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首輪

「こりゃひでぇな、全員即死だぜ」

 エリア・ゼロの広い道を歩きながら安部は周りで事切れている死体をみて呟いた。


 死体は鋭い何かで切断されたのかバラバラなものばかりで五体満足の体は一つもない。


 手入れのされていない道は犠牲者の流した血により赤く染まっている。


 エリア・ゼロの迷宮通路は誰にもマップに表示されたところはある程度の舗装はされているが、それ以外は自然の鍾乳洞のように湿った場所となっていて、季節が春なのに肌寒い風が吹いていた。


 その中を相馬ナイト達はデバイスに表示されているマップで道を確認しつつ進む。


「先遣隊の生き残りはゼロと考えた方がいいかもしれないな」


「・・・・」


「おい、安部」


「あ?俺は事実を言ったまでだぞ」


「言っていい時と」


「気にしないでいい。キメラへ何の装備もなしに挑むことが間違いだ」


 バラバラ死体の全てがCGTのものだった。


 現状を分析して述べた安部へナイトが止めようとするが伊織は気にせず分析を続けろと促す。


「キメラがどの程度の力を持っているのか知る必要がある。安部捜査官、分析を頼む」


「・・・・傷口の広さからして一撃でやられたのは間違いねぇな・・・・牙でえぐられたとかそういうもんじゃねぇな・・・・刃物を内蔵しているかもしれねぇ。CGTご自慢の鎧とかならなんとかできかもしんねぇけどな」


