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死神部隊

「そこまでです」


 高い声が一段落着いたと思った俺達に向けられる。


 視線を動かすと戦闘デバイスを構えた少女が壊れた壁から中に入ってきた。


「おや、サハラ砂漠さん」


 返事はスタン性の弾丸です。


 スタン性の弾丸はすぐ後ろの壁にめり込む。


「知り合い?」


「あなた方が圧倒した人」


「あのヴィッチか」


「誰がヴィッチですか!」


「そんな空気がすっからだーよ」


 カラスさんは初対面で人に勝手な渾名をつけるみたいだ。ヴィッチねぇ。一つの段階をすっ飛ばして名づけるって、いろいろとぶっ飛んでいるようだ。


 顔を真っ赤にして答えるサハラ砂漠さんはいじり甲斐がありそうだと発覚した。


「とにかく、あなた方を器物損壊、能力不正使用の罪で逮捕します。抵抗するなら容赦しません」


「・・・・どーする?ミミズク」


「逃げたいところだが、能力が使えないから手詰まりだ」


「コイツ、人質に使えねぇーかな?」


「そうだな、その手でいこう」


 あ、嫌な予感がする。


 俺はその場所から逃げようとしたら左右から手が伸びて体が拘束されてしまう。


「動くんじゃねぇぞ!」


「・・・・何かすればこいつの命が無い」


「きゃー(棒読み)」


「なっ!?」


 ミミズクさんとカラスさんが同時に動いて俺の喉下と腹部へ刃を向ける。


 しかし、すぐにミミズクさんは俺から離れた。もしかして、考えが変わった?


「なにしてんのさ?」


「カラス、臭い」


「なっ!?」


 まだ粘液が残っているのかカラスさん、かーなーり臭いです。


 カラスさんはくんくんと服に鼻を押し付けているけれど、悪臭に鼻がなれてしまったみたいでわからないようだ。


 ちなみに、間近にいるために気絶しそうです。


「人質を取るなんて卑怯ですよ!」


「ハン!勝てば官軍でい!」


「・・あのぉ」


「わけがわかりません!そもそも、何で粘液まみれなんですか?臭すぎです」


「・・・・あのぉ」


「うっせぇ!アッチも好きでこうなったんじゃねぇ!」


「好きでなっていたらアナタは変態ですね!」


「ンだとぉ!」


「あのぉ!」


「なんだ!?」「なんです!」


「後ろ」


 スズメちゃんが二人に睨まれながら震える手で後ろを指す。


 二人がゆっくりと振り返ると倒したはずのキメラが起き上がってこちらを見ている。


 鋭い瞳と目が合うと地の底から響くような雄叫びを上げた。


「逃げろぉ!」


 俺が叫んで全員が逃げる、キメラは口を開けて追いかけてくる。


「おい!スズメぇ!倒したんじゃないのか」


「知らない!」


 サハラ砂漠さんが戦闘デバイスでキメラを攻撃しているが余計に怒らせて逆効果になっている。


「皮膚が硬くてスタンが通らない」


「普通とは違うからそうそう弾当たっても気絶しないって!」


 キメラというのは遺伝子操作によって生み出されている。どのような特性があるのか生み出した存在しかわからないだろう。さっきからスタン性の弾丸が命中しているのに効果が無いからして表面の皮膚は相当硬いと見える。


