進撃のコッペリアと神祖吸血鬼の恐怖
おかしいな……? 2000文字くらいで終わるはずだったのに、コッペリアが勝手に動いて3倍くらいになってしまった(´・ω・`)
ジルと黒騎士が激突したのとほぼ同時刻。
窓という窓が完全に塞がれ、密閉され、暗闇に包まれた古城の広間に、血の香りが漂う。
クルトゥーラ城第四階――。
意図して各階に配置されていた――或いは偶然そんな形になったのかも知れないが――いわば『中ボス』とも呼べる存在。〈道化〉と呼ばれる神祖吸血鬼は、おそらくは貴族の令嬢だったのであろう十代後半の女性の首筋から、鋭い牙の生えた口元を放して、まるで飲み終えた空っぽの瓶を放り捨てるかのように、片手で軽々と彼女の亡骸を投げ捨てた。
それから二手に分かれてやってきた相手を見て、あからさまに失望の態度を示す。
「なーんだ、せっかく〈聖女〉の血を期待したのに、出来損ないの機械人形か」
愛用のモーニングスターを手にした、いつものメイド服姿のコッペリアは、特にその行為や態度を咎める様子もなく、軽く小首をかしげて仮面を外した〈道化〉の素顔をまじまじと観察する。
「男女の差はありますが、あのチビ初代聖女と90%共通点がありますね。双子か兄妹ですか?」
「いや、単なる他人の空似。偶然の一致」
軽く肩をすくめながら、いつもの笑い顔を模した仮面をかぶり直す〈道化〉。
「そうですか。なら一切遠慮は無用という事ですね。――まあ、仮に身内だとしても、気づかいや遠慮する気はまったくありませんが」
「おやおや。たかだか原住民の錬金術師が造った、人造人間ごときが、最初の〈神人〉にして〈神祖〉であるこの私にずいぶんな大口を叩くねえ。身の程知らずが過ぎて、ちょっとムッときたよ」
心底不満そうに仮面の奥であからさまなため息を漏らす〈道化〉に対して、コッペリアは全くマイペースを崩すことなく、
「ワタシとしても、半腐れの死体の親玉如きを相手になどしたくないのですが、邪魔なゴミを片付けるのもメイドの仕事なので仕方ありませんね」
そう答えるや否や、手にしたモーニングスターを明後日の方向へ思いっきり力任せに投げつけた。
轟音とともに壁が崩れて、午後の日差しが闇を駆逐して、広間の中へと差し込んでくる。
それと同時に床を蹴って、外――ちょっとした運動ができるほど広く、頑丈そうな石造りのバルコニーへと場所を変えるコッペリア。
「陽のあたるバルコニーかい。言っておくけど〈真祖〉以上に私は太陽光に耐性があるので、有利な条件を狙っているなら無駄な努力だよ」
実際、全く平気な顔で悠然とコッペリアの後を追って、全身を太陽の下にさらす〈道化〉。
「有利な条件を狙っていたというのは正しいですが、それはワタシにとって有利という意味です」
動揺した風もなく、モーニングスターをエプロンの四次……じゃなくて、収納ポケットへしまい込むコッペリア。
「ほう。どんな風に有利なのかな? いいよ、見せて見なよ。大抵の事には驚かないから」
余裕綽々の〈道化〉に対して、コッペリアも平然と応じる。
「なら、ご覧にいれましょう。この最終形態コッペリアの対吸血鬼専用戦闘形態《スンナ=デイ・スターフォーム》、チェ~ンジッ――GO!!」
同時に手足を分離したコッペリア本体が、四肢の部分からジェットかロケットか魔導機関なのか知らんが、炎を噴いて急上昇をする。
そんなコッペリアを中心として空気が震え、空間が歪む。
いつの間にか垂直飛行から水平飛行に移行していたコッペリアの周囲に、魔法陣がまるで花火のように幾重にも複数開き、銀色の光が迸った!
まずは下半身のパーツが到着――重厚なブースター付きレッグアーマー『グレート・メイド・ストライド』が飛来し、次に、上半身の強化――胸部アーマー『スーパー・ハウスキーパー・シェル』が、空間を突き破って降臨!
