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フェルマの決意2

 走る事三十分、湖エリアまであと少しといった所で、フェルマは不穏な空気を感じ取る。


 この方角は湖エリア……ドクタ殿が危ない。


 フェルマは足に力を溜め、常人では目で追えないようなスピードで先を急いだ。


 森を駆け抜け湖エリアに入ったフェルマが見た光景は、憤慨するのに足り得るものだった。


 ドクタの前方にネルチャが居て守っており、その少し前方に森のハイエナの異名をとる黒人狼。それと、血を好んで吸い、骨も残さず何でも食い尽くす、全長三十センチほど、外見は蟹の様だが、色は紫色で八本の足は地面に突き立っている魔物がいた。


 名は『ブラッディクラブ』、危険ランクはD、冒険者の間では『小さな殺戮者』なんて呼ばれている。


 何匹かが死骸となって横たわっている。その前方に囲むようにして多数おり、今は膠着状態が続いていた。


「がぁぁっぁぁ」


 フェルマは雄叫びをあげ、黒人狼を爪で首を刈り、ブラッディクラブを踏み潰し、一直線でドクタのもとに向かった。


 不利を悟り、残った者は一目散に逃げていき、フェルマも追おうとはしなかった。この森では、日常茶飯事であるし、いくら怒っているといっても、むやみやたらと数を減らす事はしたくなかったからだ。


「助かったのぉ~」


「我の方こそ遅れて申し訳ない」


 ひとまず危機は去ったので息は吐くフェルマ。事情をネルチャに聞くと、フェルマが去った後、好機と見たのか、わらわらとハイエナたちが出てきて、けん制で何匹が倒し、今に至った。


「そうか……ひとまずドクタ殿が無事で良かった」


 ドクタは、まだ気絶しており、起きる気配はなかった。


「その顔を見ると吹っ切れたかのぉ~」


 行く前といったあとでは顔つきが違い、悩んでいた分つきものが落ちたかのような感じだった。


「ああ、ありがとう、ネルチャ殿の言葉が後ろを押してくれた。後はドクタ殿が起きてからだ」


「それは良かったのぉ~。それでは、儂はそろそろお暇するかのぉ~」


 ネルチャは湖に返っていき、フェルマはドクタを囲むようにして座り。


 早く起きてくれ……そして我の決意を聞いてくれ。


 起きてくるのを今か今かと待ち望んでいた。






 ドクタが起きたのはそれから三十分後だった。


 魔力残量二割、体は少しだるい、脈拍心臓の鼓動は少し早いが基準の範囲内だ。


 ドクタは目を開ける。目の前にはフェルマは顔があり。


「起きたのだなドクタ殿」


 そう言ってフェルマは、腰を浮かせた。


 その後ろには獣たちの死骸があり、戦闘が行われたのだと理解した。


「守ってくれてありがとうございます」


「例には及ばん。それに助けたのはネルチャ殿だ……我はそのあとに来て守っていたにすぎん」


 先ほどの出来事を思い出し、尻尾が垂れ下りしゅんとなる。


「そんな事はないです。最初にこの森に来た時から守ってくれましたし、フェルマさんが居たから、私は後の事は考えず安心して、ヴェルキンさんの治療に取り組めました」


 この森で最初にあったのも大きいが、何より直感がそう告げていた部分もあるし、前世の事もあったので、出会ったのは今日だが、ドクタはこの世界でだれよりも信頼していた。


 それを聞いて、涙ぐむフェルマだったが、言いたい事があるので、ぐっと堪え、少し屈みドクタよりも下になるようにし、見上げるように話し始めた。


「我の命を救い、あんな状態のヴェルキン殿も奇跡のような所業で治してくれた。我はドクタ殿の力になりたい。エリアの方も信頼できる者に任せた。我は傍に置いてはもらえないか」


 ドクタは既に答えは決まっていた。誰かの助けなしに生きていけるなんて楽観的には思っていない。襲われても対処できるすべはあるが、不眠でいられる時間は限られており、眠った所でやられるのがおちだ。


 いや……それも建前だろうと、ドクタは否定した。


 ようは、フェルマと一緒に居たかったのだ……と同じ様に。


「私で良ければ構いません。むしろ大歓迎です。これからもよろしくお願いします」


 フェルマは、断られるかどうか内心ドキドキしていたが、受け入れられてほっとし、緊張で強張っていた顔を崩す。


 ここで断られでもしたら元も子もなかったからだ。


「我の方こそこれからもよろしく頼む。親愛の証として、我の真名を聞いてはくれまいか」


 真名の大切さは、ドクタも知っていた。真名を知れば、それを言った相手は、その対象に対し、強制的に服従させる事が可能となり、命令に背くことは不可能で、悪い人物に言ってしまえば奴隷に落ちるリスクもある。


 真名は、物心ついたとき、天啓のように、頭の中に浮かぶもので、一人一人に真名がある。


「親愛の証なら、私も言わなければ公平ではありません」


 リスクも何も承知したうえで、打算なしにドクタはそう言い、糸で周囲を囲み、音が漏れないよう、無属性魔法の一種である遮断魔法を使う。


「我の真名は……」


「私の真名は……」


 これがのちに語り草として後世に残っている、ドクタとフェルマ、……と……の親愛の儀だった。


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