「それはない。エリア・ゼロの一部は脆い場所があるから上の連中が鎧を投入するっていう策はとらないと思うぞ」


「・・・・」


「ちっ、保身しか考えねぇ奴らばっかりだと苦労するぜ」


「ここを右か」


 安部の言葉を二人は聞き流しながら次の通路を右へ曲がる。


 曲がったところで三人は巨大な抜け殻と遭遇した。


「おうおう、脱皮したってか?」


 目の前に転がっている抜け殻は一メートルと少しくらいの大きさで、セミの抜け殻みたいに茶色く、腕らしき部分は鎌のように鋭い刃がついている。


 外見は虫と大差ないことから相馬と伊織は不思議そうな表情を浮かべていた。


「おかしいな、俺が遭遇したキメラはトカゲみたいなヤツだったんだけど」


「姿を変えるキメラ?」


「ここで推測しても意味ねーぜ、目的地へたどり着かれたらアウトなんだからさっさといくぞ」


 抜け殻を見ながら分析をするが、いかんせん情報が足りない。


 安部はキメラを抜け殻の外見を頭に入れながら先へ行こうとせかす。


 三人はこれからホワイト・セントラルへ向かおうとしている敵を追撃しないといけないのだ。


 追撃は時間との勝負、敵が目的地へたどり着かれてしまってはこちら側の敗北は決定的となる。


 それぞれの理念は異なるが、一つだけ、このシティが失われるということだけは目的の障害となるので避けないといけない。


 だからこそ、安部は急かす。


 情報も必要だが、シティがなくなってしまっては元も子もない。


 キメラの分析もほどほどにして三人は奥へ進む。


 十分ぐらい進んだだろうか、かなりの広さだった通路が段々と狭くなると同時にバラバラの死体も数も減ってきていた。


「・・・・お」


 安部は隅に転がっている死体の中から無傷の拳銃をホルダーから引き抜く。


 装填されている弾丸などの数を確認してから懐にしまうのかと思いきや相馬ナイトへ向かって投げた。


「おっと・・・・なんだよ」


「丸腰のままキメラや能力者と対峙するつもりか?護身用に持っておけ」


「・・・・お前、俺が武器使うの嫌いなのを知ってていってるだろ」


「しらねぇな。てめぇの身はてめぇで守って貰わないと困るからな」


「だからって」


「いいか、てめぇが殺したくないとかそういうのを相手が考えてくれるわけがねぇだろ?何度も言わせるな。敵対したのなら殺す、俺達の取れる道はそれしかないんだよ」


「・・・・」


「議論はそこまで、敵だ」


 黙り込む相馬と睨んだままの安部へライフルの弾丸を装填しなおした伊織が呼びかけた。


 視線を前へ向けると銃口を向けている砂原沙織の姿がそこにあった。


 彼女は捜査官の黒い制服を纏って、手の中に黒光りする拳銃が握られている。


「・・・・キメラの姿がねぇな」


 闇に染まっている通路の中へキメラの姿がないか確認して安部が小さく呟いた。


 砂原沙織は道を阻むように真ん中へ立っている。


「アイツをなんとかしねぇと先へ進めねぇってことだな・・・・足止め要員ってわけか?」


「キメラを行かす事で意味があると考えるべきだろう」


 伊織と安部のやり取りの横で相馬が隠れていた場所から前へ出た。


 相馬の姿を見つけて砂原沙織は銃口を向ける。


「おいぃ!何やってんだてめぇ!」


「彼女の相手は俺がするからお前ら先へ行けよ」


「ふざけてんじゃねぇぞ!お前がキメラの相手をする方が」


「悪いけど」


 迫ろうとしてくる安部の足元へ銃弾が飛ぶ。


 安部の足元へ向けてから彼女は再び銃口を相馬へ構えなおす。


 光のない瞳が相馬を射抜こうとする雰囲気だ。


「相手は俺をご指名のようなんだよなぁ」


「ちっ、ヘマするんじゃねぇぞ!」


「わかってる!そっちこそキメラに殺られるなよ」


「うるせぇ!!」


 砂原沙織は相馬ナイト以外、眼中にないのか安部や伊織が横を通り過ぎても追撃する素振りを見せない。










「良かったのか?」


 砂原と相馬の姿が見えなくなってから伊織は隣を走る安部へたずねる。


 相馬ナイトを一人残してよかったのか?という意味合いを込めているのだが安部は別にいいと短く答えた。


「ちっ、こっちの計算が狂っちまったぜ」


 安部の中ではキメラを相馬ナイトにぶつけて、砂原沙織は二人掛りで押さえ込む算段だったのだが計算が狂ってしまったことで足元の石を強く蹴り飛ばす。


 事前にデータバンクで砂原沙織の能力を安部は把握していた。


 彼女の能力は空間操作、正確に言えば空間教唆に当たる。相手の空間認識能力へ介入して、周囲の景色を誤認させるという能力、ただし、能力は十分間しか使用することが出来ないので、十分が過ぎれば誓約期間に入り、彼女は一般人と大差なくなる。安部が対峙して彼女に能力を使わせ、十分過ぎたところで二人で確保するという算段だったのだが、計画が狂ってしまった。


