地下廃坑の探索と少年の名前
タケノコのような鍾乳石の岩陰に隠れている私たちを狙って、絶え間なくナイフのように尖らせた石器や石礫、石でできた投槍が放たれています。
「鬱陶しいですね。つーか、なんですかアイツラ? 見た目は小型の亜人タイプですけど、暗闇に適合して目が黒の皮膜付きで巨大化、耳はエルフっぽいですけどもっとでかいし、鼻はほとんど退化していてまっ平ら、肌の色は緑色でとどめに首のところにあるのは鰓じゃないですか? 既存のどのカテゴリーにも入らない生物ですよ」
なぜか両手に持ったモップとチリトリで二刀流のように反撃していたコッペリアが、近づいてきた敵の姿を確認して、簡単に分析した結果を教えてくれました。
「廃棄された実験体が地下で繁殖したのかしら? とっ、近いわね。――“氷の牙よ、刃となり貫け”」
飛んでくる石斧を躱しつつ、私は碌に狙いも定めず作り出した水魔術の氷柱を百本ばかり、散弾のように広範囲に放ちます。
「グギャアーーーッ!!」
「ガアーッ!?」
「グォグォ――!」
徐々に距離を縮めていた敵の先頭集団が、ぬらぬらと痰が絡んだような鳴き声を発して、体のあちこちから血を流して慌てて退避しました。見た目に反して人と変わらない鮮血なのが、ちらり目の端に止まって、私の胸中にやるせない……悲哀と罪悪感が滲み出てきます。
とはいえ命の危険を前にしていつまでも感慨に浸っているわけには参りません。いまの“氷結矢”も牽制にはなったようですが、致命傷には程遠い……といったところでしょう。
もっとじっくりと狙いを定めて反撃したいところですけれど、相手の数も不明な上、遮蔽物や暗がりや横穴が多い洞窟の中、しかも完全に地の利はあちら側にあるとあって、下手に岩陰から顔を覗かせたが最後、そこを狙って集中砲火を浴びるのは目に見えていました。
「――クソッ、このままじゃジリ貧だな」
時折、符術で反撃する傍ら石筍に符を張って強化しているセラヴィが苦々しい顔で吐き捨てます。
いくら強化しているとはいえ元が脆い石灰石ですから、時間の経過とともにどんどんと削られていくのが目に見えてわかります。当初、この場に飛び込んだときには、四人でも悠々と立ち上がっていられたのですけれど、いまでは座り込んでやり過ごすのが精一杯になっていました。
「ですが、相手は廃棄されたとはいえ魔法生物の成れの果てです。他にも未知の攻撃手段があるかも知れませんから、迂闊な行動は危険ですわ」
「他って魔術の類いか? ならとっくに使っているだろう」
焦れているのかセラヴィはいまにも飛び出していきそうです。
「魔術もそうですが、怖いのは毒のほうですわ。モノを投げて敵を倒す知能があるのですから、当然、毒を使うことを警戒するべきです。神経毒だった場合には治癒術でもどうにもなりませんもの!」
通常の毒ならまだしも、神経を直接破壊する神経毒を使われては私でもお手上げです。そして、人類史を紐解いてみれば、生き物を倒すのに一番多く使われた武器は、剣でも大砲でもない毒なのですから。
「クララ様、もったいぶらないで一気に燃やしちゃえばいいじゃないですか? あーんな下等生物、汚物は消毒ですよ」
そーれ、イッキ! イッキ! と焚き付けるコッペリア。
「こんな密閉された地下で火炎系の魔術なんて使ったら、私たちも酸欠で死んでしまいますわ! それに、そもそもこの場所は彼らの縄張りなのですから、理由はどうあれ勝手にその縄張りを侵した私たちにも非はあるのですよっ」
「なにをおっしゃる。この場所は《聖天使城》の地下。そして連中は元をただせば教団の人造聖女計画の失敗作。となれば所有権は教団にあるということです。そして、あの法王亡き今、教団はもはや巫女姫たるクララ様が実権を握ったと言っても過言ではありません」
「過言ですわ! 不敬過ぎますわよっ。第一、法王様はまだご健勝です!!」
咄嗟に反論しますが、当然のようにコッペリアはスルーします。