続いて、腕部パーツ『エクストラ・サーヴァント・アームズ』が左右から高速接近。
クライマックスは頭部――ホワイトプリム型ヘルメット『ウルトラ・メイド・クラウン』が魔法陣から飛び出し、各々が本体であるコッペリアを中心に、空中に大きく『Λ』を描く形で随伴するのだった!
カッ☆! とフラッシュが輝き――。
♪闇を裂け! 銀の閃光
メイドのスカートが戦闘装甲に変わる時
ワープゲート開け! パーツが舞い降りる
チェンジ合体開始! レッグアーマー・ドッキング!
シェルドエプロン・ロックオン!
サーヴァントアーム・チャージ完了!
メイドクラウン、輝け!フルアーマー・コッペリア!
戦う万能メイド コッペリア
無敵のハウスキーパー
どんな敵もお帰りなさい
ご主人様の敵は許さない! コッペリア! コッペリア!
メイドの誇りをかけて
コッペリア! コッペリア!
勝利のティータイムまで♪
(作詞作曲:コッペリア)
ついでに、どこからともなく勇壮なテーマソングが流れだし、
「………はあ?」
さしもの〈道化〉も演技ではなく、明らかに素で呆然と見入る。
伴奏に合わせて、コッペリアの脚に『グレート・メイド・ストライド』がカチリと嵌まると、同時に『スーパー・ハウスキーパー・シェル』が変形し、装甲板が展開。ブースターの噴射口が青白く光り、巨大なメイドエプロン状のシールドへ変形して胴体にドッキング。
カチカチン! と、 内部の回路が接続され、胸部のエネルギーコアが脈動を開始。エプロンの縁が鋭いブレードに変形し、防御と攻撃を兼ね備える。
「合体シーケンス、60%完了!」
さらに『エクストラ・サーヴァント・アームズ』は巨大なメイドグローブ型ガントレット付き腕部パーツとして合体変形して、 肩から固定され、全身からプラズマエネルギーを漏れ出しつつ、右袖口がミサイルランチャーに、左袖口がビームライフルにシャキーン! と変貌した。
そして最後に『ウルトラ・メイド・クラウン』がフルフェイスバイザーに変形し、眼部にターゲティングシステムが起動。背中には巨大なメイドリボンが展開し、ウィング状のエネルギー発生器『バトラー・ウィングス』として機能。
全身の装甲が一体化し、オレンジ色のオーラが爆発的に広がる!
「フルアーマー・コッペリア、スンナ=デイ・スターフォーム合体完了っ! 出力最大、戦闘モード移行!」
〈道化〉が驚愕の表情を浮かべる間もなく、コッペリアのブースターが轟音を上げ、一気に空中からゼロ距離まで突進し、右腕のガントレットを振りかぶる――プラズマチャージが唸りを上げ、吸血鬼の胸元へ有無を言わせぬ一撃を叩き込む!
