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リビティウム皇国のブタクサ姫  作者: 佐崎 一路
第二章 令嬢ジュリア[12歳]
56/337

里の特産品と友人の腕輪

遅れて申し訳ございませんでした。

 葡萄酒(ワイン)というものは樽に入れて熟成させます。その熟成中に、アルコールが蒸発して消えることを『天使の取り分』というそうです。

 大体年間に1~3パーセントが蒸発するので、10年寝かせると1割から3割減る計算になります。天使は飲兵衛ですわね。


 ちなみにエルフ達は葡萄酒(ワイン)をはじめリンゴ、梨、プルーン(いずれも「ようなもの」と但し書きが付きますけれど)を使った果実酒、変わったところでは蜂蜜酒(ミード)なども作って、嗜んでいるようです。

 結構、エルフ族もドワーフ族に負けず劣らずお酒好きだと思うのですけれど、そんなことを面前で口に出したら、確実に気を悪くして臍を曲げますわね。


 なお、葡萄酒は熟成のピークを迎えてから飲むそうですが、それでもなお消費し切れなかったり――基本的に自然任せの森の収穫ですので、その年によって当たり外れのバラつきはあるそうですが、エルフは精霊魔術の恩恵もあるので毎年極端な不作と言うことはなく、かなりの量が残るそうです――加工した食料につきましては、長期保存の魔法を掛けた上で、土と水の精霊にお願いして作った氷室(ひむろ)に安置してあるそうです。

 千年樹の(うろ)を利用して作られたそこを、入り口から少しだけ見せていただきましたが、葡萄酒だけでも天使が一個師団で100年は酔っ払える位の量がありました。


「まあただ置いておくだけというのも勿体ない話ですので、放出することに関しましては問題はないのですが」

「勿論、代価に関しましては出来る限り勉強させていただきますわ」


 プリュイとアシミを連れて案内してくれたウラノスさんに、力強く断言しました――が、

「ハッ! 人間族(ビーン)はすぐにそれだ。“金”なんぞ不浄なモノは我らエルフには必要ない」

 アシミはそれを一笑に付します。


 プリュイも口にこそ出しませんが、無言で同意を示していました。

 まあ、確かに金属アレルギー持ちのエルフに硬貨を渡しても、単なる劇物ですよね(各国の硬貨はまちまちですが、基本的にどれも錬金術で作られた合金らしいです。国によって割合は違いますが、純金・純銀でないとエルフは触れません)。


「別に代価がお金とは限らないのでは? 昨日の宴に出てきた酒器や食器など、あれは外部から購入したものですよね。そうしたものや、南部の香辛料(スパイス)などといった、この里で自給できないものとの交換を希望しております。そして、なにより相互理解により里が賑やかになることが肝要なのではないでしょうか?」

「別に人間族(ビーン)なんぞと関わらなくても問題はない。これまでもほぼ里だけで自給自足できていたんだ。器具だの香辛料(スパイス)などは、他の物でも代用できる」

「まあ、ヒキコモリを非難するつもりは毛頭ございませんが。ですがたまには外へ遊びに出てみるのも楽しいものですわよ。世界は広いのですから、別に人間族に限定せずに様々な種族との出会いや、思いがけない発見もありますから」


 憮然とソッポを向いて吐き捨てるアシミ。それと違い、プリュイはその目に憧憬を浮かべて私の話に聞き入っていました。


「確かに、狭い里に閉じこもっているばかりでは見えないものもありますし、価値観も知らず偏ったものになってしまいますからね」


 苦笑するウラノスさんのコメントを受けて、その場にいた全員の視線が、いまだに人間族に偏見MAXのアシミに集中しました。うおっとアシミは仰け反って、あー、とか、うー、とか言いながら圧力に耐えかねたかのように明後日の方向を向きます。


「それにしてもウラノス様は、随分と話のわかる方ですわね。正直申し上げて、もっと面倒な話し合いになるかと思いましたのに」

「まあ、私は昔から閉塞的な里があわずに、ちょくちょく抜け出しては、あちこち気儘にぶらついた口なので」

 苦笑して肩をすくめるウラノスさん。

 意外とフリーダムな妖精王ですわね。人間界の王族とかでは考えられない気楽さですが、その辺りの柔軟さがトントン拍子に進む話の土台になっているのですから、何が幸いするのかわかったものではありませんね。


