幕間 末姫エウフェーミアのお姉様
幕間とはいえ、話は前後に繋がっています。
エウフェーミア・ルチア・オーランシュは今年9歳になる。
リビティウム皇国でも1、2を争う領土と国力を持つ辺境伯コルラード・シモン・オーランシュの娘であり、12人居る異母兄弟姉妹の中でも最年少の六番目の姫であった。
ちなみに母は正妻ではなく側室である。
貴族の側室の末娘でいまだ成人前。
本来ならばミソッカスも良いところの彼女ではあるが、幸か不幸か生みの親であるエロイーズがシレント央国王族の血筋であったことと、そして何よりもすぐ上の異母姉であるシルティアーナ――通称『リビティウム皇国のブタクサ姫』――の悪名が皇国どころか大陸全土に轟くほど途轍もないことから、相対的にその評価が嵩上げされる結果となっていた――“見目麗しく聡明な末姫”として。
また父親であるオーランシュ辺境伯が、いまだ家督相続にあたり12人の子供達に対して明確な継承順位を決めていない、いわば白紙の状態を保っていたことから、全ての兄弟姉妹が対等という扱いのまま、末姫である彼女も皇国最大有力貴族の“姫”として過不足のない扱いを享受していた。
無論、対等とはいっても名目上のものであり、すでに領地経営や父の補佐などをある程度任せられている長兄や次兄の方が、その年齢や実績の高さもあり、領内では遥かに有利な立場にあるので、兄弟姉妹の中では一歩どころか5~6歩劣った立場と見なされ、また自覚もしている。
とは言え――。
(お父様のことを優柔不断な日和見主義者だと軽く見る向きがあるけど、どこか韜晦している気がするわ……)
今後の勉学と社交界でのデビューの為……という名目で、異母姉のシルティアーナともども、政務の為、年の大半を父が過ごす皇都へ呼び寄せられてから半年あまり。
もともと接点の乏しかった父親と思いがけず間近に接する機会の多くなったところで、エウフェーミアが父であるオーランシュ辺境伯感じたのは、世間や母をはじめとする身内の評価とは異なり、どこか得体の知れない彼の内に潜む“闇”だった。
好々爺然とした父のどこか得体の知れない裏側――貴族社会の末席どころか主流派の真っ只中に君臨している大貴族である。当然見た目や風評通り毒にも薬にもならない人物のわけがない……それは重々承知してはいるが、それでも9歳の少女にとっては、どこか理解を超えた部分を持つ父は恐ろしかった。
恐怖・畏怖・惶惑・畏服……何気ない言動の端々に垣間見えるその闇の深遠を前に、いずれとも知れない感情が渦巻き、傍目には和気藹々と食卓を囲んでいても、本能的にどことなく距離を置いてしまっていた。
『この機会に出来る限りお父様と親密になりなさい』
オーランシュ辺境伯領を出る際に生母から言いつけられたことではあるが、正直あまり上手くいっているとは思えない。無論、そうした感情は抑えて努力はしているものの……。
(……親密もなにも、そもそも私はシルティアーナ姉様のオマケ扱いだし)
この半年あまりの生活で否応なしに自覚した事実を噛み締めて、エウフェーミアは唇を噛んだ。
実のところエウフェーミア自身は、他の兄弟姉妹と違ってシルティアーナに対してさほど含むものはなかった。
そもそもが物心付く頃にはほとんど彼女は隔離状態であったし、年に数回逢った限りでは見た目は確かにアレだが、お互いに距離を置いて接していたために直接何かされた訳ではない。さらにその後の不幸により、姉が一生癒えない傷を負った事に対して同情すらしていた。
だけれど……と、同時に疑問に思う。
