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そんな場所にいるから邪魔されるんだよ


放課後、千香ちゃんと帰ろうと思ったんだけど職員室に用があるんだって。

だから一緒に帰るなら教室で待っててって言われたんだけど、暑さのあまり飲み物が欲しくなった。でも残念なことに持ってないんだよ。我慢したら間違いなく干からびる!と思ったから、買いに来たのである。


我が校の自動販売機は昇降口の脇にある。

外の部活の人は、わざわさ校舎内に戻らなくても買えるから評判がいいらしい。でも、そうじゃないと、一番下の階まで降りてこないといけないから、ちょっと不便である。


うだるような暑さの廊下をノソノソと移動する。

何を飲もう。喉を潤おせたら何でもいい気もする。そのくらい乾いてる。


階段を下りきる。ああ、癒しのオアシス、自動販売機はすぐそこだ。


帰るために靴を履きかえて帰宅する生徒がたくさんいるけど、自動販売機だけを求めている私には目に入らない。

飲み物を、飲み物を買わないと……。もはや亡霊のような私は、目当ての自販機の前に、見知った人がいることに気が付いた。


昇降口で外に向かう生徒に紛れて、自動販売機から少し距離を取って足を止める。


「これから部活なんだね。暑いから熱中症に気を付けてね?」

「おう、サンキュー!」


そこにいたのは、スポーツドリンクを持ってTシャツ姿のスポーツ少年と、財布を握った制服姿の美鈴ちゃん。

ああ、心のオアシスが目の前に。夏服っていいよね。短いスカートから覗く生足がたまらんです。

でも、今は物理的なオアシスに行かせてほしいな……。枯れる、私干からびちゃうから。


けど、そんな水分不足なやつのことなど気にせず彼らの会話は続いていく。


「美鈴は何買うんだ?」

「どうしようかなって悩み中。陽貴、くんのオススメって何かある?」


スポーツ馬鹿の名前の時に恥ずかしかったのか、一拍開けて君付けにする美鈴ちゃん。


ダメだよ。横に並んだ状態で、下から伺うように目線を上げたら!向こうの方が背が高いせいで、自然に上目づかいになっちゃうから。

ほら、横の馬鹿の耳が赤くなってるじゃんか!


「オ、オレが好きなのでいいなら、それかな。ただのブドウジュースなんだけど、なんかよくわからねぇつぶつぶが入ってるんだよ」

「へー、そうなんだ。今まで飲んだことなかったし、飲んでみるね」


照れてるのか、少々早口に勧めた少年。まだ、耳の赤みは引いていない。

対して、全くその様子に気づかず勧められた通り、そのジュースを買って、取り口から出した美鈴ちゃん。


「オススメしてくれてありがとうね」

「お、おう」


買ったジュースを両手で握りしめて、スポーツ少年の正面で満面の笑みを浮かべた美鈴ちゃん。

その顔は大変可愛いんだけど、そこでやったらダメだからね。

目の前でその笑顔を鑑賞している馬鹿の耳がもっと赤くなった。というか首元まで赤くなっている。後ろからでも分かるのだから顔は相当真っ赤だろう。


「あ、あ、あのさっ。夏休み予定ある?」


だから、そのまま照れた勢いでそんなことを切り出すなんて思いもしなかった。

私は内心ギョッとして、邪魔しなくちゃという使命感にかられる。少ししか距離はないけれど、彼らがいる自動販売機まで足を進める。


「予定って何の?」

「もし良かったらなんだけど、暇があったらオレをどっか――」


「すみません、飲み物買いたいんですけど」


言わせてなるものか、と私はスポーツ馬鹿の台詞をぶった切った。

喉が乾きすぎてて、まるで別人のようなしわがれ声である。

私、一応花の女子高生なのに。まるで老婆のような声である。それを美鈴ちゃんに聞かせたのだと思うと、もういたたまれない。


「あ、ごめんさない。ここだと他の人の迷惑になっちゃうね。私、もう行くね。部活頑張ってね、ばいばい」

「ああ。じゃあな」


手を振って昇降口から出ていく美鈴ちゃんに、落胆して声が沈んだ男が覇気なく手を振り返した。そして、トボトボとグラウンドの方向へ歩いて行った。

今回もしっかり邪魔してやったぜ!

でも、私の声のことは記憶から消してね、美鈴ちゃん。絶対だよ、お願いだよ。覚えられていたなら私は泣くと思う。水分が足りていない私が泣いたら、本格的にカラカラミイラの完成である。



さて、私は喉の渇きがピークである。水……、みず……。このままでは、ミイラになってしまう。

自動販売機の前に立って、何でもいいからとにかく早く買おうと思った私。

その時視界にさっきあのスポーツ少年が勧めていたジュースが入った。美鈴ちゃんとお揃いだし、これでいいか。


その結果。

千香ちゃんにも帰り際、昇降口に降りてきた時に同じ物を勧めておきました!これすごい美味しいね!

次もこれを買おうっと。




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