「害虫駆除パーーンチっ!」
「ぐはあああああああああああああっっっ!?!」
重厚な石造りのテラスを軽々とぶち抜いて、〈道化〉の身体が四階の高さから、地面が陥没する勢いで叩きつけられた。
「くっ、『闇盾』!」
しかしながらそれでも大した痛痒を感じていないのか、即座に立ち上がった〈道化〉が、防御用の闇色の魔法陣を展開する。
「甘い甘い。太陽耐性なら超短波UVで突破可能! 食らえ、高出力紫外線プラズマビーム!!」
左肩のビーム砲から収束されたUV-Cがビームと化して、〈道化〉のかざした『闇盾』を一点突破で貫通し、さらに同時に発射されたプラズマがその手を一瞬で炭化させる。
「がっ!? な、なぜ――?」
「簡単なこと。お前ら〈神人〉ってのは確かに総エネルギー量は莫大だけど、どいつもこいつも攻撃パターンがワンパで、一度に一度の攻撃や防御しかできない。まるでターン制のゲームみたいにね。なのでハイブリッド攻撃で、まずは高出力紫外線ライトで『闇盾』とやらに風穴を開け、そこに複合攻撃として高温イオンガスを上乗せしてみたら、案の定、対応できないってわけです。言っときますけど、その手は熱+電磁ダメージで再生を妨害しているので、吸血鬼でもそうそう治らねーですよ」
狼狽える〈道化〉に向かって、コッペリアが自慢たらたら言い募る。
「ま、最初に発見したのは、実際に〈神人〉相手に稽古してもらってたクララ様ですけどね。その上で前回のストラウスとの戦いでは、〈神人〉の流儀でガチでタイマンして勝てるかどうか確認して、そっちでも問題ないとわかったそうなので。つまり、論理的帰結として、本気で裏技まで使われたら手前が〈神祖〉だろうが何だろうが、クララ様には絶対勝てんし、もっと言えばワタシでも勝てるから役割分担したまでです」
「ふ、ふ、ふざけるな! お前如きが私に勝てるだと!? なんという侮辱! なんという無知! なんという不遜! この私を誰だと思っている?!」
激昂した〈道化〉の姿が溶けるように消えた。
「前回見た短距離テレポート『影分身』ですか」
軽く鼻を鳴らしたコッペリアの”賢者の石”が瞬時に対応策を導き出す。
――前回のデータからテレポート行動条件(与えられた前提)
――距離:現在位置から50メルト以内
――遮蔽物がある場所は避ける → 完全に隠れる場所(壁の向こう側など)は選ばない
――空中には移動しない → 必ず地面・床の上
――背後に建物(壁)や遮蔽物がある場所を好む
――現在かなりピンチ → 攻撃を仕掛けるための不意打ちを狙う→ つまり「即座に反撃・奇襲できる位置」を優先
「結論。実質的に『ワタシの背後~側面、かつ背後に壁がある地面の数カ所』に限定されるので、ほぼ100%『ワタシの真後ろの壁際』ですね」
そう結論を出すまでに一般人の脈拍が1拍打つ、その50分の1までもかからなかった。
瞬時に自分の真後ろを振り返るや、コッペリアは優先順位の高い予想地点を中心に、赤外線レーザーの自動追尾ロックオンを予め仕掛け、さらにニンニクの主成分であるアリシンを濃縮したガス弾や銀コーティングした実体弾、聖水を過酸化水素で強化した超聖水爆弾、防御無効の超音波振動兵器などを、雨あられとぶちまける。
「ぎゃああああああああああああああっっっ!?!?」
予想通り、実体化したのと同時に、防御や覚悟する暇もなく、コッペリアの対吸血鬼用兵器を無防備に全身で浴びることになった〈道化〉。
「くそっくそっ! 何なんだこれは!? この私が! ゲーム時代は数少ない爵位持ちで、こっちではかつて蒼神にさえ逆らって封印され、ユース大公国を吸血鬼の国へと変え、当時大陸最強イーオンの聖堂十字軍を壊滅させ、恐怖に陥れた私、パーレ」
「しぶといですねえ。さすがは〈神祖〉。一発で仕留める大技がないと仕留めきれないというわけですか。時間をかければ削り切れないことはないですけど、逃げられる確率が87%以上であるので、後顧の憂いを断つためにも、いまここで倒すしかないというわけで……やれやれ、胸がキュンキュン高鳴りますねえ」
〈道化〉の口上を無視して、コッペリアは以前に比べて一回り大きくなった自らの双丘を叩く。
このオッパイには、二個の〈龍珠〉が動力炉として装備されていた。本来であれば莫大な――例えるのなら核融合炉にも匹敵する――出力を有するそれらだが、さすがに〈神祖〉相手には通常稼働では追いつかないらしい。
