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リビティウム皇国のブタクサ姫  作者: 佐崎 一路
第四章 巫女姫アーデルハイド[14歳]
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怪盗のスキルと霧の街角

大変遅くなりました。

 相手の能力を奪って自分のものとする能力者――じゃないのかなあ? と推測される“正体不明”かつ“聖都限定”のローカル犯罪者――自称『怪盗“赤い羊(レッドラム)”』。

 ……そう考えると今回の騒動はやたら小さな内輪揉めにも思えますが、冒険者ギルドや聖女教団の上層部まで巻き込んで物議を呼んでいるところから判断するに、洒落や冗談ではないのでしょう。――多分。


 ま、それはそれとしまして、私は目の前で揺れるたわわな物体を前に、反射的に現在の密かな悩みの種を切り出していました。


「……で、ここにきてまた大きくなったみたいなので、日常生活はともかく走ったり格闘したりの激しい運動をすると揺れて痛くて長時間は辛いんです」

「あー、わかるわかる。あたしも苦労してねえ。前はサラシできつく絞めたりもしたんだけど、揺れないほど絞めると今度は苦しくて苦しくて。クララ様はまだまだ成長期でハリもあるだろうから猶更きついだろうね」

「なんとかなりませんか?」

「あたしのおススメとしては、女性店員がいる仕立屋でオーダーメイドを作るのが一番だね。いまつけているのはこんな感じなんだけど」

「ふむふむ、普通より紐が太くてこう……持ち上げて固定する構造ですわね」

「そうそう。これだと補正力が強いからかなり楽だよ」

「でもお高いんでしょう?」

「だいたい金貨八枚から十枚ってところだねえ」

「余裕で新品のドレスが買えますわ! 前ならともかくいまはあんまり余裕がないんですよね。一着だけというわけにはいきませんし……」

「だけど、付けているのと付けていないのじゃ大違いだよ」

「う~~ん、では、お互いに都合がつけばお店を紹介していただければ」

「ああ、任せときなっ」


 女性ばかりの冒険者集団『銀嶺の双牙』。

 それぞれ魅力的な美女美少女揃いの集団ですが、そのリーダーのカイサさんはいかにも面倒見が良さそうな姉御肌で、話してみればその印象に違わぬ快活さで、私の悩みに答えてくださいました。


 ちなみにですが現在、この部屋にいる女性陣をとあるランクで分けると――。

 カイサさん(爆)>私(巨)>マルギットさん(大)≧巫女見習いの女性(大)>イライザさん(中)>ダニエラさん(中)>マリナさん(小)>ナタリー(微)=ノーラ(微)

 となっています。


「コホンッ!……説明を続けてもよろしいでしょうか?」

 レジュメを持ったまま、マリナさんがなぜか微妙に荒んだ口調で問い掛けてきました。


「――あ、はい。すみません、何度も中断させてしまって」

「わ、悪かったね」


 顔は笑顔なのですけれど、有無を言わせないプレッシャーを感じて、思わずカイサさんともどもへこへこ頭を下げます。


「被害の状況についてですが、“赤い羊(レッドラム)”に奪われた能力は現在のところ、お手元の資料をご覧になっていただいてわかる通り、『直感(センス)』『開錠(アンロック)』『猫目(キャッツアイ)』『魔眼』など、いずれも『限定スキル』『固有能力』などと巷間で呼ばれるものばかりになります」


「「「「「ふ~~~む」」」」」


 この短い時間にまとめて書き写したにしてはきちんと要点が整理された資料を前にして、関係者一同が鹿爪らしい表情で呻き声を上げました。

 ちなみに聖都での識字率は三割程度ですが、さすがにこの場にいるのは教団関係者や冒険者ギルドの重鎮という社会的地位も高いこともあり、全員が共通語での読み書きは余裕のようです。


