不死の戦士たちと魔物の攪乱
「甘い!!」
黒騎士の裂帛の気合と叫びが重なります。
時間差を置いてかつ全方位から放たれた私の『氷弾』のつるべ撃ちが、『魔隔玉障』とやらにすべて無効化され、文字通り高熱に焙られた雪のように消し飛ばされました。
「弾かれたわけでも吸収されたわけでもない。――見た感じ『魔力中和障壁』の一種ですわね」
その手ごたえから私は相手の使った術の概要に見当を付けます。
現在は異能力の一部とされていますが、かつては『無能力者』と呼ばれ蔑まれ迫害されてきた特異体質者がいました。
彼、彼女はどうあっても、何をしても簡単な魔術はもちろんのこと、精霊魔術や肉体強化(Lvアップ)すらできない……どころか傍にいるだけで一切の魔力、精霊を遮断する特性を持っているために『出来損ない』『呪われた者』とされていたのですが、現在はそれも一種の能力――『中和能力者』という能力者と分類されています。
その唯一にして絶対的な能力は、そこにいるだけで魔素を分解・中和させる特異体質です(当然当人は欠片も魔術を使うことはできませんし、錬金術で作られたポーションや一般的な〈水〉系統の治癒術も効果がないため、病気やケガなどは自然薬や自然治癒に頼るほかありません)。
一見何も使えない能力に思えますが、逆に考えれば魔術に特化した者に対しては絶対的にアドバンテージを持つということに他なりません。
そしてその特徴に着目して、魔素で構成された術を霧散させる効果を疑似的に再現した術が『魔力中和障壁』という……非常に珍しい系統の術式になります。
ちなみに私も原理は知っていますが使えません。
何しろ施術中は自分も魔術を一切使えないのですから、真っ当な魔術師であれば敬遠するのが当然でしょう。
それが魔族の場合は生体防御の反応として発生させられる……となれば、魔族同士の抗争がガチ物理になるのは必至で、現ドルミート魔人国国王アントンが戦いになると鍛え抜かれた筋肉をさらけ出しての肉弾戦を得意としているという、ヘル公女の説明にも俄然信ぴょう性が増してきたというものです(いちいち素っ裸になる意味はいまだに不明ですが)。
ともあれ単純に属性による相克関係であればより有利な属性、もしくは無属性の攻撃でダメージを蓄積させる手法が一般的ですが、魔素そのものを中和させられてはそれも無意味です。
そうなると物理攻撃一辺倒というわけですが、この超接近した間合いでなおかつこと剣技においては天上天下無敵と謳われた――実際、緋雪お姉様も「いざ尋常に勝負ってなったら私や稀人はもちろん、誰も勝てない」「初太刀を躱すなりいなすなり受け止めるなりできたら天才。三の太刀までもったら剣匠。五の太刀まで食い下がれたら剣聖」と言わしめた――天上紅蓮教のラポック大教皇相手にも、だいたい二分少々粘れた私が三舎を避ける(現時点で及ばないというだけで、素質的には劣っていないと肌で感じますが)剣腕相手にこれは致命的です。
「――破っ!」
「この……!!」
こちらが追撃の手を繰り出すよりも疾く、一気に一足一刀の間合いまで詰めた黒騎士の抜き胴が、居合い抜き気味に一閃されたのでした。
もはや回避するのは不可能――と咄嗟に判断をして、私は逆に踏み込んでやや上から斜め下に向って放たれた一刀を左腕の『コラーダ』で受け止め……どうにか刃をねじ込ませるのは成功したのですが、受け止めきれずに『コラーダ』は澄んだ音を立てて黒騎士の剣(前回の鋼鉄製の『まあまあ良い剣』から、明らかに業物である神鉄鋼製の一刀に代わっていました)によって容易く両断され、その勢いはとどまることなく吸い込まれるようにして私の胴を薙いだのでした。
刹那、鈍い音が交差して次の瞬間、私の身体が鞠のように軽々と数メルト弾き飛ばされ、同時に黒騎士が数歩たたらを踏んで後退します。
「――ジルッ!?!」
