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リビティウム皇国のブタクサ姫  作者: 佐崎 一路
最終章 シルティアーナ[16歳]
320/337

コッペリアの尋問とセラヴィの目的

このお話はSNSの企画で「いいね」とリツートの数に応じて何字書くか、というもので私の場合は900字程度だったのですが、さすがにそれをUPするのははばかれたので、割と普通に更新する文字数になりました。

「セラヴィ、よく……よくご無事で――」

「――死ねや、曲者っ!」

 感無量の私が椅子から腰を浮かしかけるよりも前に、コッペリアが無造作にセラヴィの顔面目掛けてロケットパンチを叩き込みました。


 すべては一瞬。

 この場に集った名だたる方々が『あ』っと言う間もなく、瞬きひとつで文字通り鉄拳の直撃を受けるセラヴィ。

「……死んだ……?」

 奇跡の生還からコンマ一秒で熟柿(じゅくし)のように顔面を潰された無惨な有様を想像して、エレンが反射的に両手で覆った指を開いて、恐る恐るセラヴィの現状を確認すべく視線を巡らせました。


「――いや、大丈夫です」

 その呟きを安堵の吐息とともにルークが否定して安心させます。

「魔術を使ったわけでもないのに、器用なものであるな」

 洞矮族(ドワーフ)の手になる精妙な硝子製の器に入った、柑橘系のグラニテを銀のスプーンで頬張りながら、軽く感嘆の含みを持たせた口調でヘル公女がコメントを発し、他の皆さんも無言で首肯しました。

 

 限りなく一般人に近いエレンやブルーノはともかく、目ざとい他の皆さんはインパクトの瞬間まで目視できていたので動揺はありません。


「うお――っと……!?」

 咄嗟の反射神経でギリギリのところでロケットパンチを両手で拝み取りしたセラヴィ。

「ちっ……躱したか、命冥加な不審者め」

 忌々しげにコッペリアが舌打ちします。


「な、なんであれを止めることができるんだ!?」

 現役C級なりたて冒険者の俺でも無理だぞ、と言わんばかりの愕然としたブルーノの問いかけ……というか、自然と口からこぼれた疑問に対して、

「このポンコツメイドの奇行と攻撃は散々慣れているからな。体がタイミングを覚えていて、反射的に受け止めるくらいはできるようになった。ま、慣れだな、慣れ」

 相変わらず皮肉っぽい言い回しに、ヤサグレた態度で肩をすくめつつ、軽く呼吸を整えて持ったままのロケットパンチを斜め後ろに逸らして放すセラヴィ。


「――って、いきなり何をするんですか、コッペリア!?」

 自動で帰ってきた右腕を装着し、その場で愛用のモーニングスターを取り出して構えつつ、ついでに左手のマグネットジョイントを外して、代わりに謎の黒光りする銃っぽいものを装備して、最大限に警戒心をあらわにするコッペリア。


「コレはヴィクター博士(前のご主人様)が密かに開発していた最終決戦用試作兵器Ver.2……その名も『鬼畜殲滅(オプティカル・)光線銃(パニッシャー)』です。未完成だったものをワタシが密かに完成させました。計算上はワタシのエネルギー源である竜珠(カーバンクル)の半分を消費して、神獣クラスの幻想種であっても一発でぶち抜く素敵仕様――最高にイカした銃なので、通称『サイコーガン』と呼んでいます!」

 そんな私に目もくれず、左手の黒光りする硬くて物騒なモノの銃口を、げんなりした表情で立ちすくむセラヴィへ向けるコッペリア。


「だからなんでそんなにいきり立っているのですか?!」

 咄嗟に立ち上がってコッペリアを羽交い絞めにして押さえる私。

 ついでに、

「食ってばかりいてアンタ王様? さっさと手伝いなさいよ」

 というエレンの指示でブルーノもタックルする形で助太刀してくれました。


「逆になんでクララ様は不審に思わないんですか!? 突如姿をくらませた愚民が、数カ月もの空白期間を置いてひょっこり現れた。んな偶然あるわきゃないでしょう! こーいう場合は亡霊か偽者か裏切者、もしくは改造されているか、憑依か洗脳されているもんと相場は決まっています。ワタシもニ~三年前まで(むかしは)よくやっていたもんです!! あと野猿(サル)っ、ドサクサ紛れにオッパイ触るんじゃねーよ!」

