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リビティウム皇国のブタクサ姫  作者: 佐崎 一路
第四章 巫女姫アーデルハイド[14歳]
166/337

迷宮の成り立ちと廃獣の女王

|∧∧

|・ω・`) そ~~・・・

|o旦o

|―u'


| ∧∧

|(´・ω・`)

|o   ヾ

|―u' 旦 <コトッ


 すったもんだありましたけれど、私のために用意してくださったご馳走(コリン君)を、さばいたり煮たり焼いたりする前にどうにか生のまま確保して、代わりにありったけの食料を渡すことで、ギュリーヌスたちの面子とお腹も満たすことができました。


「ゲッゲッゲーロゲロっ!」

「『このまま広い道を真っ直ぐ行くと、でっかい水溜りがあって、大型の廃獣(マガモノ)が頻繁に水飲みに来るので、途中で迂回したほうがいい』と言っています」


 コリン君にはいろいろと聞きたいこともありましたが、なぜかやたら気に入られたらしいマザー・ギュリーヌスが離してくれず、コッペリアに通訳を任せていろいろと質問をすることにしました。


 その間に剥ぎ取られた衣服を取り返して着替えなおしたコリン君の相手は、セラヴィとレグルスにお願いして、ひと通り情報交換を終えたところで、私たちはギュリーヌスたちに見送られて、洞窟のさらに奥へと向かうことにしました。

 なんでも、マザー・ギュリーヌスの話では洞窟の一番奥に、廃獣(マガモノ)を生み出す女王がいて、かつてそれの傍には人間によく似た生き物が何匹かいたとか。外への出口があるとか。


 そこが目的地なのかはわかりませんが、少なくともギュリーヌスたちの“縄張り”では、ここ最近、他に人間の姿は見たことがないそうですので、さらに奥に向かうのは必然でしょう。


「ゲロ、ゲロ、ゲロゲロゲロ、グワッグワッガッ!」

「『この先は他の廃獣(マガモノ)の縄張りなので、自分たちは足を踏み入れるわけにはいかない』そうですから、ここでお別れですねー」

「コリン君、本当に一緒に来るの? いまならギュリーヌスたちも安全だから、外へ引き返すこともできますけれど?」

「付いていきます! この先にマリアルウがいるかも知れないんなら、僕はひとりででも行きます。邪魔なら置いていってください、クララ様」


 私としてはコリン君にはここで別れて街へ戻っていただきたかったのですけれど、当人が頑なに拒否をして同行を申し出たため、やむなく一緒に行動をすることになったのです。


 目的は十中八九赤い羊(レッドラム)こと、人造聖女実験体八号(はっちゃん)こと、マリアルウの救助でしょうから、その彼女に拐われたイライザさんの救助に来た私たちの目的地は同じで、立場は逆なので、場合によってはその場で敵対する可能性もありますけれど、まったくの素人を迷宮(ここ)で放り出すなど紐なしバンジーでエンジェルフォールから叩き落すようなもので寝覚めが悪いですし、第一好きな女の子を助けるために単身危険な場所に突入した彼の任気(オトコギ)にも、ヒロイックな感慨を感じさせられるものもありましたので、あえて爆弾を抱えたまま同行することにしました。


 そんなわけで歩くこと三十分あまり。

 仮称『聖天使城(サンタンジェロ)迷宮(ダンジョン)』の奥に行くに従って、分岐や枝道が増え、本格的な迷宮(ダンジョン)の様相を呈してきました。


 普通なら入り口(正確には出口?)から遠く離れた密閉空間ですので、鼻をつままれてもわからない暗闇に閉ざされるところですが、迷宮(ダンジョン)では御馴染みの燐光岩(りんこういわ)が散見できるようになり、壁や天井のいたるところで、それらが青白いほのかな光を発しているおかげで、それなりに見通しがついていました。


「つーか、前から思ってたんですけど、この燐光岩の光ってチェレンコフ光じゃないですかねー。臨界で起きる青白い滅びの光……。そう思うとなんかロマンチックでそそられますよね、クララ様!」