「し、知っています!」


 顔を赤くして叫び返すサハラ砂漠さん。


 うーん、この状況でなかったらハグしているところだ。


「相馬さん!アナタ一級捜査官ですよね!?キメラをぱぱっと倒せないんですか!」


「元がつきます! そんな簡単に倒せていたらコイツらに誘拐される事もないわ!」


「情けないですね!」


 返す言葉もありません。


 そうしている間に俺達は外に出る。


 追いかけていたキメラは何かを見つけるとぴたり、と動きを止めて別の方向に走りだす。


「た、助かった・・・・」


「でも、一体なんで・・・・」


「あ、砂原さん!」


 サハラ砂漠さんはキメラを追いかける。


「・・子どもがいるな」


 ミミズクさんが進行先を見て小さく呟く。


 キメラは小さな子どもを見つけてそちらに狙いを変えたようだ。どうして子どもがいるのかはわからない。秘密基地を作ろうと遊びに来たのか、探検をしていたのか。


 サハラ砂漠さんは狙われた子どもを守る為に走ったのか。


「さて、我々は逃げるとするか」


「あ、逃げんの?」


「私達の能力は誓約期間のために使えない。あのキメラとやらが別の餌に釣られている間に逃げる」


「ま、そだな」


「わかった」


 三人がキメラから逃げるのに対して、俺は戦闘デバイスを携えて必死に追いつこうとする砂原さんへ視線を向ける。


 ミミズク達は自分の命を優先して子どもを切り捨てる事にした。自分が生き残る為の選択としては正しい事だ。人間性がどーとかいわれても死ねば何の意味も無い。


 能力者となった者は生き残るために冷静でなければならない、合理的思考をもたないとならない。感情的に走った能力者の末路は死がほとんど、生き残るためには冷静に他者を切り捨て、自分が生きるために選択していく。それが能力者となって者の生きるということだ。


 彼らの選択は自分が助かるという前提の上では正しい。否定はしない。


 けれど、俺はその選択肢を絶対に正しいものだとは考えない。



「逃げられないな。こりゃ」





 子どもを食らおうとしていたキメラの眼前に黒い閃光弾が爆発を起こす。


 眩い光と音にキメラが悲鳴を上げる。


 地面を叩いてのた打ち回る異形を囲むようにして黒い装甲車が現れた。


 装甲車の扉が開いてそこから黒い鎧を纏った集団が大量に姿を見せる。


 CityGuardTeam、通称CGT。街の治安維持、キメラの殲滅を担当する特殊部隊だ。


 本部を帝都に構え、各地区に支部が存在している。捜査官と異なり彼らは能力を持たない人間で構成されており、従来の兵器よりも発展した武装を装備している。対象を確実にしとめることから――別名、死神部隊だ。


『目標視認、Level2だと思われます』


『こちらも肉眼で確認した。早期処理を行う。フォーメーションデルタ3で目標を殲滅せよ』


『『『了解』』』


 甲冑のような全身装甲を纏い、手には銀色の剣、ブラックカッターが握られている。


 三体の全身装甲の兵士が起き上がったキメラの体にブラックカッターを突きたてた。


 キメラは刃を突き立てられて暴れる。尻尾や足が兵士の装甲にぶつかるが、クリスタル・メタルという特殊合金が用いられている装甲に傷一つつかない。


 刀身部分にチェーンソーが内蔵されており、皮膚にぶつかったと同時にガリガリと強硬な皮膚を削り取る。


 飛沫が黒い装甲にかかるが彼らは気にせず刃をさらに突きたてた。起き上がろうとするキメラは離れた装甲車の上部に設置されているマシンガンの狙撃で目や足を撃ちぬかれていく。


 体中が血で汚れていくキメラに黒い死神達は群がり続けた。餌に群がるアリのように食いついてはなれない。


 しばらくして、死神達の手によってキメラは生命活動が終わりに向かっていく。


――そして。


『生命活動低下を確認』


『了解、R1、命を絶て』


『・・了解』


 全身装甲の一人が移動して刃を振り上げる。


 顔を上げたキメラが口を開けて兵士を飲み込もうとするがそれよりも早く、刃が心臓部を横に切り裂いた。


 大量の血飛沫を浴びながらも兵士は刃を深く突き立てる。


 暴れていたキメラの活動が段々と鈍くなっていく。


『心拍停止を確認、任務終了。撤収せよ』


『了解』


 血まみれの装甲を動かしながら装甲車に兵士達は戻る。











 その頃、俺達はキメラが倒された場所から少し離れた所で、別働隊に囲まれていた。


「くそっ、こんな大人数とか」


「大人しくするしかないだろう」


「・・・・お手上げ」


「(ま、当然の対処だよなぁ)」


 ミミズク、カラス、スズメの三人と相馬ナイトである。キメラの出現時においてCGTは次の事を行わないといけない。


 一つ、キメラの早期処理(成長速度が速まると対処が難しくなる為)