「あ痛ーーーーーーーーーっ!!!」

 相変わらず意味不明で根拠のない妄言を吼えまくるコッペリア。そのついでにしがみ付いているブルーノの脳天に、『鬼畜殲滅光線銃(サイコーガン)』とやらの銃身を思いっきり叩きつけました。


 かなり衝撃的な音とともに頭を押さえて悶絶するブルーノ。アメリカ銃社会でもここまで雑な銃の取り扱いはしないでしょう。


「とにかくセラヴィ(こいつ)はどっからどー見ても、胡散臭くて罠臭い不審者です! 不確定要素はさっさと排除しましょう、クララ様っ!!」

 私の手を振りほどいて肩を怒らせるコッペリア。


「確かに不明な点も多々ありますわ。ですが、だからといって『怪しい=敵=排除』というのは短絡的過ぎますわ。まずは話し合って疑問点を洗い出すのが先決でしょう? てゆーか、私の目から見て死者や死霊の類ではありませんわ」

 霊気も魔力波動もオーラパターンも確実にセラヴィそのものです。


 そんな私の尻馬に乗る形で、

「身共の魔眼(ナザール)でも別段怪しいところは見当たらぬし、洗脳もされていないようであるが?」

「私の妖精眼(グラムサイト)でも特におかしな憑き物はない」

「我らの竜眼でも同じく、一別以来変わりないように見えますが?」

 ヘル公女、プリュイ、シアの目利き三人がここにいるセラヴィが、コッペリアの言う『亡霊か偽者か裏切者、もしくは改造されているか憑依か洗脳されている』可能性を軒並み潰しました(もっとも後ほどこの時のコッペリアの懸念がある意味全部正解だったと思い知ることになろうとは、思いもよらなかったのですが)。


「まあ、疑わしいのは確かだが、これだけの面子(メンツ)が揃っているところへ、単身で殴り込みをかける愚か者はいないだろう。仮に一国の軍隊であっても片手間に瞬殺されるビジョンしか見えぬ」

 アシミが集った面々――私とフィーア、さらに真祖吸血鬼トゥルー・ヴァンパイアであるヘル公女、単体で国を亡ぼす〈死霊騎士(デス・ナイト)〉であるバルトロメイなど――を見回して、葡萄酒をたしなみながら(うそぶ)きます。


 私たちのはかばかしくない反応を眺めて、コッペリアが長々と嘆息を放ちました。

「能力チートで、何でもできる奴はコレだから頭でっかちと言うか……。――いーですかっ、理屈じゃないんですよ! ()()()()()()()()()()()()()()()んですよ! 【闇の森(テネブラエ・ネムス)】で行方不明になって何カ月も、健康そのもの元気溌剌、そんなことあり得ないでしょう! こいつは怪しい。怪しすぎて一周回ってクララ様たちは異常を感じられなくなっているんですよ!!」

 思いっきりブルーノを殴った衝撃で銃身がひしゃげた(だから精密機械を鈍器代わりに使うなと……)『鬼畜殲滅光線銃(サイコーガン)』を取り外して、再び普段の左手を取り付けてセラヴィを指さすコッペリア。


「……言われてみれば、どこも()()()()()って変よね」

「ああ、上級冒険者でもパーティ組んだうえでダンジョンとかで一泊すると、相当に神経を使ってヘロヘロになる……って話なのに、見たところ平然としすぎてる。オカシイよな」

 そこのあたり庶民感覚で違和感を覚えたらしいエレンとブルーノ。


「“知者過之(知者はこれに過ぎ)愚者不及也(愚者は及ばず)”。知恵ある者も愚者もいずれも偏った判断をして中庸ではいられないのであるから、この場合“疑謀勿成(疑謀は成すなかれ)”で、疑問点は明らかにしておくべきであろう」

