乱入者
ミスして、データが消えたという現実。
俺が階段を駆け下りると既に事件は解決していた。
そもそも、これを事件といえばいいのかまだ判断がつきにくい中でこんなことをいうのはおかしいと思うが、十六年という短い人生の中での経験によって俺はこれを事件と考えている。
事件だ!といえる確定素材がないから断言は出来ないがいろいろときな臭い気がするのだ。
嫌々ながらも階段をおりてたどり着いたらバトルの真っ只中というありきたりな場面ではなかった。
視線の先では黒い煙が吹き上がる中でスタンガン少女がレスラーマスクを装着している泥棒の一人の額に銃を突きつけている。
どうやら既に首謀者らしき人達は捕縛される寸前のようだ。
お前も戦えといわれるような状況でなくて本当に安心した。
「アイツのデバイス銃型だったのか」
文明が発達した時代、人類は二つに分類されるようになった。無能力者と能力者の二つだ。
存在を否定された超能力などの特殊な力を有した者達を能力者、そうでない普遍な人間を無能者といわれるようになる。
能力者は一人いるだけで軍隊の一師団に相当する力を有している者もいれば、無機物を有機物みたいに使役する能力など多種多様な力が確認された。
二○○一年に都内の電波施設を破壊しようとした集団を一人の民間人が無力化させたことが能力の存在を政府が認識する切欠となる。
国家が能力者という存在を見つけ、能力者の存在を公にすることなく。水面下で能力者を配下として確保するべく動いていた。
しかし、二○二五年に起きた第三次世界大戦中盤に能力者の存在が明るみになる。
独立を宣言した国が大国を圧倒し世界を震撼させた。独立国の首相は他の国に向かって異能の力の存在を示し、彼らの手によって大国を敗北させた事を発表。ほとんどの国家が疑う中で独立国は次々と領土を広げる。
主要国が沢山の軍隊を進軍させるのに対してその独立国は能力を有する者を三人、四人と極少数で敵を殲滅していった。生存者の口からは「雷がいきなり落ちた」や「煙を吸った人がいきなり弾けとんだ」など漫画のような内容が告げられて、上層部しか把握していなかった能力者の存在を嫌でも認知するしかなかった。
――しかし、その国は負けた。
敗北した理由はわかっておらず、いくつかの説がある。一番の話題を呼んだのは九人の独立国と同じように異能の力を宿した者達の手によってその国は敗北を味わったばかりか地図から国の名前は消えたという話だ。実際、独立国の首相や大臣などの遺体は見つかっていない。
その出来事から第三次世界大戦終了後、公にされた能力者を主要国家は数の把握と監視という名目でデバイスの着用を義務付けた。
監視という意味合いをこめているが無能力者にもデバイス所持は義務付けることでうやむやにしている。
生活において、デバイスは通信、金額、身分証明など生活に必要なもの全てがインストールできるようにすることで生活の向上という表向きの理由を立て、能力所持者、無能力所持者の差別を密かに実行していた。
また捜査官などの国家に仕える職員には日常用デバイスとは別に戦闘用デバイスが支給される。
一昔前の警官などは拳銃の所持などに手続きが必要だったが戦闘用デバイスはシステムが所持者の脈や心拍数を測定し危険状態だと判断すれば戦闘モードへ移行する事が出来る。手続きのショートカットにより現場で早急な対処の実現を可能とした。
但し、殺傷能力においては零に近い。
彼女の銃型デバイスから放たれる弾丸は相手を麻痺させるだけの機能しかなく、意識を刈りとることしかできない。
「相馬さん、手伝ってください」
「わかった。担げばいいか?」
「お願いします」
爆弾の犯人?を逮捕したが火災の鎮火は終わっていないから廊下は段々と黒い煙に包まれ始める。
長くいるとこっちが危ない。
故にこいつの指示に従うことにした。決して銃を向けられているから従っているわけではない。断じてない。
腰を抜かしている一人を担いで俺と少女は非常階段のドアを開けて下りていく。
階段を駆け下りてグラウンドに出ると同じように避難した生徒でごった返していた。
「キミ達!何をしていたんだ!」
「二級捜査官の砂原沙織です。爆弾事件の重要参考人を捕縛、輸送する事になりましたので道を開けてください」
「は、はい?」
「時間がありませんので質問は受け付けられません。失礼します」
混乱している教師を舌だけで圧倒して少女は外へ向かう。
一応、犯人の片割れを担いでいるから追いかけないといけないので俺も渋々、後を追うことにした。
「おい、少女A」
「そんな名前ではありません!」
「だって、名前知らないし」
「砂原沙織です」
「では、サハラ砂漠さん」
「喧嘩売っているんですか?後で買いますよ」
こわっ!