 レグルス、ゼクス、私、コッペリア、コリン君、セラヴィの順で警戒しながら歩いているところで、空気を読まない発言をするのはいつものコッペリアです。


「いまのところ健康被害の報告はありませんから、チェレンコフ光ではないと思いますけど……」


 魔力(マナ)を吸収して光る性質のあるこの岩は、一説には生き物が変異して魔物になるように、強い魔力にさらされて普通の岩が変質したものとも言われています。

 かつて何人もの研究者が迷宮(ダンジョン)からこの燐光岩を持ち出して、照明にならないかと実験してみたことがあったそうですたけれど、外に持ち出した瞬間からたちまち劣化して、一巡週もしないうちにただの岩に戻ってしまったとか。

 その後、迷宮(ダンジョン)に戻しても、少なくとも記録にある限りでは元通りの光を取り戻した事例はないそうですので、お金にもならないと言うことで冒険者も手を出すことはありません。


 と言うことで、普通にそこにあるだけで、特段に問題があったといった話は聞いたことはありません。もっとも、私のような魔術の使い手にとっては厄介な面もあります。


 なぜならこれがあると魔力波動(バイブレーション)が惑乱されたり、阻害されたりするので――もの凄く乱暴な表現になりますが、あちこちでドラムやシンバルが鳴らされている中で会話をするようなもので、感覚的に不快なのです――、これがある場所は魔女や魔術師にとってはある意味鬼門と言えるでしょう。


 魔力探知(サーチ)もかなり限定されますから、下手に魔力に敏感な人間よりも、普通に夜目が効いたり気配に敏感な方が、こういう場所では目敏かったりします。


 ですので迷宮(ダンジョン)では専門の盗賊(シーフ)かレンジャーがいれば重宝するのですが、生憎とこの場にはそれに該当するスキルを持った人間がいないため、この面子の中で一番感覚が鋭敏で反応が早い魔族であるレグルスに先頭をお任せすることになったのでした。


 私としては人造人間(オートマトン)であるコッペリアの目に、暗闇でも平気な夜間暗視装置とか、攻撃用のレーザーにも使える赤外線の照射……などのあったら便利な機能とかを期待したのですけど、

「はっはっはっはっ、ワタシは『人造人間』ですよ。可能な限り人間を模倣しているのに、そんな物騒な機能がついてるわきゃないですよ~」

 と、盛大にツッコミを入れたくなる人を食った答えが返ってきました。


 いちいち対応していたら面倒なのでツッコミは我慢しますが。


「その代わり、敵が出てきたらメイドの嗜みとして、台所に出てくる黒い悪魔のようにこれで見事に叩き潰して見せます!」


 そう言ってやたらごつい、球状の頭部に複数の棘を備えた棍棒を振り回して息巻くコッペリア。

 さきG扱いをしたギュリーヌス戦では、手加減をするように指示をしたので欲求不満なのかも知れません。


 手にした凶器――いわゆる『モーニングスター』という打撃武器――ですが、頭の部分の大きさと棘の形が半端なくえげつないです。さしずめ連○の白い悪魔が使っていそうな凶悪なサイズで初お目見えですけど、やたら使い込んだ感があるので、実際にこれを振り回してGと闘っていたのでしょうか、この人造メイドは?


 鶏を割くに牛刀を用いるどころではないなァ。そう思って念のために確認してみたところ、

「勿論ですよ。うちの実験室(ラボ)に出没していたアレを斃すにはこれくらいのサイズがないと無理でしたから。思い起こせばあの戦いは凄惨を極めました。なにしろ奴らときたら直立した全長はニメルトを越えマッチョで各々が武器を携え……」

