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体育祭ですよ 2

午後の強い日差しの中、綱取りはさっき終わった。


本当に恐ろしい競技だった。


はじめは短い綱に二対二くらいの人数で引き合っていたんだけど、敵チームの増援が早かった。

あっという間に人の群れvs二人になって、そのまま綱は引っこ抜かれた。

一緒に引っ張っていた味方の一人はすぐに手を離したけど、手を離すのが遅れた私は綱と一緒に引きずられた。


ちょっとの距離だけだったけど、引きずられたおかげで全身砂だらけ。

あちこち擦り剥いてしまった。

重傷なのは両膝である。砂と血でグチャグチャである。う……、痛いぜ。


千香ちゃんは引っ張り合いに参加せず、なんとなく綱の方に走ってなんとなく陣地に戻るという、やる気の欠片もない参戦方法をしていたために無傷である。

チームとして考えたら良くないんだけど、私的には良かったと思う。


千香ちゃんが本当に怪我してないか心配で終わってから、千香ちゃんの周りをグルグル回りながら全身撫でまわすように見てたら怒られたけどね。

回るなうざい、見るなキモイって……。

でも、それをしたから本当に怪我はしてないって確認できたよ。

千香ちゃんに傷ができたら一大事だからね。

ついでに、千香ちゃんのジャージ姿を堪能してきたよ。制服もいいんだけどね、ジャージもいいね!


千香ちゃんに怒られた後に、早く手当てして来いって言われちゃった。隠そうとしてたけど、動揺してるように見えた。

全身ドロドロだから、心配させちゃったかな……?



で、私は今救護テントに来ています!


救護スペースは大繁盛している。

さっきの綱取りで大量の負傷者が出ているし、他の競技でも傷を作ってくる生徒がいるからだ。

まあ、私みたいに全身砂だらけの子はほとんどいないけど……。


で、イスが並んでいるところで手当ての順番を待っているんだけど、今すごくドキドキしてるの!

だって、隣に美鈴ちゃんがいるんだもん。


気づかなかったんだけど美鈴ちゃんも綱取りに出場していたみたいなの。美鈴ちゃん色々競技にでててやる気あるよね、すごい。

そして美鈴ちゃんも全身砂だらけ。

お揃いですよ、やったね!


そんな美鈴ちゃんの手当てをしているのが保健医。

美鈴ちゃん、今日はイベント満載だね。


「またお前か、愛咲。こんなに怪我してんじゃねえよ」

「でも楽しかったんですよ。これは名誉の負傷です!」


不機嫌そうに消毒している保健医に、キラキラと目を輝かせた美鈴ちゃんが言う。


「はっ。それで怪我してたら世話ねえよ」

「えー、でも……」


反論しようとしたのを遮って、保健医が美鈴ちゃんの耳元に口を寄せる。

え、今ここいっぱい人がいるんだよ。大胆!


「今度は怪我しないように楽しめよ」


私がいる側で囁いたから私にも聞こえちゃったよ。小声で囁いた低音ボイス。


「いいな?」

「っ……!」


片方の口角だけ上げて悪戯が成功した子供のように笑う姿に、美鈴ちゃんは声を出さずに口をパクパクさせている。

それがさらに面白いのか保健医の笑みが深まる。


「よし、終わったからさっさと行け」


美鈴ちゃんの膝に絆創膏を貼ってから、保健医が手を叩いて追い出す。

その音にハッとしてから、そそくさと美鈴ちゃんは戻って行った。



「なんだ、こっちも怪我だらけなのかよ」


今度は私の前に来た保健医が全身を眺めてから最初に放った言葉である。

私だって好きでこんなに怪我したわけじゃないんだぞ!


「高校生にもなって、こんなに怪我してんじゃねえよ。ったく、どうしたら怪我するかくらい考えりゃ分かるだろうが」


さっき美鈴ちゃんに見せていた笑みはどこに行ったのか、不機嫌顔で文句を言いながら消毒をされている。

ヒロインとモブで対応違いすぎるだろうが!しょうがないけどさっ!


「こっちだって怪我したくてしてるんじゃないんですー」


ちょっと文句言うくらい許されるよね!

目の前でずっとブツブツ文句言われてたから、少し腹が立っていたのだ。


「ああ?」

「だいたい先生だって怪我作ったことくらいあるでしょうが。十年前にすごい怪我してて公園から動けなかったくせに!怪我に対して文句なんて言わないで下さい!」


フーっと息を吐き出す。

ああ、言いたいこと言ってスッキリした。

やっぱり文句言われたら文句を言い返さないとだよね。目には目を、だよ。


「おい、お前」


いきなり保健医が私の腕を掴んだ。

真剣で鋭い視線で私を射抜く。

へ?!なになに、どうしたの?


「どうして、十年前のことを知ってる?お前は何か知っているのか?!」


十年前のこと……?なにそれ?


はっ!ヤバい!やっちまった。

私が知っていたらおかしなことを今口走ってしまった!


私がこのことを知っていたのはゲームの知識があるからである。

保健医のライバルキャラのストーリーでそのエピソードが出てくるから覚えていたけど、これって私が言っちゃダメだよね。


ああ、どうしよう!

逃げる?

うん!逃げよう!そしたら穏便に済む、よね?


掴まれていた腕を捩って外し、私はテントから全速力で逃げ出した。


保健医は追いかけては来ない。

追いかけては来ないけど、走る!

消毒してもらった膝が走ると痛いよ!くそー、私のアホー!




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