 そういえば……話がわかると言えば、なぜか一夜明けた今朝からエルフの方々の態度も、形式的なモノではなく感情的に、かなりフレンドリーになっている気が致します。


 やはり無礼講を標榜した宴席で、楽しく膝突き合わせてお付き合いをしたのが効果的だったのでしょうね。

 とは言え、今朝はなにげに起きた処が昨夜の広間で、楽師が座っていた演壇に着崩れしたドレス姿のまま横になって、両手と太股の間に酒瓶を抱えて熟睡していた自分の姿を確認した時には、イロイロと“やっちまった”感が半端なかったですけれど……。


 ちなみに周囲には途中で沈没したらしいエルフの男女が、あられもない姿で高鼾(たかいびき)をかいて、妖精に対する“高貴”とか“優雅”とかいう幻想をぶち壊していましたけれども……まあ、これに関しては相討ちということにしておきましょう。


 ただ一人、爽やかな空気を纏ったまま上座に座っていた里長のウラノスさんだけが、平然と杯を空けながら起きた私に挨拶を送ってくださいました。


「おはよう、ジル。昨夜はお楽しみでしたね」


 なぜそのネタを知っているわけですの?!

 そ、それともまさか本当に昨夜は何かあったわけですか!?


「……おはようございます。あの」

 俄かに不安になって尋ねようとしたところで、

「冗談ですよ。ちょっと羽目を外したようですが、楽しく飲んで騒いでいました」

 と、あっさりと機先を制せられました。


 この方、人畜無害そうな見た目とは裏腹に、結構いい性格をしてらっしゃいます。この場合の『いい性格』というのは『性格が良い』とはまた別ですので悪しからず。


 ジト目で見る私の無言の抗議も蛙の顔に何とやら、

「飲みますか? 今朝集めたばかりの千年樹の朝露を濾した清水です。気分が落ち着きますよ」

 持っていた玻璃(はり)の瓶の中身を、新しい杯に入れて持って来てくれました。


「……いただきますわ」

 衣装を素早く手直しして――こういう時、魔法の掛かったドレスは皺とか、型崩れせずに便利です――威儀を正した私は、ありがたく杯を受け取って冷えた朝露を一息に飲み干したのでした。


「それで、今日はどうしますか? 何もないところですが、里を見て回るようでしたら案内しますが」

「観光も興味深いですが、それよりも私としましては昨日できなかった『実務的なお話』をしたいと思います。それと、一点お願いしたいことがあるのですが」

「ほう。どのようなことでしょうか?」


 瓶を抱えたまま興味深げに目を細めるウラノスさんに向かって、私はもともとこの北部地帯にやって来た目的を話し始めました。

 ふむふむと話を聞いていたウラノスさんですが、聞き終えたところで膝を叩いて破顔一笑しました。




 ◆◇◆◇




 大樽一杯に集められたほんのり甘い透明な樹液を、陶器製の鍋に移してゆっくりと煮込みます。

 前世の記憶によれば、だいたい通常40リットルの樹液を煮詰めて1リットルのメープルシロップができる……ということなので、40分の1になるまで煮込めば良い計算です。

 差し引き40分の39の水分が蒸発するので、煮込む作業は必ず外で行う必要があります。家の中が湿気でエライコトになりますからね。やがって液体が琥珀色になったら火を止めて、熱いシロップをタオルなど布で濾過して冷ませば、メープルシロップの出来上がり――