「私は彼を知らないが相馬ナイトは戦力になるのか?」


「なる、悔しいことにアイツがやる気を出せばこの事件はすんなりと解決してしまうほどだ」


「・・・・実績があるのは理解しているがそこまでのモノ?」


「アイツは能力者よりも怪物染みてんだよ。ある意味世界で使われている“化け物”という言葉が似合う野郎だ」


 その言葉の意味を伊織は後に理解することとなる。















 安部達の足音が遠ざかり、聞こえなくなったのを確認して俺はサハラ砂漠さんへ視線を向けた。


「うぉっ!?」


 暗闇で火花が散ったと思ったら弾丸がはじけ飛ぶ。


 わざと外れたのか当たることなく、後ろの壁にめり込む。


 懐中電灯を持った安部がいなくなったため、明かりは壁に設置している小さな照明だけが頼りだ。


 薄暗くて視界が悪いというのにサハラ砂漠さんは容赦なく撃ってくる。


 彼女は戦闘デバイスを使っておらず、実弾が飛んできていた。


「おい!殺すつもりなのか!?」


「・・・・」


 返事は鉛弾だった。


 俺の言葉に彼女は一切返しをせず次々と撃ってくる。


 狭い通路で逃げ続けるという選択肢はダメだ。


 撃っているだけでまだ危険はないが、兆弾という技術をサハラ砂漠さんが使い始めたら俺の体は弾丸により風穴だらけになってしまうだろう。


 だが、しかし!俺の能力により、暗闇というアドバンテージはなくなる。


「そう!夜目が強くなる能力ゥゥゥゥ!?」


 近づいて彼女の意識を刈り取ろうとしたら足が大きく振り下ろされた。


 慌てて後ろに下がったら地面へ踵が突き刺さる。


 文字通り、地面へ突き刺さったよ。


 よくみたら靴の踵に鉄が埋め込まれていた。


「おいおい、改造制服ならぬ改造靴か」


 驚いているとサハラ砂漠さんが間合いを詰めてくる。


 下がろうとするが俺の肩に彼女の手が伸びた。


 少女の力とは思えない威力に逃れることが出来ず、ぐっ、と引き寄せられる。


 引き寄せられると同時に腹部へ衝撃が走った。


 腹を蹴られたと認識すると同時に激しい痛みが駆け巡った。


「ぐ」


 苦悶の声を出す前に頭へ手が添えられる。


 何をするのか理解する直前に地面へ頭を叩きつけられた。


 顎から脳へ痛みという認識が神経を通り伝えてくる。


 徹底的な攻撃ばかりだ。


 反撃する前に頭へ攻撃を受けてしまって動きが鈍い。


 起き上がろうとしたら後頭部を靴で押し付けられる。やはり女の子とは思えない力だ。


 ガシャン、と弾丸が装填される音が聞こえる。


 これは、頭へ一発貰う覚悟をしないといけないかもしれない。


「ウッシャ!」


 そんなことを考えていると頭上から第三者の声が響いて足から靴が離れる。


「いっつぅ・・・・」


 ぐらぐら揺れる意識の中で何が起こったのか周りを見た。


 すると、傍にカッターナイフを構えた少女が立っている。


「・・・・確か、カラス?」


「あ?誰だお前」


 あ、暗闇で俺の姿が見えていないのか?


 それともミミズクさんやらと同様で人の顔をおぼえるのが苦手なのかな、と俺が考えていると彼女は視線を外して前で銃を構えているサハラ砂漠さんを見ている。


 なんか、カラス、笑っている?


「よぉ、てめぇとヤりあいたかったからこっちまできたぜぇ。本当ならサバイバルナイフでガチファイトしたかったっていうのに没収されちまったからこんなチャチなもんしかねぇけど、楽しもうぜぇ!!」


 カチカチと刃を取り出してカラスはだっ、とサハラ砂漠さんへ間合いを詰める。


 狙いを定めて発砲するが、狭い通路の壁を蹴って野生の獣みたいな動きでカラスがカッターナイフを振り下ろす。


 迫る刃をサハラ砂漠さんは銃の側面で受け止める。


 乾いた音を立ててカッターの歯が折れた。


 工具用のカッターでは拳銃を傷つけることなど出来ない。それを理解しているのかカラスは舌打ちをして拳を放つ。


 能力を発動させて風を纏った拳がサハラ砂漠さんへ向かう。

拳が真っ直ぐに彼女の顔へ直撃した。


 しかし、彼女もただではやられない。仕返しとばかりに靴先で彼女の足を蹴る。


 二人はごろごろと地面を転がりつつもすぐに起き上がって接近した。


 カッターナイフと銃での殴りあい。


 カラスの拳で口の中を切ったのか、端から血が流れている。


 まるで痛みを感じないのか流れている血を拭わず、カラスを迎撃していた。


――何かがおかしい。


 カラスの攻撃を彼女が受け続けている。


 いくら能力者の体が頑丈だからとはいえ、あそこまで攻撃を受けていたら身がもたないはず、なのに砂原沙織はずっと攻撃を受けて反撃を繰り返す、


 まるで機械みたいな動きが俺は気になった。


 それと彼女は一言も喋っていない。


 表情も能面みたいに変化がまるでなかった。


 機械?


