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リビティウム皇国のブタクサ姫  作者: 佐崎 一路
第七章 シルティアーナ[16歳]
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娘子軍の実力とオークの集落

 秋が深まり、冬を前にすると主に熾天山脈にねぐらを構える豚鬼(オーク)たちが、頻繁に人里に舞い降りてきて、収穫したばかりの農作物や家畜を貪り食い、(なぶ)り者にするために女性を(さら)う被害が急増します。

 それを防ぐためにある程度余裕のある村では冒険者たちを雇い、そこまで貯えのない村では女性たちを隔離して、土蔵などに隠れてやり過ごすなり、イチかバチかの抵抗をするのがせいぜいで、ある程度の犠牲はやむなし……と割り切るしかありません(運が良ければ来ないし、来たとしてもせいぜいハグれた一頭か二頭ですから、被害は最小限に抑えられます)。


 豚鬼(オーク)もこの時期は繁殖と冬場の食料を食い溜めするために、相当に気が荒くなっており、訓練された兵士でも三人一組で当たらないと、しばしば後れをとることしきりです。


 そんな豚鬼(オーク)の目撃情報が多く寄せられている、ウエストバティ市から南へ半日ほど行った、なだらかな丘陵地帯に、時ならぬ女性たちの気合と悲鳴混じりの叫びと、憤怒に燃える豚鬼(オーク)の雄叫びが響き渡っていました。


「「「ブフーーーーッ!!!」」」

 目を血走らせて、鼻息荒く――戦いの興奮と若い女性たちを相手にしていることからくる情欲によって――棍棒と錆の浮いた斧、どこからか奪ってきたのでしょう鉄剣を振り回して、三頭の豚鬼(オーク)が〝カトレアの娘子軍”を標榜する十代から二十代の武装した女性集団へと、一目散に向かってきます。


「搦めとれ!」

 馬に乗った指揮官――乗馬が得意という栗色の髪に褐色の肌をした小柄な体躯の――オレリアさんの指示に従って、待ち構えていた徒歩(かち)の騎士団の女性たちが、一斉に投げ縄を投げて豚鬼(オーク)の動きを止めようと奮戦するのですが、ガチガチに緊張しているせいか思うように拘束できていません。

 邪魔だとばかり縄を掴んでは放り投げ、無造作に距離を詰めてくる豚鬼(オーク)に向かって、槍を持った兵士だか騎士だかが懐に入られまいと懸命の牽制をしますが、へっぴり腰で腕だけで突き出すせいで威力はなく、また一カ所に集まり過ぎてお互いの槍が邪魔し合う形になってしまい、あっさりと搔い潜られる有様です。


「ブモッ! ブモブモ~ッ!!」

 興奮した豚鬼(オーク)が手当たり次第に武器を振り回し、圧倒的な膂力で女性たちの武器を弾き飛ばします。

「うわあああああああああああっ!?!」

「きゃあああああああああああっ!!」

「助けてっっ!!!」

 今回の狩りに参加した部隊は五十名ほどでしょうか。

 たちまち総崩れになった彼女たちがパニックを起こし、一目散にその場から逃げようとしますが、まるで鬼ごっこのオニのように、ニマニマと邪悪な笑みを浮かべた豚鬼(オーク)たちが、背中を向けた彼女たちに追いすがり、背中や足を狙って逃げられないように武器を振るうのでした。


「「「ひいいいいいいいいいぃぃっ!」」」


 恐怖に慄く彼女たち。

 舌なめずりをした豚鬼(オーク)たちが、好色に(わら)いながら倒れた女性たちをお持ち帰りしようとした――その時、油断しきった眉間のど真ん中に、一条の矢がものの見事に突き刺さり、一発でヘッドショットを成し遂げます。


「舐めるな~っ!」

「いまだ、行け!!」

 二十メルトほどの間合いをものともせず、一発で豚鬼(オーク)を仕留めたのは、皇華祭でも抜群の弓の腕前を披露したオレリアさんが続けて次の矢を放ち、慌てて躱そうとしたものの二頭目の豚鬼(オーク)の右手に突き刺さりました。


「ブッ……ブモッ!?」

 分厚い脂肪と筋肉によって矢は貫通こそしませんでしたが、明らかに動きが鈍った豚鬼(オーク)の虚を突いて、疾風のように走り込んでいったカーヤさんが短剣をひらめかせ、執拗に怪我を負った腕を攻めまくります。

 焦れた豚鬼(オーク)がカーヤさんに体当たりをしようとしたところへ、オーサさんが卵ほどの――いえ、実際鶏卵だったようです――物体を投擲し、それが見事なコントロールで動き回る豚鬼(オーク)の目に当たり、割れた卵の中から何かの粉末と液体が散布され、それをかぶった豚鬼(オーク)が、顔を押さえて絶叫を放ちました。