そんな『リビティウム皇国のブタクサ姫』――と、世間からあからさまに嘲笑され、身内からは蛇蝎のように嫌悪される姉に対しての父の執着はどこか常軌を逸している。
客観的に見て、見た目・性格・能力ともに自分や兄姉と比較しても大きく劣る彼女に対して、なぜ父があれほど拘泥するのか……。
或いは父の抱える“闇”の源泉と何か関係しているのかも知れない。そう思えた。
ちなみにエウフェーミアの自分や身内に対する評価はさほど高くはない。
見た目に関しても子供らしい愛嬌込みでせいぜい中の上程度。上に同腹の兄と姉が2人ずついるが、どちらも平凡な顔立ちであり、自分が成長したところでせいぜいその類型だろうと端から見切りをつけている。
他の異母兄姉に関しても同音異句である。いずれも華やかさには欠け、怜悧さからは程遠く、愚鈍とまではいかないものの凡人ばかり。
そんな自分達に対して、父であるオーランシュ辺境伯コルラードは分け隔てなく温和に接して、たとえ彼・彼女らが何かしら間違いを起こしたり、不利益――大体のところは正妻や側室間のいがみ合いが原因となって権力を行使したり、税収を使い込んだり賄賂を受け取るなどといった馬鹿なもの――を被った場合でも、事を荒立てずに穏やかに遣り過ごすようにしている。
それを親馬鹿、弱腰と決め付け「問題にならなかったから大丈夫」「彼は領地経営に興味がない」と楽観視している、正妻のシモネッタを筆頭とした身内の甘えについて、少女らしい潔癖さで内心苦々しく思うと共に、以前はそれを許容する父の不甲斐なさに憤りを覚えていた彼女だが、ここに来てふと疑問に思えるようになってきた。
父はそもそも妻や子供達に対してなんら興味も期待もしていないのではないか? 興味がないから等しく接するし、初めから期待していないので失敗しても赦せる……それだけの事ではないのか。
わからない。でも、考えるとそれが真実のような気がして怖い。だけど……。
そんな風にいつも最後は思考がループしてしまう。
やはり自分は凡人なのだろう。
深く思考を重ねることも、推論から結論を出すことも、状況を打破するための行動をすることもできない。
ならばせめて誰か信用できる人と相談できれば良いのだが……。
エウフェーミアは大きくため息を付いた。
駄目だろう。そもそも身内は阿呆ばかり、傍に居る家人は所詮父に雇われたイエスマンであるし、友人も大貴族の御令嬢というブランドに目が眩んで擦り寄ってくる俗物だけで当てにならない。
心細い。
銀のスプーンを咥えて生まれ、身分・財産・名声等々、およそ過不足なく持ちながら、エウフェーミアの心は常に孤独だった。
◆◇◆◇
「ああん、もう! 最悪ですわ、こんな処で足止めされるなんて!」
少女特有の甲高い声が大通りに響き渡っていた。
「申し訳ありません、お嬢様。敷石の段差で車軸を傷めたようですので、すぐに替えの馬車を用意いたします」
少女より遥かに年上の御者が平身低頭、平謝りに謝っている。
見るからに貴族らしいお召し物を着た少女は、はしたなくも軽く舌打ちをして、御者と通りの端に寄せられた二頭立ての馬車から視線を外して通りの向こうを見た。
「いいわ。ここからなら歩いたほうが早いでしょうから、私は先に『ルタンドゥテ』に行って来るから、貴方はここで馬車の修理をするなり、替えの馬車の準備をするなりして待ってなさい」
「お、お一人で行かれるつもりですか?! いけません、旦那様に叱られます。もう少しお待ちください、せめて召使いのエミリーが戻ってくるまで!」
「その間に目当てのデザートが無くなってたらどうするのよ! ルタンドゥテは作り置きしてないんだから、一刻も早く行かないと売り切れちゃうわ」
