お呼ばれしました
調理実習は千香ちゃんのお菓子作り心を刺激したらしい。
調理実習の二日後の土曜日に、千香ちゃんの家に朝からお呼ばれした。
当然だけど、試食係として。
「色々作ってあげるわ。期待して待ってて」
素敵な笑みをたたえた千香ちゃんはそう言ってキッチンに消えていった。
千香ちゃんのお菓子美味しいから嬉しいんだけど、たくさん食べたら太っちゃうよ、と少しだけ複雑な気持ちである。
まあ、当然食べるけどね!
今日は千香ちゃんの部屋で勝手にくつろいで待つ。
部屋に置いてあるファッション雑誌に手を伸ばし、時間を潰すのだ。
それにしても、千香ちゃんの匂い、ハアハア。
ある程度待っていれば、千香ちゃんの方も一段落して部屋にやってくるだろうし。
来たら、他愛ない話をたくさんするのだ。私の至福の時である。
コンコンとノックの音がした。
扉は全開だから、叩いたのが誰かすぐに判明する。
「あ、葵先輩。おはようございます」
「おはよう。来てたんだね」
朝、といってももうすぐお昼だけど、なのにちゃんと起きてる葵先輩。えらいなー。
自宅だからラフな服を着ていて、鎖骨が見えて少し色気が漂っている。
私なんて休みの日、用事がなければずっと寝ていられる。
そして、母上に昼過ぎに怒られながらたたき起こされるのである。
服もジャージで、年頃の女子とは思えない恰好をしている、と母上に呆れられるのだ。
千香ちゃんが我が家に泊まりに来ると、毎回自分の娘と千香ちゃんを見比べ、深い深いため息をつく。
手触りの良い可愛らしいルームウェアを着た千香ちゃんと、ダサいジャージを着る娘。
母上じゃなくても、その差に落胆するだろう。
これが女子力の差である。一応同い年なはずなんだけどな。
だからといって、私が千香ちゃんと同じような部屋着を着ることはないのである。わざわざ着るのめんどうだし。
そんな私は、可憐で無防備な千香ちゃんの姿を心のフィルムに焼き付けるのだ。
ジーっと見つめ、スリスリ頬擦りしたり抱き付いたりして、千香ちゃんに叩かれ、それさえも心のアルバムにしまい込む。
女子力はないけど、変態力なら負けないよ!
千香ちゃんの部屋の中に一歩入り、扉横の壁に寄り掛かる葵先輩。
「今日は何する予定だったんですか?」
私は読んでいたファッション誌を閉じ、葵先輩の前へと移動する。
さすがに、読みながらは失礼だもんね。親しき仲にも礼儀ありってね。
ラフな服装だし、家で勉強とか読書とかだろうなと当たりを付ける。
「ちょっと予習しとこうかと思ったんだけど、未希が来てるなら未希と話してたいな」
微笑む先輩。
「いや、私のことは気にしないで勉強してきてくだ――」
「未希は俺と話してるの嫌なの?」
今、ちょっと私の言葉に被せながらだったよ?
あれ、笑顔だけど否定は受け付けないぞってオーラが出てる気がする。
気を遣ってんだから分かれよってことですか?
ひぃぃ、すみません!ありがたく、気遣い頂戴いたします!
「嫌じゃないです。滅相もないです!」
「良かった」
あ、オーラが戻った。
時々、千香ちゃんと葵先輩が黒くなる時がある。
千香ちゃんは素の口調に戻る時、葵先輩はこんな風に話してる時たまに。
そんな時に、この二人は兄妹なんだと実感する。
美人が黒いと恐いのである。ブルブル、涙目。




