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立候補。私ライバルキャラやりたいですっ!  作者: 星ヶ里のブタネコ
8月

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保健室は魔境だよね 1


っう、うぇー……。

なんというか、ひどい目に合った。

というのが、今の私の心境である。この一言に尽きる。


だってさ、だってさ、夏休み中なのに学校に来なくちゃならないなんて!



原因は今朝かかってきた一本の電話。

私はまだ寝てたから母上が受け取ってくれて、昼頃起きた私に言ったのだ。


「今日までに出さないとならない書類があるそうね?出さないと休み明けに授業で困るそうよ?」


言われて、その瞬間、ぽかーん……である。

なんのことかさっぱり思い当たらない。


でも一応、学校で配布されたプリント類の墓場と化しているスクールバッグの中を捜索すると、確かにあるではないか!

休み後の授業で必要だから買ってほしいと書かれた教材と、本当に本当に小さな字でプリントの下に書かれた申し込み締切。日付は今日。時間は午後三時まで。

発掘して、プリントに目を通して、私はそのまま時計を確認した。その時の時間は午後一時過ぎ。

大絶叫である!!


どうせなら前日に電話をくれよ!

母上も、どうして私をたたき起こしてくれなかったんですか?!自然に起きてくるのを待ってるって。休みのくせに手伝いをしなかった私への仕返しですか?!


寝間着からすぐさま制服に着替えて、朝兼昼ご飯すら食べずに家を飛び出した。

駅まで走ってから電車に乗って、また駅から学校まで走れば間に合うはずだったのである。


で、結論は間に合った。

担任の先生いわく、私以外にも多くの生徒がこの提出を見落としていたらしいが、大半は午前中には出して帰ったそうだ。午前中の私は未だ夢の中である。

あと、千香ちゃんは休み前にはもう出していたそうである。あんなに小さく書かれてたのに、さすがだ。


そして冒頭に戻る。

私はもう目的物は出せたし、帰りたいのだが。


「気持ち悪……」


職員室の外でしゃがみ込む。今の私は帰れそうにないのである。

ご飯も食べず、怠けきった休みを過ごしていた私が寝起きに長距離ダッシュ。外は昼過ぎで気温は最高潮の炎天下。

汗だくだし、ずっと走ったせいで疲れた。その上、熱中症になったらしい。


「どこか、休める場所……」


頭が痛いし、吐き気がする。といっても、ご飯を食べてないから吐けるものすらないのである。

走ったせいか、熱中症のせいか動くことすら億劫で。


「保健室とか?いやでも、アイツが……」


保健室はダメだ。うん、絶対ダメ。

でも、ならどこに行こうかな。

教室にでも行こうか?イスに座ってしばらくすれば治るかもしれないし。


「うわっ、橋本?大丈夫か?」


行き先が決まった私の横で、職員室のドアが開いた。

中から出てきて足元にうずくまる私に驚きの声を上げたのは、先ほど提出物を渡した担任である。


「顔色悪いな。熱中症か?おーい、動けるか?保健室のベッドで横になってこい。ほら、行くぞ」


私を立たせて、保健室に連れて行こうとする担任。

元気ないから抵抗できないけど、止めてください。保健室には行かないって今決めたばっかりなのにー。


そんな私の願いなど届くことなく、着いてしまった保健室。

誰もいない室内の奥、ベッドに私を寝かすと、担任は傍らに水を置いて行ってくれた。

あ、すみません。ありがとうございます。


ベッドの周りのカーテンまで閉めて行ってくれたおかげで、完全にこのベッドは孤立空間である。

置いてくれた水をありがたく飲み、大人しく横になる。ああ、水が冷たくて美味しい。寝てればすぐに良くなるよね。



と、大人しく寝てちゃダメだった!

そう自分に激しく突っ込んだのは横になってから二、三分後のことである。


保健室の扉の開く音に、さっきいた担任が様子を見に戻って来たのかと私は思った。

が、音がしてから聞こえた声は聞きたくなかったし、顔を合わせたくないと思っていた男の声で。


「なんで先月は一回も来なかったくせに、夏休みには来んだよ。学校になんて来てんじゃねえよ」

「先生なのに学校に来るなって言うのはどうかと思います」

「オレの仕事を増やすなってことだよ。ったく、休み中でもこっちは別の仕事があるっていうのに」


一緒にいるのは、美鈴ちゃんのようだ。転びでもしたのだろうか?

ああ、保健医め。文句とか言ってないで早く治療をしろよ。もしも傷跡が残ったらどうするつもりだ。

私は、ぐわんぐわん痛む頭を使ってそんなことを思う。


「もう前ほど来ないと思うので、今日来たことは許して下さいよ」

「は?どういうことだ?お前の運動神経の悪さが改善されたわけじゃねえんだろ」


消毒液を探しているのか、棚を開けたりする音がする。

その物音と共に、美鈴ちゃんはちょっと嬉しそうに言い放った。


「私が転びそうになったら、助けてくれる人がいるんです。だから休み明けはそんなに来なくても大丈夫だと思うんです」

「……そうか。来なくて済むなら、なるべくこんな場所には来るなよ」


保健医の声が少しだけ優しげだったのは、きっと私の勘違いだろう。

とんでもなく体調が悪いから、そのせいで耳がやらせてしまったに違いない。

だって、あの男に人を気遣う心があるとは思えないし。

前に見た笑顔はヤバかった。あいつは絶対に人を食える!悪人面ハンパじゃない!あいつは女子を不幸にする疫病神だ、と私は信じてる。


「ありがとうございます」

「消毒が終わったんだから、とっとと帰れ」


美鈴ちゃんの天使のような声と悪魔の素っ気ない物言いがあってから、ドアが開いて閉まる音がした。

そしてコツコツとこちらに近づく足音。


すぐそこで、それが止まった。




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