シルティアーナの弁明と皇都の舞台裏
『ねえキティ、鏡の向こう側の世界ってどんなかしら?
向こうにもミルクがあるかしらね?
でもたぶん、鏡の国のミルクはあんまりおいしくないだろうけど・・・』
――ルイス・キャロル『鏡の国のアリス』(1871年)――
◆◇◆◇
後から悔いると書いて後悔と言いますけれど、つくづく言い得て妙な言い回しですわね……と、現在の私がしみじみと実感中です。
いまさらですけど、こんな地雷だとわかっていれば、皆の居る前で開陳させたりはしなかったものを……と、開けてはいけないパンドラの函を開けた気分で、私は「あー」と唸りながら、目の前に置かれた巫女姫クララ(推定年齢20歳)の肖像画を指差しました。
応接間に集まったルークやエレンといった友人たちの他、モニカやロイスさんといった家人まで、固唾を呑んで続く私の台詞を傾聴している気配がします。
私は覚悟を決めて、きっぱりと断言いたしました。
「単なる他人の空似です」
「「「「「「マテこら!!」」」」」
気色ばむ周囲を無視して私は言い訳の言葉を連ねます。
「それはまあ多少、髪の色とか顔の特徴が似ているかも知れませんが、こんなものは誤差の範囲内ですわ。似てるかな~? どうかな~? 違うんじゃないかなあ……程度の違いです。
そもそも、その肖像画のモデルは『リビティウム皇国のカトレア』とも謳われた美女ですわよ。わたくし如き雑草と比べるのも烏滸がましいお話だと思いませんこと? 本人が聞いたらお臍がお茶を沸かせますわ」
完璧です。どこにも破綻のない論理展開でしょう。
そもそも議論でも子供の口喧嘩でも同じです。大きな声を出して一方的に言い切った者の勝ちと相場が決まっているのですから。ですので、「はいはいワロスワロス」とばかりこうして頭から否定すれば問題ない筈で――
『鏡見て言え! どう見ても瓜二つだ(わ)(よ)(です)っ!!』
と、その台詞が終わらないうちに、私の素顔を知らないリーン君以外の全員から、即座に一刀両断でバッサリと返り討ちにされてしまいました。
えっ、なに? ヒューバータの再来?!
その鬼気迫る迫力に既視感を覚えて、私は反射的に椅子の上で仰け反りました。
「……お嬢様、流石にその弁明は無理のある言い訳かと」
そっと傍らへ寄って来たロイスさんからも、小声で駄目だしをされます。
「あの……すみません、ちょっとだけ状況がわからないんですが。確かに肖像画のクララ様とジルさんとは特徴が似ていますけど、そっくりと言うほどではな……って、なんですか、皆さんで一斉に『あ~~っ』って顔して頭を押さえて?! 僕なんか変なこと言いましたか!?」
リーン君が小さく右手を挙手して発言をしましたけれど、周囲の居た堪れない雰囲気に呑まれて狼狽しています。まあ微妙に居心地悪くて、混乱しているのは私も同じですので、なにげに同情しますけれど、説明するとややこしくなるのでいまは放置です。
「……どうにも自覚がないようですので。一度ジルお嬢様は本気で鏡をご覧になられた方が宜しいのでは?」
なぜかモニカが片手でコメカミの辺りを押さえて呻いています。偏頭痛でしょうか? 侍女頭という重責が彼女を苛んでいるのかも知れません。たまにはお休みを取れるよう、後程ロイスさんに提言しておいた方がよさそうです。
それを心のメモ帳に記載しながら、私は素直にモニカや周囲の助言に従い、肘掛付きの椅子から立ち上がって、手近な壁に掛かっていた鏡を覗き込みました。
ちなみに一般にはいまだ金属鏡を使用していますが、これは時間が経過すると曇ってきて定期的に磨かないといけないので不便です。そのため貴族は、割高ですけどガラスの片面に銀を沈着させる、地球の現代鏡と同様の銀鏡を普通に使っています。
装飾の施された鏡を覗き込むと、鏡の中から線の細い儚げな印象の少女がこちらを覗き返しました。
着ているものはフリルとレース、リボンでふんだんに彩られた薄いピンクのバッスルドレス。腰まで流れる癖のない細い金色とも桜色とも見える長い髪(ちなみに髪型は両サイドを後ろに回してピンで縛ってリボンで飾っています)。正面からこちらを見据える潤んだ翡翠色の大きな瞳。長い睫毛に通った鼻梁。サクランボのような唇。白くて瑞々しい肌――と、どこからどう見ても、
「捻りのないありきたりな顔ですわね」
私はいい加減ウンザリした口調で、率直な感想を口に出しました。
確かに1年半前に比べれば贅肉がなくなり、顔の線がすっきりした分暑苦しさは激減しましたが、その分逆にインパクトがなくなったのではないでしょうか?