「ローレルジンチョウゲを粉末にしたものだな。樹液も混ぜてあるようだ。エゲツナイな」

「さすがに豚鬼(オーク)にも効果があるのですわね」

 私と並んで『鷹の目』を使い(アシミの得意技ですが、いつの間にか使えるようになっていたようです)、一キルメルトほど離れた狩りの現場を子細に眺めながら、プリュイがオーサさんが使った毒物の種類を即座に看破しました。

 ちなみにローレルジンチョウゲは薄黄色い花を何段にも渡って咲かす地味な花ですが、見た目に反して実、花、茎、葉の全てに毒があって、さらに樹液を触ってしまうとひどい水ぶくれや炎症がおきるほどの猛毒を持っています。


「なるほど、まったくの無策というわけでもないということですか」

 ノワさんは私同様に『鷹の目』は使えませんが、狩猟民族が数キルメルト先にいる迷彩柄の動物を目視できるように、この程度の距離であればほぼ問題なく狩りの様子を窺うことができるようで、私もそれに近い視力を持っているので余裕です。

 ついでに風の精霊に頼んで声も届けてもらっているので、いまここに潜伏している面子は、つまびらかに状況を確認することが可能な人選ということになります。


 なお、町に残ったエレンやラナは私の代わりに炊き出しを行っているはずですし、シャトンは「娘子軍の情報を集めてくるにゃ~」と言ってふらりと出たきり帰ってきません。


 一層混乱に拍車がかかった現場では、

「いまだ! 目をえぐれ! 耳を削げ! 鼻を切り落とせ! 睾丸を潰せっ!!」

 その圧倒的な体躯と身体能力を生かして、単身で残った豚鬼(オーク)と切り結んでいたリージヤさんに向かって馬を走らせながら、オレリアさんが全員へ向かって檄を飛ばします。

 それを受けて、総崩れしかかっていた部隊の隊員たちが足を止めて振り返り、悶絶している豚鬼(オーク)の様子に精彩を取り戻し、

「「「「「「やあああああああああああああああっ!!!!」」」」」」

 一斉に弱っている豚鬼(オーク)に殺到するや、オレリアさんの鼓舞に従って返り血で血まみれになりながら、一心不乱に……そして途中から脳内物質がドバドバ出てハイになったのか、嬉々として豚鬼(オーク)を生きたまま八つ裂きにするのでした。


「「「「うわ~っ……」」」」

 うら若い女性たちの戦いとは思えない凄惨さに、思わずドン引きする私と柄付タイプのオペラグラスで観察していたコッペリア(喋っている言葉についても、読唇術である程度見当がつくとのこと)。そして、プリュイとノワさんの四人。


 今回の狩りに参加することはお断りしたものの――というか報酬面で折り合わずに、先方が断念したわけですが――念のために陰ながら様子を見に来てみれば、何やら予想を遥かに逸脱したものを目の当たりにしてしまいました。


「……ま、まあ、ある意味通過儀礼ですわね。命を奪うという行為を実践させることで、か弱い乙女から戦士へと変貌させることを目的としているのでしょう」

 私のとって付けたフォローに対して、ノワさんが懐疑的な顔で首を捻ります。

「そうですか? 【大樹海】(インゲーンス・シノワ)には女蛮族(アマゾネス)の集落もありますけど、総じて誇り高い女性たちですよ」

「どっちかっつーと、女騎士というより血に飢えた凶戦士(ベルセルク)が量産って感じですね。それも無抵抗の相手をなぶり殺しにする」


 いつの間にか勝負が決したのか、串刺しにした豚鬼(オーク)の生首(耳やら目玉やら鼻やら舌やら毟り取られている)を高々と掲げて、勝鬨(かちどき)をあげている彼女たちを眺めながら、コッペリアが小馬鹿にしたような口調で一笑に付しました。

 そうして興奮冷めやらぬ〝カトレアの娘子軍”の皆さんは、

「この先の洞窟に豚鬼(オーク)の集落があるとの報告が入っている。この勢いに乗って、一気に集落ごと攻め落とすわよ!」

 意気軒高にさらなる目標を定めて、満場一致のもと休みもとらずに前進を始めます。


「直進しかできない部隊ですね」

 呆れた口調のコッペリアの感想が、はからずもこの場にいた四人全員の共通した見解でした。

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もよろしくお願いします。
― 新着の感想 ―
[良い点] 〝カトレアの娘子軍”は、ほぼほぼ初陣だったのか、襲ってきたオークにより総崩れになるものの、オレリアさんたちの活躍により事なきを得ましたか。 それにしても戦場の高揚感に酔って残虐行為に手を染…
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