 テキーラもどきが入ったジョッキを片手にソーセージのトマト煮を頬張りながら、バルトロメイが気楽に提案をしました。


「疑り深い連中だなぁ……」

 まあそれで気が済むなら……という感じで納得した私たちの無言の同意を受けて、辟易した面持ちで嘆息するセラヴィに向かって、コッペリアがズンズンと向かっていきます。


「『尋問回路始動』! ――まあ座れ」

 気を利かせた〈撒かれた者(スパルトイ)〉たちが、手早く粗末な机と椅子を向かい合わせにセットしました。

 その椅子に腰を下ろしたコッペリアがドンと拳で机を叩き、向かい側の椅子に座るようにセラヴィに指示します。

「――なんだこの茶番は?」

 文句を言いつつも椅子を引いて腰を下ろすセラヴィ。


「あー……まずは氏名と年齢を言え」

「……必要があるのか、これ?」

「質問に質問を返すんじゃない! 言ってみろ。言えんのか!? やはり貴様はニセモノ――」

「はぁー……セラヴィ・ロウ。十六歳」

「ふん。言えるじゃないか。なら職業は?」

「ふぅ……。聖女教団の司祭」

「嘘をつくんじゃない! 出鱈目をほざくと後から響くぞ!!」

 ここぞとばかりに恫喝(どうかつ)するコッペリアと、途方に暮れたような顔で私に視線で助けを求めてくるセラヴィ。


「行方不明になった段階で、聖王女(わたし)を守って殉教したという名目で二階級特進で、現在は主席司祭(アークプリースト)叙階(じょかい)されていますわ。セラヴィ()()()()

 私からの助け舟に、

「へーっ、そりゃ金星(ラッキー)だな」

 他人事のような口調で異例の特進に淡々としたコメントを挟むセラヴィ。まあ確かに勝手に死んだことにされて祀り上げられても嬉しくはないでしょう。

「あー、次の質問は……と、その前に腹が減ったろう、まあ食え。妖豚(ブタ)の死骸から作ったカツ丼だ」

 気のせいか禍々しい瘴気漂うカツ丼を取り出して机の上に置き、コッペリアはセラヴィに向かってどんぶりを差し出しました。


「いえ、あのそれよりもあのコッペリア。本人確認の質問するにしても、そういう一般的なことではなくてもっとニッチな……例えば私とコッペリアとセラヴィだけしか知らないような事柄を訊いてみたほうがいいと思うのですけれど?」

 私からの提案に「なるほど」と頷いたコッペリアは、机に両肘を乗せてずずずっと身を乗り出します。

「三十年前に聖都で泊まっていた宿の名前は?」

「“正直者の(ウェールス・)巣窟(ニッチ)”」

「――――。……そうなんですか、クララ様?」

「自分の知らないことを聞いても意味はないでしょう! あとその名前で正解ですわ」


 私からのフォローに、いい加減このコントにも飽きたらしいコッペリアが投げやりに提案してきました。

「歯がゆいっすねー。つーか、面倒臭いんでとりあえずセラヴィ(コイツ)のことぶっ殺して、普通に死んだら本人、死んでから化けの皮を剥して正体を現わしたら、ニセモノとして対応したほうが手っ取り早くないですか?」

「なんですか、その理不尽な魔女裁判は!?」

「大丈夫です。仮に普通に死んでもクララ様がいれば生き返らせられますから」

 命の重さがデフレを起こしていますわね。


「無茶言うな、お前ら」

 げんなりしながらも恐れげもなくコッペリア謹製のカツ丼をスプーンで頬張るセラヴィ。

※5/25 誤字訂正しました。

 archPriest=×アーチ・プリースト ○アーク・プリースト

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― 新着の感想 ―
[一言] コッペリアが筋の通った正論を?!壊れちゃった?! 逆に信じてもらえないのワロタ。。。まさに日頃の行い狼少年。
[一言] 小説Upありがたや~~! 感想はコッペリアがあたしメリーさん。に見えちゃうとこですね(爆) 被害者はセラヴィ氏・・コッペリアの酔っぱらいのような絡みいつもより激しいね~もしかして好き???…
[良い点] 辞書には『尋問』=『訊問』と記載されていますが、 『たずねる』の意味では 『尋ねる』問う 『訊ねる』問い質す と記載されています。という事は拷問を含めた場合は、本来は『訊問』と表記されてい…
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