やめないけどね。
この人、いじると面白そうだもん。
「この人たち、どーすんの?」
「シティーガードへ引き渡します。そこからの調査に関しては正式な命令が下りるまでするつもりはありません」
「ふぅん、大変だね。捜査官は」
「何を言っているんですか」
半眼でサハラ砂漠さんはこちらを見た。その目は少し起こっているように見える。
「相馬さんも捜査官じゃないですか!」
「いやいやいや、俺免停だから関係ないし」
「そのことに関してお話がありますので、少し待っていてください」
「はいはーい」
逃げるけどさ。
▼
結果、逃げ切る事はできませんでした。
サハラ砂漠さんに無理やり近くのファミレスにつれていかれる。
「ファミレスにつれてこられたんだから奢りってことでいいよね?サハラ砂漠さん」
「喧嘩売っていますよね?いい加減、買いますよ。後、おごりではありません。割り勘です!そもそもなんで奢らないといけないんですかぁ!」
「ここ店内だから怒鳴るのは控えた方がいいよ?乳酸菌とってる?」
「誰のせいだと思っているんですか!?普通、そこはカルシウムですよね!」
乳酸菌も大事だよ?
「あ、そこの店員さん!このミラクルストロベリーサンデーを二つ!」
「私はいりません!」
「俺の分だけど?」
「そんなに食べるつもりですか!? かなりの量ですけど!!」
「スウィーツ系男子だっけ? そんな連中に掛ったらこの程度の甘さどうということない! あ、お代はこの人が受け持つそうなんで」
「胸を張るようなことじゃないですよね!? しかも奢りませんっていっているじゃないですかぁ!」
「ちぇっ、ケチー」
俺の態度に疲れたのか、サハラ砂漠さんは椅子へ深く座り込む。
本名で呼ぶつもりは無い。面倒だもん。
「そろそろ本題に入ります。でないと私の精神が限界です」
「お疲れさん」
ベキャッ!
サハラ砂漠さんは持っていたコップ(プラスチック製)を握りつぶす。
ありゃりゃ、そろそろからかうのはやめておいた方がいいかな。
「サハラ砂漠さん。本題っていうのは?」
「ようやく真面目に聞いてくれるようになりましたか・・・・相馬ナイトさん、貴方は三ヶ月前に捜査官資格の免停を受けましたね?」
「まぁね」
三ヶ月前、俺はある事件に巻き込まれて(飛び込んで?)、治安維持局の指示に従わず好き勝手行動した。
行動を起こしたのは上司の指示が気に入らないとか、大をとって小を切り捨てるみたいなのが嫌いとかそういう大層な理由は無い。ただ単に気に入らないという自己中心的みたいなものだ。
結果、免停を受けた。
「まぁ、上の命令が気に入らなかっただけなんだけど」
「そのことで、上層部は特例としてその免停を解除するつもりです。それで――」
「嫌だ」
「話を最後まで聞いてください!」
「だって面倒なんだもん。騎士なんて良い事ないし、フリーターでいる方がマシだ」
捜査官は街の治安を守ることを第一としている。
自らを省みずに人を守る姿を中世の王朝で存在していた騎士という姿と重ねて、街の人達は騎士という愛称で呼んでいた。
「真面目に働いている捜査官に喧嘩売る発言ですね。いい加減、私もその喧嘩かいましょうか」
「争いごとからは何も生まれないよ!?」
「貴方が言わないで下さい! もう・・・・とにかく、免停を取り消す方針でいるらしいので、帝都にある本局もしくは近くの支部に顔を出すように言われています」
「ご苦労だねぇ、電話で連絡すればいいのに」
「貴方と連絡がとれないから私が派遣されました」
「そういや、捜査官関係は着信拒否したんだった」
「最低ですね」
ドヤァ。
「無性に殴りたいです」
「どうどう」
「相馬さん、この書類にサインを」
「致しません!」
「してください!出ないと私が帰れないんです!」
「任務失敗だね。おちゅかれちゃん」
「殺しますよ?」