取りあえず、両手で抓ったり引っ張ったりして百面相しながら――なお、気合の入った貴族のご婦人方は顔に蜜蝋を最大1~2㎝の厚さに塗り、その上に白粉を叩くという、ほぼ特殊メイクなお化粧をしているそうです。お蔭で冬場は火の傍にも近寄れないそうですので、同じことをすれば大惨事でしょうね。まあ私はいまのところメイクどころか、頬紅もつけていませんので、これ以上崩れようがありませんけれど――なぜか息を止めて、こちらを注目している皆様を振り返りました。
『その感覚はいろいろと間違っている!!!』
途端、全方位からもの凄い勢いで否定されました。
「はいっ?」
「まったく。なんでこう自己評価が異様に低いんだよ?!」
「まあ、確かにジルさんって胸は大きくて、脚も長いし、腰も細い上に声も可愛いから、美人の部類だと……あれ? あれれ??? ――!?! び、美人……え? 肖像画とそっくり?! な、なんでいままで気が付かなかったの、僕?!」
呆れたようにガシガシと髪を掻き毟りながら地団太踏むブルーノの隣で、私の顔を凝視していたリーン君が、まるで夢から醒めたような顔で、瞬きを繰り返して、肖像画の母の似姿と鏡を背に佇む私とを見比べます。
(……あー、バレたわね。これは)
どうやらこの騒ぎのせいで、師匠が施した認識阻害の魔法が解けてしまったようです。
「あたしもまさかここまで重症だとは思いませんでした……」
一方、壁際に佇んでいるエレンまでもが、疲れた表情でがっくりと肩を落としています。むう、私付きの侍女が揃って過労のようです。何が原因かは不明ですけど、もう一度仕事内容とシフト、それと真剣に福利厚生を考えた方がよさそうですわ。
「まあ、全部とは言いませんけれど、大方の貴族の子女方は、過大な自己顕示欲とか、自己肥大化した自我をお持ちで少々辟易しますので、ジルのように自然体の御令嬢は新鮮であるのは確かですね」
「――だが、モノには限度があろう」
苦笑いをしてフォローに回るルークに対して、ため息とともにプリュイが合いの手を入れます。その隣で、アシミが腕を組んでなにやら思案中です。
「自己評価……ですの?」
高い低い以前に、そんなもの考えたこともありませんでしたわ。
そもそもが物心つく前から、「ブタクサ姫」「醜女」「不細工」「リビティム皇国の面汚し」等々、陰口どころか父親以外の身内からも正面切って罵倒されてきたシルティアーナです。そこで過大な自己評価をしたところで虚しいというものでしょう。
「と言うか、評価なんてものは自分が決めるものではないのではないでしょうか? 努力や結果に対して勝手に付いてくるものですわ」
『………』
私の正論に対して、もの凄く不満そうな顔で黙り込む一同。
「そうだ、思い出した!」
と、そこで不意にアシミが膝を叩きました。
「“リビティム皇国のカトレア”――どこかで聞いたことがあると思っていたが、エルフの里で里長がジルの事を『カトレアの娘』とか『シルティアーナ』と……ぐはっ!」
その瞬間、私は考える前に反射的にアシミの背後を取って、そのまま裸締めのような形で頸椎を極め、一瞬でへし折る殺人技を仕掛けていました。
前世では禁じ手として型だけ教わっていた技ですが、まったく躊躇なく実行している私がいたりします。
「――それ以上はいけません、お嬢様」
ぎりぎりのところでロイスさんに制止され、はっと我に返って見れば、アシミが泡を吹いて椅子ごと仰向けに倒れて失神していました。
「……ふむ。骨は折れていませんな」
屈み込んだロイスさんが慣れた手つきでアシミをそっと抱え起こす傍ら、穏やかな口調で首の具合を確認します。