「――となれば、ワタシも究極最終兵器を発動させる時ですね」
コッペリアは前口上なしに、いきなり全力全開の最終兵器を発動した。
「ワタシはクララ様のように疑似的とはいえ恒星やらブラックホールは作り出せませんけれど、身近でデータを取って解析したお陰で、既存の枠組みの中でですが似たような芸を習得しました。もっとも、強力過ぎてぶっつけ本番な上に、さしもの優秀なワタシの二個の〈龍珠〉でも、一発でエネルギーが枯渇するのは目に見えていますが。……こういうのを奥義とか切り札とかいうのでしょうかね?」
「うるさい! 血も通ってない人形遊びは早々に切り上げだ!!」
逆切れした様子の〈道化〉であったが、コッペリアは全く気にした風もなく――というか、最初から相手との会話などどうでもいいと思っているのであろう。その意味では、ブラフの多い〈道化〉相手には――この上なく最適な相手と言える。
「火・水・地・風の四大精霊とかいう胡散臭い概念は眼中にありません。ワタシが信奉する四大とはすなわち、『強い力、電磁気力、弱い力、重力』のみ。時代遅れの過去の遺物ごときが、喰らえっ。――『重力子』攻撃。必殺・“ゲヘナ・ハンマー”!」
刹那、通常の数百倍に相当する重力が、〈道化〉の全身に襲い掛かる。
仮に〈道化〉の体重を六〇キルグーラとして、五百倍の重力がかかっているなら三万キルグーラの負荷が全身にかかっていることになるが、
「……くっ、こんなもので私が潰れるか」
しっかりと両足を地面に縫い付けた姿勢で、なおかつ余裕の表情を崩さない。
だがそれは織り込み済み。要は対象の座標を固定できればいいのだ。
「大地の座標設定完了! 二重〈龍珠〉オーバードライブ!! 喰らえ、パーなんとか! 天を焦がす究極の焔っ、“ヘブンズフォールダウン・アタック”!!!」
同時にコッペリアの双腕――『エクストラ・サーヴァント・アームズ』が、魔法陣を纏いつかせながらロケットパンチで頭上に放たれると、螺旋を描きながら空中へ消えた……と思った瞬間、頭上にかかっていた雲が割れ、そこから眩しい――否、眩し過ぎる太陽の光が〈道化〉目掛けて降り注ぐ。
これぞ空間を強引につないで、直接太陽光や太陽風、プロミネンスを特定の場所にピンポイントでぶち当てる、コッペリア最大最強の切り札『ヘブンズフォールダウン・アタック』である。
「ぐぎゃあああああああああああああああああああああああっっっっ!?!」
さしもの太陽に耐性のある〈神祖吸血鬼〉といえども、これにはひとたまりもなかった。
「あり得ない、百五十年雌伏の時を待っていたこの私が、こんなにあっさりと、たかだか原住民の造った人形如きに――!!!!」
「〈神祖〉だ〈神人〉だと御大層にぬかしても、吸血鬼ってネタがバレてる時点で対抗策なんざいくらでも思いつくもんですよ。あと、百五十年前から化石みたいに変わらないってことは、つまり進歩のない先細りってことでしょう? お前らと違って人間と科学は進歩するんですよ!」
失くした『エクストラ・サーヴァント・アームズ』の代わりに、一度分離させた本来の腕を再装備しながら、ざまあみやがれ、とばかりコッペリアが喝采を放ちつつ、最期のとどめとばかりに取り出した杭打機でもって、たっぷりアリシンに漬け込んで聖銀でメッキをした白木の杭を、とどめとばかり心臓目掛けて撃ち込む。
「――が……っ!!!」
刹那、ギリギリ人の形を留めていた〈道化〉が欠片まで灰と化して、虚空に撒かれるのだった。
はい、コワいのはコッペリアでした。
『スンナ』はヨーロッパの太陽の女神で、『デイ・スター』は太陽のお洒落な表現。つまり二重に『太陽』がかかっていますが、元のイメージは『ウイ○グマン』の「ソーラーガーダー」(のメイド版で武装モリモリ)です。
なんか書いていて久々におもろかったw
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なお、次回の更新で『リビティウム皇国のブタクサ姫』本編完結予定です。
その後、エピローグを2話更新(大晦日までUP予定)で、完全にジルの長かった旅と冒険に区切りがつきます。
これまでお付き合いくださった皆様には心よりの感謝とともに、最期の最期までお付き合いいただきますよう、なにとぞよろしくお願いいたします。