「甘いっ!」

「驚いた、こんな簡単に甘味が採れるとは!」

「これは良いな」

「だが傷つけたカエデの木の手当ても必要だろう」

「まあ採れる期間は年間2巡週程度らしいし、我々(エルフ)であれば問題になる事もあるまい」

「逆に人間族(ビーン)に知られたら、またもや無秩序に森の木を傷つけられる可能性があるからな。これは知られないようにした方が良いのでは」

「だが、これを教えてくれたのはその人間だぞ?」


 その言葉で、はたと気が付いたのでしょう。集まったエルフ達の視線が、同じく味見をしていた私たちに集中しました。


 一方、私とエレンは、煮詰めた樹液――メープルシロップを、指ですくって一口食べたところで、涙目になっているラナを揃って慰めていて、それどころではありません。


「……甘い。甘い液だ。お姉ちゃんと舐めたのと同じ……」


 うるうるしているラナを撫でたり抱き締めたりしていると、やや躊躇いがちにウラノスさんが声を掛けてきました。


「ジル、本当にこの“メープルシロップ”の製法を我が里で独占して構わないのかね?」

「ええ。もともと趣味のようなものですし、製法を伝えて北部地域の産業の一環になれば御の字……程度の認識でしたので、その相手が人間族からエルフ族に移っても『北部地域』という括りでは変わらないでしょうから。それに、植物のことは人間族よりもエルフ族の方が遥かに博識ですので、お任せしたほうが私としても安心ですので」

「うむ、餅は餅屋、海の事は漁師に問えという通り、物事は専門家に任せるのが吉であろう」


 バルトロメイも同意したところで、周囲のエルフ達も“植物の専門家”としての自負と自尊心がくすぐられたのでしょう、自信有りげに「無論だ。これよりも遥かに旨いメープルシロップを作ってみせよう」と胸を張って太鼓判を押します。


 そんな仲間達の様子を、プリュイが意外そうな顔で……そして嬉しそうに見詰め、アシミは苦々しくも複雑な表情で、憮然としながら小皿に取り分けたメープルシロップを舐めていました。


葡萄酒(ワイン)とメープルシロップ、里の産業としては充分ですね。特にメープルシロップの製法はありがたい。これを無償で提供してくれるというのですから、私としては充分な償いと捉えても構わないと思います」


 にこにこと微笑みながら、同じく味見をしていたウラノスさんの言葉に、里の面々も『まあ、仕方ないか』という顔で頷いたところで、空気を読まずに反対したのは勿論アシミです。


「まてまて、人間族(ビーン)なんぞ信用しても裏切られるのがオチだぞ! 粗野にして野蛮、卑劣なこいつらを俺は信用しない、騙されるな! ――本当の目的はなんだ?!」


「平和、夢、希望、友情、愛情、ついでに美味しいお菓子でしょうか」

 いいかげん既視感(デジャヴュ)を感じる遣り取りに、辟易しながら答えます。

「ついでにいうと、こちらの入植地の規模と人員は、廃村も視野に含めて大幅に減らすとともに、荒地となった森の再生には、植林等で回復の為に全力を尽くす所存です。あと、責任者の首が欲しいのであれば、私や男爵である養母(はは)も含めて覚悟は決めております」


 私の言葉にエレンとラナが血相を変えて、私の翻意を促すべく取り縋ります。


「な、なに言ってるんですか、ジル様!? 悪いのはあの馬鹿村長親子と村人じゃないですか!」

「ジル様、悪くない! 死んじゃいやだ!」


 ですが、責任の所在を突き詰めれば現段階では私が最高責任者ですので、『エルフ側の要求を全面的に受け入れる』と決めた段階で覚悟していた事です。


「――こほん。悲痛な決意に水を差すようで、少々申し訳ありませんが」ウラノスさんは軽く肩をすくめて、「別段、誰かが命を落としたわけではありませんので、そうした血生臭い要求を行う予定はありません。無作為の伐採を止めていただければ問題ありません。それと植林等といって人工的な森を作るのも必要ありません。我々も手助けしますが、まあ……200~300年もあれば森を再生させることは可能でしょう」


 あっさりとこちらの決意を躱されて、正直拍子抜けいたしました。

 と言うか、植林の問題点である潜在自然植生の回復の難しさをあっさり看破するあたり、流石は妖精王といったところですわね。


 実際、植林をする場合は、『単純に緑を復活させる』『伐ってなくなった有用な樹種を増やす』『多様な森林生態を蘇らせる』とその方向性が分かれるわけですが、一番難しいのが最後の『多様な森林生態を蘇らせる』方法です。


『単純に緑を復活させる』のであれば、いま北の開拓村で行っているやり方、伐採した後を何もしないで放置しておけば、20~30年で素人目には元の森と区別がつかなくなります。けれど、こうした場所には明るい日差しを好む先駆的(パイオニア)植種が先に生えてくるのですが、こうしたモノは生育は早いですが得てして大木にならず、樹齢を重ねない森が生まれるだけです。

