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リビティウム皇国のブタクサ姫  作者: 佐崎 一路
第七章 シルティアーナ[16歳]
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ジルの昔話と森のお茶会

絶対(ぜーったい)に逃げたり暴れたりしないでくださいね!」


「――いやね~、猛獣じゃないんだから、そう何度も念を押さなくても大丈夫よ♪」

 しつこいほど何度も繰り返すエレンに苦笑いで答えて、私は枷やら封印やらを解かれて自由になった手足を軽く屈伸させストレッチをしつつ、肩越しに背後に付き従うエレンとコッペリアの侍女ふたり、さらに数歩遅れて続くイレアナさんにも、安心を促すためニッコリと微笑みを向けます。


「だいたい本気でオーランシュへ向かうつもりなら、あの程度の束縛、力づくで破ることも可能だったんですもの」

 もっともそれをやった場合、周辺の被害が洒落にならないのと、確実に落ちるであろうレジーナの大目玉――技術ではなく力業に頼ったことに関して、「優雅さが足りない」だの「相変わらずバカのバカ力だね」だのといったイヤミ満載の雷――が嫌だったので、その手段は使いませんでしたけれど。


「そういうところが心配なんですよ、そーいうところが!!」


『だからまだ理性的ですわよ、私は?』

 という含みを持たせた私の安請け合いに、なぜかエレンがなおさら目くじらを立てて言い募ります。


(『そういうところ』って、どういうところなのかしら……?)

 いまいち理解しかねて漠然と疑問に思いながら、ともあれ腰を落ち着けて話し合いをするために、私たちはお茶会の準備をすべく、調理のできる女性陣がお茶と軽く摘まめる軽食の(たぐい)を整え、残りの男性陣が庭でガーデンパーティー風の会場を設営すべく二手に分かれて行動しているのでした。


 なお、こちらは当初、私とエレン、コッペリアの三人で支度をするつもりだったのですが、気を利かせたイレアナさんも、

「一通りの家事はできますので、なにかお手伝いできることがあればなんなりとお申し付けください」

 と率先してお手伝いを買って出てくださいました。


 なお他の女性陣は、この館の主であるレジーナはふんぞり返っていて当然としても、残りも高貴なる吸血鬼(ヴァンパイア)のお姫様と、ドラゴンを信奉する竜人族(ドラゴニュート)の巫女、基本的に世俗の事に疎い妖精族(エルフ)黒妖精族(ダーク・エルフ)、そしてお金が絡まない限りスプーン一本動かそうとしない強欲商人という面子ですので、この手の事に関しては戦力外とするしかありません(まあ、プリュイとノワさんなら頼めば手伝ってくれるかも知れませんけれど、頭数が多くなりすぎても逆に非効率的ですから、いまくらいでちょうどいいでしょう)。


「……というか生きた伝説である(世間的には死んだ伝説ですが)帝国中興の祖である太祖女帝(レジーナ)に、歩く厄災(カラミティ)とも謳われる吸血鬼の真祖に加えて、精霊王(オベロン)様と妖精女王(ティターニア)様に仕える腹心。そしてほとんど目撃情報のない神秘の竜人族(ドラゴニュート)の中でも特に高位の神官と巫女とか、改めて数え上げればなにげにそうそうたるメンツが一堂に会しているわね」

 壁にかかっていた自分用のエプロンを手に取り、自前のエプロンを装備しているコッペリアを除くふたりに予備のエプロンを渡しながら、私はいまさらながらこの館に逗留しているメンツの濃さに苦笑いを浮かべます。


