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リビティウム皇国のブタクサ姫  作者: 佐崎 一路
第三章 学園生ジュリア[13歳]
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ジルの一巡週とセラヴィの腹案

今回はちょっと短いです。すみません。

 さて、ジルことジュリア・フォルトゥーナ・グラウィス(学園ではいままで通り『ジュリア・フォルトゥーナ・ブラントミュラー』を名乗っている)の一巡週は慌しい。

 その日課を簡単に挙げてみよう。


 月眼の日……午前中学園の座学。午後実技。帰宅後、自宅を兼ねたルタンドゥテⅢ号店の管理及び新商品開発。または学園主催によるお茶会(サロン)への出席。夜は学業及び魔女修行の予習復習。

 翼虎の日……午前中学園の座学。午後は理事長による特別授業。帰宅後、ルタンドゥテⅢ号店の管理及び新商品開発。夜は予習復習及びカーティスを交えた経営問題等の打ち合わせ。

 麒麟の日……翼虎の日とほぼ同様。

 夢食の日……午前中学園の座学。午後は理事長による特別授業。帰宅後、ルタンドゥテⅢ号店の管理及び新商品開発。または夜まで学園関連者及び央都の有力者との顔合わせ。

 天女の日……午前中学園の座学。午後実技。帰宅後、自宅を兼ねたルタンドゥテⅢ号店の管理及び新商品開発。リーゼロッテかヴィオラ主催のお茶会(サロン)への出席。夜は予習復習及びカーティスを交えた金銭管理。

 鏡の日……朝のうちに近隣の野山に分け入って薬草等の採集。午前中はノーマンたち護衛相手に剣と格闘術の稽古。午後はルタンドゥテの特別室を開放してお茶会(サロン)を主催。その予定がない場合はオットー氏のお屋敷でモデルを務める。また二巡週に一度の割合で冒険者ギルドに顔を出して依頼を受ける。帰宅後、昼間の反省会及び得られた情報をもとに今後の方針を協議する。

 祈念の日……朝から研究室で霊薬(アムリタ)の精製。魔除護符等の作成。場合によってギルド関係の仕事で出かけ丸一日費やす。午後、時間があれば、近隣の孤児院を訪問して食料品や日用品等を慈善事業として寄付する。夜、週明けの課題の確認。


 この合間にさまざまな雑事をこなし、空いた時間に友人たちや家人及び襲来するエウフェーミアと親睦を深める会食を行い、さらに定期的にコンスルのクリスティ女史と連絡を取り合って報告と、西の開拓村やエルフの里の現状を確認し、可能であれば要望の素案を取り纏め場合によっては直接資材を送ってフォローをする。


 なお、意外にお茶会(サロン)等の集まりに出席する割合が多いように感じるかも知れないが、これでも貴族の令嬢としてはかなりセーブしている部類である。

 そもそも貴族社会においては、お茶会(サロン)はお互いの顔合わせの場であるとともに情報交換及び派閥等の力関係を明確にする宮廷社会の縮図であり、ここに参加しないような貴族は存在自体が『いない』と認識されるのが常識なのである。

 そのためジルも、わざわざ皇国まで留学させてくれたクリスティ女史らの顔を潰さないため、これも仕事と割り切って主催及び参加しているのであった。


 ちなみにジルは派閥に所属していないつもりでいるが――本人には毛ほどの自覚はないが、そもそも帝国の皇族位を持ち、なおかつお茶会(サロン)にはほぼ必ずルーカス公子が同伴することから、実質的に未来の伴侶と周囲からは看做されている――ことから、リーゼロッテ王女やヴィオラ王女同様に殿堂入り扱いされているのが実情である。

 要するに立場的にお茶会(サロン)や夜会に招待を“される側”ではなく“する側”と見られていることから、軽々しく(リーゼロッテやヴィオラは別として)お誘いを受けない立場にあった。


 逆に言えばジルが開催する(自動的にルークが招待する形にもなる)お茶会(サロン)に出席することは一種のステータスであり、毎日のように問い合わせが引きもきらなかった(そのあたりの対応はそつなく執事(バトラー)のカーティスをはじめとした従僕(フットマン)たちが行っている)。もっともジルは、ルタンドゥテのお菓子や料理を饗するので人気があるのでしょうね、くらいにしか思っていないのだが。


 そのような理由で、年中無休でわりと八面六臂の働きをしているジルであるから、お陰で以前よりも運動量が減ったにも関わらず、順調にベスト体重を維持していた(というか少し痩せた)。


     ◆◇◆


「学園の生徒会執行部に入会されたのですか――セラヴィ(あなた)が?」

「……上からの命令なので、不本意ながら」


 ハンバーグとミックスフライのセット(パン食べ放題、オニオンスープ、サラダ付)を前に健啖ぶりを発揮しながら、器用に片眉を顰めてそう吐露するセラヴィ。ぶ然とした口調は彼の偽らざる本心に聞こえました。


「――と言うことは、気が進まないのですか?」

 どういう活動をしているのかは不明ですが、『生徒会』とか『執行部』とかいう響きからして、それなりの権威と権力をもった生徒の代表機関のようなものを想像した私は首を捻りました。