ついでに言えば、たとえ相手が貧民であろうが国王であろうが一律に“客”として、特別扱いはしないので、いくら身分を盾にしても黄金を積み上げても、その場で買えなかった商品を特例で購入することはほぼ不可能である。
「ここからなら、せいぜい通り2本くらいでしょう? 歩くのは表通りだけだし、問題ないわ」
言うなり小走りに駆け出す少女。
「お嬢様――っ!!」
御者の悲鳴が追いかけてきたが、気が付かないフリをしてそのまま人ごみの中へと紛れ込むのだった。
◆◇◆◇
リビティウム皇立学園からシレント央国市街へと続く目抜き通り――通称『学園通り』を、一組の少年少女が横に並んで歩いていた。
真新しい制服を着た二人は、どちらも学園の生徒なのだろう。少年の方は淡い金髪に青い瞳、柔らかかつ端正な顔立ち。少女の方は桜色がかった金髪に翡翠色の瞳をした、これまた優しげな美少女である。
身長は二人ともほぼ同じほど(少年の方は平均的だが、少女の方の発育がかなり良い為)で、年齢は13~14歳ほどに見える。
意匠や配色は同じでも、生地や縫製からして明らかに一般生徒のものとは次元の違う制服。何よりただ歩いているだけでもわかる優雅さと、漂う気品から貴族の御曹司と御令嬢と知れる二人だが、軽やかな足取りで肩を並べるその姿は、ただ一緒に居るだけで楽しい……という初恋の少年少女のソレであり、目にした者が思わず微笑を浮かべる、眩しくも初々しいカップルにしか見えなかった。
「う~~ん、ちょっとミントの香りが強いかしら……?」
空間魔術で【収納】しておいた、それを取り出して一口頬張る。
今朝焼き上げたばかりの『試作品』だというチョコミントタルトの出来栄えに、ジルは難しい顔で首を捻った。難しい顔とは言っても思わず抱き締めたくなるような可愛らしい仕草に、隣を歩くルークが思わず口元をほころばせるのだった。
さて、無事に入学式の式典やホームルームも終わった帰り道。
「せっかくなので街の様子を見て帰りたいですわ」
というジルの希望に沿って、随員は先に馬車で帰り、護衛役たちは目立たないように前後左右の少し離れたところを歩く……ということで、見た目は二人揃っての徒歩での帰宅となった。
二人きりの時間を設けることにしたのは、ルークが席を外している間に起きた出来事――『アイリスの姫』ことリーゼロッテ王女と、『紫陽花の君』ことヴィオラ王女と知り合いになり、ルークも含めた全員揃って、この後ヴィオラ王女主催のお茶会に招待されたこと――を説明した方がいいのではないか? というルークの友人であるダニエル侯子の助言……と言うか、意味ありげな後押しがあったからである。
入学式が終わり戻ってきたルークを即座に教室の外に連れ出したダニエルは、困惑している友人の耳元で、しきりになにやら吹き込んで焚き付けていた。
最初は辟易した様子で話を聞いていたルークだが、話の途中から段々と真剣な表情になっていき、程なく戻ってきたところで、微妙に疲れたような……或いは切羽詰ったような目で、ジルと、女の子達に囲まれて満面の笑みを浮かべている男装の麗人たるヴィオラとを見比べ、
「……大丈夫です。絶対に君の貞操は守ってみせます!」
そう決意表明をして、取りあえずお茶会の迎えが来るまで一緒にいる事を提案したのだった。
「……はあ?(女の子同士で貞操の危機とかあるのかしら?)」
曖昧に頷きながら承諾するジル。
そんなわけで学園から徒歩で小1時間ほどの道程を、ジルが主に今日の出来事を話し、ルークがそれに相槌を打つ形で大通りを歩いていたのだが、途中から脱線して雑談になったり、
(あれ? 二人っきりで歩くのってもしかして初めてじゃ……?)
