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リビティウム皇国のブタクサ姫  作者: 佐崎 一路
第四章 巫女姫アーデルハイド[14歳]
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教団の暗部と生贄の羊

今回は短めです。

 いったん退室しかけた神官戦士のおふたりや、護衛の冒険者の方々、ギルド職員の皆さんが異変に気付いて、廊下からロビーへと引き返してきました。


「え? なにが始まったんですかね?」

「信じられないことに、あの小僧を巡ってクララ様とその彼女との間に戦争が起きたらしい」

「修羅場か!?」

「いや、修羅場は修羅場でも、あっちのオレンジ髪のメイドとそこの彼女が昔付き合ってたらしい。で、その過去の誤った関係を清算したいとか」

「おレズか……嫌いじゃないけど。つーか、あそこにいるのはギルド長のカロロス様じゃね?」

「本当だ。受付の新人をナンパしたとかで、昼間マリナさんに怒られて姿をくらましたと思えば、また女の子の尻についているよ」

「しょうがねーなー」


 興味津々で顔を覗かせている一団の間に、なにやらデマも飛んでいますわ。

 それに、この場にいる全員、いまのところ緊張感は皆無で野次馬根性が先に立っているようですが、コリン君の彼女さんの張り詰めた横顔を見ると、どうにも嫌な予感がヒシヒシと感じられる……のは私の杞憂でしょうか?


 そんな周りの空気なんて当然のように読まずに、

「えーと、個体識別ナンバーはθ(シータ)〇〇八……ってことは、ああ、八号(はっちゃん)ですね。はっちゃん、久しぶりーっ。っても、前に会ったのはヴィクター様謹製の『錬金術(ヘルメス)の壷』の中で、特選した巫女の血だの、裏ルートで手に入れた魔力の高い貴族の精子だのといった素材に、各種精霊をランダムに召喚してはぶち込んでた最中だったけど。よく無事に人間の姿を保ってられるわねー。えらいえらい。

 まあ、純血種を掛け合わせて嬰児の段階で魔術処理を施した〈初源的人間(ドリーカドモン)〉も大概寿命は普通の人間の半分ほどだけど、そのフィードバック用に作られた実験体のはっちゃんはそろそろ寿命じゃない? 人生楽しまないと損ですよー」

 馴れ馴れしい口調でぺらぺらと個人情報……というか、どう考えても絶対秘密な教団の暗部とか、彼女の不幸な生い立ちとかを暴露しまくるコッペリア。


 固まっていた彼女――コッペリア曰く『八号(はっちゃん)』(人間の名前ではありませんわね)――ですが、話が進むにつれて蒼白だった顔に血の気が戻り、ぷるぷる震えはじめました。

 血色は健康なのを通り越して、逆に朱色に染まっています。


(うわー……)

 立場上、コッペリアの主人に当たる私としては、ばつが悪いなんてものではありません。

(ごめんなさいごめんなさい)

 心の中で手を合わせて、そっと視線を外しながら少しだけ『はっちゃん(仮名)』から距離を置く私。


 そんな私なんて眼中にないのでしょう。はっちゃんは傲然と顔を上げてコッペリアを睨み付けました。


「そんな変な名前で私を呼ばないで! いまの私にはきちんとした名前があるんだから!!」

「へー、ほー、なんて名前?」

 殴りたい、この笑顔。


「お前なんかに名乗る名前はないわっ!」

 怒りの咆哮を放ちながらその場に仁王立ちするはっちゃん。


「――うわー、メンドくさー」

 その返答に辟易した様子で首を振るコッペリア――へと、『いや、お前が悪い』と満場一致で非難の矛先が向けられます。


 地団太を踏みながら、そんなコッペリアを弾劾するはっちゃん。

「人を人とも思わないその驕慢! 命を玩んで悪びれないその増長! 聖職者の皮を被った魑魅魍魎たち! 私はそんなお前たちに復讐する為、そして“失敗作”と断ぜられ、処分された多くの姉妹である“生贄の羊(スケープゴート)”たちの無念を晴らすため、臥薪嘗胆、こうして世を忍び、生き恥をさらしているのよ!」


「あー、そーなんだ。大変だね。がんばー」

「なにを安全圏から高みの見物しているような顔をするかッ!! アンタも復讐すべき教団の一員――いえ、元凶のひとりでしょう!」

「いやいや。そーいう世界からは足を洗いましたんで。いまのワタシはどこにでもいるごく平凡なメイドなのですよ。――どーしても肚に据えかねるというなら、この時代にいるヴィクター様に会って恨みつらみをぶちまけるなりしてください。ちなみに住所はクラルスの傍にある〈迷宮(ダンジョン)〉ボス部屋のさらに奥の研究所(ラボ)です」


「――ほう」

 ツッコミどころ満載のコッペリアの言い訳……というか、妄言を耳にした大多数が頭の上に疑問符を浮かべる中、エミール氏が興味深げに小さく呻ったのを、気紛れな風の精霊が教えてくれました。

 ちなみに、この何気ないコッペリアの失言が後々大きな意味を持ってくるとは、この時の私は知る由もありませんでした……。


「ふざけないで! それとも余裕ってわけかしら?! さぞかし満足でしょうね、私やその姉妹たちを犠牲にして作り出そうとした人造聖女……その完成形がここにいるんだから!」


 そう言い放って指差す先は――なぜか私でした。


「――へ??」

 思わず素っ頓狂な声が漏れます。


「クララ様は教団が作った人造聖女じゃないですよ。ま、多少〈初源的人間(ドリーカドモン)〉の因子はありますけど」


 え、なに、初耳ですわ!?


「嘘よっ! この年齢でこんな高度な治癒術を使い、なおかつ多数の魔術を使いこなす……そしてなによりも、この人間離れした容姿!! これが教団の秘儀と血統によって作られた人造聖女じゃなければ、なんだと言うのよ!?」


 はっちゃんの血を吐くような絶叫に対して――人間離れとかなにげにディスられてませんか?――コッペリアが胸を張って言い切りました。


「突然変異のバケモノです!」

質問があったので補足します。

初源的人間(ドリーカドモン)〉は基本的に教団の中でも魔力が高く、治癒術の素養を持った者達を長年にわたって純粋に淘汰し、掛け合わせてきた結果、生まれた純血種であり、で、さらに生まれた赤ん坊に強化措置を施したものです。

要するに魔力の強い美男美女がせっせと・・・げふんげふんっ、張った結晶ですので、人間には違いありません。

それに対して、人造聖女は錬金術の壷に材料を入れて、錬金術師たちがねるねると掻き混ぜた成果で、完全なホムンクルスです。

後にその研究は〈初源的人間(ドリーカドモン)〉へとフィードバックされました。

あと、〈初源的人間(ドリーカドモン)〉の平均寿命は40~50歳で、ホムンクルスは15~20年ほどです。

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