「ならばマイ・プリンセス。私めにご下命ください。血路を開け。連中を処理せよと」
恭しく片膝を突いて上半身裸の胸の辺りに拳を当てて一礼するのは、外見上は十四歳前後に見える、濃い菫色の髪に琥珀色の瞳をした魔族の美少年――“レグルス”です。
いつまでも『六番目』とか『魔族の少年』呼ばわりするわけにも参りませんし、けれど他に名前がないというので、あくまで仮の名前として、
「それでは『レグルス』というのはいかがでしょうか? 意味としては『小さな王』『獅子の心臓』というものですけれど」
そう提案したところ、
「レグルス……! ありがとうございます。素晴らしい名を付けていただきました」
当人も気に入ったようで、地面に頭を擦り付けて大仰な喜びようでした。ちょっと引きましたけれど……。
で、なぜ彼がここにいるのかと言えば、方便としてダンが『セルバンテス商会』から私へ寄贈するために連れ出し、人質に使ったわけなのですけれど、方便でも何でも一度贈った形になった以上、礼儀として突き返すわけにはいかず、また理由を言えば面子を潰された『セルバンテス商会』が、ダンとアンジェを制裁するのは目に見えていたため、やむなく私が一時預かることになったからなのでした。
その際に、喋れないと不便だと思いましたので、魔術封じの封印はほとんど解除し――ダンは「魔族は一声で人を殺す魔術を使えます。危険です」と最後まで躊躇していましたけれど――こうして普通に喋れるようになっています。
特に拘束する契約とかはしていないのですが、周囲の危惧とは裏腹に、おとなしく私に付いてきてくれている……どころか、異様に心酔した様子で従っている気が致します。
あまりにも懐き過ぎて、なぜ? と疑問を持ったのですが、これにはコッペリアが答えてくれました。
「魔族は基本的に実力主義ですからね。自分よりも魔力が強い相手には無条件で従うんですよ。それと雌が極端に少ないんで敬う傾向にありますね。行き過ぎると勝手に拐ったりもしますけど。ほら、昔話で魔王がお姫様を幽閉したりするあれですよ」
その説明に魔族の少年もうんうん頷いて同意を示しながら、
「貴女は強い。そして美しい。私めが仕えるのに相応しい主です。どうか、『マイ・プリンセス』とお呼びすることをお許しください」
と言うことで現在に至っています。
私としては上下関係ありの人間関係は好きではないのですが、なぜか知り合う人間知り合う人間、次々と私を御輿に乗せては一生懸命担ぎ上げる担ぎ手のひとりになってしまうのですよね。
……ああ、普通の友人関係が懐かしいですわ。ルーク、ヴィオラ、リーゼロッテ。皆さんお元気かしら? この時代には卵も存在しないわけですけれど。
早く帰りたいと思いながら、真摯な瞳で私の指示を待つレグルスに、いささか厳しい口調で言い含めました。
「レグルス。私のためと思うのでしたら命を粗末にするような提案や行動は金輪際慎みなさい。私は誰かの犠牲の上に立った安全など必要としていないのですから」
「しかし……!」
「要するに連中の手の内がわかればいいわけだ」
反論しようとしたレグルスの台詞に覆いかぶさるようにして、セラヴィが提案しながら私とコッペリアのほうへ視線を向けます。
「俺に考えがある。――コッペリア、その場で立って両手を広げてクルッと一回転してみてくれ」
「なにがしたいの愚民……? ――こう?」
促されて怪訝な顔をしながらその場に立って、スケーターのように滑らかな一回転を見せるコッペリア。フレンチメイド風のミニスカートがふわりと浮き上がりました。
途端、洞窟内のあちこちから、コッペリア目掛けてナイフ状の石器、石礫、投槍、石斧、さらには吹き矢まで、雨アラレと飛んできて蜂の巣に変えようとします。
「にょあぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
幸い大部分が飛距離が足りなかったり、明後日の方向へ飛んでいったりで、掠ったのが何個かあっただけですが、当然、コッペリアは血相を変えて盾にしている石筍の影へと逃げ込んできました。