 他方、森林資源として緑の回復を求めるのであれば――私も当初は、用材としての価値を求めてこの方法を推奨しようとしましたが――植林は効率的で有効でしょうが、そこに生まれるのは似た様な植種で統一された人工林となってしまいます。


 ウラノスさんにこれらの問題点をあっさりと、暗に指摘されて私は内心舌を巻きました。

 それに森の再生に必要な単位を、何事もないように世紀でカウントするあたり、やはりエルフと人間とではタイムスケールが違います。


「し、しかし、俺達の目の届かないところで、何をするかわかったものでは……」


 なおもしつこく言い募るアシミ――半ば意地になっているのは誰の目にも明らかです――を相手に、辟易した様子もなく、穏やかに笑っていたウラノスさんですが、訴えを聞き終えたところで「なるほど」と得心した顔で掌を叩きました。


「つまり自分の目で確認したいというわけですね。里を出て人間族とエルフとの橋渡しとなり、その目でその耳で真実を知りたいと……素晴らしいことです。人間達と里とが交流を行うとなれば、『銀の星(アシミ・アステリ)』、貴方のような若者が率先して時代を切り拓く必要があるでしょう。

 貴方の意思は、この『天空の雪(ウラノス・キオーン)』の名において間違いなく聞き入れましょう。皆の者も宜しいですね?」

「「「「「はいっ、長っ」」」」」


「………はい? いやいや、ちょっと待ってください、長。なんで俺がそんなことを?!」


 当人を外して勝手に進行して行く“何か”に、いまさら危機感を覚えたようで、ウラノスさんにアシミが詰め寄りますが、

「いいですかアシミ。この里はいま緩やかに停滞したまま衰退しようとしています。『雨の空(プリュイ・シエル)』以降、140年以上も新たな生命が誕生しないことが顕著な例でしょう。

 他種族を排斥して、自らを唯一のものと定め相互理解や交流、協力を軽んじた結果が、この衰退であり孤立であります。いまの我々には新しい風が必要なのです。その役目を担う者として――アシミ、若い貴方が名乗りを上げてくれるのであれば、これ以上に喜ばしいことはありません」

 懇々と説得されて、その表情を困惑から理解……そして、最終的にはやたら使命感に燃える表情へと変化させて、彼は何度も頷きました。


 綺麗に話をまとめ様としているようですが、面倒臭そうな事を面倒臭そうな青二才に丸投げして、自分は安全地帯にいるように見えるのは、私の気のせいでしょうか?


「新しい風、それを俺に期待されているのですね、長!」

「そうです、貴方にはこの里の中ではなく、外に出てそれを学んで欲しいのです」

「わかりました。微力ですが確認して参ります。人間族(ビーン)がいかに愚かでエルフの足元にも及ばないお粗末な連中であるか……を」


 力一杯断言するアシミを前に、ちょっとだけ頬のあたりを人差し指で掻いて、ウラノスさんは首を巡らせて、ゲンナリした表情でその様子を眺めているプリュイを見ました。


「プリュイ、申し訳ありませんが念の為に、貴女も交流の為に協力していただけませんか?」

 いきなり暴走しているアシミに対して、流石に危機感を覚えたのでしょう。猫の首に鈴をつけることを決めたようで、その役目をプリュイに振りました。


「……まあ、私はもともと人間族の暮らしに興味がありますから、願ってもないことですが」

 ちらりと明らかにお荷物になりそうなアシミを見ます。

「年がら年中、これの尻拭いをするのは御免被ります」


「どういう意味だ?!」

 激高するアシミをあからさまに無視するプリュイ。


「まあ、そのあたりの調整はこちらで行いましょう。――それとジル、これを貴女に差し上げます」


 苦笑したウラノスさんは、そう言ってゆったりとした衣装の袖のところから、木製の輪の様なものを取り出しました。


『長、それは――!』


 周囲の動揺を無視して渡されたそれをしげしげと眺めました。何かの木の枝でしょうか。仮漆(ニス)を塗ったわけでもないのに、つやつやと不思議な光沢と弾力があります。


「正真正銘、世界樹(ユグドラシル)の枝で作った腕輪(ブレスレット)です。『妖精王』の名において私が貴女に友人として贈ったものです。この大陸のどのエルフに見せても、貴女が私の友人である事を示す証しとなるでしょう。世界樹の祝福があらんことを」

