思い出しましょう
さて、ちょっとだけゲームの話をしましょう。
といってももう随分昔のことで、前世だし、曖昧なところもあるけど。
この学園、風紫学園が舞台の乙女ゲーム。
私が可愛いと前世で愛でていたヒロインの愛咲美鈴はクリクリおめめと、ふわっふわのロングヘアを持つ小柄な女子だ。
小動物系?とかいうやつ。とにかく可愛い!
次に、現世で愛している千香ちゃん!
兄の西川葵のライバルキャラクターで儚げ美少女である。
ゲームでは極度のブラコンで兄に近づく女は排除していた。
ゲームでも現世でも時々口が悪くなるけど、決して悪い子ではない。てか、それすら萌え要素。ハァハァ。
千香ちゃんの友情ルートに入って仲良くなると頻繁に遊びやお泊りに誘われる。
ちなみに私と千香ちゃんはお互いの家でお泊り会をしたことがある関係だぞ。すごいだろ、いいだろー。
他のライバルキャラクターでこの学園に通っているのはあと2人である。
ちなみに攻略対象の男は全部で6人いる。
確か、葵先輩と生徒会長、図書委員、バイトの先輩、スポーツ少年、保険医、だったはず。
ま、男は割愛、割愛。
可愛くないし、いらないし、関係なし!
なんて、頭の中で前世の記憶を思い出して整理する。
なんでかって?
ぶっちゃけた話、ヒマなのである。
だって、ヒロインが葵先輩に近づいてくれないとイチャモンつけられないし。
それに、そもそもまずはヒロインが生徒会長ではなく葵先輩の方のルートにやってくることを祈らないといけない。
攻略対象の中でも人気の高かった二人は同時攻略不可能だったはずだ。
それゆえに、生徒会長側へ進んだときは作戦を考えないと……。
ライバルキャラの出番はだいたい夏休み以降。
それまでは出番なし。
だから、作戦変更になっても少し時間に余裕があるから多分なんとかなると思ってる。
それに、きっと葵先輩側のルートに来てくれると信じてる。根拠はなにもないけど。
楽観的にいきましょー。
勝手に千香ちゃんの役目を譲り受けたつもりの私。
ゲームの千香ちゃんみたいに葵先輩大好きって感じではないけど、多分なんとかなる。
先輩への愛ではなくてライバルキャラを演じることへの情熱でカバーしてみせる!
だから、安心して私に任せてね、千香ちゃん!
なんとしてでも、立派にライバルキャラとして働いてみせるよ!
そ、し、て
私は美鈴ちゃんの行動をさりげなーく観察しております。
廊下で立ち話しながら、隣の教室内の様子を窺っている。
私の知る限りでは、まだ美鈴ちゃんはイベントを起こしていない。現実世界のことだからイベントって言っていいのか分からないけど。
ま、入学式の翌日だし。攻略対象の男子との絡みはまだ先かな、と考えている。
こんな風にヒロインの存在を意識しているけど、私には千香ちゃんがいるということは忘れてない。大丈夫。千香ちゃんラブ。
だから嫉妬しないでね。浮気じゃないんだよ。
「変なこと考えてるわね?」
「まさか。マトモなことしか考えてないよー」
千香ちゃんがギロリという視線と共に聞いてきた。
視線を明後日な方向に逸らしつつ、はぐらかす。
千香ちゃんは勘が鋭い。
「ま、いいわ。未希が変なのは元からだものね」
諦めたように溜息をつかれたけど、私変じゃないよ。
「ところで、今日うちに来てくれないかしら?」
千香ちゃんが先程とは違い、チラッとこちらを上目でうかがいながら聞いてくる。
このお誘いを断れるはずがない。
千香ちゃんの上目遣い、神!
「行く!」
「良かった。今日ケーキ焼こうと思ってたのよ。食べて」
「もちろん!」
千香ちゃんのケーキは絶品なのだ!
焼いても食べないから来て食べていけ、と何度も食べさせてもらっている。
お菓子作りは千香ちゃんの趣味だ。
ちなみに作るだけ作って、千香ちゃんは食べない。太るのが嫌らしい。
一方、私の胃袋は千香ちゃんにガッチリと握られているため、お肉が増加傾向だ。くっ…、脂肪が憎い。
「じゃあ今日の帰りは私の家ね」
「うん」
何ケーキだろう?
放課後が楽しみだ。
なんて、それからケーキのことで頭がいっぱいになり、美鈴ちゃんの観察をすっかり忘れていたことに、学園を出た時に気づいた。
あーあ…。なにやってんだ、私。