↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リビティウム皇国のブタクサ姫  作者: 佐崎 一路
第六章 神子姫 那輝[15歳]
224/347

森の新しい庵と聖女の叩扉

今年一発目のブタクサ姫です。

今年もよろしくお願いいたします。

「ここもいい加減ガタがきてるからね。新しい庵を建てな。十日もあれば十分だろう。あたしみたいな老い先短い年寄りはいつポックリ逝くかわからないからね」

 というレジーナの同情を誘う――レジーナに限っては絶対に私が死んだ後まで世にはばかりそうですが――無茶振りを受けて、

「お任せください、グランド・マスターっ。このワタシにかかれば十日あれば確実に無敵の要塞だろうが、空に聳える黒鉄の城だろうが造り上げてみせます!」

「普通の庵でいいんだよ、普通ので! 余計なことをしたらバラバラにして火掻き棒に作り替えるからね!!」

 コッペリアが安請け合いをしてからきっちり十日目。


 私も普段のリボンの代わりにねじり鉢巻を締め、コッペリアもフル稼働で休みなく働き、ついでにフィーアとバルトロメイも骨惜しみなく協力してくださり、マーヤはレジーナの手前たまに差し入れを持ってきてくれるだけでしたが、それでも無言で労てくださいました。

 それでもさすがに手が足りず、〈撒かれた者(スパルトイ)〉たちも増員をかけ、単純労働の他にも森では調達できない釘や塗料などを西の開拓村に買い足しに行って貰ったりと大忙し。

 それでどうにかこうにか期日ギリギリに、もともとあった庵から森の外周に沿ってやや南側に、以前の庵の倍ほどの広さで頑丈な――もはや館と言っても過言ではない佇まいの新しい庵を間に合わせることができたのでした。


「――ふん。やっと静かになったかい。まったく……愚図の鈍間(ノロマ)連中がずいぶんとかかったもんだね。連日連夜、トンカントンカン煩くしやがって、お陰であたしゃ寝不足だよ」


 どうにかこうにか徹夜で最後の仕上げを終えて、黄色い太陽を見上げる早朝。

 こちらは寝不足どころか不眠不休による突貫工事の疲れから、死屍累々たる有様で折り重なるように五体投地で大地に伏臥して、まるで大量虐殺現場のようになっている〈撒かれた者(スパルトイ)〉たちの群れと、新しくなった庵の玄関先でぐったりしている私たちの有様を眺めて、生欠伸を放ちながら不機嫌にレジーナが吐き捨てます。


「「「「…………」」」」


 歯に衣着せぬレジーナの文句を、半ば幽体離脱した状態で聞き流す私。


 脳裏に甦るのは完成させるここまでの苦労の連続――。

 井戸を掘る他に近くの川から水を通したり、作業中に突如A~C級の魔物の群れが大挙して襲い掛かってきたり、周囲に五重の魔除けの結界石を設置したり、使える釘の数が限られていたのでなるべく釘を使わない組木工法で工夫したり、その合間合間に家事や雑用をレジーナに命じられたり、村に行けば村のご婦人方に取り囲まれて健康と美容方法を根掘り葉掘り聞かれたり、逆に生々しい妊娠・出産に関するプロセスを伝授されたり、あと目を離すと庵の周囲や宅内に必殺必中の罠や攻撃兵器を設置しようと目論むコッペリアを牽制したり、二階の強度を確認するためと称して四股(しこ)を踏んだバルトロメイによって七割方出来上がっていた構造材が破壊されたり……と、なぜかしら。建設の苦労よりも雑事や味方に足を引っ張られた結果が、ここまで苦労した要因のような気がするのですけれど、果たしてこれは私の被害妄想でしょうか?