「よしわかった! 連中の飛び道具には弓矢と魔術はない。一度に攻撃してきた数は五十程度。そして残念ながらノーコンだ」
「ふざけんなっ、ゴラッ! 愚民っ!! 当たった! しっかりと当たったからね!」
激怒するコッペリアの額の辺りに吹き矢の矢が刺さっています。先端には明らかに素手で触るとやばそうな色の液体が塗られていました。
「お陰でだいたいの敵の手の内は掴めただろう? それじゃあ反撃といこうじゃないか」
胸元を掴まれて怒鳴られても涼しい顔で返すセラヴィ。
なんだかんだでこのふたりって仲がいいかも、と思いながら、私は再度彼我の戦力と洞窟の中の環境を見渡しながら、ここまできた経緯を回想するのでした。
◆◇◆
聖女教団の中枢部たる《聖天使城》の地下には、入り組んだ排水路や下水道、増改築の際に作られ放置されたままの作業坑、いざという場合に備えた秘密の脱出路や、果ては教団がこの地に本拠地を構える前身――単なる地方のマイナー宗教の本拠地だった当時、作られたと見られる謎の地下室などが点在していて、ちょっとした……どころか、わりと本格的な地下迷宮を形成していました。
このあたりの舞台裏は私のような巫女や神官は知らなくてもいいお話ということで、せいぜい「地下道の一部に魔物が棲み着いている」「幽霊が出る」「巫女の沐浴場に繋がる配管のあたりから全力疾走で逃走する法王様を見た」程度の真偽不明の噂しか知りません。
また、そもそも教団の本拠地に地下迷宮があるなんて、教団としては恥以外の何者でもありませんから、秘匿されているのは当然といえば当然でしょう。
とは言え、さすがにそこから這い上がってきた魔物が、教団関係者や一般参拝客を襲うなどということになると大問題ですので、《聖天使城》側にある出入り口は事細かにチェックされ、どこもしっかり施錠されている上、定期的に神官戦士が巡回をして目に付いた魔物を駆除している……とのダンのお話でした。
ですが、所詮はプロの冒険者ではない戦士の巡回ですので、地下迷宮の入り組んだ場所や隠し部屋など、チェック漏れも相当数あるようで、管理をしている職員の方々でも地下の全容を把握している方は、おそらくどなたもいらっしゃらないだろうとのこと。
で、現在、仮に『聖天使城・地下迷宮』とでも呼ぶべきその場所に、私、セラヴィ、コッペリア、ゼクス、そして名無しの魔族の少年改めレグルスが足を踏み入れていました。
勿論、教団の正式な許可を得てのものではなく、私の独断によるものです。
そもそもここへの出入り口の位置が、本来は《聖天使城》に存在しないはずの南門の位置ですから、神官戦士の巡回ルートから外れているのは確実でしょう。それどころか、教団の中でもこの通路の存在自体がトップシークレットなのは想像に難くありません。
ですので、本当ならこうした地下迷宮踏破にかけては専門である、カイサさんをリーダーとした女性冒険者グループ『銀嶺の双牙』の皆さんにも手伝っていただきたかったのですが、リスクが高すぎて到底打ち明けるわけには参りませんでした。
或いは私だけなら『巫女姫』の威光を使って――やりたくはありませんが、場合によっては使わざるを得ないでしょう――申し開きが効く可能性がありますけれど、第三者である彼女たちにまで累が及んだ場合、どこまで守れるか自信がありません。ですので、今回は身内と関係者のみでの行動となりました。
結果的に、下町にある『歌劇場・夜光蝶』での一仕事を終え、簡単に準備と食事を済ませたその足で、目当ての『南門』がある《聖天使城》の外れへと、とんぼ返りです。
それにしても、探していた相手が自分の足元にいたなんて、まるでお伽噺で世界中を探した幸せの青い鳥が自宅にいたというか、コントで「後ろうしろ~っ」という感じで、どちらにしても皮肉にしかなりません。
ということで、巡回している神官戦士などに見つからないよう苦労しながら、その場所へ到達したのですが――。