 なにげに上昇志向が高そうなセラヴィです。上手に権限を使えばオイシイそうに思えたのですけれど、普段以上に面倒臭げな彼の態度から察するに、或いは私の想像とは乖離した複雑怪奇な組織なのかも知れませんね。


「ああ。金にもならない。時間はとられる。アホ貴族の相手をしなけりゃならない。枢機卿の名前が出てこなければ、速攻で無視するつもりだったんだけど――」

 諦観と反駁という二つの相反する感情を瞳に宿した表情でそう付け加えながら、残ったパンとスープを自棄食い気味に頬張るセラヴィ。

「いまはまだ連中の我儘に付き合わなけりゃならないからな。――それにしても美味いなこれ。ああ、あと紅茶のお代わりとこのイチゴのトライフルってのを貰えるか?」

「はいはい、すぐに用意させますわ」


 卓上のベルを鳴らしてルタンドゥテの女給――現地雇用をした十代後半のメイド――に追加のオーダーをしてから、私はふと気になった疑問を挟み込みました。


「ところで、今日いらしたのはお食事の為ですの?」

「いや、用件としては生徒会執行部へ誘いに来た」

「……この流れで了承する猛者もそうそういないと思いますが?」

「駄目か?」

「そもそも時間的な余裕がありません」


 私は指折り数えて自身の予定を列挙いたしました。

 人に話すことでいまさら理解しましたけれど、なにげに『学生』『貴族』『魔女』『経営者』と多彩な方向性で日々を過ごしているのですね。

 ひとつひとつに拘束される時間はさほどではありませんが、積もり積もって売れっ子漫画家か神風タレント並の忙しさになっていて吃驚仰天いたします。


 ここに『生徒会執行部員』とか新たな看板とスケジュールを割り込ませるのは難しいでしょう。セラヴィの言ではありませんが、そもそも私に義理も益もありません。そんな余分な時間があれば、難航しているラナの姉の捜査に力を注ぎたいところですわね。


「そうか。しかたないな。まあ執行部の連中からも『可能であれば』程度の期待しかかけられていないんで、断られても問題ないんだけど」

 追加できたデザートと紅茶を口にしながら、とことんどうでもいいような口調でセラヴィが付け加えますが、明らかに最初から私が断るように誘導して話していましたよねえ……何か思惑でもあるのでしょうか?


 そんな私の疑問が顔に出ていたのでしょうか。セラヴィはマヨネーズを付けたレタスを口に咥えながら吐息を漏らしました。


「――阿呆どもの思惑に乗るのも業腹だし、そもそも連中の頭には『有名貴族を迎え入れて箔を付ける』程度しかないからな。高級ブランドの武具や衣装を買い漁る成金趣味に付き合う積もりはない」

「なるほど。他国人で異教徒で、なおかつ下級貴族の私は本来お呼びではないというわけですのね」

「理解が早くて助かる。ついでに言えば、自分らよりも優秀でなおかつ女である貴族は邪魔ってところだろう」


 なるほど。いろいろと理解できましたわ。

 あくまで私は当て馬で、帝国公子のルークやラーティネン侯爵家の嫡流であるダニエル様を生徒会に誘うのが本命なのでしょうね。

 それがわかっているからこそ、セラヴィは婉曲に私の生徒会入りを阻止された……というのは考えすぎでしょうか?


「お気使いありがとうございます」

「なんのことやら。単に愚痴をこぼしただけだぞ、俺は」

 気負いのない態度で肩を竦めるセラヴィ。


 そんな彼の不器用な優しさに、我知らず笑みをこぼしながら、私は用意しておいた約束の金貨と食事券をテーブルの上に並べて、用件を切り出しました。

「さて、それではお食事も済んだようですので、以前お話しした符術の遣り方について教えていただけませんか?」

「……まあ、金額分の働きはするけどさ」

「その言い方、まるでシャトンのようですわね」

「………」


 私の素直な感想に、セラヴィはあからさまに嫌そうな表情で眉をしかめました。


     ◆◇◆


 メイド姿の豚鬼(オーク)を連れて、『よろず商会皇都支店』(とは名ばかりの平屋建ての雑貨屋)へと戻ってきたシャトンは、

「ん~~ん? なんか妙な感じが……」

「ぶひっ?」

 なぜか不穏な気配を感じて首を捻った。


 ついでに小首を傾げたメイド豚鬼(オーク)のミルフィーユ共々周囲を見回して、異常がないのを確認すると、「……気のせいでしょうか?」どこか腑に落ちない表情で呟きながら、裏手にある従業員用の出入り口へと向かった。


 さてどうやって依頼を果たそうかと思案しつつ、勝手知ったる態度で扉を開けた。

「ただいま戻りました、ボス」

「ぶふぉ! ぶもっ!」

 ミルフィーユもあわせて帰還の挨拶をする。


 それに応えて店の方から「ご苦労さん。早速、首尾を聞かせてもらおうか」間延びした挨拶が返ってきた。

8/12 修正しました。

×以前お話した符術の→○以前お話しした符術の


8/15 誤字の修正しました。

×我知らず笑みをこぼしたながら→○我知らず笑みをこぼしながら

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