「固有能力以外の例えば属性魔術の類いは奪われていませんの? あるいは被害にあわれた方は魔術が使えなかったとかでしょうか?」


 思わず質問すると、マリナさんはビジネススマイルのまま(かぶり)を振りました。


「わかりません。当初の被害者はともかく、三番目以降の被害者は冒険者ギルド経由で用心棒として、剣術スキルを持った剣士や魔術師を雇っていたのですが、彼らは肉体的な被害にはあったものの関連するスキルが奪われてはおりません。果たしてこれが偶然なのか、あるいは何らかの理由があるのか……いまのところ判断材料が少な過ぎるため断定できない状況です」


 その説明に、

「……ふーん、固有能力者か」

「要するに魔術師になれなかった落ちこぼれってことね」

「まあ、素質があっても正式な師について魔術を学べる機会はそうそうありませんからねえ」

 セラヴィが面倒臭そうな顔で腕組みをして、イライザさんが身も蓋もない感想を口に出し、『銀嶺の双牙』法術師のマルギットさんが苦笑いをしました。


 〈魔法使い(ウイザード)〉〈魔術師(マジシャン)〉〈魔女(ウイツチ)〉使う術の流派によって呼び名は変わりますけれど、そう正式に呼ばれるのは一国の中でもせいぜい五十人程度だけでしょう。

 残りは『魔術師くずれ』『道士』『呪術師』程度の半端な能力の持ち主になります。


 ところがごくたまにいるのです、何の訓練も下地もなしに特異な能力を発現する人々が。

 大昔は『悪魔憑き』『魔の落とし子』などと呼ばれた彼・彼女らは、偶発的に潜在的な魔力が暴走して生まれた自然発生的な特殊能力者であり、現在では『固有能力者』『異能者』などと呼ばれています。


 その能力が『固有能力』なのですが、イライザさんやマルギットさんの言葉に表されるように、世間や魔術関係者の評価としては散々なのが現状です。

 なにしろほぼ完全に個人の体質や精神面に根ざした能力である為、他者が再現することも自分で完全に理解することもできず、また完全に魔術回路がブラックボックス化しているために、後から別な魔術を習得することもできないのですから(無理をすると心身ともに破壊されます)。


 もっとも固有能力は固有能力で有利な点もあります。例えば発火能力者の場合、私のように通常の術者の場合、まずは魔素を集めて精神集中し、場合によっては詠唱や魔法陣を用いないといけないのに比べ、そうした煩雑な手続きをせずに、ある日突然お酒を呑んでいたら口から火を吐けるようになった……とか、常識を外れた切っ掛けで、簡単に火を使えるのですから厄介この上ないですわね。


 ちなみにこれはあくまで一例です。普通の人はいくらお酒を呑んでも、吐くのはゲロだけです。


 閑話休題(それはさておき)、そのように個人によって千差万別、不可思議な能力ばかりの『固有能力』ですが、反面その能力の持ち主は高確率で魔術への素養がない……というわけで、一般的な魔術師からは『一芸特化』『ナントカの一つ覚え』と一段低く見られる傾向にあります。


 もっとも、そうした異能の括りで捉えるのならば、私――というか巫女の使える『治癒術』や『浄化術』も、ある意味『固有能力』に入ると思うのですよねえ。


 まあそう表立って言えば、狂信的……もとい、敬虔な教団の信徒から反発と突き上げを喰らいそうですけれど、基本ランダムな確率で発現して、なおかつ大多数の巫女は、なぜか他の系統の魔術(法術)を使えない。使えたとしてもごく初歩的なモノばかりというのですから。


 ただ例外はあって、私やイライザさんは他の属性魔術も使えますが、これは本当に例外中の例外らしいです。なので、治癒術というのは教団で説くところの神の恩寵や個人の徳の高さとかとはまったく関係なく、単に“治癒”という能力を持った異能者が実態ではないのでは? というのが私の推測なのでした。


 と、さりげなく冒涜的なことを考える私の前で、教団の偉い人であるローレンス修道司祭が、

「――ふむ。おそらくは『奪わない』のではなく『奪えない』のだろう。教団でも確認しているが、件のコソ泥がこれまでの犯行で簡単な魔道具(マジック・アイテム)や小細工を弄することはあっても、魔術の類いを使った形跡は皆無――それと犯行現場に残された魔力波動(バイブレーション)から推測して、奴自身『固有能力』のみしか使えないというのが我々の見解だ」

