天空の決着と嘲笑の道化師
大変お待たせしました<m(__)m>
夕闇迫る【闇の森】の上空で、二つの戦いが繰り広げられていた。
片や煌びやかな『聖女専用最終装備』――グラウィオール帝国の有り余る財力を湯水のごとく注ぎ込み、超帝国の秘匿魔法技術が組み合わさり、さらにコッペリアの持つ禁断の錬金術知識が悪魔合体……融合した、空前絶後のジル専用装備である――を纏い、フィーアとの『従魔合身』によって、ステータスをほぼ無限大にブーストさせ、背中から三対六翼の光翼をはばたかせた〈聖王女〉ジルと、ストラウスによって五大龍王の力を合成された、空前絶後の巨竜《大空真龍王》とのし烈な攻防。
そして、〈神子〉ストラウスと愛龍ゼクスを駆る〈真龍騎士〉ルークとの一騎打ち――が、各々佳境を迎えようとしていた。
ジルの最終奥義である、超高密度の魔力によって紡がれた、超高重力と超高熱を発する疑似恒星『真・天輪落とし』と、あらゆる自然現象を司る《大空真龍王》とが、鎬を削る。
「こんなもの、消し飛ば――っ!?」
蒼神の神器・究極神剣である《真神威剣》で切り裂こうとした瞬間、飛び込んできたルークが、
「クロード流・弐の奥義。"花霞・白波之太刀”っ!」
聖剣の光刃を閃かせて、ストラウスの手首に打ち込み、さらに続けて刺突の構えに変化させたかと思うと、真龍の全速力を用いて渾身の突きを放ちました。
「クロード流・参の奥義。”鐘楼砕き”!!」
「こんなもの――ぐはっ……なんだ!?」
自力で空中を自在に飛行できるアドバンテージを利用して、カウンターでルークを切って捨てようとしたストラウスの無防備な背中に向かって、その途端、凄まじい勢いで砲撃や爆撃がバカスカと無慈悲に叩き込まれます。
「「『魔結晶動力式無限掃射砲』『咆哮弾幕ガトリング』『光電子散弾銃』『プラズマ爆砕バズーカ』!」
次から次へと、魔導式機銃や散弾銃、バズーカなどをとっかえひっかえしながら、空に向かって援護射撃――と言うか、圧倒的物量で相手を圧殺する暴虐なる攻撃を、息つく暇もなく繰り出すコッペリア(本人曰く『最終形態』『フルスペック』コッペリアだそうですが)。
「愚民モドキ。背中がお留守で隙だらけですよ!」
「くっ……くそっ、ゴミムシどもが――っ!!!」
無論、幾らコッペリアの援護があってもストラウスに明確なダメージは与えられませんが――わかっているのか、段々とコッペリアの『洗浄アルカリ散弾』とか『小麦粉塵爆発バズーカ』『超強力辛子粉末霧散布』『激臭ニシンの缶詰連弾』など、地味に嫌がらせを兼ねたイロモノ兵器に変わっていましたけれど――それでもルークの攻撃と併せて気を散らすことで、私と《大空真龍王》との戦いに加勢する余裕はないようでした。
ならばと私はさらに集中をして、『真・天輪落とし』の制御と威力向上に全身全霊を傾けます。
それによって暮れかけた【闇の森】周辺だけ青空が広がり、真昼のような様相を呈し……結果、その光を浴びた〈不死の戦士〉たちは、望んでいた救いを得たと言わんばかりの表情で粛々と滅びを受け入れ、塵へと還りました。
対照的に異母兄だった青年たち〈虚飾なる七光の王子たち〉たちは、
「ぎゃあああ!?」
「熱いっ!」
「体が塵に……」
「いやだ~っ!」
「死にたくない!!」
「俺は不死身なはずじゃ?!」
最期まで見苦しく騒ぎながら消滅しました。
「無様ね。同じ王子様でもルーカス殿下とは月とスッポンね」
エレンがしみじみと嘆息するのでした。
刹那、聞いたことのない第三者の声が響きます。
「ひょ~う♪……これは凄い。この距離でも私にダメージを与えるとは。傍観に徹するつもりだったけど、こりゃ、さっさと退散するが勝ちだねえ」
いつの間にか崩れ逝く〈不死の戦士〉たちの頭上――ひと際太い樹の梢の上に、まるで舞踏会の帰りのような格好をした、この場にそぐわないことこの上ない、糊のきいたタキシードにシルクハットをかぶった白髪の青年(?)が、当たり前のように佇んで、砕けた調子で私の方を見上げてそう評するのでした。
