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リビティウム皇国のブタクサ姫  作者: 佐崎 一路
第二章 令嬢ジュリア[12歳]
59/337

男たちの試合とハダカのお付き合い

遅れた上に短いです。申し訳ありませんm(。≧Д≦。)m

 起伏に富んだ丘と森、ちょっとした野原を澄んだ小川が流れ、ここからは見えませんが森の奥には水精の棲む泉や沼湖(こしょう)があり、その畔には数十人規模の村まで抱えるブラントミュラー邸の裏庭(ちなみに、もともとこのあたり一帯は国有地でしたので、村と村人たちは不法居住者ということになりますが、基本的に未開拓地に関しては先住権もあることから、クリスティ女史は村の代表者と話してそのまま共存の方針を建てました)。


 そんな、広大と言う言葉も阿呆らしい裏庭……まあ実際に整備された裏庭から続く私有地と言う形になりますが、そんな屋敷に近い草原の只中に裂帛(れっぱく)の気合と、木と木がぶつかり合う音が響いていました。


「なかなかブルーノの奴も頑張りますね」

「そうだな。最初はアシミも舐めていたようだが、いまはかなり本気のようだ」

「当然です。先輩は毎日、訓練所の稽古の他、自主訓練も欠かしていませんから!」


 距離を置いて対峙しているブルーノとアシミを眺めながら、順にエレン、プリュイ、リーンが感想を口に出します。

 やがてジリジリとした睨み合いは、ブルーノの猛烈な上段からの斬撃によって均衡が崩されました。


「てやっ! とうっ!!」

「ふんっ! はっ! まったく…勢いと力任せの猪武者が!」

「そっちこそ、カウンター狙いのチマチマした反撃ばかりしやがって、セコイんだよ!」


 お互いの手には練習用の木剣(ぼくけん)が握られています。

 その刃に当たる部分が交差する毎にカコーン!という陽気な音が、裏庭に木霊するのでした。


「いまさらですが。どうして三人揃って模擬戦をすることになったのでしょうか……?」


 直射日光を避けるために着た懐かしのフード付きローブの陰から、思わずこぼした私の愚痴を耳にして、同じく木剣を手に自分の番を待っていたルークは苦笑いを浮かべました。


 眉根を寄せる私の顔を横目に見ながら、歯切れ悪く目を泳がせるルーク。

「いや、その……お互いに町で偶然に会って、自己紹介をしていたら何故かそんな流れになってしまいまして……えーと、それで、どうせならジルの見ている前で、公正に勝負をしようということになったんですよ」


 なるほど、わかりません。


「つまりは馬鹿な男達の意地の張り合いだ。景品……もとい、共通の友人として生温かく見守ってやるといい。ついでに勝った相手に口付けでもしてやれば喜ぶぞ」

「駄目ですっ!!」


 気楽な口調で茶々を入れるプリュイの言葉に被せるようにして、即座にエレンが駄目だしをします。それに同意するかのように、横にいるフィーアとラナもコクコクと首を縦に振りました。


「……? 別に頬に口付けするくらいなら、私は構いませんけど?」


 前世、日本人としては若干抵抗もありますが、この世界の常識として、親愛の挨拶にキスやハグをする習慣があることは理解しています。また、普段のこの口調や物腰などと同様に、シルティアーナとしてこの身体が自然と受け入れているので、余程嫌いな相手でもない限り、ほとんど条件反射でそれらを実行することは可能でしょう。

 実際、寝る前とか同じ部屋に居るフィーア相手に、おやすみのキスするとかは普通にしてますから。……まあ、今回の場合は相手がやられて嬉しいかどうかはわかりませんが。


「「えっ?!――――ぐはっ!?」」


 その途端、激しく木剣を交差させ、鍔迫り合いをしていたブルーノとアシミの二人が突然腰砕けになり、鈍い音をとともにブルーノの剣がアシミの上腕部を、アシミの剣がブルーノの胸を同時に叩いていました。


「相討ち……かしら?」

「そうだな……」


 せっかく良い勝負をしていると思っていたところで、いきなり注意力を散らした二人の不自然な姿に首を捻る私と、悶絶する彼らの姿を交互に眺めプリュイがため息を付きます。


「……とは言え、いまのは流石に同情するな」

「「いや、ないと思います」」

 プリュイの慨嘆に対して、エレンとリーンの二人が憮然と反論しました。


「取りあえず治療しますね。――“我は癒す、汝が傷痕を”」

 幸い二人の怪我は単純な打撲でしたので、その場で私が【治癒(ヒール)】を施して両者引き分けとして――かなり二人ともゴネましたけれど――その後も、相手を変えて勝負は続き、最終的に総当りで『アシミ>ルーク』『ルーク>ブルーノ』『ブルーノ=アシミ』という形で決着が付きました。


 内容的にはルークのスピードに翻弄されながらも(私も驚くほど速度が上がっていました)、左右の連撃の癖を見破られてアシミのカウンターがギリギリ成功した勝利と、それを見て次に対峙したブルーノが途中で同じカウンター狙いをしたところ、その裏をかいてルークが勝利した、というというところですね。


 そんなわけで、この対戦成績だとほとんど実力に差がなく、また圧勝したという者もいませんでしたので、今回は勝者なしという形で決着となりました。なので勝者への口付けもなしです。

 そう宣言した途端、三人ともガッカリしたようなホッとしたような顔をしていた気がしますけど、多分気のせい……かな? 多少は期待させたのでしょうか? う~~ん、判断に迷うところです。