「うぉぉおおい!?一般人に向けてんのさぁ!」
本気で怒ったのかサハラ砂漠さんは戦闘デバイスの銃口を俺に向ける。
黒銀の銃の輝きに俺は少し恐怖した。
にっこりと笑みを浮かべているサハラ砂漠さんは本気で撃つかもしれない。
「失礼、ただ――」
ツ・ギ・ハ・ナ・イ。
彼女の目はそう語っていた。
「緊急を要する事案なんです。貴方にはこの書類にサインをしていただき、捜査官へ復帰していただきます」
「嫌です」
「これは義務ですよ」
「致しません」
「多くの人の命に関わっているんです!」
「関係ありません!!」
少し大き目の声をだして俺は彼女の瞳を見据える。
「俺は義務だ、使命とかいう言葉で命を削るなんていう事が大嫌いなんだよ。だから捜査官をやめる事ができてせいせいしているし関わりたくない! おまけで上のいいなりになるつもりもないね!」
「・・・・そうですか」
「従わなければ殺すか?」
漂う空気の変化に気づいた。
巧妙に隠しているがテーブルの下から戦闘デバイスの銃口が向けられている。
「上は危惧しています。貴方が“金十字”に加担するかもしれない。ですからこの提案を拒否したら身柄を拘束しろといわれています」
「大変だねぇ、宮使いも」
「覚悟の上です」
「――くっだらねぇ」
「なっ!」
「上からの命令、上からの指示だとかで動き回って何になる? そんなことをしても最終的に傷つくのは当事者だけだ。俺達のことなんて上は取替えの利くパーツかなんかだと考えている」
「だから、金十字に加担するのですか?」
「俺は無宗教、無所属がモットーだ。変なのに加担するつもりはねぇ」
「信用できません。私は上からの指示を忠実にこなすだけです」
「悲しいねぇ」
「残念です」
サハラ砂漠はトリガーに指をかける。
▼
「それでさぁ、今度の依頼ってなんなわけ?“ミミズク”」
『面倒な事で人を連れて来いって』
「なにさ、それぇ。面倒じゃん。ばらしてつれてくるとかじゃダメぇ?」
『ダメダメ、五体満足らしい』
「ちぇっ、どうせだから、“スズメ”で遊んでいい?」
「っ!」
『やめとけ、先に面倒な仕事終わらせるのを優先としろ』
「はいはーい、カラス通信終わり」
ミミズク、カラス、スズメは三人で様々な仕事を請け負う、いわゆる何でも屋だ。但し、裏仕事のという前置きがつく。
三人はこのボックスシティで殺し、誘拐、薬物の売買など犯罪行為に手を染めている。元々は施設で生活していたのだが三人が能力者だとわかるとどこからか引き取り手が現れて、研究所へ連れて行かれそこから逃げ出してからずっと三人で行動していた。
二十年も生きていない三人だが殺しの数は年齢をゆうに超えていた。その中で三人の中で序列のようなものが出来上がっていた。リーダーであるミミズクをトップとして次点でカラス、最後にスズメという流れだ。殺しの数が多いほど、人間としての理性がどれほど壊れているかわかる。
ミミズクは自分の趣味にしか興味を示さず、カラスは一週間に一人は殺さないと禁断症状がでるほど、殺す事に餓えていた。対してスズメはさほど、狂っていなかった。
殺す事に対しての抵抗はなくなっているが好んで殺したいというわけではない。だから三人の中でスズメは格下扱いになっている。
今回の依頼が殺しではないことに安堵している事をミミズクとカラスは見抜いている。
「あーぁ、人を殺したい」
鋭い瞳を後ろにいるスズメに向けてからカラスは懐から閃光弾を取り出してファミレスの窓に向かって投げる。
メジャーリーガー並の速度で閃光弾がファミレスのガラスを突き破り標的の前で炸裂した。
突然の事に標的達は反応できない。
カラスを先頭にして二人は中に入る。閃光弾によって苦しんでいる声をあげている客の中から標的を見つけ出して回収するだけの仕事で人を殺すより簡単だ。