 あることが気になって、俺は彼女を注視する。


 目線を首の辺りへ動かした時に、首元へカッターナイフの刃が過ぎった。


 ナイフで切られた箇所で不気味に発光しているものがある。


 それをみて、俺はわかった。


 どうして、彼女が話を聴いてくれないのか、機械みたいな動きの攻撃ばかりするのか。


 誰かは知らないが酷な事をする。


「なるほど」


 俺はふらふらと体を起こして、二人へ近づく。


 カラスさんは戦うことに夢中で近づいてくることにまるで気づかない。


「ししし!なーんか、楽しくねぇけど、お前みたいな強いヤツと殺し合いができるなんてアッチはなんて幸せ者なんだろうなぁ!もっとだ!もっと、楽しもうぜぇ!」


 楽しげにカッターナイフを振るうカラスの姿は年端のいかない少女としては歪すぎる。


 ただ殺すことに快楽を見出している殺人鬼染みている姿へ俺は少しばかりの恐怖を感じながらも両者の間へ割り込む。


「邪魔だぁああ!」


 振るわれるカッターを左手で受け止めた。


「うるさい、寝てろ」


 カッターナイフが掌に刺さったのを感じながら右手で拳を作る。


 顔への右ストレート。


 抵抗する暇も与えず一撃のストレートでカラスはずるずると地面へ崩れ落ちた。


 すぐさま、サハラ砂漠さんの銃を抑えて、首へ手を伸ばす。


「ちょっと痛いかもしれないけれど、ごめん」


 謝罪へ返答がないことを承知で胸元のシャツを破く。


 白い肌とスポーツブラらしきものが覗く。そして、首元にどす黒い輝きを放つ首輪のようなものがあった。


 迷わずに首元へ手を伸ばす。


 どす黒い輝きと赤い雷が俺の手を焦がし始める。


 激しい痛みを手に感じながらも首輪へ、首輪へと伸ばす。


 首輪へ近づくたびに掌の激痛が増す、皮膚が炭みたいに焦げていく。


 指先の感覚がなくなっていくのを感じながらもようやく手が首輪を掴んだ。


 掴んだ瞬間、指の先端が千切れる。


 焦げた指先から血が流れて彼女の服を汚していく。


「も・・・・う、すこぉしぃ!」


 意識が飛びそうになるほどの激痛を感じながらも指に力を入れた。


 首輪に大きな亀裂音が入り、砕け散る。


「あ・・れ・・?相馬さん」


 彼女の瞳に失われていた光が灯った。


 俺の存在に気づいて、驚きの表情を浮かべる。


 声をかけようとしたところで砕けた首輪がバチバチと激しい火花を散らし始める。


「やば・・・・」


 首輪の破片を投げ捨てようとしたところで欠片が形を変えて刃物となり、俺の喉元に突き刺さった、体から大量の血が噴出した。













 安部彦馬と伊織汐の二人がホワイト・セントラルの入り口近くの巨大な空間にたどり着いた。


 ホワイト・セントラルの入り口は白く巨大な扉がそびえている。


 扉を突破されれば全てが終わってしまう。


 二人は扉を突破されないようキメラを釘付けにしようとするが、対峙しているキメラの力が強すぎて戦闘は困難を極めている。


 目の前のキメラ、爬虫類をベースとしながら、カブト虫のような尖った角、鷹のような鋭い瞳、甲殻類のように硬そうな背中と胴体、カマキリのような鎌、バッタのようなジャンプ力を備えた足、まさにそれぞれの特性を組み合わせたようなキメラは二メートルを超えている巨体だというのにとてつもない俊敏さを供えており、伊織が狙撃しようとすれば、その場を離れ、安部達が空になった弾丸を再装填しようとすれば、鎌を振り下ろしてきた。


「ちぃ、巨体どおりの動きをすればいいのによぉ!なんつぅ、スピードとパワーだ!」


「・・・・狙撃のタイミングが合わない」


 崩れかけている柱を盾にするようにして二人は隠れて様子を伺う。


 キメラの背後、そこにはホワイト・セントラルの入り口があり、開ける為のタッチパネルがある。


 そこに誰かがいた。


 室内が暗すぎて、誰なのか判断することは出来ないが、タッチパネルを操作してホワイト・セントラルの扉を開けようとしている。


 それを阻もうと二人が柱から出ようとすると動きを止めているキメラがぎょろりと睨んできた。


「扉を開けるのに費やしているおかげでなんとかなっているが・・・・それも時間の問題だな」


「・・・・ここからではパネルそのものを壊しかねない」


「ちっ」


「安部彦馬といったな。お前、能力を使えないのか?」


「内容を明かすことは出来ないが、俺の能力は戦闘に向いてねぇ・・・・使える武器はこれだけってことだ」


 伊織へ持っているハンドガンをちらつかせる。


「状況はよろしくない。こちらの弾薬も底を尽きかけている。取れる選択肢は一時撤退ということになるが?」


「その選択をしたら確実に俺達は敗北するだろーなぁ・・・・」


 キメラと戦う場合、CGTや能力者は対キメラ用の武装を用意する必要がある。攻撃能力の中には一撃でキメラを屠るものもあるが、所持者が少ないため、それらの援軍は当てにならない。


 万全な装備を整えている間にキメラに守られている侵入者がホワイト・セントラルの入り口を開放すれば実質的にシティ側の敗北につながるため、撤退という手段も実質、無いに等しかった。


 狙撃用のライフルとハンドガンだけしか用意できなかった安部達にとって、目の前のキメラと戦うのは自らの命を捨てるようなものだ。


「(こんなところで、俺は死ぬつもりはねぇんだよ)」


 安部は動かないキメラを睨みながら必死にこの現状を変える手段を模索する。


 自分達がいるエリアは今までの通路と比較してかなり大きな空洞になっていた、ただ、完全に舗装作業が終えていないため、ところどころに瓦礫らしきものが残っている。天井も照明のようなものが設置されていない。