「それ本当にこの星で進化したGですの!?」

 遠い目で武勇伝を語るコッペリアの話に、ついに我慢しきれずにツッコミを入れてしまいました。


「チェレンなんとかからえらく話が逸れたなあ……」

 迷子にならないように、最後尾を歩きながら迷宮(ダンジョン)のそこかしこに符を張っていたセラヴィが小さくため息をつきました。

「チ……チェ…チェーホフの銃ってどういう意味です?」


 聞き間違いにもほどがある、さらに危険な文言(ワード)を口に出して訊ねるコリン君。

 とりあえず無視して話を逸らせます。


「と言うか、なぜ突然にモーニングスターですの?」

「……いや、まあ、商業的な問題と申しますか」

 微妙に奥歯に物が挟まったあのような言い方で言葉を濁すコッペリア。

「???」

「なーんこれを使った方がいいような、そういう電波的なモノを受信したので、空気を読めるワタシとしては、これを一押しで使うのですよ。てゆーかクララ様もいかがですか? 愛と正義と並んで、聖職者の必須武器みたいなものじゃないですか!」


 やたら鈍器をイチオシするコッペリアですが、なにが彼女をこんなにも駆り立てるのでしょう?


 小首を傾げたところで、コッペリアのパンプスが足元のちょっと死角になっていた窪みを踏んだ――刹那、「どおおおおおおおおおおおッ!!?」

 上から垂れ下がっていた鍾乳石に模せられていた罠が作動し、コッペリアへ向かってゼロコンマで槍衾(やりぶすま)のように降り注ぎました。


「……あいたたた、モーニングスターが盾にならなければ即死でした」 


 すべて直撃して粉々に砕け散った残骸の中から、傷ひとつないコッペリアが這い出してきます。


「人工的な罠も設置されているのか。もともと《聖天使城(サンタンジェロ)》の脱出路みたいだし、まあ当然か」

「危ないな。危うくマイ・プリンセスを巻き込むところではないか」

「皆さんも足元には気をつけてくださいね。目立たないように明かりの光量を押さえていますので」

「うにゃー」

「なっ!? なっ?! なっ……?」


 いつものことなので自然にスルーしている私たちとは違って、コリン君は平然としているコッペリアを指差して言葉にならずに絶句しています。

 う~~む、これが普通の反応なのよね。私たちって知らない間に世間ズレしているのかも知れませんわね。


 注意しなければ。――と、密かに危機感を覚える私がいました。


 ちなみに燐光岩が発する明かりだけではかなり心もとなく、夜目の効く人ならどうにか足元を注意しながら歩ける……という程度です。

 なので、特にこうした不規則な洞窟内では燐光岩の光が届かない範囲は無数にあり、ちょっと目にはわからないような亀裂や水溜り、先ほどのような罠がいたるところにありますので、油断をすると足をとられたり、岩の裂け目から飛び出してきた廃獣(マガモノ)に不意を突かれることも多々ありますいので、角燈(ランタン)などの別な光源を用意しておくのが、迷宮(ダンジョン)走破のセオリーになります。


 まあ、私の場合は“光芒(ライト)”の魔術が使えるので、歩く分には問題ありませんが、それは逆に相手からもこちらの位置が丸見えということですので、あまり明るすぎないよう光の範囲を広げないようにして、気休めですけれど襲撃に対する警戒としていました。


 その後は特に問題はなく、小型から中型の得体の知れない廃獣(マガモノ)に襲われること数回、見るからに怪しげな横穴が幾つも開いている通路があったので、セラヴィが念のために雷符を放り込んだところ、まるで穴に塩を入れられたマテ貝のように飛び出してきたところを、血に飢えたコッペリアのモーニングスターの餌食となりました。


「それにしても、本当にここ聖地の秘密脱出孔なのかしら? あまりにも本格的な迷宮(ダンジョン)過ぎて、よほどの腕利きの冒険者でもないと途中で力尽きそうですけど」


 護衛に神官戦士などを引き連れたとしても、神官戦士は正面切っての正々堂々とした戦い方が本分ですので、こういう不意打ち、闇討ち、騙まし討ちが基本の迷宮(ダンジョン)とは相性が悪いはず。それでも人数がいれば対処のしようもありますが、脱出路を使う時にそうそう大人数で移動することもできないと思います。