その事に気付いたルークの鼓動が早くなって、歩き方がギクシャクと不審になっりしながらも、もうすぐルタンドゥテ3号店――ブラントミュラー家直営喫茶店兼皇都でのジルの棲家――というところまで来たところで、ふと思い出したジルが新作のスイーツを取り出して、味見をしたのだった。
「ミント系はちょっと苦手なのよねぇ……って、どうかしましたか?」
「い、いえ、なんでもないです(ほんと可愛いなあ)」
食い入るように自分の挙動を眺めていたルークの視線に気付いて、首を傾げるジル。ちょっと考え込んでから、「ああ」と納得した顔で手に持ったチョコミントタルトを差し出す。
「――どうぞ。一口食べちゃいましたけど、宜しければご感想をお聞かせください」
「へ? いえ、そういう意味で……あっ」
素っ頓狂な顔で固辞しようとしたルークだが、先の方が齧られたタルトと、ジルの艶やかなピンクの唇とを見比べ、あることに気が付いて「は、ははは……いただきます」赤い顔でそれを受け取った。
歩きながら「こほん」と軽く咳払いをして、タルトの齧りかけの部分を口に運ぶルーク。
「あら……?」
その瞬間、隣を歩いていたジルが立ち止まった。
何事かとその視線の先を見てみると、すぐそこの通りの角にある軽食を扱っているらしい屋台の前で、店主らしい小太りの中年男と、良家の子女らしい10歳になるかならないかという年頃の少女が、激しく口論をしている光景が目に入った。
そこへちょうど横道から野菜を満載した荷馬車がやってきた。
口論は長引きそう――そう判断したジルが、声を掛けようとしたところで、プイと顔を逸らせた少女が、ろくに左右を確認せずその場から立ち去ろうとして踵を返した。荷馬車が屋台の前を通り過ぎようとした、その瞬間にである。
「っ――危ない!」
叫んで、ジルは咄嗟に地面を蹴った。
「ジル?!」
呆然と立ち竦む少女を抱えてその場から離れようとするが、子供とは言え人一人を抱えて跳躍した経験などなく、その結果、想像していたよりもまったく距離が稼げずに、二人でもつれ合うようにして通りへ倒れ込んでしまった。
さらに間が悪いことに、慌てた荷馬車の御者が手綱を引いた結果、進行方向が微妙に変わって、まさに二人が逃げたその先へと、荷馬車が一直線に向かう形になっていた。
見上げれば、大柄な馬の前脚が真っ直ぐに圧し掛かってくるのが見える。
まるでスローモーションのように、やけに遅くクリアに感じるそれ――蹄鉄の鋲までくっきりと見えるのを眺めつつ、ああこれが極限状態での集中力なのねと、頭の隅で他人事のように感心しながらジルは死を覚悟した。
刹那、風が吹いた――。
より正確には風の精霊が自分達と荷馬車との間に割って入り、錯覚ではなく現実にその動きを制限した。
「……え?」
それと同時に抱え込んだ少女ごと路肩の方へ体が引き寄せられ、体がふわりと浮遊する感覚を覚えた。
ガシャン! という大きな音と共に感覚が戻る。
「あ…危なかった。まったく……無茶は止めて下さい、ジル。寿命が30年は縮みましたよ」
焦った口調で耳元で囁かれ、振り返って見ればルークが自分と少女をまとめて抱え込んで、歩道のところへへたり込んでいた。
これで立っていれば完全なお姫様抱っこなのだが、流石に少女二人分は荷が勝ちすぎたのか、どうにか引き寄せたところで耐え切れずに崩れ落ちた恰好である。
さらに視線を戻してみれば、眼前まで迫っていた荷馬車は間一髪のところで逸れ、その前脚も通りの石畳で止まっていた。
「なんで……風の精霊? どういうこと? 私……じゃないし、もしかしてルークがやってくださったのですか?」
「……は?」
意味を計りかねて首を傾げるルークの顔を、ジルは値踏みするような目で見詰めた。あれは錯覚ではなかった。確かに風の精霊が助けてくれた。ならば――。
「大丈夫ですか、ジル様?!」
「お怪我はありませんか、ルーカス様!?」
血相を変えて集まってくる護衛たちを前に、どうやら二人きりの時間は終わったらしいと苦笑いを浮かべたルークだが、ふと足元に転がるまだ口を付けていなかったチョコミントタルトに気付いて、少しだけ残念そうに呟く。