ダンに聞いた秘密の扉のある位置。見た目はただの石壁にしか見えない場所を触って、私は思わず感嘆の吐息を発してしまいました。
「これは――凄いですわね! 封印の一種でしょうけれど、こうして触った触感まで壁そのものですわっ。しかも魔力波動まで偽装してありますから、精霊術を併用して土と風の精霊に教えていただけなければ、まず普通の術者では見分けはつきませんわ」
見た目程度なら私にも光魔術の『幻影』で誤魔化すことはできます。ですが、触った感触まで誤認させ、しかも長期間に亘って永続的に作用させるとなると、どれほどの魔力と緻密な魔術構成が使用されているのか想像もつきません。
「この世の中には、私など及びも付かない魔術師がまだまだ潜在されていらっしゃるのですわね。私も一層の精進をせねば!」
と、密かに対抗心を燃やして握り拳を作る私なのでした。
「……あの、マイ・リトルプリンセス。この魔術、いえ、もはや魔法の域だと思いますが、これはおそらく人間が成した業ではありません。魔王級の魔族か超帝国の神族が関わっているものだと思います」
おずおずとレグルスが私見を口に出して、私の推測に補足を加えてくれます。
「そうなんですの。凄いものですわね。それにしても、どうやって開けようかしら? 魔力で力ずくという手でもなんとなく行けそうな手応えはあるのですが、そうなったら元に戻せそうにないですし……セラヴィの符術でどうにかなりませんか?」
この手の小技や応用技にかけてはセラヴィのほうが知識量がありますし、なにより現役の冒険者としてキャリアを積んでいますので、もしかしてと思って尋ねたのですが、あっさりと首を横に振られました。
「駄目だな。そもそも俺じゃあここに隠蔽されていること自体感知できない。手がかりすらない状態では、下手にいじると暴走か、解除不能になる可能性がある」
なるほど道理ですわね、と納得すると同時に途方に暮れかけたところで、レグルスが慇懃に、かつ自信有りげに具申してきました。
「それであれば私めにお任せいただけませんか? さすがに完全解除は無理としても、一時的に隙間を開ける程度のことは可能です」
「できるのですか? そうであればお願いいたします」
「お任せください。造作もない……とは申しませんが、マイ・プリンセスのご用命とあればいかな難題でも処理してご覧に入れます」
そう言いながら、ちらりと横目で勝ち誇ったかのような視線を、セラヴィに向けるレグルス。
一瞬、ムッとした顔になるセラヴィから、即座に視線を外してレグルスは封印された南門へと向き直りました。
「“麗しき女神よ、天と地のあいだ、地に触れてはならず、太陽を見てはならぬ”――“解錠”」
両手で複雑な結印を結んで、最後に大きく六芒星を描くと、その場所の壁がぐにゃりと歪み、例えるなら水に絵の具を一滴垂らして拡散する動きを逆回しで見ているかのように、組み合わさってその場に縦横四メルトほどの金属で出来た観音開きの門が出現したのでした。
近づいて軽く押してみましたが、案の定、門は閉められています。
「魔術的な鍵であれば先ほどの術で開いている筈です。おそらくは魔術を介在しない機械式の鍵がかかっているのではないでしょうか?」
いろいろ試してみたレグルスもこれにはお手上げのようで、忸怩たる内心を隠しもせずに首を横に振りました。
「くぬっ、くぬっ、くぬぅっ! クララ様、この扉いくら蹴りを入れてもびくともしません!」
「どうして貴女は扉とか壁を見ると、まず蹴りを入れたがるんですの!?」
「まてまてっ。隙間から符を入れて中で簡易式神にして指示を出してみる。中からなら開けられるかもしれないからな」
機械相手ならどうにかなるかと期待したコッペリアが使い物にならず、代わりに手を上げたセラヴィが手探りで門の隙間から符を内部に差し込んで、符術で作った小鬼(というか餓鬼のように見えます)を出し入れしながら、どうにか鍵を開けることに成功するのでした。
