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思い出話に花を咲かせましょう


夏休みに入ってしまった……。


結局美鈴ちゃんとデートする相手が誰なのか特定できなかった。あれ以来さらに注意深く見ていたけど、心なしかルンルン気分で生活しているなってことしか分からなかった。とてもショックである。


夏休みに入ってしまったから、美鈴ちゃんを見て癒される機会がなくなってしまった。休み明けまでおあずけである。

美鈴ちゃんだけではない。美鈴ちゃん以外の女の子を見て目の保養にする場すら、休み明けまでないのである。

可愛い子を見て心の平和を保っていた私にとって、美少女がいない自宅は癒しのスポットではない。

ああ、どれだけ学校が素晴らしい場所だったか。夏休みになると、そのことを思い知らされる。


だがしかし!私には千香ちゃんがいる!

前に葵先輩に宣言した通り、私は休みに入ってからほぼ毎日千香ちゃんの家に通っている。

千香ちゃん。千香ちゃん、千香ちゃん千香ちゃん千香ちゃん……。

私の休みは千香ちゃんのためにあるのである!



「千香ちゃーん、今日も来たよー」


勝手知ったる他人の家。リビングに行けば、千香ちゃんが台所から顔を出した。


「いらっしゃい。少し待っててくれるかしら。今は手が離せないのよ」

「了解」


座って待つ。キョロキョロとよく知る部屋を見渡した。


「お待たせ」

「ううん、大丈夫。今日も葵先輩いないんだね」

「そうなのよ。兄さん、夏休みのちょっと前から家を空けるようになったの。何してるんだか」


肩をすくめて千香ちゃんが言う。


そうなのだ。最近はずっと葵先輩がいないのだ。毎年、葵先輩は家にいたから、なんだか変な感じなのである。

今年は今までと違っていた。前に出かけた時の葵先輩の返答のように。


もしかしたら美鈴ちゃんとデートしているのかもしれない。水族館に行く相手は葵先輩だったのかもしれない。

確認できずにいるから、実際はどうなのか分からないけど。

というか、毎日デートって現実的にあり得ないよね?そしたらやっぱり、デートじゃないのかな……?

いやいや、一日だって離れたくないってくらいお互い好き合っていたら、あり得ないこともない、かも?


ああー、分からないよ。何してるんだろう、毎日。

でも、うまくいっていることを祈ろうと思う。そして夏休み明けに私の出番が来ますようにって。


「昨日食べたいって言ってたゼリーなんだけど、もう少しだけ待ってくれる?まだ冷えてなかったのよ」

「うん、いつまでも待つよー」


千香ちゃんが私の隣に腰掛ける。


昨日来た時に、千香ちゃんにゼリーが食べたいから作ってほしいとリクエストしたのだ。それに応えて作ってくれたらしい。

えへへ。嬉しい。私のために作ってくれているんだもん。

葵先輩のことで考えてたけど、彼方に放り投げる。千香ちゃんといることの方が大事だもんね。


さて、唐突だけど、千香ちゃんの今日の服装は足が良く見える。というのも、ショートパンツタイプの部屋着なのである。冷房が寒いのか上にはパーカーを着ているけど、スラリとした足はそのまま出ている。

足が……。生足が私の横にある。ごくり。


これは、魅惑の太ももにダイブしなきゃ女が廃る!