そう考えていたスズメの頬を一発の弾丸が掠る。
息を呑んで近くの机をひっくり返す。ボルトで机の柱が打ち込まれていないからあっさりと地面に倒れて盾にすることができた。
「さいっこうだね!特注の閃光弾の中で攻撃してくるやつがいるなんて!あぁん、殺したいなぁ!よし、殺そう!」
「ダメだろ!」
スズメが叫ぶがカラスは無視してサバイバルナイフを取り出して発砲した少女に向かって突撃する。
少女は近づいてくるカラスに気づいて戦闘デバイスの銃口を向けた。
「(殺傷能力0の戦闘デバイスか、終わったね)」
カラスは三人の中で二番目に人を殺す事を得意としているプロだ。
何度か箱庭の捜査官と戦闘行動をした事もある。
捜査官は能力者の集団組織で構成されている。かつて存在していた警察組織が一新された組織だと聞いている。
対象を捕縛することに捜査官は能力を用いて戦闘デバイスはあくまで捕縛の為の道具だ。
戦闘デバイスに殺傷能力は無い、現場の危険を最小限にするためというコンセプトのもと、相手を殺傷する為ではなく捕縛をメインとして銃型デバイスから放たれる弾丸はスタン機能しかない。
殺す気が無い相手などカラスにとって敵ではない。こっちが殺すつもりで来ているのに捕縛など馬鹿げているというのが彼女の持論で、覚悟が足りないとも言っている。
目の前の少女は死ぬだろうとスズメは予感していた。技術、能力などの相性は殺しにおいて最強と囁かれている。
だから、少女は死ぬなとスズメは思っていた。だからこそ。
「――ウソだぁ」
目の前の少女にカラスが地面に叩きつけられる光景が信じられない。
カラス自身も何故、自分が地面に倒れているのかわからないという表情を浮かべていた。
だが、スズメは知っている。少女の取った行動は良くない。さっさと気絶させればよかった。
「公務執行妨害として貴方の身柄を拘束させてもらいます」
「お・・・・もしれぇえええええええええ!」
少女の言葉にカラスは激昂して能力を発動させる。
風の塊を作って少女に向かって振り下ろす。
少女は塊を避けられず別のテーブルに体を打ち付ける。
「おもしれぇなぁ!今まで戦闘デバイスを持っていたヤツを何人もバラしてきたけどさ!一回で仕留め損ねたのは久しぶりだわ!楽しませてくれよぉ」
少女の取った行動はカラスを余計に興奮させるしかない。
猿みたいに壁を蹴って標的のそばの少女へサバイバルナイフを振り下ろす。
少女は戦闘デバイスを盾にして攻撃を受け止めようとする。
「ひーはぁー!」
しかし、彼女のナイフはフェイク。
本命は何も持っていない方の手。そこに武器がある。
「ドーン!」
「ぐはっ!!」
――エアーハンマー。
見えない風の塊を手に作って相手を叩き潰すのがカラスの能力で趣味だ。
「さぁて、後何回でぶっこわれんのかなぁ?」
笑いながら少女に近づいていくカラスをみていると通信機からミミズクのため息が零れる。
『アイツの悪い癖がでたか』
「うん」
『スズメ、お前が標的を探せ。くれぐれも殺すなよ』
面倒だ、と思いながらもミミズクの命令は絶対だ。逆らえば自分が危ないという事をスズメは理解しているから渋々標的を探す。
「・・・・ぁ」
視線を横に向けると匍匐前進で逃げようとしている少年と目が合う。
目が合った少年は何事も無かったみたいに前を向いて外へ逃げようとする。
スズメはミミズクから渡された注射器を取り出す。
針についているキャップを外して少年の背中に飛び乗る。
逃げようと暴れる少年の首筋に注射器を刺す。
「いっっ!」
「あれ?」
暴れている少年を見てスズメは首をかしげる。
ミミズクの話ならゾウでも三時間は起きないという麻酔薬だというのに目の前の少年は眠る素振りを見せない。
それどころか自分から逃げようと必死に足掻いている。
これはどういうことなのだろう?