 マリナさんの説明に怜悧な表情を崩さずにそう付け加えました。


 いかにも聴衆を前にして語るのに慣れた通りのよい声で冷然と断言する彼。その美声と堂々たる威厳に打たれたかのように、その場に居合わせた神官戦士やギルド職員、『銀嶺の双牙』のメンバーがなるほどと先を競うように頷きます――が、セラヴィやタルキ副ギルド長、『銀嶺の双牙』リーダーのカイサさん、それとシモン卿はどこか微妙な表情です。


 多分、そうした先入観や希望的観測は真実を遠ざけ、また往々にして覆されるものだと、へそ曲がりな……いえ、ある程度世間の辛酸を舐めてこられた方々にはわかっているのでしょう。


「ですが、固有能力というのはある意味、普通の術者のセオリーに収まらない分、予想しにくく厄介なのでは? まして複数使えるとなれば猶更です」


 一方、納得した上でなおかつ懸念の表情を浮かべているのは、イライザさんとカイサさんなど教団の敬虔な巫女であり、信徒でもある無垢な乙女組です。――え、私ですか? ええ、勿論ローレンス修道司祭のおっしゃることは真実であろうと信じてます。多分、きっと彼の中ではそれが事実なんでしょう。


(……それはそれとして、イライザさんも確かに有能ではあるのよね)


 疑問点を即座に指摘できる回転の速さがあるのですから、これで自意識過剰なところがなくなり、視野が広くなれば文句なしなのですけど、パラメーターの振り分けが誤っていますわ……。


「――なにか言いたげね、アーデルハイドさん?」

「いいえ、なんでもありませんわ」

 おまけに勘も良いですし。


「巫女バーバラ、確かに固有能力というのは、個人の資質や種族特性に応じて千差万別ですが、今回に限っては問題ないでしょう。なぜなら『簒奪された能力』の詳細を調べれば相手の手の内は知れますからね。実際、すでに解析済みです。ネタがばれていれば幾らでも手の打ちようはありますよ」


 余裕をもって言い切るローレンス修道司祭と、任せておけとばかり胸を張る神官戦士たち。

 その態度にさすがにこれ以上疑いを口にするのは不敬と考えたのでしょうか、イライザさんはしぶしぶ矛を収めます。


 と、私は逆にその言葉に引っ掛かりを覚えました。

「解析されたということは、本山関係者はすでに“赤い羊(レッドラム)”と接触されたのですか?」


「いえ、巫女クララ。現場に残された残留魔力波動(バイブレーション)を入念に調査した結果です」


 調査? こんな短時間に現場まで行って過去の残留魔力波動(バイブレーション)を確認するほど綿密な調査ができるものでしょうか? 妙に手際が良いですわね。

 

「――なるほど。その上で固有能力しか所持していないと判断されるわけですね。では“赤い羊(レッドラム)”の相手の能力を奪うスキルも固有能力ということでしょうか?」

「ええ。そう判断しています」


 一瞬の躊躇もなく首肯するローレンス修道司祭。なるほど――。


「興味深いですわね。その能力にあえて名前をつけるのならば『能力簒奪者(タレント・イーター)』といったところでしょうか?」


「なにが『『能力簒奪者(タレント・イーター)』といったところでしょうか?』よ! アーデルハイドさん、貴女のほほーんとしているけど、多少は危機感を覚えたらどうなの?! 一芸特化とはいえ複数の能力を所持している以上、それはほとんど魔術師と変わらないってことよ! そんなのに狙われているっていうのに!」


 周囲に同意を求めたところ、気色ばんだイライザさんに詰め寄られました。


「やたら似ていたなァ、いまの口真似……」


 感に堪えないという風情で呟くセラヴィ。え…? ちょっと待ってください。私って普段あんな風に小首を傾げて、へろへろとウザイ喋り方してるのでしょうか……?