……むう。本来であれば極めた瞬間には終わっている筈ですのに、やはり鈍っていますわ。
考えてみれば前世の私は、修行と称して砂の入ったビール瓶で脛をガスガス叩いてカチンコチンにしたり、変形した拳タコをナイフで削って調整しながらサンドバックを叩いて腕力と耐久力を鍛えていたものですけれど、現在は仮にも女の子。柔らかな身体の線を壊さないように毎日の自主訓練も、耐久力と柔軟性を向上させる運動中心で、非力な分をカバーするよう努力しています。
あとは日常的に料理や刺繍をして女子力を鍛えているだけですが、こと戦闘力に関してはやはり弊害が出ていますね。
まあ、実戦になれば武器や魔法やその他 (フィーアとかバルトロメイとか)を使うので――卑怯に思われるかもしれませんが、スポーツ武術と違って古武術の場合、何でも使うのが常態ですので、それを禁忌だとするこだわりはありません――問題はないですけど、明確に前世に比べて衰えた形を実感すると、多少は凹むところがあります。
一方、ロイスさんが呼んだ男性の使用人らによって、担架で運ばれていくアシミの様子を横目に見ながら、
「考えずに不用意な発言をするからああなる――自業自得だな」
「強くて綺麗なんて完璧超人過ぎて反則だよぉ。貴族ってだけでも気後れしてるのに……」
「当然よ。ジル様はすごい人なんだから!」
呑気にはしゃぐプリュイ、リーン、エレンの三人。その様子に思わず私は苦笑しました。
こんな場合であってもマイペースを崩さず日常会話ができる女子の強さは、武術や精神修養を軽々とすっ飛ばした……ある種痛快さがあります。
(強い弱いって腕力とかで決定するものじゃないしね)
現在の自分のあり方を再度確認して、私は納得して姿勢を正しました。
それはそれとして、聞き分けのない人に静かにしていただいた私は、応接間を見渡して、
「女の子には秘密の一つや二つあるので、野暮な事を言ったり、不用意な発言をするとひどい目に遭いますわよ。――宜しいですわね?」
『…………』
そう笑顔で念押しすると、全員――特に男性陣――が一斉に腰の引けた姿勢で、運び出されたアシミが出て行った方向を眺めながら、ちょっと気合の入った仕草で大きく頷きました。
ばっちりですわ。やはり“主義主張は声高らかに言ったもの勝ち”という理論はこの世界でも万国共通のようです。
密かに満足していましたら、ルークが恐る恐る……という感じで手を挙げました。
「あの、それで結局、ジルとクララ様、いえズバリお聞きしますが、ジルとシルティアーナ姫とのご関係は教えていただけないのでしょうか?」
他の方々が小声で「聞くな、死ぬぞ!」と袖を引っ張って窘めているのを無視して、この話題を蒸し返すルーク。頑張りますわね。
もういっそ「私が本物のシルティアーナです」と告白した方が、面倒がなくて良いような気がしてきましたわ。
「実は私が本物のシルティアーナですの」
だから口に出しました。
刹那――
「「「「「「えっ!?」」」」」」
驚愕よりも『やっぱり!』と合点がいった顔で、皆様が目を見開きました。
「……と言ったらどうします?」
すかさず、なんちゃってオチを暗に示唆しながら、曖昧なままに話を進めます。
何ともいえない表情で顔を見合わせる皆様。ただ一人、ルークが意を決した顔で、ひとつ深呼吸をしてから、口を開きました。
「もし……もしもジルが本物のシルティアーナだとしたら、僕が逢った方のシルティアーナは偽物ということになりますよね? だったら、僕にとってそれはこの上ない喜びです」
「……えーと、それはつまり、以前逢ったシルティアーナがブタクサだったからですか?」
(結局はブタクサがそんなに嫌なわけですのコノヤロ!?)
