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リビティウム皇国のブタクサ姫  作者: 佐崎 一路
第六章 神子姫 那輝[15歳]
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竜王の逆鱗とゲストの登場

「どひゃああああああああああああああっ!?」


 出合い頭に火を噴くコッペリアのロケットパンチの洗礼を受けた聖女スノウらしき黒髪の美少女。

 美少女らしからぬ絶叫とともに、仰け反りながら拝み取りでコッペリアのパンチを受け止めました。


 まあっ、素晴らしい反射神経ですこと。完全に無防備な体勢から、この距離でコッペリアのマッハを越えるパンチを受け止めるとは、さすがは伝説の聖女様だけのことはありますわね!


 と、感心したのも束の間、間髪入れずに突如として天上から凄まじい轟音と閃光が響いて、ほぼ同時に極太の雷撃がこの場へと降り注いできました。


「ほげえええええええええええええええええええっ!!!」

 頭から直撃を受けるコッペリア。


 隣にいた私は咄嗟に魔術防御壁を張り巡らせましたけれど、攻城兵器の直撃を受けても小揺るぎもしない私の防壁がまるで紙になったかのような心もとさです。

 凄まじいをエネルギーの奔流に、どうにかその場に留まるのがやっといった具合です。


 はっと気づいて師匠(レジーナ)の方を見て見れば、平然とした表情で仁王立ちをするその眼前に立ち塞がるマーヤが、肩の触手を使って雷を受け止め地面へアースさせていました。

 こちらもさすがに年の功ですわね。

 ちなみにフィーア(仔犬モード)は、目の前に落ちてきた正に青天の霹靂(へきれき)に目を回して、私の腕の中でグルグル目になっています。


「――あー……あー、あー」

 あまりにも膨大な光と音によって、瞼の裏でチカチカ輝く残光とジンジン響くだけの私の耳。

 鼓膜が破れいないか声を出して確認をする私。どこか遠くに聞こえる自分の声を聞きながら、唯一正常に働く嗅覚が、焼け焦げた臭いと大気がオゾン化した香りとを濃密に感じ取ります。


「……あー、やり…ぎだ……天が……」


 ようやく回復してきた聴覚が、げんなりした聖女様のボヤキを拾いました。


「――えーと、もしかしていまのって……?」


 落雷の直撃を間近に受けてチカチカする目に“治癒(ヒール)”をかけながら、私は傷一つなく慣れた表情でけろりとした顔の聖女様に問いかけます。

 あまりにも不自然な雷霆(らいてい)でした。

 おまけに信じられないほど膨大な魔力も同時に感じ――生半可な魔術師でしたら魔術波動(バイブレーション)の余波だけで廃人になるほどの凄まじさに――思わず疑いの目を向けたところ、聖女様は困ったように頬のあたりを人差指で掻いて、その指をそのまま天空へと向けました。


「ああ……うん。私の護衛。〈黄金竜王(ナーガ・ラージャ)〉っていうんだけど、聞いたことない?」

「……もしかして、帝国の旧ドミツィアーノ伯爵領を焼き滅ぼした怒れる竜王でしょうか?」

「そう。それ」


 嘆息混じりに首肯される聖女様。


「へー……ああ、なるほど随分と大きなドラゴンですわね。魔力も凄いですわ~」


 ようやく回復した目を凝らして見れば、雲の遥か上空を黄金色の超巨大な――目測でもルークの騎竜である〈真龍〉エンシェント・ドラゴンゼクスよりも全長で倍以上、質量に至っては十倍くらい差がありそうな――ドラゴンがこちらを睥睨(へいげい)しているのが垣間見えました。

 伝説の竜王様ですか。どうりで――。


「よく見えるねぇ。どんな視力をしてるわけ!?」


 感心したような聖女様。

 ええ、まあ。その気になれば昼間でも青空に溶け込んだ星を見分けたり、砂漠で地平線の先にある灌木に止まった鳥を見分けたりする程度はできますけれど。


「それはともかく。私のメイドが大変な失礼をいたしました。伏してお詫び申し上げます」


 出合い頭にほとんど通り魔のように殴り掛かっ(ヒャッハーし)たコッペリアの非礼に対して、私は改めてお詫びの為にその場に膝を突いて聖女様に向かって頭を下げました。

 いわゆる土下座の姿勢ですわね。


「ちょ、ちょっと! やり過ぎだよ! 別に私は気にしていないんだし、仮にもユニス法国の巫女姫にして、オーランシュ王国の王女様が人前で土下座とかするもんじゃないよ!」

 慌てる聖女様が口走った『ユニス法国の巫女姫』はともかくとして、『オーランシュ王国の王女様』という世間的にはシークレットワードを耳にして、思わず私の視線がレジーナへ――。