 ◆◇◆◇




「お風呂を沸かせました。汗をかいたでしょうから、皆さん入っていってください。その間に着ているものはお洗濯しちゃいますので」


 にこやかにジルから告げられた内容は、暑い最中に動き回って汗まみれになった身には有り難い申し出だったが、『皆さん』という言葉に、思わず眉をしかめて男性陣三人がお互いの顔を見た。


「ああ、うちのお風呂は大きいので、大人5~6人で入っても余裕がありますよ。それとも、まさかジルお嬢様の好意を無下(むげ)にして、このまま汗臭いままでいるとか……言わないですよねえ?」


 凄みすら感じられるエレンの笑顔で告げられた恫喝(どうかつ)……もとい、再度の確認に、男達は若干顔を引き攣らせながら、ラナの案内でそそくさと浴室へと向かうのだった。




 ◆◇◆◇




 湯船から木桶ですくったお湯を、頭からザバッとかける。それから用意してあった石鹸を泡立て、無造作に頭をゴシゴシと洗う。

 意外と豪快なそんなルークの仕草と、それなりに鍛えられた体つきを横目に見ながら、ブルーノは糠袋(ぬかぶくろ)でもって身体を擦り付けるように洗ってはお湯で(すす)ぎ、さらに洗っては濯ぎを繰り返していた。


 ちなみにアシミはトロけた表情で、大きな湯船で伸び伸びと手足を伸ばして鼻歌を歌っている。もともとエルフは暑い日などに沐浴はするが、風呂に入る習慣はない。それがなぜここまで馴染んでいるかと言うと、初めてこの屋敷を訪れた際にジルに勧められて、しぶしぶ入浴したところすっかり嵌り、それ以後はここまで来ると必ずひと風呂浴びて、キンキンに冷えたエールを嗜んで、酒のつまみにジルの作る精進料理を食べてから帰るのが習慣のような形になっているからだった。

「なんだかんだ言って、お前(アシミ)は私以上に人間族の生活に慣れ切っているように見えるのは気のせいか?」

 とは、屋敷に住まずに近くの森にツリーハウスを建てて住んでいるプリュイの言い分である。


「変わったものを使っているね。それはなんだい?」


 しっかりとタオルで髪の水分を拭いながら、ルークがブルーノの持っている糠袋を指差して聞いてきた。


「糠袋、中に米の糠が入っている。石鹸なんて高級品、俺らは使えないから。石鹸代わりに使うのが、うちの村では普通だ。――ま、最初はジルが考えたんだけど」

「へえ、ちょっと使わせて貰ってもいいかな?」

「構わないけど、石鹸に比べりゃ、やっぱし代用品だから効果は落ちるぞ」

「面白そうだからね。それにジルが考えたってのが興味あるし」


 屈託なく笑いながら、ルークは渡された糠袋で二の腕の辺りを擦りはじめる。


「ふんふん、なるほど、独特のヌメリだね。それにしてもジルもいろいろやってるんだね」

「まあな。ジルは凄いんだぞ、衛生環境の充実が必要だっていって、村に共同風呂を作るよう提案したり、村の周りの魔除結界を強化したり、畑の収穫を増やす肥料を考えたり」


 感じ入った表情で、糠袋を使って身体を磨くルークの隣で、何故かブルーノが胸を張った。


「――いちおう、そのあたりの事はいつも(、、、)遣り取りしている(、、、、、、、、)手紙で、簡単に聞いてはいるんだけどね。実物を見ると感無量だね」

「ふふン。俺は村に居るときから、実際に(、、、)顔を見合わせている(、、、、、、、、、)けどな」


 勝ち誇った顔で、最後に湯船からすくったお湯で身体を流したブルーノが、『のしのし』という擬音が付きそうな足取りで湯船に向かう。

 そんないっそ清々しい、同い年の少年が真っ直ぐ向ける対抗心に内心苦笑しながら、ルークもこの話題に関しては譲るつもりはなかったので、ちょっとだけそれに応える形でほのめかせた。


「ジルがいつも左手に付けている指輪があるだろう? あれは前に僕が贈ったものなんだ」

「……な、なにィ?!」


 湯船の中でお湯を掻き分けながら姿勢を変えるブルーノ。顔に掛かった飛沫を、アシミが鬱陶しげに拭いながら口を尖らせた。


「風呂の中では静かにしていろ小僧。それと、そっちの方もモノで釣ったことを得意げに自慢するとはな。……ふん、貴族とは言えやはり人間族(ビーン)ということか」

「うるせえなあ、男同士の話だ。外野はすっこんでろ!」

「申し訳ありません。ですが、貴族という括りならジルも同じ貴族ですが?」


 少年二人の反論に対して、アシミは余裕たっぷりの表情でせせら笑う。


「ふん。いちおうジルは我々(エルフ)にとって義理の兄妹のようなものだからな、身内(、、)のようなものでもある。だいたい先ほども『いつものお豆腐を中心にした精進料理を準備しますね』と、明らかに俺を意識して献立を考えてくれていたろう」


 ワザとらしく『身内』を強調するアシミ。一瞬むっとした少年二人だったが、それからどことなく陶然とした顔つきで、「あの豆腐料理の旨さだけは認めよう」と付け加える彼の顔を見て、『……ああ、胃袋を押さえられたんだな』と察したのだった。

ジルが精進料理を作れるのは半分自分用です(あと水は一応軟水ですが硬度が日本よりやや高いため、お豆腐も硬目の設定です)。


2/18 誤字訂正いたしました。

×無碍→○無下

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