ストラウスと剣閃を交わしていたルークが悲痛な叫びを放つのを耳にしながら、私はどうにか地面に両の足で着地を決めると(若干勢いを減じきれずに轍のような跡を穿ってしまいましたが)、両断された『コラーダ』の柄から手を離して、衝撃で粉砕された肋骨と傷ついた内臓の一部に自分で治癒術をかけて、即座に体調を万全に戻しました。
「ほう? 並みの甲冑なら両断できる一撃であったが、咄嗟に勢いに逆らわずに魔術ではなく化勁と軽身功で逃れたか。それと同時にほぼ零距離からその魔術杖に『魔隔玉障』に影響を受けない『気』をまとわせ、突きを放ってカウンター……と見せかけて蹴り技か。さすがにそれは予想外だったな。良い判断だ思い切りも反応も良い。――次期オーランシュ国王を詐称する、不義の愚息どもとは比べるのもおこがましいな」
『光翼の神杖』を使った刺突は予想していたのか、あっさりと捌いた黒騎士ですが、同時に放たれた私の蹴り技は想定外だったのか、完全には躱しきれずに一撃を受け、しみじみとした表情で蹴られた腹筋のあたりを空いている手でさすっています。
お互いにダメージを受けた痛み分け……というには明らかに私の方が押され気味なのは言うまでもありません。
「まあ普通はスカート姿で蹴りを放つとは思いませんからね」
短くてもスカートというものは脚にまとわりついて動きを阻害するので、武術に心得のある女性などは思いがけずに私服スカート姿で戦闘になった場合、躊躇なくスカートを破り捨てるのが最善――ですが、私の超帝国謹製のスカートは異様なこだわりがあって、私の意思に応えて形状を変えて動きを阻害しないような変形・変色及び防御・再生機能が内包されているという意味のない超スペックが満載されているのでした。
私的にはそんな無駄にこだわるくらいなら、簡単にマジックテープで留めておけばいいと思ったのですけれど、開閉の際に『バリバリ』という音が聞こえるたびに周りの女性陣が、なぜか『やめて!』と猛烈な拒否反応を示すので、コッペリアも一枚噛んで現状の姿になったといういきさつがあったりします。
まあそういった関係のない裏話はさておき――。
「付け加えるなら、私がいま身に着けている法衣は〈神帝〉陛下とお揃いの魔術や斬撃に耐性のある至宝の一品ですので、それで命拾いしたことが大きいですわね」
仕切り直しになった黒騎士と対峙しながら、私はいまの勝負が実力でなく、あくまで装備の差でどうにか相打ちに持ち込めたという事実を事実として語りました。
「いやいや、シルティアーナ。お前と儂の差はほとんどないぞ。心・技・体において技はすでに達人級に達しておる。だがそれ故に逆に読みやすい。ま、経験で儂の方がわずかに勝り、体においては装備と魔力等を込みの総合力では遥かに凌ぎ、心においては……言わずもがなだ」
苦笑いを浮かべて肩をすくめる黒騎士。世間話をしながらも隙は見せません。いえ、あることはあるのですがあからさま過ぎて罠としか思えません。
「まったく……。愚息どもにお前の半分ほどの器量がある者がおれば、血の繋がりなどなくてもオーランシュ程度くれてやったものを」
「為政者たる者に必要なものは天の時、地の利、人の和である。すなわち“天の時は地の利に如かず、地の利は人の和に如かず”何かをするに際しては、それに携わる人々の心を一つにすることが最も肝要であるということだ。それができぬ者に人の上に立つ資格はない」
黒騎士のボヤキに応じてバルトロメイが重厚な口調で断言しました。
「まさにその通り。どの者たちも母親そっくりの愚物に育ったものだ。ただのひとりも凡俗にすら達していなかったのには、名目上とはいえ父親として忸怩たるものがあったものよ」
意外と波長が合うのか黒騎士が我が意を得たりとばかり、何度も首を縦に振って頷いています。
「……その言い方だと異母兄たちとすでにお会いになられたように聞こえますが? その姿でオーランシュ辺境伯本人を名乗っても、さすがに説得力はないのでは?」