疑問を抱きながらもスズメは暴れる少年の足を掴んで外に引きずる。
あ、やめて!痛い!引きずってる!という声が聞こえているけれどスルーだ。気にする価値はない。
誰だって自分が可愛いのだから、命令を忠実に遂行しないと被害を受けるのはスズメだ。
外に出るとワゴンが停車していてミミズクが顔を覗かせる。
「撤退する。カラス!」
暴れる少年をワゴンに放り込んでスズメはドアを閉める。
しばらくして空いている窓からカラスが飛び込んできた。
「ちっくしょう!楽しんでいる所なのによぉ!」
「依頼達成が優先。遊びたかったら後で勝手に行け」
「へいへーい」
ミミズクの言葉にカラスはめんどくさそうに答えた後、サバイバルナイフをぺろりと舐める。
汚い、とスズメは口に出さないが思った。
▼
砂原沙織はファミレスのガラスを割って飛んできた閃光弾に気づいて、咄嗟に耳栓をはめて机の下に隠れる。
「へ?ぬぉぉぉお!?」
閃光と同時に音が響いて周りの人達が悲鳴を上げた。
砂原は申し訳ないと思いながらも襲撃者を迎え撃つ。
割れた窓ガラスから襲撃者がずかずかと入ってくる。
数は二人。
一人が砂原の姿を見つけるとサバイバルナイフを取り出して襲い掛かってきた。
威嚇で一発天井に向けて撃つが、相手は気にせず踏み込んでくる。
――仕方ない。
刃が喉下に迫る瞬間、砂原は能力を発動させる。
襲撃者は地面に倒れたのを確認してから戦闘デバイスを向けた。
「公務執行妨害として貴方の身柄を拘束させてもらいます」
「お・・・・もしれぇえええええええええ!」
サバイバルナイフを持った少女は声をあげて左手を振るう。砂原は反応できず近くのテーブルに体を撃ちつける。
体を起こしてカラスは歓喜の表情を浮かべた。
「おもしれぇなぁ!今まで戦闘デバイスを持っていたヤツを何人もバラしてきたけどさ!一回で仕留め損ねたのは久しぶりだわ!楽しませてくれよぉ」
猿みたいに壁を蹴って襲撃者の少女は砂原にサバイバルナイフを振り下ろす。
発砲するのは間に合わないことに気づいて戦闘デバイスを盾代わりにして刃を受け止めようと考えた。
「ひーはぁー!」
しかし、襲撃者のナイフはフェイクで砂原の肩にハンマーをぶつけられたような衝撃が襲いかかる。
「ドーン!」
「ぐはっ!!」
「さぁて、後何回でぶっこわれんのかなぁ?」
ナイフを持っていない手を振り上げた襲撃者の少女を見て砂原は咄嗟に戦闘デバイスで足を射抜く。
「ぐがっ!」
弾丸で痺れバランスを崩した少女は床に倒れる。
照準を合わせて発砲するがギリギリのところで避けられてしまう。
「あなた方の目的は相馬ナイトですか!」
「しっらねぇ!」
砂原の質問に答えず少女が手を振り下ろす。
見えない衝撃が再び体に襲いかかった。
避けきれず地面に倒れる。
砂原の体に跨って襲撃者の少女がサバイバルナイフの刃を振り下ろそうとするのを片手で阻止する。
「イッエェエエイ!」
抑えているのを気にせずそのまま刃を近づけていく。
「撤退する!カラス!」
「ちっ、こんないいところでお預けかよぉ」
その時、外から声が響いて襲撃者の少女はナイフを引っ込める。
「おっとぉ」
戦闘デバイスを向けようとした砂原の顔を襲撃者はブーツで思いっきり踏みつけた。
「もっと楽しみたい所だけどさ。仕事優先なんだよ。わりぃーな。あばよ!ヴィッチ!」
「誰がビッチですか!」
起き上がろうとした砂原のわき腹を蹴り飛ばして猿みたいに壁を蹴って外に飛び出す。
ふらふら、とわき腹を押さえながら外に出ると乱暴に走り出すワゴン車の姿が見えた。