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立候補。私ライバルキャラやりたいですっ!  作者: 星ヶ里のブタネコ
8月

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保健室は魔境だよね 2


「んで、ここにいんのは誰だ」


一気に開かれたベッド周りにある区切りのカーテン。予想通り、会いたくなんてなかった顔がそこにはあった。


「ああ、お前か」


一瞬獲物を狙うような瞳と、ニヤリと歪めた口元が見えたけど、そんなことに構ってる余裕は残念ながら今の私にはない。


「……気持ち悪い」

「熱中症か?ったく、どいつもこいつも面倒事を持って来やがって」


呻くように言葉を漏らした私の様子を見てか、保健医の顔つきが真剣なものへと変わった。

へえ、こういうちゃんとした顔もできるのか。と、頭の片隅で感じるも、がんがん痛む脳味噌のせいで一瞬にしてそんな考えは吹き飛ぶ。


「ちょっと待ってろ」


そう言って向こうへ遠ざかった足音は、本当にすぐに戻って来た。


「おい、これ飲め。少しの塩を溶かした水だ」


差し出されたものを大人しく飲み込む。もう味など感じてはいない。程よく冷えた液体が喉を通過するのは心地よい。

そして、顔の上に冷めたくて気持ちいいものが置かれた。

これ、いいわ。火照った体に丁度良い。


「あとは、寝とけ」

「……うぃーす」


うわ、なんか気の抜けた返事しかできなかった。



「オハヨーゴザイマス」


オヤスミ三秒は私の特技の一つである。

でも、でもさ、冷たいのが気持ちいいからって、それに安心してそのまま寝ちゃうってどうなの、私?!


「とりあえず、横に置いた水を飲み干せ」

「ハイ」


上半身だけ起こして、指示されたままに水を飲み干す。

保健室のボスは、機嫌が非常に悪そうだった。これ以上気分を損ねるのはマズイ。

分かってる、ここまで不機嫌にした原因は私だろう。


なぜなら外はもう薄暗いのである。

私が来たのは大体昼過ぎ。まだお外には太陽が輝いていた時間帯である。

それが、いつの間にか太陽は家に帰っていた。代わりに外にいたのは、薄ら見える月である。


美鈴ちゃんにも言っていたし、保健医にも一応仕事があったはずなのだ。

それなのに私がうっかり眠ってしまったから、その仕事は終わっていないと思われる。だって保健医は私がいる保健室から離れることができなくなってしまったのだから。ちょっとしたデスクワークくらいしか処理できないだろう。現に、保健医のノートパソコンのそばに書類を積み上げていた。それはそれはこんな嫌いな男のことなのに申し訳なくなるくらいに大量に。

本当にごめんなさい。とてもご迷惑をおかけしてます。


「気分は?」

「モウ、大丈夫デアリマス」


内心では土下座状態である。

いくらこの男が、人でなしの悪魔ヤローだったとしても、これはダメだわ。

というか、さっき私のこともちゃんと面倒見てくれたし、職務に対しては一応の責任感くらいは持っているのだろう。

最悪の極悪人から、仕事はちゃんとする口悪い性悪男くらいにはランクアップしたのである。


「なら、治ったな」

「ハイ」

「じゃあ、」


一呼吸するついでに、保健医の口元がニヤリとする。視線は鋭く私を見据えている。

しかも奴は立ち上がってから、こっちに来やがった。コンパスが長いせいで来るのにかかる時間なんて数秒である。


「知ってることを洗いざらい吐け」


逃げられそうにない雰囲気に、笑顔を引き攣らせたまま息を吐く。

なんで、ベッドに腰掛けるの?距離が近すぎて逃げられないですから。


なにこれ。私に負い目があるのを分かってて言ってる?これは断ってはいけない空気ですよね?

え、でも言えるわけないよね?どうする、私ぃぃいいいいーッ!


「お前は何を知ってるんだ。あれはお前なのか?」


逃がす気ゼロですね。目がそう言っているもの。

私は全力で首を横に振る。何かリアクションを返さないと、やられる。そんな差し迫ったような表情を保健医はしている。


正直に話す気は私にもないけれど、YesかNoかくらいは答えましょう。

今日のお詫びの気持ちも込めて。

べ、別に、保健医の恐ろしさに屈したわけではないんだからね。


「まあ、そうだよな。お前みたいなガサツそうな女ではなかったからな」

「ガサツってなんだよ」


微妙に私のことを貶めるなよ。そりゃ、女子力は低いけどさ。

だからって貶めてもいいってことにはならないのである。


ベッドに腰掛けた保健医の手が伸び、私の肩に乗っかった。

腕を伸ばせば触れる距離である。当然、奴の顔もよく見える。


「なあ、ならお前は何を知ってるんだよ?」


保健医が真正面から私を見据えている。瞳が切なげに揺れた、気がした。

小さく、力ない声は、今までの悪魔保健医からは想像ができないものである。


「あの時のあいつは――」


「朔兄、まだ残ってるのー?」


唐突に保健室のドアが開いた。

驚いてそちらを見た私は、廊下に立ってる人とバッチリ目が合った。

向こうもこちらを見て目を丸くしている。


「古泉か。学校でその呼び方は止めろって言っただろ」


舌打ちと共に、保健医がベッドから退いて歩きだす。

未だ驚いているらしい、乱入者こと――トワ様。前に一度、ここで一方的に見たことはあったが、目が合ったのは初めてである。

長身で、スラリとした体躯。やや垂れ目で整った顔立ちと、茶色く染めて斜めに流した前髪にフワッとセットしている短い髪。女の子に人気なのも頷ける凛々しさを持っている。少しチャラめのイケメン風味である。


「私は帰りますっ!失礼しました」


この混乱に乗じて帰らせてもらいます。


トワ様と話をしてみたい気持ちはあるけど、今はそんな状況ではない。

それより、このままここにいてあの話の続きをされる方が困る。答えられないし。


保健医が呼び止める声を無視して、扉横のトワ様の隣を通り過ぎる。

その時トワ様からの視線がずっと私を追っていたのが見えた。

でも気にしている時間はない!だって保健医の声を無視しているのだ。報復が恐いので、走って逃げよう。

ってことで、今日の帰り道も走って帰る羽目になった。さすがに今度は熱中症になんてならなかったけど。




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