「せっかくの間接キ――いえ、ルタンドゥテの新作を味わう暇もありませんでしたね」
その言葉に、蒼白な顔色でジルにしがみ付いたままだった少女が、弾かれたように顔を上げて反応した。
「え?! ルタンドゥテの新作……ですの?」
◆◇◆◇
グラウィオール帝国子爵ブラントミュラー家直轄の喫茶店『ルタンドゥテ』3号店に当たる、リビティウム皇国シレント店。
その個室に3人の貴族の子弟が顔を合わせていた。
「まずはお礼をさせていただきますわ、お姉様。助けていただいて本当にありがとうございました」
なぜか赤い顔でジルの顔を見詰めながら、少女が頭を下げる。
「いえ、結局私は役に立ったとは言えませんので、お礼ならルークに言ってください」
謙虚な仕草で隣へ座るルークを指し示すジル。
ちらりとそちらを見た少女は、何処となく微妙な表情で彼の顔を見て、すぐに表情を改めて頭を下げた。
「どうもありがとうございました、ルーカス公子」
なぜか妙な圧力を感じて、ルークは強張った笑みを浮かべながら頭を振った。
「い、いや。僕はジルの手伝いをしただけで……って、あれ? どこかでお会いしたことがありましたか?」
「直接はありませんが、御姿は存じ上げております」
すっと深呼吸をした少女は、立ち上がるとややぎこちないならも、きちんとした作法に則った一礼を行った。
「お初にお目にかかります。私はリビティウム皇国のオーランシュ辺境伯が六女エウフェーミア・ルチア・オーランシュと申します。以後、お見知りおきを」
「オーランシュ辺境伯の…六女ォ?! つまり、シルティアーナ姫の妹姫ですか!?」
「エ、エウフェーミアぁ!?!」
素っ頓狂な声をあげて反射的に椅子から立ち上がったルークとジルを交互に見て、悪戯が成功した子供のような顔で笑みを浮かべるエウフェーミア。
そして呆然としているジルに対して無邪気な、子供らしい笑みを向けて熱い口調で訴えかけた。
「お姉様。お姉様は私の命の恩人です。それに、なんだか昔から知っていたような不思議な繋がりを感じます。もし、もし宜しければ今後も『お姉様』と呼ぶことをお赦し願えないでしょうか?」
「え……?!」
ジルはやたら複雑な表情で、懇願しつつもどこか切羽詰った様子のエウフェーミアの顔から視線を逸らせて、「ええ…と」続く言葉を選んでいたが。
時間の経過と共にエウフェーミアの瞳に落胆と哀しみの色が満ちてくるのを見て取って、半ば反射的に頷いていた。
「わ、私で良ければ、じ、じ、実の姉だと思ってくださいませ。わ、私もエウフェーミアの事はずっと心配……じゃなくて、本当の妹のように思えますので」
途端、エウフェーミアの顔が真夏の太陽のように輝いた。
「ありがとうございます、お姉様!」
「そ、そんなこと良いのよ、エウフェーミア。こちらこそイロイロと……いえ、何というか」
目を泳がせるジルの傍らにそっと寄り添ったルークが小さく囁く。
「……いいんですか? あとあと面倒なことになりそうですけど」
「ううっ……そうは言っても『妹』を見捨てるわけには参りません」
「ふう。――まあ、ジルの答えは聞くまでもありませんでしたね。僕もできる限り協力しますよ」
「……ありがとうございます」
泣きそうな顔でお礼を言ったジルは、エウフェーミアに椅子に座るように促し、同じく自分達もテーブルを挟んだ向かい側に座った。
「ところで」
並んで座るルークとジルを眺めながら、エウフェーミアは興味津々たる顔で口を開いた。
「お姉様とルーカス公子様とはどのようなご関係なのでしょうか? ひょっとして恋人同士でらっしゃいますの? ならば義母姉との婚約を破棄した理由は、お姉様とのご関係にあるのでしょうか?」
「「えっ……?!」」
思わず顔を見合わせた二人は、次の瞬間、その言葉の意味を意識してほぼ同時に真っ赤になった。
「なるほど」
9歳とは思えない尊大な顔で頷くエウフェーミア。
「その辺りも含めて、詳しい事情を教えていただけますか、お姉様?」
「あうううう……」
そのツッコミを受けて、ジルは困惑した表情で頭を抱えるのだった。
5/5 誤字脱字修正しました。
×韜晦している気がするのわ→○韜晦している気がするわ




