまった彼に美鈴ちゃんは手を振った。


「今日はバイトあるんで、もう帰りますね」


そのままカウンターを振り返ることなく出ていく美鈴ちゃんの後を、茫然と視線だけ動かして追いかける図書男。

なんだか、ちょっとだけ憐れである。



同情の気持ちがほんの少しだけ芽生えはするものの、私の頭の中は美鈴ちゃんに関することにすぐに切り替わる。


誰と行ったのだろうか。

本当に相手は葵先輩なのか?


夏は終わった。

美鈴ちゃんの気持ちも、誰かは分からない何者かに向かっている。

恋は障害があって盛り上がるものだ。

そう、ライバルキャラの――私の出番である。


だけど……。まだ葵先輩だって断定できない。

もっと、もっと、もっと。

美鈴ちゃんをちゃんと見ていなくちゃ。美鈴ちゃんの視線の先に映る人物を知らないといけない。




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