「・・・・ん?天井」


 安部は慌てて天井へ視線を向ける。


 そして、にやり、と口元をゆがめた。


「おい、あそこを狙撃できるか?」


 天井のある一点、亀裂の入っている箇所を安部は指差す。伊織は持っているライフルのスコープで指示する箇所を確認、少しして頷いた。


「よし、俺がキメラの囮になる。てめぇは俺が合図したら狙撃しろ」


「・・・・いいのか」


「あん?」


「私はCGTだ」


 CGTは街の治安を守ることを重要視している。メンバーは無能力者で構成されており、無能力者の中には能力者を憎悪に近い感情を抱いている者もいる。


――背後から撃たれるかもしれないぞ?


 伊織はそういう意味合いを込めて尋ねていた。


 自分はCGTであり能力者を敵視、憎悪しているぞと暗に告げている。


 そんな彼女へ安部は迷わない。


「お互いが疑心暗鬼のままでは歩み寄ることは出来ない。片方が信じていなくても自分が相手を信じて行動すれば、いつか理解できる・・・・とあるヤツの受け売りだ」


「・・・・信じると?」


「あぁ、俺は信じる。狙撃できるか」


 伊織が頷いたのを確認して安部は柱から飛び出す。


 すると、キメラがジャンプして安部へ襲いかかろうとする。


 振り下ろされる鎌をギリギリのところで回避する安部は地面を転がるように死ながら目的地へ走った。


一定範囲内の敵を殲滅するように設定されているのかキメラは速度を上げて安部を追跡する。


 振り返りながらハンドガンを撃つが強固な甲羅で弾丸がはじかれた。


「ちぃ、これならあのブンヤども連れてくればよかったぜぇっと!」


 地面へ突きささるキメラの角をかわしながら走る。


 ひたすらに走った。


 ちらり、と自分のいる目的地を確認、もう少しでたどり着くというところで視界がぶれる。


「ぐ・・・・がぁ!?」


 両足が地面から離れて、頭から倒れこむ。


 ボギリィと嫌な音が右肩から響いた。


 瓦礫に額を打ち付け、皮膚を切って血が流れ出す。


「ちぃ・・・・なにが」


 振り返った安部がみたのは舌を突き出したキメラ、その舌はカメレオンなどのように伸びていた。


「おいおい・・・・色々くっつけすぎだろうがぁ」


 悪態をつきつつも安部の視界はかなりぶれていた。


 虫の息と判断したのかキメラがのそのそと安部へ近づいてくる。


 ふらふらと体を起こして接近するキメラから距離を置こうとした。


 もてあそぶつもりなのかキメラは一定の間隔を保っている。


「(こっちは玩具でもなんでもねぇぞ)」


 脳が未だにぐぁんぐぁんと揺れているような気分を味わいながら安部は視線を外して伊織のほうを見た。


 彼女は安部が攻撃されたというのに動揺した素振りを見せずスコープに顔をくっつけて合図を待っている。


「(アイツ、色々と使えるな)」


 どこまでも冷静な態度の彼女へ安部はそんな評価を下す。


 キメラが追いついた安部にむかって鎌を振り上げた。


 それをみて、安部は両手をあげる。


――合図だ。


「・・・・っ!」


 轟音に近い音がライフルから響く。


 ライフルから放たれて弾丸は真っ直ぐに天井へ突き刺さった。


 鋼鉄を貫くほどの威力を持つ弾丸によって深い亀裂が走る。


 ミシミシと音を立てて一部の天井が崩壊して落下してきた。


 そして、その真下にはキメラがいる。


「逃がす、かよぉ!」


 瓦礫に気づいて離れようとしたキメラの足はドロドロした粘液のようなものに足をとられていた。


「本局の変態科学者共が作り上げた摩擦力0の液体だ!足元がお留守だったなぁ、キメラさんよぉ!」


 安部は叫びながらベルトに隠していたワイヤーを壁に投げようとする。


「って、ワイヤーが壊れているだとぉ!?」


 先ほどのキメラの攻撃によってワイヤー射出装置のどこかが壊れたようで途中で動きを止めた。


「(や、やべぇ!?)」


 冷や汗を流していた安部の周りへ瓦礫が落ちた。



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