「! そのような貴重なモノを!? あ、ありがとうございます。何と言っていいか……残念ですが、いまの私では何もお返しはできません。ですが、もしも私の力が必要になれば、いつでもおっしゃってください。どんな時でもイの一番に駆けつけますわ」

「ふふふ、将来の聖……いえ、癒し手にそう言っていただけると心強いですね」


 悪戯っぽく笑うウラノスさんに手振りで促されて、私は世界樹の腕輪を邪魔にならないよう左手に付けました。

 途端、ぶかぶかだった腕輪が私の手首に合わせて縮まります。とは言えきつ過ぎず緩すぎず、ちょうど良い加減です。


 その瞬間、ふわりと目の前を半透明な昆虫のような羽を持った、小妖精(ピクシー)のような存在が、何体も通り過ぎたり、私やエレン、ラナ、フィーアの他、エルフ達の周りを飛び回ったり、くすくす笑いながら羽を休めたりしているのが目に入りました。


「……これは、もしや精霊?」

 広げた掌の上に腰を下ろして笑う彼等(見た目は中性的で性別があるようには見えませんけれど)の様子に目を丸くする私を見て、エルフ達が軽く驚きの表情を浮かべました。


「ほう。見えるのですか。人の子とは思えない感知能力の高さですね。……ですが人の世では、見え過ぎる(、、、、、)というのも問題でしょう。プリュイ、今後はジルに付いて精霊魔術について教えてあげなさい」

「わかりました。彼女は光と水の精霊と特に親しいようなので、私との相性も良いでしょう」

 プリュイがどことなく嬉しそうに頷きました。


『カトレアの娘、ジル――シルティアーナは見ての通り精霊の友であり、我天空の雪(ウラノス・キオーン)の友である。以後は里の全ての者達はわだかまりを捨て、彼女を同じ枝の兄弟として遇することを、ここに宣言するものである!』

『はっ。我ら千年樹の枝(ミレニアム・ラームス)の兄弟一同は、シルティアーナを兄妹とすることを、世界樹(ユグドラシル)の名において誓いましょう』


 エルフ語に切り替えてのウラノスさんの宣言を受けて、その場にいたエルフ一同は――アシミも憮然とした顔ながら――唱和しました。


『あの皆様、どうぞよろしくお願いいたします』

 気の利いた挨拶が思い浮かばなかったので、私は取りあえずそういって一礼しました。


「これで貴女は誰はばかることのない身内です。この関係が末永く続くことを、心から願っていますよ」


 にこやかなウラノスさんの言葉を受けて、私の周囲にいる精霊たちが、まるで祝福するかのようにくるくると光を放ちながら飛び交っています。


「――ふん。プリュイだけではまだ未熟で心配だからな。まあ、暇があれば俺も精霊との交感を手伝ってやる。あくまで精霊の為にな」

 その様子を見ながら、やや蚊帳の外になっていましたアシミが、偉そうに上から目線で協力を申し出てきました。


「「「ツンデレか!?」」」


 事の成り行きを見守っていた全員が同時にツッコミを入れました。


「はあ……よろしくお願いいたしますわ」

 この世界にもツンデレなんて俗語があるのね……と思いながら適当に返事をすると、アシミは満足そうに頷きました。


 何はともあれ、こうして私とエルフとの交渉は平和的に幕を閉じたのでした。

2/2 誤字修正しました。

×葡萄酒(ワイン)というもは樽に入れて熟成します→○葡萄酒(ワイン)というものは樽に入れて熟成させます

×自身有りげに→○自信有りげに

×ちょっとだけ頬をあたりを→○ちょっとだけ頬のあたりを


3/5 

×相互理解や交流、強力を軽んじた→○相互理解や交流、協力を軽んじた


メープルシロップの製法については、WEBサイトを参考にさせていただきました。

植林等につきましては『砂漠緑化への挑戦』『「森を守れ」が森を殺す!』を参考にいたしました。

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