 返事をする気力もない私たちの精気のない顔を一瞥して、再び「ふん、情けない」と一言で切って捨て、レジーナはマーヤを伴って矍鑠(かくしゃく)たる足取りで、地面に転がっている〈撒かれた者(スパルトイ)〉たちを蹴飛ばしながら新しい庵の玄関へと向かいます。


「なにやってんだい、このアンポンタンの馬鹿弟子! 中がどんな風になっているのか、あんたが案内しないで誰がやるんだい!? いちいち言わなきゃわからないのかい、早くしなっ!」

「あ……はい。いま行きます」


 黒曜石風の岩を削って作った玄関に入るための上り框に足をかけたところで、レジーナが肩越しに振り返って私をご指名しました。

 ボケてる頭を振って正気を保ちながら、慌てて足元で仔犬サイズになって鼻提灯と涎を垂らして爆睡しているフィーアを拾って、レジーナを先導するために小走りに玄関へと急ぎます。


「それと、ポンコツとデクノボーはもとの庵に戻って引っ越しの準備をしときな! 万一にも紛失したり、傷のひとつもつけたらただじゃおかないよ、このボケナスどもがっ!」

「……ウッス」

「……委細承知」


 生身の私と違ってさすがに片や人造人間(オートマトン)片や死霊騎士(デスナイト)のふたりにはまだ余裕があるようですが、それでもさすがに疲れは感じるのかどことなく精彩のない様子で、踵を返してレジーナによってバラバラにされた〈撒かれた者(スパルトイ)〉たちのうち、使えそうな何人かを組み立てて連れ立って元の庵の方角へと戻っていきます。

 大言壮語を吐いたコッペリアは自業自得ですが、付き合いで手伝ってくれているバルトロメイや、無理やり行きたくもない散歩に連れて行かれるような不満そうな態度の〈撒かれた者(スパルトイ)〉たちには気の毒な話です。

 たまには〈撒かれた者(スパルトイ)〉たちも(文字通り)骨休めさせるようにコッペリアに提案して、あとバルトロメイも実家にでも帰るように促したほうがいいかしら? もっともどこに実家があるのか――そもそも常日頃口に出している『真紅帝国』とやらが実在しているのかはなはだ怪しく――不明ですが、たまには慰労も必要でしょう。


 そんなことを考えたのがまずかったのでしょうか。

 まさかその一巡週後、実在を疑っていた実家のほうが(・・・・・・)やってくる(・・・・・)とは、この時の私は知る由もありませんでした。


 ◇ ◆ ◇


「はあ新築お披露目会……ですか?」


 引っ越しも終わって一区切りついたある日。木の香りも瑞々しいリビングにある竈も兼ねた暖炉で、滋養強壮に効果のある霊薬(アムリタ)を調合した大鍋を大杓子で撹拌していた私ですが、唐突にレジーナが口に出したおよそ人嫌いで偏屈な彼女には似合わないその台詞に、思わず首を斜めに傾けてしまいました。


「――ふん。柄にもないことを口に出したと思ってるんだろう?」

 私の心を読んだかのように、じろりと剣呑な目付きで椅子に座ったまま一瞥するレジーナ。


「い、いえ、そんなことはございませんわ。気分一新をしたことですし、親交のある皆様方と喜びを分かち合う。素晴らしいご提案だと思いますわ」

「ふーん、本当にそう思うかい?」

「ええ。友情、愛、平和……大事なことですもの」

「うむ。“天に星、地に花、人に慈愛。世は事もなし”これぞ為政者が第一に心がけるべきものであろう」


 前の庵と違って床板も丈夫で広々としているお陰で、最近は堂々と表に出て寛いでいるバルトロメイが相槌を打ちました。

 どうでもいいですけど、

「たまには帰省して骨休めでもしたらいかがですか?」

 と、つい先日そう私が提案したのですが、

「ガハハハハッ! なぁに某は武辺者ゆえ心配はご無用。『起きて半畳寝て一畳、天下取っても二合半』それだけあれば十分でござる!」

 そう一蹴され、最近は日がな一日入り浸って羽を伸ばしています。

 『転移門(テレポーター)』の守護という本来の仕事はいいのでしょうか?