そんな私の静かな怒りを肌で察したのでしょうか。ルークが慌てて両掌をこちらに向けて振りました。
「あっ。別にあの彼女が嫌いだからという訳ではないです。その……」一瞬、目を泳がせたルークですが、私の目をしっかり見詰めて、言葉を選びながら、続きを口にしました。「僕には他に好きな人がいるからです」
その唐突な告白を耳にして、ブルーノが露骨に顔を歪め、女性陣が爛々と目を輝かせました。
「はあ? そうなんですか……?」
……う~~ん、晩生そうに見えたけど、ルークも男の子だったのねえ。でも、12歳くらいで好きだの恋だの言っていても、それは単なる勢いとか恋に憧れた恋じゃないかと思うのですけれど。――そういえば私の初恋っていつだったかなぁ……?
ふと、なぜか夕日に染まった丘と、手を繋いで歩く男の子の姿が浮かんだ気がしました。
なんでしょう、これは?
「ちなみに好きな方というのはどんな女性なの?」
他人様の艶聞など果てしなくどうでもよかったのですが、普段冷静なモニカまでもが気合を入れて、親指を立てて先を促しているのが見えましたので、お義理で聞いてみました。
尋ねた後で、相手が女性でない可能性に思い当たって、密かに脂汗を垂らしましたけれど……。
「僕が好きな女性は……その」
ルークが挙動不審に私をちらちら眺めながら言葉を継ぎます。
「美人でスタイルが良くて、えー…と、だけど鈍感なところがあって……。結構あからさまなんですけど、僕の気持ちに全然気付いてくれなくて……」
「なんか、面倒臭い相手ですわね。そんな相手は忘れた方が宜しいのではないですか?」
「……いやあ、それができるくらいなら苦労はしないんですけどね」
私の心からの助言に対して、ルークがなにか自棄気味の乾いた笑いを放ちました。
◆◇◆◇
リビティウム皇国は20余りの国家からなる、いわば連邦国家である。
その盟主国として超帝国の信託を得ているシレント央国。
リビティウム皇国の屋台骨を背負う代表国であるが、国力としてはせいぜいが中規模国家であり、これといった産業や特徴のない、口さがない者達(特に国境を挟んだ西部及び東部域から)から「大いなる三流国家」と揶揄される大陸北部を代表する国であった。
それを危惧したせいなのかどうかは不明であるが、その首都『シレント』(国名と同名)は別名が『学問の都』と呼ばれる通り、超帝国の肝煎りで開校された『魔法学園』を内包する『皇立学園』が存在している。
その為、皇国はもとより遠く大陸の端の南部方面領や、海を隔てた諸島連合からも学問を修めるため、或いは箔を付ける為、貴族及び選ばれた優秀な学生が例年その門戸を叩くために訪れるのであった。
そんな皇都シレントの中央貴族街にあって、一際広大かつ壮麗な屋敷があった。
リビティウム皇国でも最大の領土を構える屈指の大貴族、オーランシュ辺境伯の皇都での別邸である。
別邸とはいえ、基本的に国務に携わる辺境伯コルラード・シモン・オーランシュ自身が年の大半を、遠く離れた領土ではなくこの屋敷で過ごすために、ほぼ本邸と化しているが。
本日の職務を終え帰宅したコルラードは、にこにこと人の良い笑顔を浮かべて、テーブルを挟んで食後のデザートを食べている愛娘たち――五女のシルティアーナと六女のエウフェーミア――の様子を眺めていた。
「どうかな。お隣の帝国のとある貴族が直営で作らせているという、評判の菓子の新作は? 前に土産に貰った菓子を二人とも随分と気に入ったというので、急遽取り寄せてみたのだが?」