「てやっ」

「きゃっ!」


正座を横に崩した座り方をしていた千香ちゃんの太ももめがけて、私は体を倒した。

もちもちスベスベの太ももに頬擦りする。はぁ、気持ちいい、柔らかい。

千香ちゃんを堪能していた私の頭を千香ちゃんが叩く。手加減なしだから普通に痛い。


「この、変態!」

「ごめんね。ちょうどいいところにあったからスリスリしたくなっちゃった」


体を起こしたら、危険を感じたのか千香ちゃんが立ち上がってしまったから少し寂しくなる。しかもそのままどっか行っちゃうし。

もうちょっとくっついていたかったなぁ。



「ほら、ゼリーあげるから大人しくしてなさい!」


ちょっと乱暴に下したお盆に、ガラスの器に入った綺麗な薄黄色のゼリーが。二層になっていて、下にいくとピンクがかった黄色で可愛らしい。飾りとして上に小さなミントが乗っていて、手作りとは思えない見た目である。


「わぁ、美味しそう!」


千香ちゃんが、さっきと同じように隣に座る。

触ってもいいってことですか?いいんだよね、これ。


「千香ちゃん、ありがとう。大好き!」


両手を広げて、横から抱き付く。私なりの感謝の気持ちである。


「はいはい。分かったからさっさと食べなさい」

「うん!」


スプーンで掬い取って、食べてみればグレープフルーツの味が。美味しーい!

と、ここでふっと昔の思い出が浮かんできた。


「そういえば、千香ちゃんの家に初めて来たときに食べたのもゼリーだったね」

「ああ、そういえばそうね。中学一年の春だったかしら」


そっか。もうそんなに昔のことなんだ。


千香ちゃんと初めて話したのは小学五年生の時だった。それで、六年生になってからそれなりに仲良くなれたのだ。

でも小学生のうちは家に行ったことも来てもらったこともなくて、初めて来れたのは中学一年生になってすぐだった。それからは来るようになったし、お互いお泊りもするようにもなった。


「そうだね。初めてだったからすごい緊張したんだよ」

「嘘ね。お菓子を出したら未希すごい勢いで食べ始めたじゃない。他のことに見向きもしないで」

「あれは、千香ちゃんのゼリーが美味しかったから」

「ふふふ。あの時のは面白かったわ」


面白かった?今、美味しかったって話だと思うんだけど。

うーん、当時なにかおかしなことしてたかな?

千香ちゃんが思い出し笑いをして、楽しそうにしているんだけど。自分がどんなおかしなことをしたのか覚えていないから、理由が分からないのである。


「そういえば、あの日が初めて葵先輩に会った日なんだっけ?確か」

「そうよ。兄さんと会うのはあれが初めて」

「そっか。でもあんまり先輩の記憶はないなあ」


葵先輩の存在って前世の記憶のおかげで知ってはいたけど、実物に会うのはその時が初めてかー。

思い出してみるけど、あの頃の先輩の記憶ってあんまり覚えてないのである。千香ちゃんに夢中だったせいだろうか。

というか、千香ちゃんが声を出しながら笑い出したけどなんでだろう。当時の私、本当に何をしたんだ。


「千香ちゃん、なんで笑うの?私何かしたっけ?」

「いいのよ、気にしないで。未希はもうしばらく今のままでいてちょうだい。ね?」


最後の、ね?でいつもと違って艶っぽく微笑んだ千香ちゃん。なにかを企んでいるかのようで、含みのある笑顔。その明かされていない出来事が、千香ちゃんの笑みに色気を足す。


レアな表情だから見慣れなくてドキッとしてしまう。

悪いことを企てている時の千香ちゃんは楽しそうだけど、周りにとってはそれが魅惑的に見えるから困りものである。

ここが家で本当に良かった。もしも、外だったら幻惑される男がいてもおかしくない。

普段は儚げなくせに、稀にこんな風に色っぽい顔をするから千香ちゃんからは目を離せないのである。私がちゃんと守らなくては!



そのあと、千香ちゃんとは他愛ない話をして過ごした。

ちなみに、宿題は千香ちゃんに早目に終わらせるように言われているから帰ってからやる予定である。絶対に今月中に終わらせてしまうのだ。そしたらきっと千香ちゃんが褒めてくれる!


帰る頃になって、葵先輩が帰ってきたからすれ違いになった。

でも、なんだか疲れているように私には見えたんだけど、本当先輩は何をしているんだろう?




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