女の子の浴衣は目の保養 1
夏!夏の風物詩といえば、祭り!
祭りと言ったら浴衣ですよ。ゆ、か、た!
この辺りで開催される中でも大規模なお祭りには毎年欠かすことなく来ているのだ。
もちろん今年も千香ちゃんと行く約束をした。毎年行くから恒例のことになっている。
毎年ティッシュの用意は万全である。何に使うのかって?
千香ちゃんの浴衣姿に悶絶の、鼻血対策である。
目の保養、浴衣美人!女の子の浴衣率がとても高いが、その中でも千香ちゃんは群を抜いている。
黒髪ロングを結い上げて、儚げな容姿に和装。まさに大和撫子である!
どんな服でも似合うけど、和服は千香ちゃんにマッチしすぎている。儚さ倍増で、今にも消えてしまうかもしれない妖精さんレベルだ。もう天然記念物で世界遺産である!
最寄り駅ではないけれど、数駅先と案外近場の駅が祭りの会場である。駅前の通りにたくさんの出店が並び、そこに集まる人の数は尋常ではない。
駅は特に人が集まって大渋滞だから、駅の少し先で待ち合わせをしている。他にも待ち合わせに使っている人が大勢いるから、この祭りの時の待ち合わせの定番みたいな場所なのかもしれない。
家が近いのだから一緒に来ればいいのにと思うかもしれないが、そこは雰囲気である。
祭りで人がごった返す中で待ち合わせする。うん、これこそThe祭りデートという感じではないか。
そして、今日ばかりはいくら女子力底辺の私でも浴衣を着る。じゃないと千香が着てくれないのだ。
待ち合わせ30分前にはスタンバイ。待たせるなんて選択肢は存在していない。千香ちゃんは可愛いからナンパされないようにしなくては。
千香ちゃんが来るまではハッキリ言って暇である。だから、ボケーっと祭りにやって来ている浴衣女子をチェックする。
あの子は浴衣の柄が派手な方がもっと似合いそうなのに。あ、あっちの子の後ろ姿はいいね。うなじ美人。
このように人の流れを観察してたら、見たことがある顔が視界に入った。
「林!」
「え、橋本さん?なんで?」
相変わらず変な服装である。ボトムスのサイズが合っていないのは変わらず、今日はTシャツの柄もおかしい。でかでかと書かれた文字は『綿菓子!』って、どこに売っているんだよ。
それに髪がモサッとしていてボリュームがあるように見える。林の髪こそ、まるで黒い綿菓子である。切ればいいのに、暑くないのだろうか。
「なんでって祭りに来たに決まっているでしょうが。林は?」
「僕もお祭りに来たんだけど……」
「一人?」
「ううん。ここで待ち合わせしてるんだ」
私の質問に対して、ソワソワ周囲を見渡しながら答える林。
どうして落ち着きがないのだろうか。
「なんでそんなに挙動不審なのよ?ていうか、林にも祭りに一緒に来れるような友達いたんだね」
なんとなく林はボッチか根暗友達とつるんでいるのかと思っていたのだ。
勝手なイメージで根暗集団はこんな人の多いイベントに参加しないと思っていたから、林がここにいるなんて本当に意外である。まあ、年に一度の大きな祭りだし来たくなったのだろうか。
それにしても、林の様子がおかしすぎる。視線はあちこち彷徨っていたのに、今は顔をやや俯かせてしまった。
「実は……――なんだ」
「え、何?」
言葉の途中からがよく聞こえなかった。周りは人だらけだし、人の話し声とかでうるさいから声を張り上げてもらわなきゃ聞き取れない。
下を向いていた林の顔がこの瞬間上を向く。今度は視線を泳がすことなく、私を真正面から見据えた。
「実は、今日これから一緒にお祭り行くのは愛咲さんなんだ!」
「は?」
思わずそんな言葉が出た私は悪くないと思う。
え、何。林が、美鈴ちゃんと、祭り……?
は?
……はぁ?!
ハァぁぁあ?!!
「なんで。どういうことよ!説明しろ、林!」
両手でガッチリ林の両肩を掴む。
ちゃんと納得いく説明するまで逃がさないぞ!
「えっと、愛咲さんが行きたがってたから……」
親の仇を見るように林を至近距離で睨みつける。
それに怯んだ林は体を離そうとするけど、絶対に逃がさないんだから!
美鈴ちゃんも、一体どうして林なんかを誘うの?!葵先輩を誘えばいいのに!
葵先輩も何かアクションしてくれないと!夏休みどこに行って、何をしてるんですか?!!
祭りなんて、心の距離を縮める絶好の機会だろうにー!!
「何してくれてるんだよー、林!邪魔すんなよ―!!」
「へ?邪魔?ていうか、揺らさないで」
林を前後に揺さぶる。もはや完全なる八つ当たりである。葵先輩が、林になんて遅れをとるとは思っていなかった。
グワングワン私が揺らすから、林は眼鏡が飛ばないよう抑えている。
「橋本さん、ストップ、ストップー」
「止めてやるもんか」
静止の声など無視だ。気が済むまでやらせろ。
程なく私は林から手を離した。やはり女子の筋力では、踏ん張ろうとする男子の力に勝り続けるのは難しい。
たとえその男子が非力の綿菓子であっても。
一般男子なら、女子にいい様にされることもなく力で勝てるだろうから、非力ってことは特に強調したい!
顔色悪い林を見て、ちょっとやりすぎたかと思う。それでも、別に謝らないが。
私の向こう側に視線を送る林は、顔色の悪さそのままに声を絞り出した。
小声の癖に今度はしっかり私の耳に入ってきた。
「……愛咲さん、……いつからいたの?」