声の調子は青年のものですが、顔全体にシンプルな三日月を意匠とした仮面をかぶっているので、実際の年齢や顔形は推し量れません。
ですが、その泰然自若たる雰囲気に反して、発散する魔力から彼がタダ者でないのは明らかです。
「ぬぅ、〈道化〉か。貴様の役割は〈不死の戦士〉の量産であろう。――何をしに現れた?」
「莫迦なっ! 貴様……貴様は、姫様たちによって『氷冷地獄』での永久封印をされていたはず!!!」
黒騎士が露骨に邪険な口調で問いかけ、バルトロメイが常になく驚愕もあらわに大音声で詰問した……ところを見ると、両者とも面識があるのでしょう。
雰囲気からしてあまり良い関係とは思えませんが。
「……貴様、吸血鬼であるな? 察するに〈不死の戦士〉たちとかいう”疑似吸血鬼”どもの主人であろう? 貴様がどこの誰かは知らぬが、わざわざ現れてくれるとは勿怪の幸い。貴様を滅せば、連中も疑似生命の源である血液を失くして全滅するであろうからな」
そう言って愛用の大鎌を構えようとしたヘル公女でしたけれど、なぜかその場からピクリとも動きません。
「――なっ……なぜ動かん!?!」
本人も困惑しているようですが、傍から見ると全身が震え、腰も引けた、明らかに蛇に睨まれたカエル状態に見えます。ですが、その状態をおそらくは頭が理解できていないのでしょう。
しかし体は本能的に逃げようと、全力で警鐘を鳴らす、結果その場で彫像と化すという矛盾に当惑するばかり。
そんなヘル公女のことはどうでもいいとばかり無視を決め込んで、〈道化〉が黒騎士とバルトロメイを交互に眺めながら、気楽な口調で応じます。
「いや~、延々と『モドキ』どもを作るのも暇なので、噂の緋雪ちゃんの妹分を拝みにね。あと、『氷冷地獄』だっけ? 封印は割と早い時期に破れそうだったんだけど、いまの私だとセーブポイントがないから、一度殺されたらアウトじゃない? だからまあ、いい加減周りが油断する頃合いを見計らっていた、ってところだねえ」
人を食った態度の〈道化〉におそらくは味方陣営の筈の黒騎士が舌打ちをして、
「――ちっ」
「姫君や魔将の方々のお手を煩わせるまでもない。ならばこの場で、このバルトロメイが素っ首落として引導を渡してやろう。貴様が吸血鬼の〈神祖〉であろうと、首を刎ねれば滅ぶであろう?」
半分ほどに断ち切られても、なお巨大な戦斧を一振りして、決然とバルトロメイが〈道化〉に向かって言い放ちました。
「「〈神祖〉っっ!!」」
何気なく告げられたその驚愕の事実を前にして、ヘル公女とイレニアさんの二人が揃って度肝を抜かされた様子で息を飲み、
「ば……馬鹿な……あり得ん。あり得ぬはずである………」
特にヘル公女は全身を戦慄かせて、獅子を前にした子ウサギのように茫然自失となって、その場に立ち尽くすのみです。
その名を聞いただけで〈真祖〉であるヘル公女が畏れ慄くほど、〈神祖〉とは吸血鬼にとって絶対不可侵の存在なのでしょう。
「アチチチチ……。こりゃたまらない。神聖力に加えて太陽まで手玉に取るとは、さすがは緋雪ちゃんの妹分。バケモンだし、完璧に吸血鬼にとっての天敵だねえ。いや、緋雪ちゃんにとってもか? つまり、いざという場合に備えて”世界”が用意した安全装置ってわけか。いや~、怖い怖い。この世界って容赦ないねぇ。ってことで、怖いのでとっととトンズラして先にクルトゥーラに戻ってるよ」
嗤いながらシルクハットを外し、大仰な仕草で胸元に掲げて一礼をすると、何の事前準備もなしにその場から転移――人間の魔術師には絶対に不可能な、〈神〉レベルではなければ不可能な奇跡――を行使するのでした。
現れたと思ったら電光石火の早業で消えてなくなった〈道化〉とやらに、
