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リビティウム皇国のブタクサ姫  作者: 佐崎 一路
第五章 クレールヒェン王女[15歳]
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さいきょうのふたりと運命の二者選択

 私が第一の札を取ったのと前後して他の組も各々中身が不明な封筒を取っては、そのお題を確認して悲喜こもごもの反応を示していました。


「『他国人』ですか、では留学生組……うちの大将(エステル)かな」

「『天才』ってあちしのことっぴね!」

「身長二メルト以上の女学生!? そんなもん――あっ! そういえば裁縫クラブに巨人族(ジャイタンツ)の女の子がいたわね」

「お客様! お客様の中に『お笑い芸人』はいらっしゃいませんか?!」

「えーと……『スケベ』、なんだ会長か」

「失礼します姫様。『変態趣味愛好家』――誰ですか、こんなお題を考えたのは? つくづく馬鹿の巣窟ですね、この学園は」


 嘆く者、頭を抱える者、即座に行動に移る者など様々ですが、とにかくもある者は知り合いに声をかけ、またある者は客席に呼びかけたりして必要な条件の相手を見つけようと躍起になっています。


 幸い私は早めに心当たり(変人=コッペリア)があったので、コッペリアに事情を話して同行の同意を得た後、いったん引き返したコースに取って返し、

「じゃあ足のギアを巡航速度に入れ直しますね」

 というコッペリアとふたり手を繋いで、きゃっきゃうふふと仲の良い友達同士のような、和気藹々とした雰囲気で第一チェックポイント目指して走るのでした。


 走る速度はだいたい時速八十キルメルトくらいでしょうか。


 ああ、いま私ってごく平凡な普通の女子やっているなぁ……と、しみじみ感慨に耽りながらお互いに鼓舞し合って数百メルト先のチェックポイントを目指します。


「――って。案の定、コースを戻っている間に障害物を設置されていましたわね」


 ですが、わずか三百メルトのコースが、初っ端と違ってモノの見事な障害物競争のコースと化していました。


 おそらくは他のプリンセス候補が魔術で生み出したのでしょう。目立ったところではモノリスのような高さ三メルトを超える石板がタケノコのように無数に地面から生え、さらに簡易型なのでしょう身長一・三メルトほどの寸胴で頭だけ大きなキノコに似た泥人形(マッド・ゴーレム)が五十体ほどウヨウヨその間を徘徊しています。

 石板のほうはセラヴィが得意とする『石塞(ストーン・カスバ)』の魔術で、泥人形(マッド・ゴーレム)のほうも式神の一種でしょう。


 思わず関係者席にいるセラヴィを振り返って見れば、速攻で目を逸らされました。

 さては護符を他のプリンセス候補へ高値で売ったわね……。


 生活のためでしょうからセラヴィを責める気にはなりませんけれど、敵になると厄介ですわね護符を使った符術というのは。

 単体ではどうということはありませんが、とにかく数が多いので妨害には最適と言えるでしょう。


「雑魚が数だけは揃えましたね。さっさと突破しましょう。ちなみにクララ様は泥人形(キノコ)石板(タケノコ)どっち(を相手するの)が好きですか?」

「その二者択一は戦争の原因になるのでノーコメントですわ」

「???」


 頭の上に大量の疑問符を浮かべるコッペリアを無視して、まずはこちらに向かってきたキノコのお化けのような泥人形(マッド・ゴーレム)を、ちょっと考えて『氷結(フリーズ)』で氷漬けにしました。

 泥でできたゴーレムだけあって効果は覿面(てきめん)で、構成物質の水分が凍って一撃で粉々に砕け散ります。


「ふん、五メルト以内の動くものに自動的に向かってくるみたいですね。これだから判断力のないゴーレムはキライなんですよ。まだ死霊を憑依させたスケルトンのほうが応用力があってマシですね。さっさと粉砕するに限ります。――ならば特別サービスで、両手で破壊力は二倍!! さらにいつもの二倍のジャンプが加わり、二×二の四倍!!! そして、いつもの三倍の回転を加えれば、四×三の十二倍ぱっわー!!!! くらえ、必殺ドリルスピンスクリューナックルパンチ!!」


 隣では拳に凶悪そうな鉄の爪をつけたコッペリアのパンチが、高速回転しながら泥人形(マッド・ゴーレム)と石板をまとめて粉砕します。


「……その理論はいろいろと間違っているような気がするのですけれど」

「何をおっしゃるクララ様。このワタシの優秀な頭脳が弾き出した計算に間違いはありません」


 これで完全に私たちを敵と認識したのか、残った泥人形(マッド・ゴーレム)がわらわらと私たちのところへ集まってきました。


「面倒ですのでまとめて一掃しますわよ!」

「了解です。タイミングを合わせて攻撃します!」


 阿吽の呼吸で背中合わせになるわたしたち。


「念のために警告しておきます。いまから範囲攻撃魔術を放ちます。十分に手加減はするつもりですけれど、流れ弾に当たらないように防御をしておいてください!」


 私の警告に従って、他の選手が各々魔術による防壁を張ったり、手っ取り早く運営委員が作った壁の向こうに避難したりします。


『おらおらーっ! 防御魔術を使える教導官(メンター)は全員で客席を覆う防壁を張ること! 万が一、破られるようなことがあれば担当者は夏のボーナスがないと思いなさいよ!』