「そんなことはどーでもいいのよ!」

 セラヴィの呟きが聞こえたのでしょうか、凄く嫌そうな顔でいきり立つイライザさん。

「いくらわたくし達が多芸多才――ま、貴女の場合は単なる器用貧乏でしょうけど――と言っても、使える法術は三つか四つなのよ。それなのに相手は複数の能力を奪って使えるって言うんだから、このアドバンテージの違いは致命的じゃないの。わかっているのかしら、アーデルハイドさん! って、なに両手の指を折って数えているのよ?!」


 ちなみに私の場合は、使える魔術(法術)は基本的に誰でも使える『無』属性の他、『火』『水』『光』『空』の属性魔術、それにエルフの精霊魔術もひと通りはいけますし、なおかつ符術なども加えるともっと引き出しはありそうです。


「って、この期に及んでもノホホーンってしているし。危機感を覚えないのかしら、貴女!」


 ええ、実はあんまり脅威に思っていません。


 例えば剣、斧、槍、鈍器、短剣、格闘、弓、杖、 鞭、ナックルなど一通り使える戦士がいたとしても、これを全部使って戦うことはまずないでしょう。そもそも、どれだけ使える手札があっても基本はひとりで、両手足は二本ずつなのですから限界はあります。


 私だって異なる属性の魔術は、右手で炎、左手で氷といった具合に同時平行ではふたつ使うのがやっとです(合わせて究極の技とかできないかと試行錯誤したのですけど)。両手でペンを握って漫画を描くようなもので、普通に利き手で描いた方がよほど早くて正確でしょう。


 そのようなわけで苦労して習得した割に、結論としましてはひとつのスキルを極めて、自分のものとした方がよほど効率的ですし、上達も早いという面白みのないものでした。


「まあ、確かに受身にならざるを得ないのは脅威ですけれど、結局のところ戦いというものは数が多いほうが有利ですし、ましてこうして頼りになりそうな皆様方に守っていただいているので、私としてはさほど不安は感じておりませんわ」


 半分以上本音でそう言って皆さんに会釈をすると、神官戦士の皆さんや『銀嶺の双牙』のメンバーの皆様方は、満更でもない顔で力強く頷き返してくださいました。

 セラヴィやタルキ副ギルド長、カイサさん、シモン卿は今回も微妙な表情で苦笑いされていましたけれど……嫌ですわね、人の好意を素直に信じられない方々は。


     ◆ ◇ ◆ ◇


「……どこだ、ここは?」


 いつの間にか見覚えがあるような、ないような街角にいることに気がついて、コリンは当惑した面持ちで周囲を見回した。


 すっかり夜も深けた上、テラメエリタ名物の濃霧によって視界が遮られた現在、足元を照らす明かりといえば手にした常夜灯(ナイトライト)から漏れる弱々しい光だけである。


 これは円筒型の金属筒を火屋(ほや)にして、灯心草の髄を芯にして獣油に浸したものを燃やして、幾つも空いた丸い穴から漏れる光で足元を照らす構造なのだが、取り回しが楽で安価な反面、魔法や魔道具(マジック・アイテム)はもとより、角燈(ランタン)の明るさにも遠く及ばない頼りない明かりなのであった。


 とは言え通い慣れた道である、普段であれば迷うことなどないはずなのだが、ふと気が付いてみれば目の前にあるのは、普段歩くのとは違う町並みである。


 首を捻りながら、とりあえず大きな建物の影とその前で淡い光を放つ獣油を使った街灯を目印にして歩みを進める。


「あれ――? もしかして冒険者ギルド本部??」


 見覚えがあるどころか、つい数時間前まで監禁状態にされていた威風堂々たる建物を前にして、コリンは間抜けな声を張り上げた。


「なんでまたこんなところへ……?」


 道に迷ったにしてもずいぶんと遠回りをしたものである。お世話になっている下宿からほとんど反対方向にある冒険者ギルド本部を見上げて、コリンは首を捻りながらも現在位置が判明したことでほっと胸を撫で下ろした。