「けっ! 愛だの友情だの胸糞悪い連中だね。覚えておきなジル、そういうお題目が人を潰す原因だよ。そもそも平和なんてもんは、戦争と戦争の間の準備期間に他ならないんだからね」


 そう渋い顔で吐き捨てるレジーナの視線の先では、半透明の窓ガラスっぽいナニカ(コッペリアが錬金術で作り上げた板ガラス風の謎素材)越しに、『野ざらし反対』『我らに寝床を!』『造反有理』とプラカードを掲げ待遇改善を求める青六を筆頭にした〈撒かれた者(スパルトイ)〉たちに詰め寄られているコッペリアの姿が映っています。

 あ、コッペリアが切れて全方位攻撃しはじめた……けど圧倒的な数の差でタコ殴りにされているわ。

 素材的にはコッペリアのほうが丈夫なので大丈夫でしょうけれど、自分が作った被造物に造反されるとか精神的敗北っぽいわね。

 ま、それはそれとして――。


「さすがにそれは暴論のような……。実際、小規模な紛争はともかく、ここ百年は国家間の大規模な戦争は勃発していないわけですし」

「そりゃそうさ。いまはカーディナルローゼ超帝国というバカでかい重しがあるからね。まかり間違って国家戦争なんぞ起こしたが最後、あの連中が嬉々として地上に介入してきて……まあ、半日で破滅だろうね」

「――破滅なのですか?」

「破滅だね。言っておくけど比喩や誇張じゃないよ。超帝国の本国にいる連中はどいつもこいつもネジが百万本くらい外れているからね」


 断定するレジーナ。どうでもいいですけど、そこまで外れていたら初めからもうバラバラではないかしら? それと傲岸不遜が服着て年取ったとも言えるレジーナが、これほど警戒感をあらわにするなんて珍しいですわね。以前にこの近くにあるという『黄昏の街(クネパス・ウルプス)』の話をして以来かも知れません。“鵺(ヌエ)の鳴く夜は恐ろしい”ではありませんけれど、得体の知れないものというのは漠然とした不安を覚えるわね。怖いもの見たさもありますけれど、一度この目で確認してみたいものですわ。

 そう考えながら大杓子を一定のリズムで掻き混ぜます。


「つーこって、近いうちに勝手に新築祝いを持って来るって言うんで、歓迎する必要はないけど適当に迎える準備をしておきな」

「はあ……?」


 なんでしょう。いまの会話は。前後の文脈が繋がっていないというか、主語や述語などいろいろとすっ飛ばし過ぎて意味不明なのですが。

 というか――

「なんだかその言い方だと、超帝国の偉い人がうちの新築祝いに押しかけてくる……と、捉えられるのですが?」

「足りない頭でもどうにか回答をひねり出せたみたいじゃないか。そうさ、あたしの昔なじみで周りから『姫』とか『聖女スノウ』とか呼ばれている巫山戯(ふざけ)た女が顔を出す……ついでに、あと何人か顔見知りを拾ってくるって伝言があったね」


 えっ、『聖女スノウ』って、聖女教団が崇めるご本尊のスカーレット・スノウ様のことですわよね!? 『薔薇の聖女(ローゼン・ハイリガー)』とか『放浪の美姫』とか呼ばれる伝説の存在の――実在したのですか!


 と、周章狼狽した私以上に動転したのはバルトロメイで、

「なぬぅっっっっ!?!?」

 と、これまで聞いたこともない素っ頓狂な声を張り上げ、ぐらりと立ちくらみを起こしたようによろめきました。


「えーと、バルトロメイさん……?」

 呼びかけてもしばし返事がなく、ただの屍のようになっていたバルトロメイですが、レジーナが無詠唱で放った『魔力弾(バレット)』の直撃(多分、バズーカ砲並の威力)を受けたところで我に返ったらしく、瞳に弱弱しい鬼火が灯り、