 二つ、周辺の民間人の確保。民間人を確保する理由としてはキメラの中に毒を撒き散らす存在もたり、わずかばかりの放射能を発している固体も確認されている。そのため、キメラの周辺、もしくは襲われていた民間人をCGTは処理後に確保し、汚染消毒を施す。


 相馬ナイトとその他のメンバーもキメラの近くにいたため、CGTは義務を全うする為に襲われかけた子どもと“近く”にいた彼らを確保したのである。


 有無を言わせぬ彼らの空気に四人は抵抗できず装甲車に乗せられた。









 装甲車の中で伊織汐はバイザーの中でため息を零す。


「どうした、R1」


「問題ありません」


 隣の先輩隊員がため息を零した彼女へバイザー越しに尋ねてくるが手短に言葉を返した。


 傍では一任務終えたことで緩んだ空気が流れていて、出動前の張り詰めた雰囲気が程遠いものに思える。


「(この調子で化け物を殺していけるのか?)」


 周りが怪物殺しのプロであるということを伊織は知っている。だからこそ、目の前の緩んでいる空気に憤りを感じた。


 伊織汐は目的を持ってCGTに入隊した。本来なら年齢制限にひっかかって入隊できない。


 だが、入隊試験で彼女がたたき出した成績、システムとの適合率の高さを惜しんだ上の人間により準隊員としての資格を特例として与えることでCGTへの入隊が許可された。


「(怪物は殺す、全て、人を殺す能力者も)」


 彼女の脳裏を燃え盛る炎のイメージがよぎる。


 イメージを思い出すことで彼女の中で黒い炎の勢いが増す。


――許すな、恨み続けろ。敵は全て殺せ。


 バイザーの中で冷たい表情で伊織汐は己がなすべきことを見つめ返す。


 しばらくして装甲車が停車したのを確認して彼女は他のメンバーに続いて降りる。


 外では整備の人達がせわしなく動き回っていた。


 CGTの格納庫、そこでは漆黒の鎧を纏った隊員達を順番に消毒作業と鎧の解除を行っているのである。


 キメラは固体によって殺した後に毒や放射能を撒き散らす固体などが確認されているため、格納庫へ戻ると必ず隊員達は殺菌消毒が義務付けられている。

 整備をするもの達も二次汚染などを受けぬように機械のアームや防護マスクなどを装着して作業を行う。


「次!伊織隊員、どうぞ!」


 自分の名前が呼ばれてまっすぐに指定された場所にたどり着くと手馴れた整備の人によって鎧が外から消毒されて、次々と外されていく。


 最後に頭部のバイザーが外された時、整備の人達が息を呑む。


 バイザーの中から姿を見せたのは絶世の美少女の顔があった。


 無駄な肉の無い頬、少しとがった鼻先、艶のある唇、染み一つ無い白い肌、まるで精巧な人形、芸術品のような美貌に男達は一瞬、我を忘れてしまう。


「何やってんの!後が押しているんだからすぐに作業終える!」


 ぼーっとしている男達へ整備班補佐の斑鳩悠基の渇が飛ぶ。


 彼女の言葉に整備の男達は慌てて次の作業へ移る。


 タンクトップにスパッツというラフな格好になった伊織の傍へ斑鳩がやってきた。


「お疲れさん、今日も血まみれねぇ」


「刃の反応が鈍かった」


「了解、整備しとくわ」


「よろしく」


「アンタ、少しは女の子らしくしたほうがいいと思うわよ?スペックいいんだから愛想笑いとか浮かべれば男子にもてる」


「・・・・そうすれば、化け物を根こそぎ殺せるの?」


 返ってきた言葉に斑鳩はため息を零す。


 目の前の少女は怪物を殺すことに全てをぶつけていることを知っている。だが、それだけではいずれ体が悲鳴を上げることを斑鳩は知っている。


 だからこそ、何度告げたかわからない忠告を飛ばす。


「根こそぎ殺した後にすることを探す手間が省けるわよ」


「・・・・」


 斑鳩の返答に彼女は何も言わずにその場所から離れた。



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