見た目――というか徹頭徹尾レグルスである黒騎士に、私が素朴な疑問をぶつけると、軽い失笑が返ってきました。
「ま、見た目を誤魔化す程度どうとでもなる――まして王侯貴族とは思えぬほど魔力や霊感がない節穴どもだ――疑うわけもない。もっとも父親や夫、君主の無事を喜ぶよりも、他の連中を出し抜こうと地獄の亡者よろしく欲望丸出しで群がる腐りきった者たちばかりで閉口したぞ」
それからクツクツと泥のような昏い笑みを浮かべる黒騎士。
「いいとも。いくらでも王冠でも玉座でも与えてやろう。ただし冥府のだがな。――出でよ〈不死の戦士〉たち!」
そう高らかに朗じる黒騎士を中心として、あたり一面に簡易的な召喚陣が浮かび上がり、そこから次々と武装した騎士や兵士たちが喚起されました。
ざっと見たところ数百人はいるでしょう。装備からして一兵卒でないのは一目瞭然ですけれど、それにしては生気というものがありません。というかちらりと見ただけですが、あの召喚陣は様式からしてモノを召喚することはできても、生き物――まして人間をこんな簡単に転移させたりはできないはずです。
困惑する私に向かって黒騎士は〈不死の戦士〉と呼んだ一団の内、特に華美な甲冑と装備を身にまとった数人の若い男性を指し示しました。
「見覚えがあるかな、シルティアーナ? 六人ともお前の異母兄……ということになっている者たちだ」
促されて、いずれも本来のオーランシュ辺境伯とは似ても似つかない、言われて見ればなんとなーく遠目に見たことがあるようなないような……覚束ない記憶にあった六人の男子が無言で前に出てきます。
王侯貴族の常で子供同士でも滅多に顔を合わせない――ことにブタクサ姫として毛嫌いされていた私はなおさらです――身内ですが、廊下や応接室に飾られている肖像画などで(かなり美化されて描かれてはいるものの)見た顔を順に見渡して、私は湧き上がってきた嫌悪感とともに吐き捨てました。
「……いま現在、絶賛家督を巡って殺し合いをしている異母兄同士が仲良く並んでいるのも異常ですが、この局面で騒ぎ立てしないのも異様ですわね」
シルティアーナにとって異母兄姉というものは、王侯貴族の特権を当然のものとして甘受して、領民や領地を守る義務や責任など欠片ほども考えず、どこまでも浅薄で無能であり――まあ平時であれば、それはそれで扱いやすい王や領主になったのかも知れませんが――自分以外は血を分けた兄弟姉妹であっても、邪魔で目障りな障害物程度の認識しか持っていない了見の者たちであり、顔を合わせれば嫌味の応酬。そしてもっとも立場が弱く虐げられていたブタクサ姫に対しては、誰はばかることなく衆人環視の前でも罵声を浴びせかけてくる、
『やたらと騒々しい人たち』
というのが、当時のブタクサ姫の異母兄姉に対する印象でしかありませんでした。
それがまあ蓋を開けてみれば、実はオーランシュ家直系の血族は私しかおらず、他は全員不義の子であり、なおかつ『ブタクサ姫』と蔑んでいた不出来と思われていた存在が、いまや二代目聖女として大陸中から絶大な支持と立場を得ているのですから(知ったのは、黒騎士に明かされて以降で、いま現在も世間的にはシルティアーナ=ラナの姉となっていますけど)異母兄たちにとってはいい面の皮――どころか青天の霹靂でしょう。
当時の私に対する彼らの冷遇、虐待は誰もが承知のことですから、いまとなっては社交界はもとより民衆からも白い目で見られて針の筵とも仄聞します。
まあもっとも無駄にプライドだけは高い上に、自分に不都合なことは目に入らない耳に届かない便利な五感を持っている彼ら、彼女たちですから率先して頭を下げるなどという発想はないらしいですが。
ですがこの状況で恥も外聞もなくわめき立てたいというのも、彼らの性格からいってあり得ないことです。考えられるとすれば洗脳しているか、もしくは――。
「臭うぞ臭うぞ、下賎な屍徒の臭いであるな。疑似生命を付与した吸血鬼モドキを〈不死の戦士〉とは、また御大層な呼び名をつけたものであるな」