「いや、クララ様がそれを言いますか?」

「そーいうコッペリア(あんた)も、相当なもんだけどね」

 真顔でコッペリアに返されましたけれど、隣のエレンが横目で見ながらコッペリアにカウンターを放ちました。

「心外ですね、エレン先輩。ワタシはどこにでもいる、ご家庭に一台あるくらいのごく平凡な人造人間(オートマトン)ですが?」


 そんなふたりのやり取りを眺めながら、エプロンを着けたイレアナさんが、どこか遠い目をして途方に暮れています。

(死者すら蘇らせられる史上二番目の〈聖女〉様に、帝国皇帝の直系継嗣にして〈真龍騎士〉たるルーカス殿下。単体で軍隊どころか国すら一夜で滅ぼすと言われる破滅(カタストロフィ)級の怪物〈死霊騎士(デスナイト)〉。そしてコントロール不能の得体の知れない人造人間(オートマトン)……半吸血鬼(ダンピール)である自分の存在が、これほど平凡に思えたことなどないわ。さすがは【闇の森(テネブラエ・ネムス)】、音に聞こえた魔境だけのことはあるわね)


 あまり感情を表に出さない――出会った当初の『畏れ多くて目も合わせられない』状態に比べればずいぶんと打ち解けてきたものの、依然として身分の壁で隔てられている感のある――彼女ですが、いまに限っては内心の困惑が手に取るようにわかります。


 まあ確かに、いまいるメンツの中で一般人といえばエレンとブルーノくらいなものですものねえ。

 苦笑いしながら私は台所にストックしてある食材と、『収納空間(インベントリ)』に残っている――ウエストバティ市の炊き出しとその後の支援で九割方放出し切ってしまいましたので――提供するには量が少なく、また希少価値が高いためによからぬことを企む手合いがいないとも限らないため、手を付けないでいた紅茶や胡椒などの嗜好品とを見比べて、とりあえず何を作るのか大まかな方針を固めて、エレン、コッペリア、イレアナさんに伝えました。


「男性陣向けにファラフェルを作るので、水にひたしたヒヨコ豆を潰して植物油で揚げる準備をお願いします。あとはいつもの豆乳ケーキと、余ったおからでトルタの肉抜きバージョンを作りましょう。それと片手で掴める小菓子(プチフール)は、手持ちのオランジェットにマカロンはオーブンで焼いて……女子用にはシャルロットとタルト・タタンといったところかしら? ああ、ヘル公女とイレアナさんにも配慮して、アイスクリームとたまには趣向を変えてメルヴェイユとかどうかしら?」

 そうイレアナさんに確認をとると、困ったように返答を濁します。


「どう――と尋ねられましても、その‟メルヴェイユ”なる菓子を存じませんので……」

「それもそうですわね。それなら作ってみて試食してみて、ダメなようなら果汁を混ぜたムースに切り替えましょう」

 そんな形で調理するものを決めて、四人で材料を刻みメレンゲを泡立てたりオーブンの火加減を確認したり、大鍋で油を沸かしたりと手際よく調理を始めたのでした。


 そんなこんなで小一時間後、ティースタンドやティーセットが載せられたワゴンを引くエレンたちとともに屋敷の庭に出てみると、相変わらずどこにしまっていたのか小洒落た椅子やテーブル、日傘などがバランスよく配置され、ちょっとした貴族の内輪で開かれるティーパーティーの様相を呈していました。


 そこでなぜか抜身の剣――聖剣ではない方です――を持って、周囲を油断なく睥睨(へいげい)していたルークに気付いて、真っ先に私からねぎらいの言葉をかけます。

「お疲れ様ですわ。会場を準備してくださってありがとうございます」

 そう言うとルークはちょっと居心地悪そうに言葉を濁し、

「いや、僕はほとんど役に立たなくて……大部分がマーヤと〈撒かれた者(スパルトイ)〉たちの手柄ですよ」

 そう肩をすくめながら視線で示すその先では、青い羽根つきの帽子をかぶった青六(アオロク)を筆頭とした〈撒かれた者(スパルトイ)〉たちが、黙々と会場の整備――花壇に花を植えたり、雑草をむしったり、邪魔な石を骨でできた四足歩行の魔物に引っ張らせて片づけるといったこと――をしていました。