「……某、用事を思い出したので、しばし御免」


 そう端的に告げるとずぶずぶと影の中に潜って行き、そのままどこかへと去っていったらしく、以後はウンともスンとも反応がなくなってしまいました。

 よくわかりませんけれど、もしかするとバルトロメイにとってこの話題は鬼門なのかも知れません。


「――ふんっ。取り乱しやがって」

 面白くもない顔で鼻を鳴らすレジーナ。


「……まあ、つまりは大事なお客様がお越しになるので、粗相がないようにするよう努めればよろしいのですよね? ところで『言ってた』ってどなたかが伝言を?」

「ああ、あんたも知ってるあの行商人だよ」


 途端、私の脳裏に「毎度どうも~♪」という、神出鬼没な黒髪糸目の胡散臭い商人の姿が浮かびます。


「え゛! いつ来たのですか!?」

「あんたらが騒音立ててこの家を建てている時さね。忙しいのでさっさと伝言だけ聞いて追い返したけど」


 ならば私がここに潜伏しているってことは、まだ他の面々にはバレてないってことかしら……? でも、あの目端の利く商人さんに限って、それはないような気がするわね。

 これは近い内にルークやセラヴィに居場所を特定されるかも知れないなぁ……と、憂鬱なため息をつきました。いえ、別にあのふたりが嫌いな訳ではないですし、三十路を過ぎて独身を貫くようなリアル魔女になりたいわけでもないのですけれど、それでもいますぐ将来を決めろとか性急過ぎる気がするのですよね。

 まして私は私という人間に自信を持てない、あやふやな立場なわけですから……。


「けっ、時化た面だね。愚図で鈍間で頓馬なあんたの取り得っていえば、何も考えずにヘラヘラ笑ってアタフタしながらどうにか帳尻合わせることくらいだろう。だったらいつも通りにしてりゃあいいのさ――って、手が止まっているよ! せっかくの霊薬(アムリタ)を焦がすだろう、この愚図っ!」


 一瞬、励まされたような気がしましたけれど、どうやら気のせいだったみたいです。

 レジーナ愛用の長杖(ロッド)でお尻を叩かれて、慌てて私は作業に没頭するのでした。


「申し訳ございません。――えーと、その、それで聖女様って、いついらっしゃるのですか?」

 準備なども必要でしょうから確認のために尋ねたのですが、

「さあねえ。今日来るかも知れないし一年後かも知れないね。何しろとんでもない変人だからね。前回来たのは五年前だったけど、その時も厄介な火種を置いて、さっさとトンズラこかれてえらい迷惑だったね」

 投げやりな嘆息が返ってきただけでした。


 その反応に私は「珍しいな」と、思いました。人を小ばかにするのが大好きで他人を翻弄するのを生きがいとする、傲岸不遜で我が覇道(みち)を行くを堂々と実践しているレジーナが、こうまで気を使ってそれでもなおかつ「アイツじゃしかたがない」と妥協する相手がいるとは、正直想像の埒外です。


 とはいえ当人に面と向かってそんなことを言えるわけはないので、とりあえず当たり障りのない相槌を打っておきました。

「はあ、そうなのですか? その五年前の厄介事がなんだったのかは存じませんが、大変だったのですね」

 そう口にすると、なぜか一瞬だけ鼻白んだレジーナがジロジロとおかしな目つきで私の顔を見詰めます。


「……あの?」

 あら? 私なにか間違って対応をしたのかしら?

 もしかして余計な虎の尾を踏んじゃった???

 戦慄ともに戦々恐々とする私から視線を外したレジーナは、どこへ……或いは誰にともなく、

「――いや。まったくとんでもない厄介事を押し付けていってくれたもんだよ。お陰でいまや大陸中が阿鼻叫喚の騒ぎなわけなんだからねぇ」

 そう嘆き節をこぼしたのでした。

※お知らせ。

  ↓

詳細は後日となりますが、『リビティウム皇国のブタクサ姫』のコミカライズ化企画が本決まりとなりました!

漫画になったジルを見ることができるということで、今年は春からめでたい! というわけで、詳しいことはまた後日続報を活動報告などで発表したいと思います。


1/15 誤字脱字訂正しました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブタクサ姫の約140年前にあたる物語
『吸血姫は薔薇色の夢をみる』新紀元社より全4巻で書籍版も発売中です。

あわせて『あたしメリーさん。いま異世界にいるの……』

『[連載版]婚約破棄は侍女にダメ出しされた模様』

もよろしくお願いします。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。