ドサクサ紛れに襲い掛かってきた五メルトはありそうな六肢虎の頸を素手でねじ切りながら、ヘル公女が不快感混じりの冷笑を浮かべて〈不死の戦士〉と呼ばれた戦士団を一瞥して吐き捨てました。
「……やはり死人ですか」
半ば予想していた答えに私も納得と諦観混じりの溜息が漏れます。
「余所見をしている場合か? ――出力十%解放」
予想外の展開に思わず気もそぞろになっていたルークへ向かって、ストラウスの《真神威剣》がひと際輝きを増すと、縦一文字の切り落としが放たれました。
「いかんっ、全力で躱せ!!」
ルークに助太刀していたバルトロメイの切羽詰まった警告に従って、いままで相手の太刀筋を読んで最低限の見切りでいなしていたルークが、土煙を放ちながら生来の脚力にものを言わせて、弾かれたように全力で真横に遁走します。
それとほぼ同時に振り抜かれた《真神威剣》の軌跡が、広大な【闇の森】を真っ二つに断ち割り、幅が二十メルトほど、深さに至っては目測で計れないほどの亀裂が遥か地平線の彼方まで、まるでグランドキャニオンのように穿たれていたのでした。
「――ぬう!? 姫のお膝元である【闇の森】に対する狼藉。赦さぬぞ痴れ者がっ!!!」
剣閃によって分断された大地を境にしてストラウスの右手側に飛び退ったバルトロメイが、瞳の奥の鬼火をかつてない勢いで燃やして激昂します。
かつてないほどの密度で放たれる鬼気を前に、エレンがへたりと腰を抜かして座り込みそうになったところをコッペリアに支えられ、バルトロメイを師と仰いである程度慣れているブルーノさえも、顔色を蒼白にして瞬きもできないようでした。
ですが真正面からその憤怒を受けてもストラウスは涼し気な表情で、自らが造り出した亀裂に視線を落とします。
「ふっ……。『ダンジョン』とは本来は地下牢を指す言葉だが、この世界においては、一般的に魔物が徘徊し、金銀財宝、さらには値段の付けられない古代神器などが隠されている迷宮全般を呼称する言葉である」
淡々とした口調でまるで講義でもするかのように――こうして蘊蓄を語る様子は、セラヴィ本来の姿を彷彿とさせますわね。見た目ではなくて態度の端々が。
「後天的、人為的に作られたダンジョンもあるが、現在あるその大部分が超帝国――《神帝》が無聊をかこって創り出したものであり、特徴として『非破壊オブジェクト』の概念が付与されており、何者であろうと破壊することは不可能である。そして大陸における最大規模のダンジョンこそがこの【闇の森】だが、ご覧の通り我は十%の力で易々と破壊してのけたぞ?」
傲岸なその物言いにバルトロメイが軋むような口調で吐き捨てます。
「愚か。天に唾するが如き愚かさである」
「おっ、さすがは【闇の森】。地下からも続々と魔物が湧き出していますね」
「全長三メルトの肉食蟻に巨大ワーム、ついでにそいつらを捕食するモグラじゃない方の下級竜である〈地竜〉ってところですかにゃ」
亀裂の傍まで行って覗き込んでいるコッペリアとシャトンが、地下から湧き出して地表目掛けて押し寄せてくる魔物の大群を前にのん気に実況中継をしています。
「――って。コッペリア、いまの一撃で難民キャンプに被害は出ていませんか?!」
喫緊の課題として、私は慌ててコッペリアに確認を取りました。
「あー、大丈夫ですよ。角度的にキャンプ地からは外れてますから。被害を受ける確率は一万分の一といったところで、よほど運の悪い奴でもなけりゃ巻き込まれてませんって」
投げやりな態度でコッペリアが肩をすくめて回答します。彼女にとっては難民や移住希望者などは『その他大勢』という扱いで、心底どうでもいいのでしょう。
「――それでも万が一のことはある。それにあちらでも同じように地下から魔物の《魔物暴走》が起きて、騒ぎになっているかも知れん。俺は“妖精の道”を使ってキャンプ地の様子を見てこよう」
と、意外なことにアシミが気もそぞろな様子で、真っ先にそう提案してくれました。