 すかさずメイ理事長の檄が飛び、即座に観客席に配置されている教導官(メンター)が、全員で呼吸を合わせて複数属性の魔術的防壁を張り巡らせます。

 もともとこの会場を設営した際に、この手の対応も念頭に置かれていたのでしょう。

 会場のあちこちに設置されていた魔法陣がそれに呼応して、即席ながら数十人規模の魔術師が協力して施術する儀式魔術が完成しました。


 これならちょっとやそっとの攻撃では他に被害は及ぼさないでしょう。

 それを確認したことで、私とコッペリアは安心して攻撃に専念することができました。


「“天空の涙よ。舞い落ちれ流星となり大地を白に染め上げよ”」

龍珠(カーバンクル)リミットオフ!」


 互いに死角を補う形で緩やかに回転しながら私は〈氷〉系統の範囲攻撃魔術を、コッペリアは当人曰く「か弱いワタシの緊急時の自衛用」の武装を解除します。


「対軍用魔術“天銀弓(スターライトボウ)”!」

「めーかーめーかー波ァァァ!!」


 その途端、私を中心に親指大の氷の塊が弾丸の勢いで四方八方へと放たれ、さらに両手を組み合わせたコッペリアの腕から謎の破壊光線が放たれました。

 マシンガンのような氷の粒の連射と謎ビームによって、火に炙られた蝋人形のように形を無くすキノコ・タケノコ。


「――っと。ちょっと客席の前にある物理防御壁の強度が足りないみたいね」


 ついでに流れ弾で物理防御壁と魔術防壁どちらにもほころびが生じた箇所があったので、ついでに同時詠唱(マルチタスク)で併せて防壁も強化しておきます。


『七時の方向と十一時の方向の防御を担当している者。あっさり破れたわよ。情けない、ボーナスと査定は覚えておきなさい。あとあたしの特訓部屋でしばらく居残りね』

「「げええええっ!?!」」

 メイ理事長の冷然として宣言に、若手の教導官(メンター)ふたりが、この世の終わりのような悲鳴をあげました。


 ビームによる砂煙と氷結魔術による局地的なブリザードが収まったそこは、もとの整地された――というにはちょっとした爆撃があったような惨状を呈していますが――遮蔽物のない会場へ戻っていました。


『うおおおおおおおおおっ!! 凄まじいっ! 凄まじいとしか言えない攻撃力! これぞ巫女姫! これぞ我らがアイドル!! 邪魔する奴らは一撃必殺! 鎧袖一触! 東西無敵! 天衣無縫! まさに瞬殺。恐るべし、最強――いや、最凶のふたりだ~~~っ!!』


 司会の絶叫に合わせて観客席が総立ちになり、コッペリアが調子に乗って両手を振って胸を張っていますけれど、私としてはなんだか私がコッペリアと抱き合わせになっているみたいですし、さらに『最凶』とか淑女の祭典で絶叫されるのは微妙に気持ちがモニョるなぁ。私って清楚可憐な巫女姫じゃなかたのかしら……?


 その勢いのまま第一チェックポイントへ行って、微妙に顔を引き攣らせている審判の方に、

「『変わり者」――はい、おふたり(・・・・)ともオッケーです」

 と、許可を貰って第二チェックポイントへと向かいました。


 お隣では先にチェックポイントに入っていた茶組『マジック・ホリック』の女子が、

「なんであちしが無効なんだきゃ!? あちしは『天才』き!」

 なにやら審判と揉めている間にトップに立つことができたみたいです。


 で、誰もいない妨害もないコースをすいすい走って第二チェックポイント。


「えーと……これかしら?」

 どれも同じ封筒に入った第二のお題のひとつに目星を付けて拾って中身を確かめます。


「なんて書いてあるんですかクララ様? 『優秀なメイド』ですか?」

「……『親しい男子生徒』」

「「…………」」

 ということで最初からリセットということになりました。


 で、三分後――。

「それで俺たちか」

「ええ、申し訳ございません」

「いいえ、こうしてジルと手を繋いで走るなんて初めてですから楽しいですよ」


 タルそうな顔のセラヴィと快活な笑顔を見せるルークを左右の手で繋いで私はコース上を走っていました。


「ふーん。まあ、俺は子供の頃、一緒に手を繋いで丘の上まで歩いたことがあるけどな」

 なぜか思い出話を持ち出すセラヴィの言葉に、一瞬だけルークの笑顔に亀裂が走りました。

「へ、へえ。でもそれは子供の頃の一度だけだろう? 僕はジルとは十二歳の時から割りと一緒に行動することが多かったんだけどね。一緒に買い物に行ったり、最近はいつも一緒だし」