「ぐぬぬぬ、取り逃がしたか……!」
バルトロメイがギリギリと奥歯を噛みしめ歯噛みして、ヘル公女は目に見えて細い肩から力が抜けた様子で安堵しています。
一方、私の『真・天輪落とし』と《大空真龍王》とが激突をしてからどれほどの時間が経ったでしょうか。数十秒だった気もしますし、或いはほんの瞬きの間だったのかも知れません。
いずれにしても決着の刻は案外とあっさり来ました。
パクリという擬音が聴こえそうな調子で、《大空真龍王》が『真・天輪落とし』を咥えて顎を閉じ、即座に嚥下します。
「――はッ。……フハハハハハッ! 見よ。我が《大空真龍王》が不遜なる偽りの太陽を制したぞ!」
喝采を放つストラウス。
「さあ、やれ《大空真龍王》。身の程を知らぬ愚か者どもにお灸を据えてやれ!」
「……………………」
しかし指示を受けてもなぜか《大空真龍王》はピクリとも動かず、まるで石になったかのようにその場に固まっています。
「どうした、《大空真龍王》!? 動け! やれっ!!」
焦れたストラウスが再度指示を飛ばした瞬間、わずかに《大空真龍王》が身動ぎした……かと思うと。
「GAGAGAGAGAGAGAGAGA――!?!?」
極限まで膨らまされた風船が破裂するかのように、『ピシッ』と何かが砕けるような音が聞こえた――刹那、崩壊は一瞬でした。
《大空真龍王》の全身の鱗がひび割れ、そこから金色の輝きが四方八方に放たれ、そして最期に絶叫を放ったかと思うと、長大なその巨体が内側から爆発したかのように、轟音とともに粉々に四散し、あれだけの巨体が一瞬にして跡形もなく消え去ったのです。
要するにストラウスの無理な命令が、『藁の一本』が『駱駝の背骨』を折った最後の一押しになったのでしょう。
その代償とでも言うように、呑み込まれたはずの『真・天輪落とし』の光珠が、勝ち誇るかのように代わりにその場に留まっていました。
とは言え、さすがにこれ以上の維持は私にとっても限界でしたので、術の施行を切り上げると、『真・天輪落とし』も緩やかに消滅します。
同時にごくごく小さな――一抱えできるほどの可愛らしい|《幼竜》《パピー・ドラゴン》が五体五色、必死に小さな翼をはばたかせて、この場から逃げ去って行きます。
「おおっ、五大龍王様の生まれ変わり! 帰っていくぞ、それぞれの聖地へと!!」
ソレらに逸早く気づいたメンズグロスが、歓喜の叫びを放ったのが私の耳にも届きました。
「――ふう……」
「お疲れ様、ジル。凄かったよ。けど、いつの間にかセラヴィ君も逃げ……姿を消したみたいだね」
気が付けば宵闇が辺りをすっぽりと覆っている中、ゼクスに騎乗したルークが労いの言葉をかけてくれます。
「仕方ありませんわ。というか、黒騎士もドサクサ紛れに遁走したようですし、おそらくは、いえ、まず間違いなく最終決戦の地はオーランシュになるでしょうね」
問題は私たちがこの地を留守にしている間に、周辺国の有象無象たちが鵜の目鷹の目で、領土を割譲しようと――幸か不幸かこれまで【闇の森】は絶対不可侵であり、事実かつてグラウィオール帝国の一部貴族が開拓をしようとした瞬間、領地ごと綺麗さっぱり吹き飛ばされた経緯がありましたので、どの国も手を伸ばすことはなかったのですが、その契約が無効となった現在。いくら私が代表者であるとしても、あの手この手で領土侵攻を諮る――のは目に見えています。
どうやって私たちが不在の間、広大すぎるこの地を守ればいいのかしら?
尽きぬ悩みに頭を悩ませながらも、束の間の勝利を祝うために私とルークは、地上で手を振る友人たちの元へ、ゆっくりと輪舞曲を踊るように、揃って舞うように降下するのでした。
『LAST SEASON』今後ラストまで一気に更新する予定ですので(すでに書いてあります)、どうか『リビティウム皇国のブタクサ姫』ラストランをご一緒していただければ幸いです。