《魔物暴走》というのは基本的に統率個体が発生して、魔物が群れになって襲い掛かって来る現象なので、この場合とは若干意味合いが違うのですが……。
今回は【闇の森】の魔素が薄まったことで下級の魔物が増え、中間層の魔物たちが簡単に餌を獲れるようになったことで逆に餌不足になって、一時的にあふれ出た(ダンジョンでもたまに似た現象が起きます)魔物が無作為に餌を求めて暴走している、自然界において《魔物攪乱》と呼ばれる現象でしょう。
放置しておけばその環境で生存できる自然と適正な魔物の数になりますが、それまでに周囲の餌――この場合は無力な人間も含む――が根絶やしにされる危険がありますので、何らかの対策が必要です。
とはいえ――。
「「「「「え……?」」」」」
普段が普段。典型的な妖精族として『ビーンごときが!』と人間族を見下しまくっているアシミだけに、思わず不得要領な声を放ってしまった私とプリュイとノワさん、エレン、ブルーノ。
「……なんだその顔は?」
鬼の霍乱――とは言い過ぎですが、何の気まぐれかと思わず私たちの疑惑? 困惑? 当惑?? いずれとも知れない眼差し向けるのに、アシミが噛み付かんばかりの表情で睨み返すのでした。
「そういえば難民キャンプにはアニスとベルントさんも移住希望者として暮らしているんだったね?」
《真神威剣》の一撃を、バルトロメイとは反対に左手側に全力で躱したルークが、訳知り顔でアシミが難民キャンプを気遣う動機を暴露しちゃいました。
「「「「「――あ~~~~っ…………(納得)」」」」」
「何が言いたい貴様ら!? 言っておくが別にあいつらがどうなろうと俺の知ったことではない。森の被害状況を確認しようという妖精族の本能に従ったまでの提案だ!」
必死に取り繕うアシミに今度は生温かい視線を向ける私たち。
ちなみにアニスとベルントさんは、聖都テラメエリタで『貧民街の歌姫』と呼ばれる半妖精族の少女で、ベルントさんはその保護者というか掘っ立て小屋の軒下を貸す家主……のような、手足に欠損があって鍛冶仕事ができずに鋳掛屋を行っていた初老の洞矮族でした。
過去形なのはある日、正体をなくすまでベロンベロンに酔った聖女が、調子に乗ってつい出来心で欠損を治してしまったからです。たまにあるのですよね~。お酒って怖いですわね。
以来、私が恐縮するほど恩義を感じてくださったベルントさんは、アニスを伴っていの一番に新王国への移住のために駆けつけてくれたというわけです(まあ、ユニスは亜人にとって過ごしやすい国とは言えませんので、思い切った決断とは言え納得できる選択と言えるでしょう)。
で、どういう接点があったのかは教えてもらっていませんけれど、もともと付き合いのあったアシミがふたりを心配するのは当然でしょう。別に言い訳はいらないですのに。
「とは言え『銀の星』。口下手で態度の悪いお前だけではいらぬ誤解も招きかねん。私も同行しよう」
これ以上アシミを茶化しても藪蛇になりそう……と空気を読んだプリュイが、アシミとともに“妖精の道”を使って同行することを申し出てくれました。
「助かるわ。お願いできますか?」
「任せておけ。他人事ではないからな」
私からのお願いにもプリュイが胸を叩いて応じてくれます。
「……妖精族が半妖精族や洞矮族を気にかけるとはな」
理解できないという口調で独り言ちたストラウスに向かって、
「好きってそういうことだろう! 理屈じゃないんだよ!! それがわからない君は、自分のことしか考えていないだけだっ!」
ルークが決然と、真っ向から切り落とすような正論と一刀を振り下ろしました。
剣閃そのものは《真神威剣》で受け止めましたが、脳天から真っ二つにするような単純かつ単刀直入な一言に、ストラウスは初めて感情を動かされた様子で、歯を食いしばりながら火を吐くような眼差しで、鍔迫り合いをしながらルークを睨み返すのでした。