 見た感じ牛ほどの大きさの骨獣ですけれど、頭骨は肉食獣っぽいですし、四足に至っては騎鳥(エミュー)の骨のように思えます。

「なんですか、あれは?」

 思わずこぼれた私の疑問に、最後尾でワゴンを押していたイレアナさんが、「――ああ、あれは」と歯切れ悪く答えてくれました。

「こちらに伺った際に私が創造した骸骨馬(スケルトンホース)骸骨竜(スケルトンドラゴン)を見た、彼ら(?)が色めき立って何やらいろいろな魔物や動物の骨を運んできたので、つい興味本位で適当な骸骨獣(スケルトンキメラ)を作ってみたのですが……」

 イレアナさんが見つめる先では、一仕事終えたことを(ねぎら)う青六に応えて、嬉しそうにいななく仕草を見せる骸骨獣(スケルトンキメラ)がいます。


「……おかしいですね。単なる魔術人形(パペット)である骸骨獣(スケルトンキメラ)に、あのような感情じみた反応はあり得ないはずなのですが」

 釈然としない表情のイレアナさんに向かって、コッペリアがもはや完全に人間同様の情緒を示して、和気藹々と雑談しながら仕事をしている〈撒かれた者(スパルトイ)〉たちを横目に、

「この森ではよくあることです。気にすると負けなので、ワタシは新たな種族を創造したと悟りを開いて、経過観察に専念することにしました」

 そう投げやりな口調で言い放つのでした。


 ちなみに『経過観察』というのは医学用語で、「何もしないで放置すること」ですが「放っておいても治る」場合と、「サジを投げた」場合の両方に使われます。

 この場合のコッペリアの態度は間違いなく後者でしょう。


「おーい、南側はだいたい終わったぞー。小鬼(ゴブリン)の集団だった」

「北側も問題ない。単眼巨人(サイクロプス)の斥候だったようなので、片手間に集落ごと潰しておいたのである」

「東側にいたのは擬態を使う森魔狼(フォレストウルフ)だったので、俺が出向いて正解だったな」

「ご苦労様、僕が請け負った西側からはポイズンスライムが二十匹ばかりでした。ま、触れる前に核を両断すれば問題ないのですぐに終わりましたけど」

 そこへ三々五々、ブルーノ、バルトロメイ、アシミが武器を持った臨戦態勢で戻ってきました。


「――? 何ごとですか、これは?」

 彼らをいたわるルークに事の次第を尋ねると、ルークは改めて周囲を見回して、

「いえ、僕たちが会場の支度をするために外に出たところ、屋敷の周囲四方八方に魔物の気配があったもので、とりあえず手分けをして駆逐した次第です」

 そう端的に答えてくれました。


「なるほど。屋敷の結界を越えられるほどの魔物ではないようですけれど、今後周囲で増えると厄介そうですものね。――【闇の森(テネブラエ・ネムス)】の瘴気や魔素の変動が生態系に関わっているのかしら? ともあれ皆さんありがとうございます」

「へへん、これくらい軽い軽い!」

 小鬼(ゴブリン)の集団を無傷で撃退したブルーノが、胸を張って自慢する姿をさめた目で見ながらも、

「ブルーノのヤツ、馬鹿の癖に今度ギルドランクがC級に上がって、若手のホープとか言われてるんですよ」

 どことなく嬉し気にエレンが補足説明を付け加えてくれます。

「へえー、ジェシーたちと並んだわけですわね。ブルーノも子供の頃の夢を着々とかなえている訳ね」

「ええ、生意気に」

 そんな話をしながら、私たちは改めてお茶会の準備を進めるのでした。

今後は短くてもちょくちょく更新いたします。多分。


2/25 誤字修正及び本文に加筆しました。

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もよろしくお願いします。
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[一言] >「心外ですね、エレン先輩。ワタシはどこにでもいる、ご家庭に一台あるくらいのごく平凡な人造人間ですが?」 コッペリア以外の皆さん(読者も含む)「こんなのがどこにでも居てたまるか!」 >「…
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