「ふふん……」
鍵が開いた瞬間、ドヤ顔で視線を向けるセラヴィと、苦々しい顔でそっぽを向くレグルス。
「――失礼致します」
さて、人一人がどうにか通れる程度に開いた門の隙間から、一声かけて中へ足を踏み入れると、意外なほど広い鍾乳洞のような通路が目の前に広がっていました。
照明の類いは一切ないようですが、開いた門の隙間から入り込んだ陽の光が、てらてら光る鍾乳石に反射されて万華鏡のように光っています。
その幻想たる光景に息を呑んで、続いて、
「わあっ、綺麗~っ」
私の口から思わず歓声が漏れたのですが、他の面々は特に感慨はないようで、
「のわわわわっ、蝙蝠の大群が頭の上を飛び回っていて、フンの爆撃がーっ!」
「蝙蝠がいるってことはどこか他に通じている場所があるってことだな」
「ふーっ!!」
「………」
蝙蝠相手にロケットパンチを飛ばしたり、油断なく周囲を見回したり、背中の毛を逆なでて警戒の姿勢を示したり、緩くなった首の奴隷帯を撫でたりと、いつも通りのマイペースでした。
「やれやれね……。とりあえず、“光よ我が腕を照らせ”――“光芒」
私は手にした魔法杖を掲げて、手前から等間隔に百メルトばかりの距離に渡って、延々と魔術の光を空中に灯して視界を確保しました。
途端、蝙蝠がパニックを起こして、こちらの出入り口へと殺到して、外へ逃げていきます。
咄嗟に飛び退いた私ですが、逃げて行った蝙蝠の群れを目を眇めて眺めながら、思わず小首を傾げて周囲に尋ねました。
「――蝙蝠ってピンク色をしていて、複眼で尻尾が生えていましたかしら?」
「「「そんな蝙蝠はいません(いない)」」」
「ですよねえ。……となると、アレも教団の秘密研究で生まれた実験動物の成れの果てかしら?」
「――だろうな。〈人造聖女計画〉愚かな試みだ。人を超越した魔力、すべての男を魅了する美貌、そして誰よりも優しく献身的で、信じる者すべてに尽くしてくれる聖なる存在……。狂った宗教家と錬金術師が思い描いたソレを作ろうとして、結局は果たせなかった妄執の残骸が巣食うゴミ捨て場。ここから先にはまともな生物や魔物はいないと覚悟したほうがいい」
そう苦い顔で改めて注意を促すセラヴィの言葉に、コッペリアが大きく頷いて追従しました。
「まったく……。命を玩ぶなんて言語道断ですよ。生き物は自然に任せるのがいちばんですよ。狂った錬金術や化学はいつも人を不幸にしますね」
「「「………」」」
途端、『こいつは何をいっているんだ?』という冷ややかな視線がコッペリアに注がれます。
「はい――どうぞ」
「なんですかクララ様。……手鏡ですか?」
私から受け取った手鏡で自分の顔を映して首をかしげるコッペリアは放置して、私も延々と続く地下迷宮の先を見据えながら、セラヴィの言葉に深く深く同意するのでした。
「確かに夢物語ですわね。人間はワガママで自分勝手な存在ですもの、そんな絵に描いた天使のような女性が存在するわけありませんのに」
「「「………」」」
嘆息すると、なぜか先ほどコッペリアに向けられていたのと同様の視線が、今度は私のほうへ向けられているような気が致します。はて?
「はい、クララ様。どうぞ」
「――ブーメラン?」
そして、なぜかコッペリアから特大のブーメランを渡されました。
※レグルスの呪文。参考文献『図説金枝篇』(東京書籍)
レグルスの価値判断では、
ジル(強い美しい、将来、自分の子を生んで欲しい)>>>>>コッペリア(得体が知れない。強力な魔力を持っているので警戒)>ゼクス(現在は脅威ではないが注意が必要)>>|越えられない壁|>>>セラヴィ(雑魚)
それと、本当はダンとマリアルウの養父である編集長との関係とか、悲しい過去とか、亡くなった娘とそれによる教団との確執、裏の情報を掴んだ経緯とか、いろいろあったのですが、長くなるので割愛しています。
次回は、ジルが久々に(もしかして初めて?)魔術抜きで剣を取って一騎打ちをします。
12/8 誤字訂正しました。




