体育祭ですよ 1
さて、待ちに待って……いなかった行事の体育祭です。
体育祭なんてやったら千香ちゃんの白い肌が日焼けしちゃうじゃないか!
どうしてこんな行事するんだ!と少し憤慨気味ですよ。
ま、学校行事だからしかたがないんだけどね。
今日の出る種目は人それぞれで違う。
やる気のある人はたくさん出るし、やりたくない人は一つだけで構わないのだ。
体育祭でやる気満々なのは体育会系と、お祭り好きのノリノリ系だけだと思う。
ちなみに私と千香ちゃんは、綱取りという男女別の競技だけに出る予定だ。
これは二チームがそれぞれ両側の陣地から、中心に並べて置いてある小さめの綱を引っ張り合って自分の陣地により多く持ってくるというものである。
綱取りはチーム戦だからやる気のある女子から、私達みたいに全然やる気のない女子まで様々な人がいる。
やる気って字が、殺る気と思えるほどに暴力的な雰囲気を纏ったヤル気女子がいて恐いけど、足が速いわけじゃないからリレーとかを除いた時に出れる競技がこれしかなかったのだ。
どうか体育祭が終わるまで生きていられますように……。
一日中やる体育祭だけど、綱取りは午後にあるから午前中は暇だったりする。
「千香ちゃん、次は借り物競争みたいなんだけど観戦する?」
千香ちゃんに日焼けなんてさせられない!と日陰に連れてきてお喋りに興じてた。
でも、私は借り物競争は観てみたいんだよね。葵先輩が面白いって言ってたから。
「んー、わたしは別に観なくていいわ。未希観たいなら行ってきていいわよ。わたしはここにいるから」
「えっいいの?でも……」
千香ちゃんを一人残して行くのは不安。
こんな美少女だけだったら、体育祭で盛り上がって羽目を外している体育会系バカの毒牙にかかるかもしれないし。
「いいから行ってきなさい」
「うん。ありがとう!終わったらすぐに戻ってくるからね!変な男について行っちゃダメだからね」
手を振ってグラウンドに戻る。千香ちゃんは手に持ったタオルを小さく振っていた。
へへへ。あのタオル、実は私と色違いなんだよ。昔一緒に買ったのだ。いいだろー。
さて。葵先輩から聞いた話ではあるが、この学校の借り物競争は半分おかしいらしい。
借り物競争での”借り物”は大きく分けて二つに分けられる。
一つ目は、人系。眼鏡の人とか茶髪の女子といった、何々な人というよくあるものである。
もう一つが無茶ブリ系。これが葵先輩が言っていた半分おかしいという言葉の「半分」の部分である。
高校にあるわけがない物や無謀な物ばかりがお題として書かれているらしい。
過去にあったのは、鳩やアイロン台やホールのチョコレートケーキなど。体育祭のグラウンドにあるはずがない物ばかりである。誰だよ、考えてるの。
無茶ブリ系を引き当ててしまったときはゴールできないじゃないか、と思ったのだが葵先輩がその謎の答えを教えてくれた。
どうしても持って来れない場合は、グラウンド隅に設置してあるテントから罰ゲームの被り物を被ってゴールすれば良いらしい。一応、救済処置があって安心である。
でもそのテントが遠い上に、その被り物が猫耳や馬の顔などらしいから、長距離をみんなの笑われながらゴールをすることになるそうだ。しかも、自分で選べるわけではなく係の子がその人に合う物を手渡すシステムらしい。
とんでもない罰ゲームだ。考えた奴の性格の悪さが半端ないと思う。
けど、面白そうだから絶対観たい!と思ってしまうのはしかたないよね。
てことで、絶対に被り物が見れるようにゴール付近で観戦のスタンバイ。
もういつ誰が来てもバッチリですよ!ワクワク。
ゴール地点とは反対側で参加者が一斉に走り出した。始まったらしい。
お題の書かれたクジに人が群がる。
って、あれ?
あそこにいるの美鈴ちゃん?
生徒がたくさんいる観戦席の方で借り物を探す人達の中、小さな姿が周囲をキョロキョロとしている。
もしかして美鈴ちゃん、この競技の出場選手なの?!
もしも美鈴ちゃんが猫耳をつけてたら……、ぶはっ。愛らしい姿ですね、きっと。鼻血ダラダラだよ。
借り物よ、見つかるな。美鈴ちゃんが無茶ブリ系を引いてますように。
……いやいや、ダメだ。頑張ってお題のものを見つけて!
他の人にプリティーな姿を見せるなんて、けしからんのですよ。ダメ、絶対。
あ、美鈴ちゃんが動いた。
私のクラスのスポーツ少年の手を引っ張っている。
あの二人が絡んでいる姿は、部活見学の時以来である。
もう早い人たちはゴールし始めている。
みんな誰かを連れてきている。
やっぱり人系なんだね。無茶ブリ系はすぐにゴールできる訳ないもんね。
美鈴ちゃんは途中からスポーツ少年に手を引かれる形でゴールまで走ってきた。
これじゃどっちが出場選手なんだか分からないね。
無事ゴールで来た二人は、ゴール付近で観戦していた私の近くで話を始めた。
「あ、ありがとうね。一緒に来てくれて」
走ったせいで息切れしながらだけど美鈴ちゃんが笑顔で言う。
「お安い御用だよ!けどさ、一体なんて書いてあったの?」
「えっと……」
クジはゴールしてすぐに係の子に回収されて、お題と合っているか確認されていたから今はない。
美鈴ちゃんは、少しの間モジモジしてからそっと様子を伺ってから顔を上げた。
「運動神経のいい男子だよ。部活見学の時の印象が強くって……」
「そうなんだ。やべぇ、嬉しいよ!そんな風に思ってくれてて」
二カっと笑うと、少年はちょっと照れたように頭に手を当てた。
「その印象を壊さないように、今日はスゲー活躍して目立つわ。見てて」
「うん、応援してるね!」
「オレ、外川 陽貴。陽貴って呼んでくれ」
「私は愛咲美鈴。よろしくね」
「おう。よろしく、美鈴」
そんな自己紹介のやり取りが終わるくらいのタイミングで、無茶ブリ系を引いた哀れな参加者達がゴールに近づいてきた。
だから、私がちゃんと会話を盗み聞いてたのはここまで。
それからは意識がゴールの方に向いてたから。
あんなに体格の良い男子が、可愛いうさ耳つけて走ってくるよ!
あ、その後ろには大きなリボンを頭につけた坊主頭の男子が!
ダメだ、面白すぎる。笑いすぎてお腹痛いっ。
結論。借り物競争は本当に面白かったです!
ただ、無茶ブリ系で一人だけちゃんとお題の物を持ってこれた人がいたけど、一体誰が体育祭にテディベアなんて持って来たんだろう?