訊くまでもなく、揃って黙々と林檎のコンポートを使ったタルトとチーズケーキを頬張っている二人の様子に、コルラードは蕩けるような笑みを浮かべる。
「いやいや…それにしても良かったよ。半年ほど前から食欲が失せてきたというので、心配していたのだけれど、随分とこれは気に入ったようだね、シルティアーナ」
その言葉に、一心不乱にタルトを味わっていたシルティアーナが、少しだけすっきりしてきた顔を上げて、懐かしげにタルトに付いている琥珀色のソースを眺めた。
「う……、食欲がない、わけではなくて……少し抑えて、まし…た。……でも、この甘味は懐かしくて、美味しかったから……つい」
「――ふん。確かにこのお菓子は自制を無くす美味しさですわね」
あっという間に空になった皿を見て、どこか悔しげにエウフェーミアが唇を尖らせた。
「流石は帝国……といったところかしら。ただ砂糖を使って甘いだけのこちらのお菓子とは全然違うわ。田舎国家呼ばわりされるのも、やむなしってところね」
「これ、多分、樹液……甘い液を出す。懐かしい……」
「ご存知ですの、シルティアーナお姉様?」
「………」
はっとした表情で、口篭る姉の様子に首を傾げるエウフェーミア。
そんな彼女達の様子を愉しげに見ていたコルラードだが、悪戯を仕掛ける子供のような表情でウインクをした。
「ほう、やはり相当気に入っているらしいね、シルティアーナ。――なればこそ、実はこのお菓子を、皇都でももっと手軽に食べられるようにしたいと思ってね。帝国のエイルマー殿下に伝手があるとの事なので、殿下にお願いしてこちらでも販売してくれるよう便宜をはからって頂いたんだよ。上手く行けば来年あたりにここでも、毎日のように食べられるようになると思うよ」
もっともその交換条件として、シルティアーナとあちらのルーカス殿下との縁談話を3年間延期され、なおかつ当人達の自己判断に任せるとの言質を取られ、実質的に白紙にされたのだが。
(まあ、ルーカス殿下の留学も決まったことだし、こちらの手の内にあればやりようは幾らでもある)
自分の言葉に素直に目を輝かせる二人の様子に目を細めつつ、コルラードは胸中でそう呟いた。
「なんでも、これを作っている貴族にはシルティアーナと同い年の娘もいるそうだ。場合によってはルーカス殿下に随行して留学するそうなので、仲良くしておいても損はないだろう」
「そう……ですね」
力なく頷くシルティアーナと、向かい合わせでテーブルに座るエウフェーミアが、子供らしく興味津々という顔で身を乗り出した。
「ルーカス殿下って姉様の婚約者候補の? その知り合いで随行してくるなんて、ひょっとして恋人とかじゃないの?」
まだ9歳だというのに一端の顔でそんなことを口にする娘の様子に苦笑いしつつ、コルラードは肩をすくめた。
「さてさて、そうであれば強力な恋敵と言うことになるかも知れないな」
「私は……別に」
自暴自棄――というよりも、達観した様子で下を向く姉の様子に、一転して白けた表情でエウフェーミアは腰を落ち着けた。
「いつもそれね、シルティアーナお姉様。……まあいいわ、その時になって慌てても、あたしは知らないから」
憮然と憎まれ口……というよりも忠告をしてくれるエウフェーミアの言葉を俯いて聞きながら、シルティアーナは、先ほど口にした懐かしい樹液の味を反芻して、そっと微笑んだ。
この味を知っている相手になら会ってみたい、そう思いながら。
メープルシロップを使ったお菓子をシルティアーナ(偽)が巡り巡って食べるという展開は、以前に感想でいただいたアイデアを元にさせていただきました。ありがとうございます。




