敵は過ぎ去ったが 1
やりました!やりましたよ!!隊長!
気分ルンルン、クルクルずっと回っていられるような高揚感。
口角上がりっぱなしで、ずーっとニヤニヤですよ。
千香ちゃんと葵先輩に大変お世話になったテストが終わり、先ほど全ての答案が戻ってきた。
その結果が嬉しくて、ちょっとトイレに行くだけなのにスキップしながら廊下を進んでいる。
そのくらい気分が良いのだ!
「あっ、林だ!」
「げっ……」
廊下の向こうから来ていた林を発見して思わず声が漏れる。お昼休みで多くの生徒が廊下を歩いているのに知り合いを見つけられるなんて。
嬉しさいっぱいの私は、この気持ちを誰かに聞いてもらいたくてウズウズしていたのだ。
丁度良かったから、林に自慢してやろう!
「林、林!聞いてっ!」
「うん、何?」
迷惑だという顔をしているけど、一応聞いてくれるらしい。
林って良い奴なんだな、と少し感心してしまった。
「この間の定期テストで、一つも赤点取らなかったんだよ!」
「へぇ……」
「全部五十点台だったの!」
「そっか」
ブイサインを掲げて教えてあげたら、可哀想なものを見る目を向けられた。
この学校の赤点は三十点以下である。
赤点を免れることができただけでなく、こんなにいい点数を取れるなんて。
本当に千香ちゃんや葵先輩には感謝である。今度お礼の品を買って、西川兄妹宅に伺わなくては。
百点満点中の五十点台である。半分よりも、ほんのちょっとだけ高い点数だ。
すごいだろう!という私の自慢と歓びに対する林の驚きが薄い。その上、そんな哀れな目で見るなんて。
さっきの良い奴っていうのは撤回である。もう少し良い反応をしなさいよ!
「そんなに反応の薄い林は何点だったの?」
これで私より低い点数だったら、思いっきりバカにしてやるんだから!
林の心無い淡白な反応に、私は傷ついたのだ。乙女は繊細なのである。
「え、言わないとダメ?」
「ダメ!」
言えないくらい悪い点だったのだろうか。
ウヒヒ。なら思いっきり笑い飛ばしてやろう。
「……点」
「声が小さくて聞こえない」
「七十八点」
「は?!」
ななじゅう、はち?
何それ、なにそれ!すごい高得点。
「林のくせにー!え、全部同じ点数なわけじゃないでしょう?他は?」
一番良い点数が七十八ってこと?
他の得点は低いよね?そうだよね?そうだと言って。
林ににじり寄れば、彼はひきっつた作り笑いを浮かべる。
「他は八十点台と九十点台」
「林のくせにー!!」
ずどーん。クリティカルヒット。
嘘でしょう。なんでそんなに頭良いの?
七十八が最低点ってこと?
それじゃあ、さっき五十点台だったことを自慢した私がすごくアホみたいではないか。
ショックのあまり崩れ落ちそうになる私を尻目に、林は居心地悪そうに視線をあちこちに彷徨わせる。
「なんだよ、くそー!」
「なんかごめん……」
「惨めになるから謝るなよ!」
「ご、ごめん」
「だから謝るなって、コノヤロー」
逆ギレである。ちゃんとわかっている。八つ当たりである。
それでも、むしゃくしゃする。
とりあえず、この話題から離れよう。うん、そうしよう。
「そんなことより、今どうなっているの?」
廊下で誰が聞いているかも分からないから、美鈴ちゃんと、とは言わないけれど林にはちゃんと通じたらしい。
「悩みを聞いて、解決することができたよ。お礼にって今度でかけることになったんだ」
「そう、良かったね」
頬を少し赤く染めて嬉しそうに微笑む林。
解決したなら悩みについて詳しく聞かせてほしい。美鈴ちゃんのことならなんでも知りたいのである。
と、美鈴ちゃんの顔を思い浮かべた時にふと思った。
美鈴ちゃんは誰の攻略がしたいんだろう?
私が知る限りの可能な攻略対象との接点は持っている。
図書委員のマイペース少年とはそれなりの頻度で会っている上に、奴は油断ならない相手である。
私のクラスのスポーツ少年は美鈴ちゃんに良い印象を抱いているように見えるし、私が把握できていないだけで保健医とも何度も会っているはずである。
葵先輩に対しても美鈴ちゃんはまんざらじゃないように見える。
順調にそれぞれとの仲を親密にしていっているけど、本命が分からない。
私は、美鈴ちゃんのライバルキャラをしたい。
そのためには葵先輩と恋仲になってもらって、千香ちゃんがやるはずだった役割を果たさなくてはならない。
そしてその過程で友情を育み、ゆくゆくは親友ポジションをゲットしたいのである。
美鈴ちゃんには葵先輩を好きになってもらいたいのである。
でも今現在、本命が分からない。もしかしたら、他の人と恋に落ちてしまうかもしれない。
そんなことになったら困る!
どうしよう!!
私は、とても重要なことに気が付いてしまった。
他人がどうしたら恋に落ちるのかなんて私の知識の中にはない。
テストの点が良くて浮かれてたはずなのに、どうしてこんな重大なことで頭を悩ませることになっているの?!
内心でこれまでにないくらいに焦って慌てて、一気に血の気が引き周囲の空気が一気に冷えたように感じたのである。