「……まだ人がいるんだな。当然か」


 夜も更けたというのにいまだところどころで明かりが灯っている建物を見上げて、コリンは複雑な表情でため息をついた。

 一般的に商店は日が沈むとどこも軒を閉め、比較的遅くまで開店をしている飲食店も日付の変わる三~四時間前には終業するのが普通である。

 ギルドもそれは変わらず、こんな遅い時間まで人がいるなどそうそうあることではなかった。


 その理由――現在、聖都で話題の怪盗に、これまた聖都でも一番と、三馬身ほど離されてはいるものの二番手につけている美少女巫女が狙われ、その警護の為に居残っているのを知っているコリンは、このままこの場に居残っていた方がいいのでは? それが記者として正しい姿勢なのではないか? と思えて、突発的にギルド本部へ歩みを進みかけ……。


「……編集長がこっちはなんとかするって言ってたし、俺が余計な手出しをしない方がいいんだろう…なあ」


 編集長に言い含められた言葉を思い出して、半分安堵半分忸怩たる思いで踵を返しかけた。

 そこへ――。


「――やっ。コリン、こんなところでなにをしているの?」


 ドンっ! と背中を叩かれて、危うく前のめりに倒れそうになったコリンが、タタラを踏んで慌てて振り返ると、薄茶色のカシミアの上着に縁取りのあるスカート、ベルベッドの靴を履いた菫色の髪をした少女が立っていた。


「マ、マリアルウ……?」


 自分とほとんど歳の変わらない見覚えのある少女を前に、コリンは目を白黒させて見返す。


「遅いから迎えにきたわよ、コリン。こんなところで迷子になっているとは思わなかったけれど」


 ニコニコと金茶色の瞳を細めて屈託なく笑う少女を前に、我に返ったコリンは決まり悪げにハンチングのつばをいじるのだった。


 ふと、どこかで猫が鳴いた。


     ◆ ◇ ◆ ◇


 冒険者ギルド地下にある『危険物保管所』にて。


「……遅い! どんだけ待たせるんですか、冒険者ギルドのすっとこどっこいが! どれだけクララ様がワタシの身を案じて心労を重ねているか、断固として抗議します!」


「そうは言っても、ここにいる限り手出しはできないんすけど……おまけに、そっちは魔術処理されたワイヤーでミイラみたいにグルグル巻きにされているわけだし」


 全身を真銀(ミスリル)製のワイヤーで簀巻きにされているメイドを前に、どこか軽薄な印象のある小人(ホビット)が、やってられませんわとばかり肩を竦めて頭を振った。


「つーか、そこのホビット! 本当に冒険者ギルドのギルド長だっていうんなら、責任の所在は全部目の前一メルト以内にあるってことじゃないんですか!?」


「いやいやっ。小生はほんとお飾りのようなもので、実権は幹部にあるんすよ。あと偉い人とか教団関係者とか特に苦手だし、だからそーいう人らが来た時にはここに隠れるようにしているわけで」


 座っていた宝箱から腰を浮かせて愛想笑いを浮かべる小人(ホビット)

 それを剣呑な目付きで眺めるコッペリア。


「なんかそう聞くと余計に腹が立ってきました。一発ぶん殴ってから脱出することにします!」


「え? いや……あの、どうやって?」


「ふん。こんなものでワタシの動きを封じたとはちゃんちゃら可笑しい。ヘソで茶が沸くわ! メイドたるもの敵に捕まった状態から脱出する術など、初歩中の初歩! たとえ掃除洗濯ができなくても、縄抜け程度鼻歌交じりにやってみせます!」


「……いや、メイドなんだから、掃除洗濯を先に覚えようよ」


 小人(ホビット)の真っ当なツッコミを無視して、コッペリアは全身に力を込めた――否、全身の力を抜いた。


「いまこそ見せましょう! ヴィクター流のひとつ――“メイド解骨術”!」


 次の瞬間、「なあああああああああああああああああああッッッ!!!」驚愕する小人(ホビット)の前で、コッペリアの体がバラバラに分解され――、

「ぬわわわわっ! 変なコンセントも抜けた! こんがらがったっ!! うおおおおっ!」

 間抜けな悲鳴をあげながら、コッペリアがパーツごとに床に転がるのだった。

参考文献『十九世紀イギリスの日常』クリスティン・ヒューズ(松柏社)


3/30 誤字訂正しました。

×説明を続けてもよろしいですようか?→○説明を続けてもよろしいでしょうか?

×ところでころ→○ところどころで

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