「あたしが喋ったわけじゃないよっ。こいつは世間の評判とは裏腹に、とんでもない野次馬で面白そうなことにかけては千里眼の地獄耳なんだよ」

 頭から怒鳴りつけられました。


「いやだなぁ、人を覗き魔みたいに」

 意外と厚顔なのでしょうか。結構あからさまに扱き下ろされた聖女様は、涼しい顔で受け流します。

「ほら、聖女教団の教義でも謳っているだろう。えーと、『聖女はいつでも見守っている』だよ」


 何かこう……『上手いこと言った』風な悦に入った表情で、そう返した聖女様ですが――。


「――それをおっしゃるなら聖典第二章『聖女様は常に人の道の上にあり、努力する者に微笑む』ですが?」

「「…………」」


 笑顔のまま固まる聖女様ご本人。

 気まずい沈黙に、やっちまった感満載の私は再び土下座の姿勢で頭を下げました。

 気のせいか頭上で雷がゴロゴロと不機嫌に鳴っています。

 

「……ふ。ふふふふふふっ!」

 沈黙を破って微妙に調子はずれの含み笑いを発する聖女様。

「さすがは次代の聖女と謳われる巫女姫だけのことはあるね。そう、君がきちんと教義を理解しているかどうか試したのだよ。見事に合格だね。いや~。私も体を張ってボケただけのことはあるね」


((((絶対にその場しのぎのデマカセだ(わ)))))

 その場にいた全員――私、レジーナ、雑貨屋の女の子、再起動したコッペリア――がそう思いを一つにしたことは言うまでもありません。


「いや~、安心だね。前のクララはちょっと性格と能力がアレだったけど、今度の君――ジルだっけ?――なら安心だね。レジーナからは『能力はあるけど性格がアッパラパー』と聞いていたから心配してたんだけど」


 土下座の姿勢のまま首だけレジーナに巡らせると、凄い勢いで視線を逸らされました。


「うん。これなら二代目聖女の襲名も行けそうだね」

 何やらとんでもないことを言い出す聖女様。

 と――。

「へっ。顔はまあ互角としても、オッパイの大きさはクララ様(こちら)の圧勝ですね。つまり総合的な魅力ではクララ様の圧勝ということです。ざまあみろ貧乳聖女っ。お前の時代は終わっ――ごびゃああああああああああああっ!」


 隣で落雷の直撃を受け、まるでコントのように黒焦げでチリチリパーマになりながらも悪態をつくコッペリア。

 中指をおっ立てて啖呵を切った刹那――。


 ――ドンガラガッシャア~~~~~~~~~~~~~ンッッッ!!!!


 と、再度天空から先ほどに倍する勢いで雷霆が降り注ぎ、その衝撃波で棒のように吹き飛んでいくコッペリア。


「ふはははっ、笑止! このワタシのナイスバディはゼロ……じゃなかった特殊合金|( ̄∀ ̄)《ターンエー・オーバーラン》製! 電磁波や熱線の類いは一切効果がないことを――」


 高笑いを放ちながら捨て台詞を吐きますけど、電撃の効果はなくても物理的な破壊力までは如何(いかん)ともしがたいらしく、木の葉のように翻弄されているだけです。


「――いまさらだけどドイツ製のロボット刑事みたいな特技があったのね」

「愛蔵版ならありますよ」


 私の独り言に応えて、店の奥からリメイク版の漫画を持って来る雑貨屋のネコミミ少女。

 なんでここにあるのでしょう? そして私は原作派なのですが。


 そんな私たちを聖女様が不可解な目で眺めていました。


「……何かございましたか?」

「いや、何かと言うか、君ってもしかして――」

「おやおや、何事かと思えば、久しぶりですねカトレアの娘よ」

「――ほう。なるほどこの娘がそうか」


 何か言いかけた聖女様の台詞を遮って、聞きなれた耳に心地よい男性の声と女性にしては低めの重々しい声が同時に背中側から響いてきました。

 声のした方を振り返って見れば、途轍もなく綺麗な白皙の妖精族(エルフ)の男性と、女性にこういっては失礼ですがとても凛々しく精悍な顔だちの片目に眼帯をした獣人族(ゾアン)の女性が立っています。


「おや? もう追いついたのかい。さすがは〈精霊王(オベロン)〉に〈獣皇〉だけのことはあるね」


 言いかけた言葉を飲み込んだ聖女様が、軽く驚いた表情でそのふたりに視線を送ると、

「たとえ魔の森とはいえ森の中では貴女にも遅れはとりませんよ」

「ふっ。儂を撒こうなどと五百年早いわ」

 ふたりとも不敵な表情で答えるのでした。

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