 そんな私の疑問に、もともと教団関係者で、なおかつこの時代に来てからも、地道に下調べをしていたセラヴィが答えてくれました。


「もともとはありきたりな脱出路だったらしいんだけど、いまから三十~四十年前に、在野の錬金術師を招聘して例の人造聖女の研究させていたしていら際に、その錬金術師が勝手に失敗作を投げ捨てるわ、得体の知れない薬品や廃油は垂れ流すわ、挙句の果てに研究資金を強奪してトンズラこくのに追っ手を捲くために、徹底的に手を加えてて完璧な迷宮化させ、そのまま放置したとの噂だ」


 どこかで聞いたようなお話に、

「はた迷惑な奴もいたもんですねー」

「本当にそうねぇ……」

 他人事のような顔で同意を求めるコッペリア。


 と――。

 そんな無駄話を喋っているうちに、例の地下にある水源地に続く広めの通路と、迂回路だというその両側に開いている二本の横穴がある三叉路に到達しました。


「中央が水源のある場所で間違いありませんね。ここだけ活発に水の精霊が行き来しています。他は……よくわかりません。水も風もぴくりとも動いていないので」


「二者選択か。だけど下手に迂回して罠にでもかかったら目もあてらないぞ」

 セラヴィが難しい顔で左右の横穴を睨みます。


「チキンな愚民はこれだから。ワタシなんてここに来てから実家に帰ってきたような安心感間があるっていうのに」

 そんなセラヴィの懸念を一笑に伏すコッペリアですが、このコッペリアを制作した人物と同一人物が作成して、なおかつ放置した迷宮(ダンジョン)となれば、一筋縄で行かないのはこれまでの行程からも目に見えています。


「困ったわね。せめて通路の様子か、廃獣(マガモノ)の種類でもわかれば、方向性も決められるのですけれど」


 と、考え込む私の顔を、ちらちら眺めるコリン君の物言いたげな視線に気付いた私は、

「どうかされましたか?」

 そう尋ねると、コリン君は意を決した表情で、擦り切れた上着のポケットに手を入れて、ずっと黙っていた秘密について話し始めたのでした。


「ぼ、僕にはこの街に来てからずっと一緒に過ごしている親友がいるんです」

「そうなのですか。素敵ですね」

「その親友は偵察とか得意なので、この先に何があるのか、先に行って確認してもらったらどうかと思うんです」

「いや、親友とか、いまから呼びに行くのか?」


 セラヴィの当然の疑問に、コリン君はポケットに入れた手を握り締めて、首を横に振りました。


「違います。だってここにいるから」

「「「「???」」」」


 私、セラヴィ、コッペリア、レグルスが頭の上に疑問符を大量に浮かべる様子に、コリン君は論より証拠とばかり、ポケットに入れていた手を出して、ゆっくりと掌を開いて見せます。


「キキキキーーッ!」

 そこにいたのは、真っ白なハツカネズミが一匹。


「「「「はあ……?」」」」

 あらためて疑問を浮かべる私たちの顔を一瞥して、コリン君はいかにも親しげな表情でそのハツカネズミを、全員によく見えるように差し出しました。


「紹介します。僕の親友で――」

「ウニャーっ!」


 刹那、電光石火の早業で羽猫のゼクスが、ハツカネズミを咥えてそのまま物陰へ。


「あ、アルジャーノン!!!」


 親友をいきなり亡くしたコリン君の絶叫が洞窟内を木霊しました。

チェーホフの銃=物語に持ち込んだ要素は全て使うべきとする伏線のルール。


大抵の作家がこれで撃たれると大怪我をする。

この作品の作者なら、銃口を向けられただけで即死しますので、不用意に向けないでください。

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もよろしくお願いします。
― 新着の感想 ―
そういう物がある世界だと示すために色々出す必要があるSFや異世界もので、一々出した物の出番を用意するなんてできるわけがない。 その手の作品じゃチェーホフの銃なんてナンセンスだね。
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