「ふん。ただ一緒にいるのが偉いんだったら、俺はお前のいなかった一年間、邪魔者がいないところでジルと一緒で、お前の知らないジルを知ってるんだけどな」

「くっ――! 大体のことは聞いているよ。ジルはほとんど教会で生活していたそうじゃないか」

「ところが結構、これが一緒にダンジョンに潜ったりしててんだよなぁ」


 なぜか私を挟んで舌鋒を交えながら、それとなく双方が私の手を引っ張って自分のほうへ寄せようとしています。

 なにこの大岡裁きは? 先に手を放した方が勝ちなんでしょうか?


『おおっ、なにやらコース上では恋の鞘当か!? 噂ではセラヴィ司祭と巫女姫様は幼馴染とか。だが、いまは帝国の帝孫たるルーカス殿下の許嫁! この三角関係ははたしてどうなるのか、目が離せないところ。そして、私個人としては、先ほどまでと違って普通に走っている巫女姫様のたわわな胸が揺れる様子に目が離せません!!』


 そんな感じで第二チェックポイントも『変わり者』『親しい男子生徒』というふたつの条件を、誰が見てもクリアーできたので、いよいよ最後のゴールを兼ねた第三チェックポイントへと向かいます。


「……僕って『変わり者』だと見られてたのか」


 なにげに自分を常識人だと思っていたらしいルークが、地味にダメージを負っていたため普通の速度での疾走になりましたけれど、これまでのところ他の組も難儀しているみたいでどうにかトップを維持しています。

 これで最後のお題がこのふたりに該当するものであれば問題ないのですけれど……。


 そう思いながら魔力探知(サーチ)を全開にして、第三チェックポイント手前、これだと思える目当ての封筒を取って中身を確認し――。


「!?!?!?」


 屈み込んだ姿勢のまま、思わず絶句して硬直してしまいました。


「どーした?」

「何が書いてあったんですか、ジル?」


 何度も何度も中身を読み直す私の背中にセラヴィとルークの懸念と心配を含んだ声と視線が降り注ぎます。


「なにやってんの、あんた?」

 そこへ後続グループの白組エステルと正式な選手であるおっとりしたタイプの女生徒が追いついてきました。

 選手のほうの手にある二枚のお題は『他国人』『金持ち』です。なるほど、第一のお題で二番目も通過できたわけですわね。


「それでは、わたくしは最後のお題を選びますね」

「ええ、任せたわよカーヤ。ここで逆転だからね! ――つーか、あんたよっぽど変なお題を引いたわけ?」


 封筒を選ぶ仲間の女生徒に声を掛けたエステルが、無遠慮に私が手にしている三枚目のお題を覗き込んで、聞こえよがしに音読しました。


「えーと……『恋人 ※片思いの相手でも化。相手は男子一名であること。あくまで友情としての親しみというのは不可。最終チェックポイントは魔術により虚偽を判定します』……」


「「「「…………」」」」


 刹那、その場に沈黙が舞い降りました。


「あんた、このドサクサ紛れにルゥ君と相思相愛を宣言するつもりじゃないでしょうね!?」

 いきり立つエステル。


 私はといえば思いっきり逃げ道を塞がれた選択肢を前に、「そういえばこの競技が終わったらお昼休みねー。お弁当にサンドイッチとおにぎりとお稲荷さん用意したのよね~』と、思わず現実逃避をはかるのでした。


「――で。どっちを選ぶわけだ?」

 面白くもなさそうな口調で、掴んだ私の左手を持ち上げるセラヴィと、無言のままそっと私の右手を両手で包み込むルーク。


 知らずだらだらと嫌な汗が流れます。


「ほーっほほほほほっ! なんだか困ってるみたいね、いい気味よ! この間にあたしはゴールさせてもらうわ! さあ、カーヤ。三番目のお題は何を引いたの!?」


 促されて、カーヤと呼ばれた女生徒はおずおずと肩をすぼめて一枚の紙を差し出しました。

 そこには一言。

『巨乳』


『おーーーーーーっと! どうしたことか!? ゴール手前で先頭の紫組巫女姫様と白組エステル選手が凍りついたかのように動きを止めたぞ!! なにがあった? 他の組も追い上げてきました! 第三競技はここでさらに波乱があるのか?!』

 司会のバーニーJrの能天気な声が響き渡ります。

予定よりも時間があったので、ちょいちょいと書いてみました。

6/20 誤字脱字を修正しました。

6/27 高圧電流という表現は間違いというご指摘がありまして、コッペリアの攻撃方法を修正しました。


このエピソード(皇華祭)非常に評判が悪いのですが、ここまでが前フリで次回より本編のストーリーが動き出します。

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